第2章|筋ジストロフィーとその他の筋疾患

神経・筋難病 第2章

2-1 Duchenne型筋ジストロフィーの特徴と機能障害度分類

臨床像

  • X連鎖劣性遺伝、ジストロフィンの異常。男児に発症し、幼児期から転倒しやすくなる。
  • 近位筋優位の進行性筋力低下。登攀性起立(Gowers徴候):床から立つとき手で膝・大腿を支えてよじ登る。
  • 下腿三頭筋(腓腹筋)の仮性肥大(筋が脂肪・結合組織に置き換わり太く見える)。
  • 動揺性歩行(waddling gait、あひる歩行):中殿筋など股関節周囲筋の弱化で体幹を左右に振る。腹部を突き出す腰椎前弯も伴う。
  • 下腿三頭筋の短縮で尖足(内反尖足)。踵足ではない。
  • 筋原性なので感覚障害なし・Babinski反射陰性・腱反射は減弱。視力低下も典型ではない。
  • 歩行喪失後は脊柱側弯が急速に進み、呼吸機能が低下。心筋症も管理の対象。

異常歩行の取り違え:踵打ち歩行=深部感覚障害、小刻み歩行=Parkinson病、逃避性歩行=疼痛、酩酊歩行=小脳障害。DMD=動揺性歩行。

厚生省筋萎縮症研究班の機能障害度分類(8段階)

ステージ定義(移動能力)
1階段昇降可能(手すり不要。手の介助なし、または手の膝おさえで昇降)
2階段昇降に手すりが必要(片手手すり/片手手すり+手の膝おさえ/両手手すり)
3椅子からの起立可能
4歩行可能(椅子からの起立は困難)
5起立・歩行は不能、四つ這い移動が可能
6四つ這いは不能、ずり這い(いざり)移動が可能
7移動は不能、座位保持は可能
8座位保持も不能(常時臥床)

移動能力が階段→椅子からの起立→歩行→四つ這い→ずり這い→座位保持→臥床の順に落ちていく、と並べて覚える。判定に使う動作は階段昇降・椅子からの立ち上がり・歩行・四つ這い・ずり這い・座位保持で、膝歩き(膝立ち移動)は定義に出てこない。

事例問題では「屋内の移動方法」を読む。たとえば屋内を四つ這いで移動し、通学は車椅子ならステージ5。

2-2 Duchenne型筋ジストロフィーのステージ別理学療法

最大抵抗運動・漸増抵抗運動・遠心性の高負荷運動は行わない(過用性筋力低下・筋線維の損傷)。どのステージでも共通の禁止事項。

時期主眼・適切な対応不適切な対応
歩行期(ステージ1〜3)下腿三頭筋のストレッチなど拘縮予防(尖足・股屈筋・腸脛靱帯)、夜間装具での拘縮予防この時期の長下肢装具歩行訓練は早すぎる
歩行喪失が近い時期(ステージ4前後:独歩可能だが登攀性起立、つかまってかろうじて起立)四つ這い移動の練習(次の移動手段を先取りして獲得。上肢挙上が可能で拘縮のない今のうちに)電動車椅子の購入(廃用を早める)/下肢の漸増抵抗運動/松葉杖歩行(上肢帯で体重を支えられない)/体幹装具で歩行時の姿勢を矯正/AFOで歩行時の尖足を矯正
ステージ5前後(歩行喪失期)体幹装具・座位保持装置で側弯の進行を抑える(優先度が高い)、長下肢装具での立位・歩行期間の延長、車椅子の導入椅子からの立ち上がり練習(起立不能)、座位保持「練習」より姿勢保持の支援が先、徒手的咳嗽介助はより後期で重要になる
ステージ6脊柱の可動域運動、電動車椅子操作の練習、座位保持装置による脊柱変形の予防四つ這い移動練習、短下肢装具での立位バランス練習、台を使った立ち上がり練習(いずれも能力を超える)
ステージ7〜8呼吸理学療法(排痰援助・NPPV)、環境制御装置、コミュニケーション支援―

DMDの尖足・腰椎前弯・動揺歩行・登攀性起立は弱った筋を補う代償。尖足は重心を膝の前に保って膝折れを防いでいるので、歩行時にAFOや体幹装具で矯正すると歩けなくなる。装具は夜間の拘縮予防、体幹装具は歩行喪失後の座位期に使う。

「四つ這い」の扱いは時期で逆になる。歩行喪失の直前に移動手段として四つ這いを練習しておくのは適切だが、歩行消失後に四つ這い生活を積極的に指導するのは誤り(脊柱変形の加速・呼吸機能低下を招く)。歩行消失後は車椅子へ移行する。

2-3 Duchenne型筋ジストロフィーの呼吸管理と学齢期の支援

呼吸管理=排痰と換気補助の二本柱

項目正しい理解
換気補助NPPV(非侵襲的陽圧換気)が第一選択。夜間から導入し、進行に応じて時間を延ばす
導入時期ステージで一律に決めず、呼吸機能の低下に応じて導入する。肺活量の著しい低下・高炭酸ガス血症・睡眠時低換気が出る後期(臥床期に近い時期)。歩行可能なステージ4で開始するものではない
舌咽呼吸(カエル呼吸)空気を飲み込むように肺へ送り込み、最大強制吸気量(MIC)を高める。咳の補助にもなる
咳最大流量(CPF、cough peak flow)咳介助を導入する目安になる。低下したら咳介助を強化
咳介助の順序徒手による咳介助が基本、不十分なら機械による排痰補助(MI-E)を併用(機械を徒手より優先するのではない)

学齢期の生活の流れ(目安)

  • 小学校低〜中学年:上肢近位筋の低下は軽く、書字動作は保たれる。
  • 小学校高学年:歩行消失の時期。下肢・体幹筋力の低下でトイレ動作に介助が必要になる。歩行消失後は車椅子へ。
  • 小学校高学年〜中学校:上肢機能低下に合わせ、美術などで補助具の工夫。
  • 中学〜高校:キーボード操作が難しくなり、パソコン入力装置の工夫(ジョイスティック・音声入力など)。

2-4 その他の筋疾患―筋強直性ジストロフィー・遠位型ミオパチー・多発性筋炎

筋強直性ジストロフィー

見分けるキーワード理学療法の要点
常染色体優性遺伝(親にも同症状)/把握ミオトニア(つり革や手を強く握ると放しにくい)/四肢遠位筋優位の筋力低下/前頭部脱毛/側頭筋・咬筋萎縮による斧様顔貌/白内障・心伝導障害ROMは筋強直に逆らわずゆっくりリラックスさせて行う/閉口障害・咀嚼筋萎縮には咀嚼回数を減らせる軟らかい食形態/過負荷は避けるが、低〜中強度の筋力運動(等尺性を含む)を一律に禁じる根拠はない/呼吸苦・SpO₂低下がなければ用手換気(アンビューバッグ)の呼吸練習は不要/下肢筋力低下で歩行が制限される例には下肢装着型の補助ロボットが有効になりうる

徴候の対応:ミオトニア=筋強直性ジストロフィー、Gowers徴候=Duchenne型など近位筋優位、Lhermitte徴候=多発性硬化症などの頸髄病変、Romberg徴候=深部感覚障害、アテトーゼ=脳性麻痺など。

遠位型ミオパチーと装具の選び方

装具は「どの関節が支えられるか」で決める。

状態装具
膝伸展MMT3以上で膝が支えられ、足関節が弱い(両側下垂足)プラスチック短下肢装具(軽量で背屈を保持)
膝の支持性が著しく不足長下肢装具(KAFO)
下腿の免荷が必要PTB短下肢装具(膝蓋腱で体重支持)
膝の反張(過伸展)を制限スウェーデン式膝装具

足関節軟性装具(サポーター類)は背屈保持力が弱く、明らかな下垂足の補正には不十分。

多発性筋炎・皮膚筋炎

  • 女性に多い。近位筋優位の筋力低下(起立・階段・上肢挙上が困難)。血清CK上昇。
  • 間質性肺炎の合併で予後不良。心筋炎・不整脈を合併しうる(心筋も障害される)。皮膚筋炎は悪性腫瘍の合併に注意。
  • 理学療法:活動性(CK)を目安に負荷を調整(血小板数ではない)。間質性肺炎の合併に注意して進める。筋力トレーニングは近位筋中心。

筋痛・CK上昇は筋障害の悪化のサイン。「抵抗を減らして時間を延ばし継続」ではなく負荷軽減・中止を検討する。Raynaud現象などで手指が冷たいとき、安易に手部へホットパックを当てるのも不適切。

ミオパチーの原因

内分泌・薬剤性の代表例は甲状腺機能亢進(甲状腺中毒症)・甲状腺機能低下・Cushing症候群・ステロイドで、近位筋優位の筋力低下をきたす。水銀・鉛・ヒ素などの重金属中毒は主に神経障害(鉛=橈骨神経麻痺による下垂手など)、一酸化炭素中毒は主に中枢神経障害で、ミオパチーの主因ではない。