第3章|装具・ADL・生活期
脳卒中 第3章
3-1 片麻痺歩行と短下肢装具の選択・調整
片麻痺歩行の特徴(麻痺側)
| 相 | みられる所見 | 原因 |
| 遊脚期 | 内反尖足(つま先を擦る) | 下腿三頭筋・後脛骨筋の痙縮、前脛骨筋の麻痺 |
| 遊脚期 | 分回し(股外転・外旋+骨盤挙上で円弧状に振り出す) | 膝屈曲・足背屈が出ない |
| 初期接地 | 足部外側からの接地 | 内反尖足 |
| 立脚中期 | 反張膝(膝の過伸展・膝ロッキング) | 底屈筋の痙縮、大腿四頭筋の代償 |
- 立脚期の膝外側動揺(外側スラスト)は内反型変形性膝関節症の所見。片麻痺の典型ではない。
- 反張膝は立脚中期。遊脚期はむしろ膝屈曲が不足する。
短下肢装具(AFO)の選び方
| 装具 | 向いている例 |
| 金属支柱付AFO(両側支柱) | 痙縮の強い尖足・内反、高体重、反張膝の制動、感覚障害や浮腫(接触面が小さく皮膚トラブルが少ない)、回復に合わせて角度を変えたい急性期の訓練用 |
| クレンザック足継手付AFO | 底屈制動の角度を調整して内反尖足と反張膝を同時に制御。角度調整はねじで無段階 |
| プラスチックAFO(継手なし) | 軽量・整容性がよい。強い痙性内反尖足・高体重では矯正力や耐久性が不足しやすい |
| 長下肢装具 | 膝の支持性がない時期(2-4) |
足継手の調整(ダブルクレンザック)
| 問題 | 調整 | 理由 |
| 反張膝 | 後方ロッドを押し込む=底屈を制限 | 下腿の後傾を止め、膝の過伸展を防ぐ |
| 膝折れ | 前方ロッドで背屈を制限(背屈0〜5°程度に) | 下腿の前傾を抑え、膝を伸展側に保つ |
膝折れに対してスウェーデン式膝装具は逆。スウェーデン式は反張膝(過伸展)を防ぐ装具。踵を高くすると下腿が前傾し、膝折れは助長されうる。
金属支柱付AFOの適合
- 下腿半月の上縁:腓骨頭より2〜3横指下(総腓骨神経の圧迫を避ける)。
- 下腿半月の幅:3〜5cm程度。
- 支柱と皮膚の間隔:5mm程度。
- 足継手の位置:内果下端と外果中央を結ぶ線。位置をずらして調整しない。
内反・外反と靴・ストラップ
| 内反(回外)を抑える | 外反を抑える |
外側Tストラップ(内側支柱へ引く) 逆Thomasヒール(ヒール外側を前方へ延長) 外側フレアヒール | 内側Tストラップ・内側Yストラップ Thomasヒール(ヒール内側を延長) アーチサポート |
- 下肢の外旋:ツイスター(骨盤帯からの回旋制御)。
- 遊脚期のクリアランス不足:非麻痺側の補高で麻痺側を振り出しやすくする。
プラスチックAFOの修正
- 立脚後期が短い(蹴り出せない):MP関節より遠位を切除し、MP関節の伸展を可能にする。
- 足関節部の固定強化(コリュゲーション)や下腿部を低くする修正は、立脚後期の改善にならない。足部ベルトを緩めると装具内で足が動き不安定になる。
装具の装着
- 踵を装具の踵部に密着させるのが要。足関節部(踵を押さえる)→前足部→下腿部の順でベルトを締めると踵が浮かない。
- 先に下腿部を締めると、踵が浮いたまま固定される。
3-2 移乗・起居・移動の指導と環境
ベッド⇔車椅子の移乗
- 車椅子は非麻痺側(健側)がベッド側になるよう、ベッドに対して約30〜45°で置く。
- 先に殿部を座面の前方へ出す。足底接地と前方への重心移動がしやすくなる。
- 下肢装具は着けたまま移乗する(膝折れ防止)。
- 移乗先は同じ高さか、やや低め。
- 介助は前方または麻痺側から。後方からでは立ち上がりと方向転換を支えにくい。
- ブレーキの確認は必須。
車椅子から床へ
- ブレーキ確認 → 殿部を前へ → 非麻痺側の足を後ろへ引く → 非麻痺側の膝から床につく → その側の殿部を接地して回るように座る。
- 麻痺側の膝からつくと支持できず転倒しやすい。
階段・段差・エスカレーター
| 場面 | 順序 |
| 階段を上る | 杖 → 健側 → 患側(「上りは健側から」) |
| 階段を下りる | 杖 → 患側 → 健側(「下りは患側から」) |
| 障害物をまたぐ | 杖 → 患側 → 健側(健側で支える時間を長く) |
| エスカレーター | 上りも下りも、乗るときも降りるときも健側から。手すりは健側の手で |
| 平地の3動作歩行 | 杖 → 患側 → 健側 |
生活環境と移動手段
- 病室・自宅の配置は、ベッド・手すり・トイレを非麻痺側で操作・把持できる向きにする。
- 前頭葉の障害や注意障害では、フットサポートの上げ忘れ・ブレーキの掛け忘れが起こりやすい。
- 自力歩行がごく短距離や介助歩行に限られる場合、生活上の実用的な移動手段は車椅子。介助が要る歩行は本人の自立した移動手段とはいえない。
3-3 ADL指導・自助具・FIMとBarthel Index
ADL指導の原則
| 動作 | 指導 |
| 更衣 | 着患脱健(着るときは麻痺側から、脱ぐときは健側から)。下衣は座位で |
| 起居 | 重度麻痺ではまずベッド上の起き上がりの自立から。麻痺側の肩を下敷きにする方法は避ける |
| 入浴 | 浴槽の出入りはバスボードなどで座位のまま移動。またぎ動作は転倒しやすい |
| 整容 | 洗顔は前傾と閉眼が重なるので椅子座位で |
| トイレ | 自宅トイレに手すりを設置 |
| 装具 | 分離が不十分なら屋内でも装具を使う |
- 段差昇降・浴槽・床からの立ち上がりは、基本動作が安定してからの応用動作。
- 立位で非麻痺側の手が唯一の支えの人は、支えの手を離して前方へ手を伸ばす動作(便器の蓋を開けるなど)で転倒しやすい。座る・座って拭く・手すりを使った立ち上がりは比較的安全。
自助具
| 片手で使える | 片麻痺に向かない |
片手用まな板(釘・ストッパー・滑り止め付き) 吸盤付きブラシ(健側の手や爪を洗う) すくいやすい皿(縁が立ち上がった皿)+滑り止め ミトン型の洗体タオル | 紐が2本のソックスエイド(両手で引く) |
- 長柄ブラシで洗いにくいのは、ブラシを持つ手と同じ側=非麻痺側上肢(反対の手が使えないため)。
FIM(機能的自立度評価法)の採点
| 点 | レベル |
| 7 | 完全自立(補助具なし・安全・時間内) |
| 6 | 修正自立(補助具の使用・時間がかかる・安全への配慮) |
| 5 | 監視・準備(身体に触れない見守りや準備) |
| 4 | 最小介助(75%以上を自分で) |
| 3 | 中等度介助(50%以上) |
| 2 | 最大介助(25%以上) |
| 1 | 全介助(25%未満) |
- 歩行の基準距離は50m。介助なしでも15m以上50m未満しか移動できなければ5点(家庭内移動)。
- 階段の基準は12〜14段。見守りが要れば5点。
- 普通の食器を介助なく使って食べられれば食事は7点。
- 見守りが要る時点で6点にはならない。
- 身体介助がなくても、50mに届かなければ6点・7点にはならない(最高5点)。歩行が15m未満しか移動できなければ介助の有無にかかわらず1点。
Barthel Index(BI)の配点
| 項目 | 配点 |
| 食事 | 10・5・0 |
| 車椅子とベッド間の移乗 | 15・10・5・0 |
| 整容 | 5・0 |
| トイレ動作 | 10・5・0 |
| 入浴 | 5・0 |
| 歩行(移動) | 15・10・5(歩けないが車椅子を自分で操作できる)・0 |
| 階段昇降 | 10・5・0 |
| 更衣 | 10・5・0 |
| 排便コントロール | 10・5・0 |
| 排尿コントロール | 10・5・0 |
満点100点。各項目の自立度を配点に当てはめて足し上げる。
SOAPの書き分け
- S=本人の訴え/O=検査・観察の事実(「筋緊張が低下している」)/A=解釈(「筋緊張低下により体重支持力が低下している」のように所見と問題を因果でつなぐ)/P=計画(練習内容)。
3-4 生活期(維持期)の目標と地域・転倒・安全管理
生活期の目標
- 運動麻痺・感覚障害の回復は発症後3〜6か月でほぼプラトー。生活期に麻痺の改善そのものを主目標にしない。
- 生活期でも訓練で伸びるもの:全身持久力・筋力・体力。
- 優先度が高い目標:ROM制限の予防、非麻痺側の筋力維持、移動能力の維持、閉じこもりの予防、介護負担の軽減。
| 状況 | 優先する目標・介入 |
| 移乗・移動に中等度介助が要る在宅の人 | 移乗動作の安定(介護負担と転倒リスクを下げる)。杖なし歩行・屋外歩行自立などの高い目標は後回し |
| 高次脳機能障害があり基本的ADLが未確立 | 更衣・排泄・歩行・立位保持。家事動作の自立は優先度が低い |
| 長い距離を歩けるのに外出しない | 屋外での歩行練習(「できる活動」を「している活動」に)。電動車椅子の導入は活動量を下げる |
| 屋内歩行自立の人の浴室整備 | バスボード・シャワーチェア・段差解消・扉の変更など、転倒しやすい動作から優先 |
転倒リスクの評価
- TUG(Timed Up and Go test):起立・歩行・方向転換・着座。一般に13.5秒以上で転倒リスクが高い。
- 目的違いの尺度:NIHSS(急性期の重症度)、UPDRS(Parkinson病)、modified Tardieu scale(痙縮)、PCI(歩行の生理的コスト)。
インシデント後の対応
- 主治医へ速やかに口頭で報告。
- 状況を文書で詳細に報告(インシデントレポート)。
- 家族へ経過を説明。
- 原因を分析し再発防止策を提案。
「理学療法士に責任がないことを明確にする」のような自己保身の対応は不適切。