第2章|急性期〜回復期の理学療法

脳卒中 第2章

2-1 急性期のリスク管理と離床

全身状態が安定していれば早期離床が原則。廃用症候群・深部静脈血栓症・肺炎・褥瘡を防ぐ。

離床を進めてよいサイン見合わせ・中止のサイン
意識レベルが安定(JCS1桁程度)JCS3桁などの重度意識障害、意識レベルの低下
神経症状の進行が止まっている神経症状の増悪
バイタルが正常範囲(脈拍・呼吸数)著明な高血圧、著明な頻呼吸、頻脈
平均血圧が保たれている(65mmHg以上)重篤な全身性合併症
鎮静が深くなく、呼びかけに反応できる深い鎮静(RASS −3以下)

運動麻痺の重さは離床を止める理由にならない。重度麻痺でも全身状態が安定していれば離床する。

運動の中止・見合わせ(安全管理ガイドライン2006の代表例)

リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン(2006)は、基準を4つの区分に分けている。下の表はそのうち数値の基準がある3区分の代表例(ほかに「その他の注意が必要な場合」の区分がある)。

区分代表例
積極的なリハを実施しない(開始前)安静時SpO₂ 90%以下/安静時脈拍40/分以下または120/分以上/安静時収縮期血圧70mmHg以下または200mmHg以上/実施前から動悸・息切れ・胸痛がある
途中で中止運動による収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上の上昇/脈拍140/分を超える/中等度以上の呼吸困難・めまい・嘔気・狭心痛・頭痛・強い疲労感/意識状態の悪化
いったん中止し、回復を待って再開脈拍が120/分を超える、または運動前の30%を超えて増える/軽い動悸・息切れ
  • 脈拍100回/分・呼吸数18回/分などの正常範囲の値で中止しない。

脈拍は120/分超=いったん中止して回復を待つ、140/分超=途中で中止と段階が違う。SpO₂は「90%以下」で実施しない。

病型・時期ごとの進め方

状況理学療法
脳出血の翌日、意識障害が残り血圧も高めまずギャッジアップ(ヘッドアップ)。角度を段階的に上げて反応を見る
くも膜下出血の発症早期(再出血は発症早期、特に24時間以内に多い/脳血管攣縮期は発症4〜14日)体位変換・他動ROMなどの廃用予防が中心。努責(いきみ)・腹筋運動・抵抗運動は避け、離床(座位)は動脈瘤の処置の有無と医師の指示で段階的に進める
症状が完全に消えたTIA安静は不要。廃用予防の筋力増強・歩行を早期から
意識清明・麻痺の進行停止の脳梗塞座位練習を開始

離床の順序:良肢位・体位変換 → ギャッジアップ → 端座位 → 車椅子座位 → 立位 → 歩行。段階ごとに血圧・脈拍・意識・神経症状を確認する。

非麻痺側の筋力増強は麻痺の回復を妨げない。廃用予防のため行う。ただし急性期の強い抵抗運動は努責による血圧上昇に注意。

2-2 ポジショニング・肩の管理・肩手症候群

急性期の良肢位

原則は痙性パターンと反対の肢位に置く。

部位起こりやすい方向保持する肢位
頸部—枕で支えた軽度屈曲位
肩内転・内旋外転・外旋位、肩甲骨は前方突出位で支える
肘屈曲伸展方向
手関節・手指掌屈・屈曲手関節軽度背屈、手指軽度屈曲
股重力で外旋中間位(大転子部を支えて外旋を防ぐ)
足内反尖足背屈0°(中間位)
  • 股の外旋放置は外旋拘縮と腓骨頭の圧迫(腓骨神経麻痺)を招く。
  • 良肢位保持は定期的な体位変換とセット。

麻痺側の肩の扱い

  • 亜脱臼があれば整復位で運動する。上肢の重みで下方に引かれないよう、アームスリング・テーブルで支える。
  • ROM運動は肩甲骨の上方回旋を誘導しながら。肩甲骨を固定して上腕だけ挙げるとインピンジメントと疼痛を招く。
  • 弛緩期に早期から全可動域で動かさない。可動域は段階的に広げる。
  • 麻痺側への寝返りでは麻痺側肩甲骨を前方突出(外転)位に整えてから。
  • 自己介助運動は反動を使わず、ゆっくり行う。
  • 他動運動はゆっくり持続的に。素早い伸張は伸張反射を誘発し痙縮を強める。

肩手症候群(CRPS typeⅠ)

肩から手にかけての疼痛・腫脹・血管運動障害・拘縮。Steinbrocker分類でⅠ〜Ⅲ期。

Ⅰ期(急性期)で行うⅠ期で避ける
交代浴、ホットパックなど適度な温熱
痛みの範囲内の自己介助運動
臥床時の上肢ポジショニング(挙上で浮腫を軽減)
肩周囲筋の再教育(軽い随意収縮の促通)
強い他動伸張運動
疼痛を増す過剰な刺激(CI療法など)

肩の管理は「支える・整復する・肩甲骨を動かす・痛みを出さない」。

2-3 pusher現象と半側空間無視の理学療法

pusher現象(押す人症候群)

  • 右半球損傷(左片麻痺)に多い。半側空間無視を合併しやすいが別の病態。
  • 三本柱:麻痺側へ傾く・非麻痺側の上下肢で押す・正中への修正に抵抗する。
  • 背景は身体の主観的垂直の偏り(垂直判断の障害)。
  • 座位でも立位でも出る。端座位で正中に近づけると非麻痺側股関節の外旋などで抵抗する。
  • 評価はSCP(Scale for Contraversive Pushing)など。
有効な関わり不適切な関わり
視覚の手がかり(鏡・垂直の目印)で正中を認識させる
非麻痺側へのリーチで重心を非麻痺側へ移す
移乗は非麻痺側方向で行い、重心移動を動作に生かす
閉眼での立位練習(視覚の手がかりを奪う)
手すりを押し引きする練習(押す動作の反復)
非麻痺側の筋力増強・ROM(原因ではない)
麻痺側からの強引な押し戻し
  • 立位で重心が麻痺側に偏り、手すりや平行棒に寄りかかる例でも、前方の鏡で姿勢の傾きを認識させるのが基本。他動的に骨盤を押すだけでは学習につながりにくい。

半側空間無視

  • 右半球(特に頭頂葉)損傷で左側の無視が多い。
  • 典型行動:左の食事を残す、左の壁にぶつかる、左袖を通し忘れる、左のブレーキを掛け忘れる。
  • 線分二等分では中点が右(非無視側)へずれる。抹消試験では左側を見落とす。
左無視への有効な関わり不適切な関わり
視覚探索練習(右から左へ注意を移す)
プリズム順応(視野を右へずらす眼鏡)
後頸部への振動刺激・経皮的通電
カロリック刺激(前庭刺激)
体幹の左回旋
療法士は左側に位置し、左から声かけ・触覚刺激
車椅子駆動時に左へ注意を促す
体幹の右回旋(逆方向)
右側のブレーキレバーの延長(健側への工夫は無視対策にならない)
頸部の右回旋を徒手で押し戻す
導入時の鏡(像が左右反転し空間認知を混乱させやすい)
無視が強い時期の電動車椅子

鏡の使い分け。姿勢の傾き(pusher・重心の偏り)には鏡が有効。左無視の導入期の空間探索には鏡は向かない。何を学習させたいかで判断する。

無視への原則は「押さえつけず、無視側へ能動的に向かわせる」。麻痺側上肢を意識させ、麻痺側下肢への荷重を促すのも有効。

2-4 運動療法・歩行練習とエビデンス

斜面台(傾斜台)での立位

目的になる目的にならない
尖足(内反尖足)の予防:足関節背屈位で下腿三頭筋を持続伸張
覚醒レベルの向上
立位感覚の入力・維持
体幹筋の賦活
荷重による骨萎縮(骨粗鬆症)の予防
起立性低血圧への順応
膝伸展筋の痙縮抑制(膝は伸展位で固定され、大腿四頭筋は伸張されない)

歩行・立位練習の考え方

  • トレッドミル歩行(体重免荷を含む)で歩行速度・耐久性が改善する。
  • 装具は機能回復を阻害しない。早期の立位・歩行を可能にする。
  • 立位練習は装具の完成を待たない(訓練用装具・徒手介助で開始)。
  • CPM(持続的他動運動)は拘縮予防が目的。分離運動は促通しない。
  • BrunnstromステージⅠで膝の支持性がない時期:長下肢装具を着けて立位練習。短下肢装具では膝折れする。
  • 重度の感覚障害(深部覚)があり立位も介助の時期は、二重課題や不安定な歩行器より、分離運動が出ている麻痺側下肢の筋力増強など負荷を調整しやすい課題を優先。

CI療法(constraint-induced movement therapy)

  • 非麻痺側(健側)上肢を拘束し、麻痺側上肢を集中して使わせる。
  • 行うのは段階的に難度を上げる自動運動(shaping)と課題指向型練習。他動ROMを長時間行う方法ではない。
  • 生活場面での使用(transfer package)が重要。療法士の近位監視下だけで完結しない。
  • 適応の目安:手関節背屈・手指伸展の随意運動がある程度ある例(目安として手関節背屈20°・手指伸展10°)。ステージⅡの重度麻痺は適応外。
  • 慢性期でも適応。もともと慢性期で効果が示された方法。

脳卒中治療ガイドライン2004の推奨(代表)

手段推奨
トレッドミル訓練B(勧められる)
筋電図バイオフィードバックB
麻痺側手関節背屈筋への電気刺激B
痙縮による内反尖足へのフェノールブロックB
神経筋促通手技(ファシリテーション)C1(他の手技より優れる根拠がない)

反張膝・尖足への対応と電気刺激

  • 立脚期の反張膝+尖足:短下肢装具、踵の補高、膝軽度屈曲位での立位保持、前脛骨筋の電気刺激が有効。
  • 下腿三頭筋へのタッピングは底屈を促通し、尖足・反張膝を助長する。
  • 尖足へのFES:下腿前外側上部(前脛骨筋・総腓骨神経の走行部)を刺激して背屈を出す。下腿後面の刺激は底屈を誘発。
  • 筋と作用の対応:前脛骨筋=背屈+内がえし/長趾伸筋=背屈+外がえし/長・短腓骨筋=外がえし+底屈。
  • ボツリヌス療法:標的は過活動の筋。内反尖足では、尖足には下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)、内反には後脛骨筋(内がえしの主動筋)、足趾屈曲には長趾屈筋。背屈筋(前脛骨筋)や外がえし筋(腓骨筋)は弱い側なので打たない。

練習課題の目的を読む

  • 麻痺側の足をボールに乗せて前後に転がす:立位バランス、体幹の協調、麻痺側下肢の屈筋のコントロール、非麻痺側(支持側)伸筋の強化。麻痺側は荷重していないので麻痺側の支持性向上にはならない。
  • 非麻痺側の足を前に踏み出すステップ練習:歩幅の拡大、後方に残した麻痺側の殿筋・下腿三頭筋の活動、両上肢で押すことによる肩甲帯の安定。歩隔の拡大は目的にならない。

頭部外傷などの痙性麻痺(上肢屈曲・下肢伸展)には、持続伸張と介助下の立位バランス練習。Frenkel体操は運動失調(小脳性・脊髄性)用で、痙性麻痺には使わない。

2-5 嚥下障害

摂食嚥下の5期

期内容障害の例
先行期(認知期)食物を認識し口へ運ぶ嚥下機能は保たれるのに自分で口に運ばない(前頭葉障害・意識・注意)
準備期咀嚼・食塊形成咀嚼困難
口腔期食塊を咽頭へ送る送り込み不良
咽頭期嚥下反射で食道へむせ・誤嚥、喉頭挙上不良
食道期蠕動で胃へ逆流
  • 反復唾液嚥下テスト(RSST):30秒間の空嚥下回数。改訂水飲みテスト(MWST):少量の冷水でむせ・呼吸変化を見る。
  • RSST・MWST・食物テストが良好でも、食事場面で口に運ばなければ先行期の障害。

間接的嚥下訓練

訓練主な効果
Shaker法(頭部挙上訓練)舌骨上筋群の強化 → 喉頭挙上 → 食道入口部の開大
アイスマッサージ(寒冷刺激)嚥下反射の誘発
舌の運動食塊形成・送り込み(口腔期)
構音・発音練習口唇閉鎖・舌・鼻咽腔閉鎖
顔面頸部のマッサージリラクセーション・感覚入力

Wallenberg症候群の嚥下障害は咽頭期、特に食道入口部の開大不全(1-1)。