第1章|症状・評価と病期の判定

パーキンソン病 第1章

1-1 主症状と理学療法で見る所見

四大症状

症状内容理学療法での見え方
安静時振戦静止しているときに出るふるえ。一側の手・足から始まり、のちに両側へ広がる初発症状として多い。運動療法で抑える対象ではなく、治療は薬物が中心
筋強剛(固縮・強剛)他動運動に対する抵抗。鉛管様・歯車様屈筋優位で前傾前屈姿勢が進む。体幹の伸展・回旋の可動性が落ちる
無動・寡動動作の開始困難・緩慢・振幅の縮小動作が小さく遅い。寝返り・起き上がり・腕振りが小さくなる
姿勢反射障害外乱に対する立ち直り・踏み直りが出にくい突進現象・方向転換時の転倒。出現するとHoehn & YahrステージⅢ

Parkinson病の動作障害の本質は筋力低下ではなく、動作の小ささ(無動・寡動)と遅さ、筋強剛、姿勢反射障害である。だから運動療法の柱は高負荷の筋力増強ではなく「大きく・リズムをつけて・外的手がかりを使って」になる。

歩行の特徴

  • 小刻み歩行:歩幅が小さく、すり足になる
  • すくみ足(freezing):足が床に貼りついたように出なくなる。歩き始め・方向転換・狭い場所(戸口・曲がり角)の通過・目的地の直前で起こりやすい。Hoehn & YahrステージⅢ以降で目立つ
  • 突進現象:歩くうちに小走りになり止まれない。下り坂で止まれず前方へ転倒する、など
  • 逆説的歩行(矛盾性運動、kinésie paradoxale):すくみ足があっても、床の横棒や横線は円滑にまたげる現象。外的手がかりが大脳基底核を介さない経路で運動を引き出すため(→2-1)
  • 会話しながら歩くなどの二重課題で小刻み歩行・すくみが強まる

評価の名前と対応する疾患

検査・徴候・尺度何を見るか主な対象
Hoehn & Yahr重症度分類病期(Ⅰ〜Ⅴ)Parkinson病(→1-2)
UPDRS精神・ADL・運動・治療合併症の総合評価Parkinson病(→1-3)
Westphal現象筋強剛(固縮)に関連して他動運動時にみられる所見Parkinson病
Schwab & England の尺度ADL自立度(0〜100%)Parkinson病
MAS(Modified Ashworth Scale)痙縮の程度脳卒中・脊髄損傷など
SARA運動失調の重症度脊髄小脳変性症など小脳性失調
Beevor徴候腹筋の上下不均衡による臍の偏位脊髄損傷など
Finkelstein test母指を握って尺屈させたときの痛みde Quervain病(狭窄性腱鞘炎)

Parkinson病の筋緊張異常は固縮であって痙縮ではない。MASは痙縮の尺度なので「Parkinson病の評価」としては選ばない。SARAは失調、Beevorは腹筋麻痺、Finkelsteinは手関節の腱鞘炎、と対応疾患をセットで覚える。

動作観察で「無動」と他の原因を見分ける

立ち上がりで見える特徴考える原因
両上肢で大腿を押す・体幹を過度に前傾して殿部離床・体幹前傾のまま早く膝を伸ばす・動揺なし両下肢(伸展)筋力低下の代償
動き出せない・全体に緩慢無動
顕著な姿勢の動揺運動失調
左右非対称・一側へ偏る片麻痺
最後に体幹を起こしきれない股関節伸展可動域制限

動作分析は「何で代償しているか」から原因を逆算する。「動揺なし」「左右差なし」「最後は体幹を伸展できた」などの否定情報を消去法に使う。

1-2 Hoehn & Yahr重症度分類と生活機能障害度

Hoehn & Yahr状態生活機能障害度理学療法の主眼(目安)
ステージⅠ一側性。機能障害は軽微1度運動習慣の確立・柔軟性の維持
ステージⅡ両側性。姿勢反射障害なし。日常生活・職業にやや不便1度前傾姿勢の予防・体幹ストレッチ・大きな動作の練習(→2-3)
ステージⅢ姿勢反射障害が出現。活動制限はあるが日常生活は介助なしで自立2度バランス練習・外的手がかりによるすくみ足対策・転倒予防・環境整備(→2-1〜2-5)
ステージⅣ重篤な機能障害。起立・歩行はかろうじて可能だが日常生活に介助が必要2度移乗・ADL練習、介助方法の指導、環境整備
ステージⅤ介助なしではベッドまたは車椅子の生活3度呼吸・嚥下・拘縮予防(→2-6)

境目の判定軸は2本。Ⅱ→Ⅲ=姿勢反射障害の有無(突進・方向転換での転倒、後方への引き込みに踏み直れない)。Ⅲ→Ⅳ=日常生活に介助が要るか。ADL自立・家事や仕事を続けられていて、転倒・突進が出てきた症例はステージⅢ。

「転倒が出てきた」「下り坂で止まれない」をステージⅣと読む誤りが多い。Ⅳは日常生活に介助が必要な段階であり、自立している限りⅢ。逆に「片側のふるえのみ」はⅠ、「両側にふるえ・前かがみが出てきたが、転倒・突進など姿勢反射障害の記載が無い」はⅡ。Ⅲと判定するには姿勢反射障害の所見が要る。問題文にまだ何が起きていないかを読む。

難病医療費助成の対象:Hoehn & YahrステージⅢ以上かつ生活機能障害度2度以上。

1-3 UPDRSの構成と採点

UPDRS(Unified Parkinson's Disease Rating Scale、Version 3.0)は、Parkinson病を4つのパートで総合評価する尺度。抗Parkinson病薬や脳深部刺激療法の効果判定に標準的に用いられる。

パート内容評価の仕方代表的な項目
PartⅠ精神機能・行動・気分問診知的機能・抑うつなど
PartⅡ日常生活動作(ADL)問診(生活上の困りごと)。on時とoff時を分けて評価着衣・食事・書字・嚥下・寝返り・転倒・歩行中のすくみ
PartⅢ運動能力検査検者が実際に診察・観察する安静時振戦・固縮・指タップ・椅子からの立ち上がり・歩行・姿勢安定性など
PartⅣ治療の合併症問診ジスキネジア・症状の日内変動など
  • PartⅠ〜Ⅲの各項目は0〜4の5段階(0=正常〜4=最重度)。PartⅣには有無の2択の項目もある。3段階ではない
  • 得点が高いほど重症(活動性が高いのではない)
  • 項目数が多く、評価に20〜30分程度かかる。数分で終わる簡便な尺度ではない
  • on時・off時に分けるのは、薬効の切れ目(wearing-off現象・on-off現象)による日内変動をとらえるため。「状態のよい時間帯と悪い時間帯で評価する」と言い換えられる

よくある誤り:①「3段階で評価」→5段階。②「点が高いほど活動性が高い」→高いほど重症。③「薬の効果判定に使いにくい」→効果判定の標準。④「ICFの構成要素に準じている」→準拠していない。⑤「疲労の項目がある」→従来版(Version 3.0)には無い(改訂版のMDS-UPDRSで追加)。⑥「安静時振戦をoff時に評価」→検者が診察する安静時振戦はPartⅢの項目で、PartⅢはon/offに分けない。on/offに分けて評価するのはPartⅡ(ADL)の問診項目。なおPartⅡにも本人が申告する「振戦」の項目があるので、「振戦はPartⅢだけ」とは覚えない。⑦「すくみはon時のみ」→すくみはPartⅡなのでon・off両方で、むしろoff時に強く出る。

仕分けの軸:検者が手で動かして・目で見て採点するもの=PartⅢ(固縮・安静時振戦・指タップ・立ち上がり)、本人に生活のようすを聞くもの=PartⅡ(嚥下・寝返り・転倒・すくみ・着衣、本人が申告する振戦)。

1-4 治療の全体像と理学療法の進め方

治療位置づけ
L-dopa・ドパミン作動薬治療の中心。振戦・固縮・無動を改善する
脳深部刺激療法(DBS)進行期で薬の効果が不安定になった例。運動症状の改善と薬剤量の削減
経頭蓋磁気刺激法(TMS)補助的な治療として用いられる
リズム刺激(聴覚・視覚の外的手がかり)すくみ足・小刻み歩行に有効な非薬物療法(→2-1)
ボツリヌス毒素療法痙縮・局所ジストニア・眼瞼痙攣向け。Parkinson病の主症状の治療としては用いない

理学療法を行う時間帯と中止の判断

  • 運動練習、とくに立位バランス練習は薬が効いているon期に行う。無動が強いoff期は姿勢反射障害も強く転倒の危険が高いので、座位や支持物のある安全な条件にとどめる
  • 幻覚は抗Parkinson病薬の副作用として出ることが多い。主治医へ報告して薬剤調整を依頼するが、理学療法を中止する理由にはならない。安全に配慮して続ける
  • 夜間の無動・寝返り困難・こわばり・夜間頻尿など症状そのものによる夜間覚醒(症候性)は、日中の活動を増やしても改善しにくい。夜間の薬物調整や寝具・環境の調整が要る。日中活動で改善が期待できるのは昼夜逆転などの非症候性の不眠
  • 安静時振戦にPNFは適応にならない(振戦の治療は薬物が中心)

立位で支持基底面を狭める課題・不安定な支持面の課題は、姿勢反射障害(ステージⅢ以上)のある患者では監視下で行う。自宅で1人で行わせない(→2-4)。