第2章|病期ごとの理学療法と環境整備

パーキンソン病 第2章

2-1 すくみ足と外的手がかり(cueing)

すくみ足・小刻み歩行の対策の中心は外的手がかり(外的キュー、cue、キューイング)。床の線や音など外からの刺激でリズムと歩幅を与えると、障害された大脳基底核—補足運動野系を迂回して運動が開始されやすくなる。すくみ足があっても床の横棒はまたげる現象(逆説的歩行)と同じ機序である。

種類具体例
視覚キュー床に等間隔の横線を引く・貼る(はしご状の目印)、横線や目標物をまたぐ、市松模様の床、介助者の足をまたぐ、L字型(逆L字型)杖・レーザーポインタ付き杖で足元に目印をつくる
聴覚キュー(リズム刺激)メトロノーム、「イチ、ニ」の号令、行進曲などリズミカルな繰り返しの音
体性感覚キュー軽く体を押して重心移動を誘導する、その場で足踏みしてから歩き出す
認知的方略動作を分解して1つずつ意識させる、一歩目を大きく踏み出すと意識する

床の模様は「進行方向を横切る・規則的」

  • 有効:進行方向に直交する横線を等間隔に並べたもの、市松模様(規則的な横方向の境目が一歩ごとの目印になる)
  • 効果が乏しい:進行方向と平行な縦線(横切る手がかりにならない)、先細りの図形(一定間隔にならない)、幅の広い横帯1本(一歩ごとの目印にならない)

すくみ足を悪化させるもの・改善させるもの

悪化させる改善させる
狭い場所・戸口・曲がり角、急な方向転換方向転換は大回りで
二重課題(会話・計算・物を持つ)歩くことに注意を向ける
急ぐこと一定のリズムで歩く
足元の注視・体幹の屈曲(前傾)視線は前方、体幹を起こす
一歩目を小さく出す、踵を持ち上げる一歩目を大きく、踵から接地。いったん後方・側方へ体重を移してから踏み出す

「狭く・小さく・急いで・ながら」は悪化、「大きく・リズム・手がかり」は改善。

2-2 歩行練習で選ぶもの・避けるもの

練習判断理由
等間隔の線を踏む・またぐ歩行適切視覚キューで歩幅が広がり、すくみが減る
メトロノーム・リズム音に合わせた歩行適切聴覚キューで歩行リズムが整う
大股・広い歩幅を意識した歩行適切小刻み歩行の逆をねらう
横歩き適切(見守り下)前方へのすくみを避けて重心移動を練習できる
階段昇降適切(見守り下)段差そのものが視覚的手がかりになり、すくみが起こりにくい
スラローム歩行適切(見守り下)目標物を回り込む動作で歩行リズムを引き出す
歩幅を狭めた歩行不適切小刻み歩行・すくみを助長する
継ぎ足(タンデム)歩行不適切支持基底面が狭く、姿勢反射障害があると転倒しやすい
歩行速度をできるだけ上げる不適切突進を助長する
計算・会話など二重課題を加えた歩行不適切すくみ・小刻み歩行が強まる
足首に重錘バンド不適切下肢が重くなり振り出しが困難に。すくみが悪化
狭い場所を歩く不適切すくみを誘発する
長下肢装具不適切筋力・関節可動域に問題がなければ適応がない

すくみ足に対して「筋力をつける」「重りで足を安定させる」「水中歩行」「バランスボード」「自転車エルゴメーター」は、どれも外的手がかりとは別の機序。「横棒をまたげる現象と同じ機序」を問われたら、視覚キューか聴覚キュー(リズム音)を選ぶ。

歩行の数値の計算

  • 歩幅(m)=歩行速度(m/秒)÷歩行率(歩/秒)
  • 歩行率は分単位で与えられることが多いので秒に直す:120歩/分=2歩/秒
  • 例:歩行速度0.8 m/秒・歩行率120歩/分 → 0.8÷2=0.4 m=40 cm

メトロノームを用いた練習の効果判定で、歩行率・歩行速度・歩幅の関係が問われる。

2-3 初期〜中期の運動療法:姿勢と大きな動作

ステージⅠ〜Ⅱ(姿勢反射障害がない。ⅡとⅢの境目は姿勢反射障害の有無で、Ⅱでも歩行の変化は出うる)のうち、問題文に転倒や歩行障害の記載がなく仕事や家事を続けている時期は、新たに出てきた問題に対応する。とくに前傾姿勢が出はじめた段階では、固定してからでは戻しにくいので、体幹の伸展・回旋の可動性を保つことが最優先になる。

問題優先する理学療法
前傾姿勢(体幹前屈)が出はじめた体幹筋のストレッチ(伸展方向の柔軟性)
前かがみが強くなり、腹部の締めつけ感がある肩甲帯と体幹を大きく動かす運動(伸展・回旋)
動作が小さく遅い振幅の大きい運動(LSVT BIGなど)。大きさを外から指定して修正する

振幅の大きい運動は、前傾姿勢の是正、体軸内回旋の維持、寝返り・起き上がり・歩行時の腕振りの改善につながる。体幹を伸展・回旋させれば胸郭の可動性も保たれる。

この時期に選ばないもの:体幹コルセット(運動を制限し屈曲姿勢の固定と体幹筋の廃用を助長)、四肢の高負荷筋力トレーニング(動作障害の本質は筋力低下ではない。疲労と転倒の危険)、短時間の散歩だけ(量も動作の大きさも足りない)、呼吸リハビリテーション(呼吸障害が前面に出るのは進行期)、リズム音の歩行練習(歩行障害が出ていなければまだ優先課題でない)、住宅改修などの環境整備(転倒・姿勢反射障害が出てから)。

症例問題は「今出ている問題」と「まだ出ていない問題」を分けて読む。歩行障害も転倒も書かれていなければ、すくみ足対策や環境整備は先の話。

2-4 バランス練習と自主練習の安全

ステージⅢで姿勢反射障害が出て前方へ転倒しはじめた例に自宅でのバランス練習を指導するときは、安全に1人で続けられることが最優先になる。

練習自宅で単独に行う場合
四つ這い位で対角の上肢と下肢を挙上適切。床上・低重心で転倒しても危険が少なく、支持基底面を狭めて体幹・骨盤帯の安定性と姿勢制御を促せる
腹臥位での肘立て位(楔状クッション使用)体幹伸展のストレッチにはなるが、静的でバランス練習の要素に乏しい
片脚立位不適切。支持基底面が最も狭い立位課題で転倒・骨折の危険
バランスボール上の座位不適切。支持面が動き転落の危険
バランスマット上の立位不適切。立ち直り・踏み直り反応を要する

自主練習の選び方=「効果が高いが危険な課題」より「安全に継続できる課題」。背臥位・腹臥位・四つ這い・座位など低い姿勢を選ぶ。立位の難しいバランス課題はon期に監視下で行う。

2-5 住環境整備と生活指導

すくみ足・小刻み歩行・姿勢反射障害で自宅での転倒が増えた段階では、活動性を落とさずに転倒を防ぐことが目標。原則は「方向転換や後退を減らす」「外的手がかりを生活の場に置く」。

整備・指導判断理由
すくみが起こりやすい場所(方向転換部・戸口・トイレ・浴室)を評価して手すりの設置場所を指導適切動作開始時・方向転換時の転倒を直接防ぐ。歩行能力を落とさない
寝室からトイレまでの廊下に手すり適切夜間のトイレ動線の転倒予防
トイレ前の廊下にはしご状の目印(横線)適切視覚キューですくみを解除する
ベッドに介助バー適切起き上がり・立ち上がりの支持、介助負担の軽減
脱衣場と浴室などの段差解消適切段差はすくみ足での転倒の誘因
出入口は引き戸適切開閉で後退・方向転換が少ない
出入口を開き戸にする不適切押す・引くために後退や方向転換が要り、バランスを崩しやすい
スリッパ不適切脱げやすくつまずきの原因。踵まで覆う軽い靴を勧める
足関節の重錘バンド不適切振り出しが困難になりすくみが悪化
T字杖を第一選択にする不適切杖の操作が足の運びと同期せず、杖に足を引っかけることがある。使うならL字型杖など視覚的手がかりを与える杖を検討
ADL自立なのに車椅子移動を指導不適切活動量が落ちて廃用と症状進行を招く

「引き戸か開き戸か」は頻出のひっかけ。Parkinson病・姿勢反射障害のある人には引き戸。開き戸は方向転換と後退を強いる。

2-6 進行期(ステージⅣ〜Ⅴ)の理学療法

  • ステージⅣ:起立・歩行はかろうじて可能で介助が要る。移乗・ADL練習、介助方法の指導、環境整備が中心
  • ステージⅤ:ベッド・車椅子の生活で全面的な介助。四つ這い位・膝立ち位・立位の保持など抗重力位の練習は現実的でなく、主目標にしない
ステージⅤで優先すること理由・内容
呼吸訓練胸郭の固縮と不動で拘束性換気障害が進む。呼吸介助・胸郭可動性の維持・排痰援助
嚥下訓練・食事姿勢の調整進行期は嚥下障害が多く、誤嚥性肺炎は主要な死因
関節可動域の維持拘縮・廃用の予防

ステージⅤの問題は「立つ・歩く」系の選択肢を全部外し、呼吸・嚥下・拘縮予防に絞るのが解き方の型。