第1章|心理学の基礎・感覚と知覚

臨床心理学 第1章

1-1 心理学の成り立ちと主要学派

心理学=行動と心のはたらきを科学的に扱う学問。国試で問われるのは人物の伝記ではなく学派名とその主張の対応だけなので、この表をセットで覚える。

学派中心となる主張キーワード
構成主義意識を要素に分解して記述する内観法/世界最初の心理学実験室(1879年・ライプツィヒ)
機能主義意識の内容より「はたらき(適応の機能)」を重視意識の流れ
ゲシュタルト心理学全体は部分の総和とは異なる体制化・群化・仮現運動
行動主義観察可能な刺激(S)と反応(R)だけを扱い、意識は研究対象にしないS-R・条件づけ
精神分析行動は無意識に規定される無意識・防衛機制・自由連想
認知心理学人を情報処理システムとみなし、内的過程を扱う記憶・注意・思考
人間性心理学人は自己実現に向かう主体である自己実現・来談者中心療法
対比の定番=行動主義は意識を扱わない/認知心理学は内的過程を情報処理として扱う。またゲシュタルト心理学は「要素へ分解する」構成主義への批判として登場した点で対になる。

1-2 心理学の研究法

方法内容特徴
実験法独立変数を操作し従属変数の変化をみる因果関係を言える唯一の方法。統制が必要
観察法自然観察・参加観察。操作を加えない日常場面に強いが因果は不明
面接法対話で情報を得る深く聞けるが多人数には不向き
質問紙法一斉・匿名で回答を集める多人数に有効。深さは出ない
検査法標準化された心理検査を用いる個人間比較ができる

「相関があるので原因と結果が分かる」は誤り → 相関関係は因果関係ではない。因果を主張できるのは変数を操作した実験法だけ。独立変数=操作する原因側、従属変数=測定される結果側。

1-3 感覚の分類と適刺激

  • 特殊感覚=視覚・聴覚・味覚・嗅覚・平衡覚
  • 体性感覚=表在感覚(触圧覚・温度覚・痛覚)+深部感覚(位置覚・運動覚・振動覚)
  • 内臓感覚=臓器の痛み・空腹感など
感覚受容器適刺激・特徴
視覚網膜の錐体・杆体錐体=明所視・色覚・中心窩に密/杆体=暗所視・高感度・色は分からない
聴覚蝸牛の有毛細胞空気振動。可聴域おおよそ20〜20,000Hz
平衡覚半規管/耳石器半規管=回転加速度、耳石器=直線加速度と頭部の傾き
触圧覚マイスネル小体・メルケル盤・パチニ小体・ルフィニ終末マイスネル・パチニ=速順応(パチニは振動)/メルケル・ルフィニ=遅順応
深部感覚筋紡錘/腱紡錘筋紡錘=筋の長さと伸張速度/腱紡錘=筋の張力
痛覚自由神経終末順応しにくい(生体の警告信号だから)

1-4 精神物理学 — 閾と法則

  • 絶対閾(刺激閾)=感覚が生じる最小の刺激量。閾が低いほど感度が高い
  • 刺激頂=それ以上強めても感覚量が増えない上限
  • 弁別閾(丁度可知差異・JND)=2刺激の差に気づける最小の差
  • Weberの法則=ΔI/I=一定(Weber比)。基準刺激が強いほど弁別閾は大きい
  • Fechnerの法則=感覚量は刺激強度の対数に比例する
  • Stevensのべき法則=感覚量は刺激強度のべき乗に比例する

頻出の誤答肢 → 正しくは:

  • 「刺激が強いほど弁別閾は小さくなる」は誤り → 比例して大きくなる。
  • 「絶対閾が高いほど感度が良い」は誤り → 高いほど鈍い
  • 「弁別閾は刺激の種類によらず一定」は誤り → 一定なのは弁別閾そのものではなく比(Weber比)

1-5 順応・対比・残効

  • 順応=同じ刺激が続くと感度が変わること。暗順応は約30分と遅く、明順応は数十秒〜1分と速い
  • 暗所での高感度を担うのは杆体。暗い所で色が分からなくなるのはこのため
  • 対比=隣接する刺激で見えが変わる(明るさの対比・色の対比)
  • 残効・残像=刺激を止めた後も知覚が残る(陰性残像は補色で見える、運動残効)

1-6 知覚の体制化 — ゲシュタルト

  • 図と地:まとまって形をもち手前に見える部分が「図」、背景として広がるのが「地」。両者は同時に図にならない(反転図形)
  • 群化の要因:近接・類同・閉合・良い連続・共通運命・対称性
  • プレグナンツの法則:知覚はできるだけ単純で安定した形にまとまる
  • 仮現運動:静止した刺激を時間差で提示すると運動として見える(映画・パラパラ漫画)

1-7 恒常性・奥行き知覚・錯視

知覚の恒常性=網膜像が変化しても対象の性質を一定に知覚するはたらき。大きさ・形・明るさ・色の恒常性がある(遠ざかる人は網膜像が小さくなるが「小さくなった」とは感じない)。

奥行きの手がかり内容
両眼両眼視差(左右の網膜像のずれ)・輻輳(寄り目の程度)
単眼重なり(遮蔽)・大きさ・線遠近法・きめの勾配・陰影・運動視差
代表的な幾何学的錯視=Müller-Lyer錯視(矢羽根の向きで線分の長さが違って見える)、Ponzo錯視、Ebbinghaus錯視(周囲の円の大きさで中心円の大きさが変わる)。
錯覚=実在する刺激を誤って知覚すること(健常者にも起こる)。幻覚=対象がないのに知覚が生じること(病的)。錯視は感覚器の異常ではなく、正常な知覚機構が生む系統的なずれ。

1-8 注意

種類内容
選択性注意多数の刺激から必要なものだけを拾う雑踏で自分の名前が聞こえる(カクテルパーティ効果)
持続性注意一定時間注意を保つ訓練を最後まで続ける
分配性注意複数の課題に同時に配る歩きながら会話する(二重課題)
転換性注意対象を切り替える課題間の切り替え

覚醒水準は高すぎても低すぎても遂行成績が落ちる(逆U字の関係)。この「覚醒水準」を客観的に映すのが次の脳波。

1-9 覚醒水準と脳波

波形周波数出現する状態
δ(デルタ)波3Hz以下深睡眠(徐波睡眠)・病的状態
θ(シータ)波4〜7Hz入眠期・小児
α(アルファ)波8〜13Hz安静・覚醒・閉眼時の基礎律動。後頭部優位
β(ベータ)波14Hz以上開眼時・精神活動時・緊張時
γ(ガンマ)波30Hz以上高度な認知活動
  • 順序はδ < θ < α < β < γ。δ・θが徐波、β・γが速波
  • α抑制(α blocking)=閉眼で出ていたα波が、開眼すると抑制されβ波(速波)に移る
  • 意識水準が下がるほど周波数は遅くなる(覚醒→入眠→深睡眠でα→θ→δ)
  • REM睡眠は覚醒時に近い低振幅速波を示し、急速眼球運動を伴い、骨格筋の緊張は消失する

「安静閉眼時の基礎律動はβ波」は誤り → α波。β波は開眼・緊張時。「δ波は健常成人の安静時基礎律動」も誤り → δ波は深睡眠か病的状態で出る。

1-10 医療面接 — 情報を引き出す技法

自由質問法(開かれた質問)閉鎖質問法(閉じた質問)
答え方定まっておらず患者が自由に語るはい/いいえ・一語・数値で決まる
主導権患者側面接者側
「どのようなことでお困りですか」「その後いかがですか」「ご家族は何人ですか」「お名前を教えてください」「痛いのは右ですか、左ですか」「いつ頃から痛み出しましたか」
長所訴えの背景・心理面まで広く出る事実確認が速く、絞り込みに強い
短所時間がかかり話が拡散しうる聞いたこと以外は出てこない
見分け方は「答えが一意に決まるかどうか」の一点。「何人」「名前」「右か左か」「いつ頃から」は答えの形が決まっているので全部クローズド。「どのような」「どんなふうに」で始まればオープン

面接の流れは導入でオープンに広く聞き、詳細確認でクローズドに絞る(漏斗型)。基本姿勢は傾聴・受容・共感で、うなずき・相づち・繰り返し・言い換え・要約・明確化を用い、沈黙もそのまま待つ。

避ける質問 → 理由:

  • 誘導質問(「痛くはないですよね」)→ 患者が否定しづらく、事実がゆがむ。
  • 多重質問(一度に二つ以上聞く)→ どちらへの答えか分からなくなる。
  • 「なぜ」の多用 → 詰問・非難として受け取られ、ラポール形成を妨げる。