第2章|学習理論

臨床心理学 第2章

2-1 学習の3類型 — まずここで大分類する

学習とは経験によって生じる比較的永続的な行動の変化。国試では「その技法・現象がどの学習型に属するか」を問う出題が中心で、まず次の3つに割り振れるかが勝負になる。

提唱者成立のしくみ代表的な技法
古典的(レスポンデント)条件づけPavlov刺激と刺激の連合。反応は誘発される(受動的)系統的脱感作法・曝露法・フラッディング法・暴露反応妨害法・嫌悪療法
オペラント(道具的)条件づけSkinner(源流はThorndike)自発した行動とその結果(報酬・罰)の連合(能動的)トークンエコノミー法・シェイピング・行動活性化技法
観察学習(モデリング)Bandura他者の行動と結末を観察するだけで成立。自分が強化を受けなくてよいモデリング法・社会生活技能訓練〈SST〉

一言で判別する。刺激で反応が勝手に引き出される=古典的結果しだいで行動が増減する=オペラント他人を見て学ぶ=観察学習

そのほかの学習

  • 試行錯誤学習:Thorndike。問題箱。うまくいった反応が定着する(効果の法則)=オペラントの源流
  • 洞察学習:Köhler。チンパンジーの実験。試行錯誤でなく見通し(ひらめき)で一気に解決
  • 潜在学習:Tolman。強化がなくても学習は成立しており(認知地図)、必要になったとき行動に現れる
  • 馴化:同じ刺激の反復で反応が減る、最も単純な学習
  • 味覚嫌悪学習(Garcia効果):1回の対提示で成立し、刺激と反応の間隔が長くても成立する古典的条件づけの特例

2-2 古典的(レスポンデント)条件づけ

生得的な反射に、本来は無関係な刺激を対提示して新しい反射をつくる。

用語意味(イヌの唾液分泌の例)
無条件刺激(US)もともと反応を引き起こす刺激(餌)
無条件反応(UR)生得的な反応(餌で唾液が出る)
条件刺激(CS)もとは中性の刺激(メトロノーム音)
条件反応(CR)学習によって生じた反応(音だけで唾液が出る)
  • 消去:USを伴わずCSだけを繰り返すとCRが弱まる。曝露法はこの原理を使う
  • 自発的回復:消去後に時間をおくとCRが再び現れる。再発の説明にも使う
  • 般化:似た刺激にも反応が生じる/分化(弁別):特定の刺激だけに反応するようになる
  • 高次条件づけ:確立したCSを別の中性刺激と対提示し、さらに条件づけを重ねる

消去は「忘れる」ことではない。連合そのものは残り、抑制が上乗せされた状態。だから自発的回復が起こる。

2-3 オペラント(道具的)条件づけ — 強化と罰

自発された行動に結果が伴い、その行動の生起頻度が変わる。行動が増えれば強化、減れば弱化(罰)。刺激を与えるなら正、取り除くなら負。

刺激を与える(正)刺激を取り除く(負)
強化=行動が増える正の強化(できたらほめる、トークンを渡す)負の強化(痛みや叱責がなくなるので行動が増える)
弱化(罰)=行動が減る正の罰(叱る、不快刺激を与える)負の罰(好きなものを取り上げる)

「負の強化」は罰ではない。不快なものが除かれた結果として行動が増えるのが負の強化。増えるか減るかを先に見て強化/罰を決め、その後で正負を決める。

  • 一次性強化子=食物・水など生得的なもの/二次性(条件性)強化子=金銭・トークン・賞賛など学習で価値をもつもの
  • プレマックの原理:生起頻度の高い行動が、低い行動の強化子になる(好きな活動を後に置く)
  • 強化は行動の直後に、即時に与えるほど効果が高い

2-4 強化スケジュールと周辺現象

スケジュール与え方特徴
連続強化毎回強化習得は速いが消去も速い。新しい行動の獲得期に使う
固定比率(FR)一定回数ごと強化直後に反応が休止しやすい
変動比率(VR)平均○回ごと(不規則)反応率が最も高く、消去抵抗が最も強い
固定間隔(FI)一定時間後の最初の反応期限直前に反応が集中する
変動間隔(VI)平均○分ごと(不規則)低いが安定した反応が続く
  • 部分(間欠)強化効果:ときどきしか強化しないほうが消去されにくい。定着を狙う時期は連続から間欠へ移行する
  • シェイピング(逐次接近法):目標行動に近い行動から順に強化して、目標行動を形成する
  • チェイニング:一連の動作を要素に分け、順に(または最終要素から逆順に)つないでいく
  • フェイディング:介助や手がかりを段階的に減らし、自力遂行へ移す
  • 消去バースト:強化をやめた直後、一時的に行動が激しくなる現象。ここで再び強化すると悪化する
  • 学習性無力感(Seligman):自分では結果を変えられない経験の反復で、回避可能な状況でも行動しなくなる。抑うつの説明モデル

2-5 観察学習(モデリング)と社会的学習理論

Banduraの社会的学習理論。他者(モデル)の行動を観察するだけで新しい行動が獲得される。自分が直接強化を受けなくても成立する点が、古典的条件づけ・オペラント条件づけとの決定的な違い。

過程内容
注意モデルの行動に注意を向ける
保持観察した内容をイメージ・言語で記憶する
運動再生記憶をもとに実際に動いてみる
動機づけやってみようという動機が生じて実行に移る
  • 代理強化:モデルが賞賛される場面を見ると、観察者の模倣が増える
  • ボボ人形実験=観察学習(攻撃行動の模倣)の代表的実証
  • 臨床応用=モデリング法。恐怖症・不安症、動作やスキルの獲得、SSTの中核手続き

設問文に「他者の模範行動を観察して」とあれば答えはモデリング法。系統的脱感作法(曝露と筋弛緩)、行動活性化技法(自分の活動量を増やす)、マインドフルネス(今ここへの注意)、問題解決技法(手順を学ぶ)はいずれも観察が主体ではない。

2-6 自己効力感 — 4つの情報源

自己効力感(セルフエフィカシー、Bandura)=「自分はその行動をやり遂げられる」という見込み。運動療法の継続や自主トレの定着を左右する。

情報源内容臨床での例
遂行行動の達成(成功体験)最も強力類似課題での過去の成功、達成可能な課題をこなす
代理的経験他者の成功を見聞きする同じ疾患で退院した患者の経過を伝える
言語的説得できると言葉で励まされる運動中に医療者が声をかける
生理的・情動的状態身体感覚の解釈が変わる運動後の疲労は問題ないと説明する

逆に自己効力感を下げるのは、初めから達成困難な高い目標を設定すること、失敗体験の反復、疲労や不安を放置すること。目標は達成可能な水準から段階的に上げる(スモールステップ)。

2-7 学習理論から生まれた治療技法

技法基盤内容
系統的脱感作法レスポンデント不安階層表をつくり、筋弛緩と組み合わせて弱い刺激から段階的に。逆制止(Wolpe)
曝露法(エクスポージャー)レスポンデント不安刺激に持続的に直面させ、不安反応を消去・馴化させる
フラッディング法レスポンデント強い不安刺激に一気に長時間さらす曝露法
暴露反応妨害法レスポンデント強迫症に用いる。曝露しながら儀式行為(確認・洗浄)を止める
嫌悪療法レスポンデント問題行動に不快刺激を対提示して行動を減らす
トークンエコノミー法オペラント望ましい行動にトークン(代用貨幣)を与えて正の強化をする
シェイピングオペラント目標行動へ近づく行動を段階的に強化する
行動活性化技法オペラント抑うつに対し活動量を増やし、正の強化を受ける機会を増やす
モデリング法観察学習他者の行動を観察・模倣して行動変容する
社会生活技能訓練〈SST〉観察学習+オペラント教示・モデリング・ロールプレイ・フィードバック・般化課題で対人技能を学習
認知再構成法認知自動思考や認知の歪みを検証し、現実的な考えに修正する(条件づけではない)
問題解決技法認知問題の同定→解決策の産出→選択→実行→評価を段階的に学ぶ
セルフモニタリング法自己管理自分の行動・気分・症状を観察して記録する
漸進的筋弛緩法リラクセーション筋の緊張と弛緩を反復して全身を弛緩させる。条件づけの技法ではない
マインドフルネス第3世代の認知行動療法「今ここ」の体験に評価を加えず注意を向ける

頻出の取り違え。曝露系(系統的脱感作・曝露法・フラッディング・暴露反応妨害)はすべてレスポンデントで、オペラントではない。逆に報酬で行動を増やすトークンエコノミーはオペラント。「報酬で増やす=オペラント」「刺激に慣らす=レスポンデント」で切る。

2-8 人名と理論・技法の対応

人名対応する理論・技法
Pavlov古典的(レスポンデント)条件づけ
Skinnerオペラント条件づけ、スキナー箱
Thorndike試行錯誤学習、効果の法則
Köhler洞察学習
Tolman潜在学習、認知地図
Bandura社会的学習理論、観察学習(モデリング)、自己効力感
Wolpe系統的脱感作法、逆制止
Beck認知療法、自動思考、認知再構成法
Ellis論理情動行動療法、イラショナル・ビリーフ
Liberman社会生活技能訓練〈SST〉
Kabat-Zinnマインドフルネス(マインドフルネスストレス低減法)
Miller動機づけ面接
Seligman学習性無力感

組合せ問題は提唱者を入れ替えて出される。定番の誤り=「オペラント条件づけ―Beck」(正しくはSkinner)、「自動思考―Kabat-Zinn」(正しくはBeck)、「マインドフルネス―Miller」(正しくはKabat-Zinn)、「動機づけ―Pavlov」(Pavlovは古典的条件づけ、動機づけ面接はMiller)。

2-9 運動学習の段階とフィードバック

理学療法の動作練習も学習理論の枠組みで問われる。段階はFitts&Posnerの3期。

段階特徴指導のしかた
認知段階課題の理解が中心。誤りが大きくばらつく言語教示、手本の提示(デモンストレーション)
連合段階誤りが減り、動作が洗練されるフィードバックで細部を修正する
自動化段階注意を向けなくても遂行でき、二重課題にも耐える環境を変える、他の課題と併行させる
フィードバック内容
内在的自分の感覚器から得られる情報(視覚・体性感覚)
結果の知識(KR)結果が目標に対してどうだったか(何秒、何cm届いたか)
パフォーマンスの知識(KP)動作の質・フォームそのものについての情報
  • フィードバックは初期には頻回に、習熟につれ頻度を下げる。毎回与え続けると依存が生じ、保持成績はかえって悪くなる
  • パフォーマンス(練習中の一時的な出来)と学習(永続的変化)は別物。学習の成否は日を改めた保持テストや、条件を変えた転移テストで判定する
  • 転移:先行学習が後の学習を助ける=正の転移/妨げる=負の転移。片側の練習が反対側に及ぶ両側性転移もある
  • メンタルプラクティス(イメージ練習)は実際には動かさず動作を頭の中で反復する方法。実技練習の補助として有効で、「試行錯誤を繰り返す」こととは別物
  • エラーレス学習(誤りなし学習)はじめから正しい反応しか起こらないように手がかりを与え、誤り経験をさせない方法。記憶障害・認知症など「誤った反応まで覚えてしまう」対象に使う。試行錯誤で失敗を減らしていくのは逆(誤り学習・試行錯誤学習)
  • 二重課題(デュアルタスク)=歩行と計算課題を同時に行うなど。自動化段階の確認や転倒予防に使うもので、エラーレス学習ではない
与える時期でのフィードバックの分類内容
同時(並行)フィードバック動作を行っている最中に与える。鏡を見ながら、荷重量を音で知らせながら、など
遅延(終末)フィードバック動作が終わってから与える。動画を撮って終了後に見せるのはこちら

組合せ問題で狙われる4つ。①正の転移=先にやった課題が後の課題を助ける(ソフトボールの経験が投球を助ける=○)②エラーレス学習=誤りをさせない(二重課題は×)③同時フィードバック=動作中(終了後の動画確認は遅延で×)④パフォーマンスの知識(KP)=動作の質・フォームの情報。ただし「荷重量を数値で伝える」は結果の知識(KR)寄りで、フォームの良し悪しを伝えるのがKP。

運動学習の一般原則で誤りとされる言い方 →「動機づけが高いほどパフォーマンスが向上する」「覚醒レベルが高いほど向上する」(どちらも高すぎても低すぎても悪い逆U字=Yerkes-Dodsonの法則)/「向上は直線的に起こる」(プラトーを含む非直線)/「向上がみられなくなること=学習の停止」(プラトー期でも内部では学習が進んでいる)。正しいのは「2つの課題に類似性があるほど転移の影響は大きい」

2-10 練習法の分類 — 4つの対で覚える

分ける基準内容
全体練習 ⇔ 部分練習課題を分割するか一連の動作をそのまま行う/動作の一部分(要素)だけ取り出して反復する
集中練習 ⇔ 分散練習休憩の取り方休憩を挟まず続ける/休憩を多く挟む(疲労しやすい患者向き)
恒常練習 ⇔ 多様練習条件を一定にするか同一条件で反復する/条件を変え、般化・汎化を狙う
ブロック練習 ⇔ ランダム練習課題の順序同じ課題をまとめて行う/複数課題を順不同で行う
  • 文脈干渉効果:ランダム練習は練習中の成績は伸びにくいが、保持・転移は優れる。ブロック練習はその逆
  • 課題の性質で選ぶ。歩行やペダリングのような連続的課題は全体練習向き、移乗や起き上がりのような系列的課題は部分練習が適用しやすい
  • 部分練習で要素を習得したら、必ず全体動作へつなぎ直す(部分のままでは実用にならない)

車椅子とベッドの移乗練習で「離殿」だけを繰り返す=部分練習。休憩の話(分散練習)でも、条件の話(恒常・多様練習)でも、順序の話(ランダム練習)でもない。「一連動作の一部だけを反復=部分練習」と直結させる。