第7章|臨床心理学と心理療法・障害受容

臨床心理学 第7章

7-1 心理療法の分類——まずこの地図で解く

この章の出題は「この療法はどの系統か」「この技法は誰か」の2軸にほぼ集約される。個々の療法を覚える前に、次の4分類を先に押さえる。

系統ねらい属する療法・技法
洞察療法(力動的)無意識の葛藤を意識化し洞察を得る精神分析療法、分析心理学、現存在分析
訓練療法(行動・態度を訓練)学習理論や段階的な課題で行動を変容させる行動療法(系統的脱感作・シェイピング・トークンエコノミー・曝露反応妨害法・バイオフィードバック)、認知行動療法、森田療法、自律訓練法
表現療法(芸術療法)非言語的表現で情緒を解放する絵画療法、箱庭療法、音楽療法
支持的・非指示的療法受容と共感で心理的安定と自己成長を支える来談者中心療法、支持的精神療法

「訓練療法はどれか」の正答は森田療法(催眠療法・絵画療法・精神分析療法・来談者中心療法はいずれも訓練療法でない)。逆に「訓練療法でないのはどれか」を森田療法・シェイピング・認知行動療法・系統的脱感作法と並べて問われたら、正答は来談者中心療法。森田療法が訓練療法側に入るのが最大の引っかけ。

指示的か、非指示的か

指示的(治療者が指示・助言・課題を出す)非指示的(指示や助言を与えない)
行動療法、認知行動療法、バイオフィードバック療法、森田療法、SST来談者中心療法、精神分析療法、芸術療法

「治療者が指示や助言を与え、非適応的な行動をコントロールする療法はどれか」の正答はバイオフィードバック療法。芸術療法・森田療法・精神分析療法・来談者中心療法が並ぶ設問では、生体反応の自己制御という点で明確に区別できる。

7-2 精神分析療法と分析心理学

  • 創始者はFreud無意識のなかに抑圧された欲動(葛藤)が精神症状として現れると想定し、その葛藤を意識化・洞察させることで症状改善を目指す。
  • 技法=自由連想法(思い浮かぶことを自由に語らせる)、夢分析、転移の分析、抵抗の分析。
  • 扱うのは幼少期の体験と無意識。「今ここ」を扱う認知療法と正反対の立ち位置。
  • Jungは分析心理学を創始し、夢分析を重視した。

設問に「無意識」「葛藤」「洞察」のいずれかが出たら精神分析療法で確定。催眠療法・行動療法・芸術療法・自律訓練法はいずれも無意識の葛藤の洞察を目的としない。

精神分析は行動療法の技法ではない。行動療法は学習理論に基づく技法群(系統的脱感作法・曝露反応妨害法・トークンエコノミー法・バイオフィードバック法など)で、力動的精神療法である精神分析は別系統。「行動療法の技法でないのはどれか」の正答になる。

7-3 来談者中心療法・支持的精神療法

  • Rogersが提唱した非指示的カウンセリング。クライエント中心療法ともいう。
  • 3条件=自己一致(純粋性)・無条件の肯定的関心(受容)・共感的理解
  • 行動を訓練・修正するものではないので訓練療法ではない。指示や助言も与えない。無意識の葛藤分析も中心ではない。
  • 支持的精神療法=受容・励まし・保証によって不安を軽減する。無意識の葛藤は掘り下げず、模擬場面のリハーサルなど行動技法も用いない。

7-4 行動療法の技法

技法内容キーワード
系統的脱感作法弛緩を保ちながら弱い刺激から段階的に慣らす(逆制止)不安階層表/Wolpe
曝露反応妨害法不安刺激に曝露し、強迫行為を行わせない強迫症
シェイピング目標行動に近い反応を段階的に強化して形成する行動形成
トークンエコノミー法望ましい行動に代用貨幣(トークン)を与えて強化オペラント条件づけ/Skinner
バイオフィードバック法心拍・筋緊張・皮膚温など通常意識できない生体反応を計測値として本人に示し、自己制御を学習させる生体情報を本人に返す
モデリング法他者の行動を観察・模倣して新しい行動を学習する観察学習
SST(社会生活技能訓練)模擬場面のロールプレイで対人技能を訓練するLiberman

道具から一発で決まるものを覚える。不安階層表=系統的脱感作法/代用貨幣=トークンエコノミー法/生体反応の可視化=バイオフィードバック法。家族療法・行動活性化技法・内観療法・森田療法は不安階層表を作らない。

7-5 認知療法・認知行動療法

  • A. Beckがうつ病の認知モデルを提唱し認知療法を発展させた。のちに行動療法と統合され認知行動療法(CBT)となる。論理情動療法はEllis。
  • 対象は「今ここ」の自動思考・スキーマに含まれる認知の歪み
  • 治療の流れ=自動思考の同定 → 根拠と反証の現実検討 → 現実的でバランスのとれた考えへの修正
  • 適用はうつ病・不安障害・強迫症・適応障害など。

認知療法の誤答肢は毎回同じ4つ。
×「記憶や注意などの認知機能を改善する」→ 改善するのは考え方(認知)の偏りであって認知機能訓練ではない。
×「幼少期のこころの問題を主な対象とする」→ それは精神分析。認知療法は「今ここ」。
×「自動思考は無意識であるため同定しない」→ 自動思考を意識化して同定するのが治療の出発点。
×「悲観的な思考を楽観的な思考に置き換える」→ 楽観に置き換えるのではなく、根拠を検証して現実的な考えへ修正する。

CBTの主な技法

技法内容・道具
認知再構成法思考記録表(コラム表)に状況・気分・自動思考・適応的思考を書き出し、現実に沿った考え方へ修正する
行動活性化技法活動量を増やして気分を改善する。うつ病に用いる
問題解決技法問題の明確化→解決案の列挙→実行→評価の手順で対処する
リハーサル(行動実験・役割演技)実場面で試す前に模擬場面で練習し、対処行動を習得する
ホームワーク(宿題)面接で学んだ思考記録・リラクセーション・行動実験を日常生活で練習する

コラム表・ホームワーク・模擬場面のリハーサルはいずれも認知行動療法。内観療法・森田療法・箱庭療法・支持的精神療法・現存在分析・精神分析療法はどれも用いないので、この3語が出たら即CBTを選ぶ。

7-6 うつ病の認知の歪み(自動思考)

名称内容
極端な一般化(過度の一般化)少数の事実から全てが同じ結果になると結論づける1〜2回の失敗で「自分はいつも失敗する」
全か無か思考(二分法的思考)全てに白黒をつけて割り切ろうとする完璧でなければ無価値
選択的注目(心のフィルター)・結論の飛躍着目していることだけから短絡的に結論づける悪い面だけを拾う
すべき思考「こうするべきだ」と行動を制限して自分を責める義務感で自分を縛る
感情的決めつけ(情緒的理由づけ)そのときの感情に基づいて現実を判断する「不安だから危険だ」
レッテル貼り/自己関連づけ一事で人物を断定する/無関係な出来事を自分のせいにする「私はダメ人間だ」

「いつも」「絶対」「みんな」といった語が例文に出たら極端な一般化。名称と内容のマッチングでしか問われないので、上表は対応関係ごと覚える。

7-7 リラクセーション法と日本由来の療法

療法・技法要点提唱者・分類
自律訓練法「手足が重い・温かい」などの公式を心の中で反復し、自己暗示によって催眠様のリラックス状態を作るSchultz/訓練療法
漸進的筋弛緩法筋を意図的に緊張させてから弛緩させる。暗示ではなく筋活動を用いるJacobson
マインドフルネス「今ここ」に評価を加えず注意を向ける瞑想ベースの技法
催眠療法被暗示状態を利用して症状の軽減を図る(他者による暗示)訓練療法でない
森田療法神経症(とらわれ)に対し不安を「あるがまま」に受け入れさせ、絶対臥褥期→作業期と段階的に行動課題を課す森田正馬/訓練療法
内観療法「してもらったこと・して返したこと・迷惑をかけたこと」の3項目を内省する日本由来
現存在分析実存哲学に基づき人間存在の理解を重視。宿題技法は用いない洞察系
箱庭療法砂箱に小物を配置して無意識を表現させる投影法表現療法

自己暗示で催眠状態を作る」=自律訓練法。コラム法(認知療法)・自由連想法(精神分析)・漸進的筋弛緩法(筋活動)・マインドフルネス(注意)と並べられるので、暗示か/筋か/注意かで切り分ける。

7-8 人名と業績の一覧

人物業績人物業績
Beck認知療法Bowlby愛着理論(アタッチメント理論)
Ellis論理情動療法Freud精神分析・自由連想
Jung分析心理学・夢分析Liberman社会生活技能訓練(SST)
Rogers来談者中心療法Wolpe系統的脱感作
Schultz自律訓練法Jacobson漸進的筋弛緩法
Skinnerオペラント条件づけ(行動療法)森田正馬森田療法
Eysenck性格の特性論・MPISullivan対人関係論
Selye汎適応症候群Lazarus認知的評価・コーピング
Kübler-Ross死の受容の5段階Fink危機モデル

組合せ問題は選択肢どうしを入れ替えた引っかけで作られる。頻出の入れ替えペアは Beck↔Bowlby(認知療法と愛着理論)、Liberman↔Wolpe(SSTと系統的脱感作)、Rogers↔Schultz(来談者中心療法と自律訓練法)、Skinner↔Beck(行動療法と認知療法)。「Beck=集団療法」「Rogers=自律訓練法」「Skinner=認知療法」はいずれも誤り。

7-9 ストレス・適応障害・復職支援

  • Lazarusの認知的評価:同じ出来事でも、それをどう評価するかでストレス反応が変わる。
  • コーピング(対処):問題そのものに働きかける問題焦点型と、感情を調整する情動焦点型
  • Selyeの汎適応症候群:警告反応期→抵抗期→疲憊期。

適応障害

  • 明確なストレス因に反応して症状が出る。抑うつ気分・不安を伴うことが多い。
  • 仕事・学業・対人関係など日常生活に支障を生じる。
  • 治療の中心はストレス因の調整・環境調整+認知行動療法などの心理社会的支援。再発予防のため適応的なストレス・コーピング技能を養う。
  • ストレス因が持続し症状が固定化すると、うつ病など他の障害へ移行することがある。

「適応障害は薬物療法が治療の中心になる」は誤り。中心は環境調整と心理療法であり、薬物は補助的・対症的にとどまる。

うつ病の復職支援(リワーク)

  • 段階的に活動量を増やす。
  • 認知行動療法で認知の歪みを修正する(再発予防に有効)。
  • コミュニケーション能力の改善を図る——対人ストレスへの対処力を高めることが職場適応の要。
  • 職場と連絡調整し、必要なら配置転換・業務調整も含めて柔軟に対応する。
  • 働き方や役割の見直し(キャリア再構成)も検討対象に含める。

服薬自己管理の練習」はそれ自体は誤りではないが、リワークで最も適切にはならない。復職支援の中心目標は職場適応と対人技能=働く場面で再発しない力をつけることで、服薬管理は治療継続の一般的な生活技能にとどまる。「最も適切なのはどれか」型は、その場面に固有の目標を選ぶ——どの疾患・どの時期にも当てはまる一般論の肢は落とす。

×「認知の歪みは修正しない」×「キャリア再構成の検討は行わない」×「配置換えをしないことを前提に職場と連絡調整する」はすべて誤り。「〜しない」「〜を前提とする」と可能性を先に閉じる選択肢は誤りになりやすいのがこの分野の定石。

7-10 障害受容の過程

中途障害を負った人が障害を受け入れるまでの心理過程は、上田敏らにより5段階で説明される。順序そのものが出題されるので、並びで暗記する。

段階心理状態関わり方
1ショック期受傷直後で実感が乏しい。無感動・現実感の喪失。かえって危機感が薄い無理に働きかけず、安全を確保して見守る
2否認期障害の存在を認めず「治る」と否定する。心を守る防衛機制でもある否定を頭ごなしに正さない
3混乱期怒り・抑うつ・悲嘆で感情が激しく揺れる。怒りは家族や医療者にも向く。訓練拒否が起こりやすい傾聴と共感。抑うつには積極的指導をしない
4解決への努力期価値観の転換が始まり、前向きに対処を模索する具体的な目標設定を支援する
5受容期障害を含めた新たな価値観を確立する社会参加・役割の再獲得を支える

ショック→否認→混乱→努力→受容。出題は「2番目は?」「3番目は?」の形が定番で、2番目=否認期/3番目=混乱期。上田敏は受容を「価値の転換」(できないことより、できることに価値を見いだす)と定義した。

混同注意の類似モデル。Finkの危機モデル=衝撃→防御的退行→承認→適応(4段階)。Kübler-Rossの死の受容=否認→怒り→取引→抑うつ→受容(5段階だが「取引」が入る)。

障害受容をめぐって正しいとされること

  • 障害受容は本人の心理だけでなく、家族・職場・制度など社会環境によって影響される
  • 障害者同士(ピア)の交流により促進される
  • 段階は一方向に順番どおり進むとは限らず、行きつ戻りつする。「必ず受容に至る」「受容を急がせる」は誤り。

抑うつ状態の患者には積極的な指導を行う」は誤り。抑うつ期の積極的指導はかえって負担になる。共感的に寄り添い、傾聴しながらエネルギーの回復を待つのが正しい。共通原則は「段階に合わせ、本人のペースを尊重する」。

7-11 面接・患者対応の基本

問診の質問形式

形式定義具体例
開いた質問(オープン)はい・いいえや選択では答えられず、自由に語れる「今日の具合はいかがですか」「膝の痛みについて詳しく教えてください」
閉じた質問(クローズド)はい・いいえや一語で答える「痛みはありますか」「お名前を教えてください」
多項目の質問(マルチプル)複数の選択肢から選ばせる「痛むのは膝内側ですか、外側ですか、それとも前ですか」
中立的質問(ニュートラル)患者を誘導しない問い方
焦点型質問(フォーカスト)特定の話題に絞り込む

組合せ問題は形式と例の対応がずれた選択肢を見抜く形で出る。「いかがですか」「教えてください」=開いた質問を軸に判定すればよい。面接は開いた質問で広く聞き、徐々に閉じた質問で焦点化するのが基本。

インフォームドコンセント

  • 専門用語を避け平易な言葉で説明する。
  • 利益だけでなくリスク・デメリット・代替手段も開示する。
  • 口頭説明に加え説明用の文書を用意するのは適切な配慮(後から確認できる)。
  • 患者の理解力・判断能力への配慮が必要——判断能力が損なわれた状態の決定は真の自己決定ではない。
  • 患者はいつでも同意を撤回できる。撤回権の保障がICの根幹。

×「専門用語で説明する」×「治療のデメリットは伝えない」×「心理状態に関わらず患者の決定が優先される」×「正当な理由があっても同意を撤回できない」——4つとも定番の誤り選択肢。

リエゾン精神医学とベッドサイドマナー

リエゾン精神医学=身体科と連携し、身体疾患をもつ患者の心理的問題に介入する分野。基本は傾聴・共感・具体的説明・自尊心の尊重。

  • 適切=笑顔で接する/座って同じ目線で対応する/心配なことを聞く/患者が誇りに思うことを称賛する。

抽象的な情報を与える」は不適切。抽象的・曖昧な説明はかえって不安を増大させるので、具体的でわかりやすい情報を提供する。

認知症患者への運動療法

  • 適切=肯定語で指示する(否定形を避ける)/患者のペースに合わせる/同じ動作を繰り返す(手続き記憶を活かす)/日常慣れ親しんだ動作を利用する。

運動を拒否しても説得して行う」は不適切。拒否を押し切る説得・強制は不安・混乱・BPSDの悪化を招く。いったん中断するか、別の誘導に切り替えるのが正しい。

服薬について相談されたとき

  • 用量変更・中止の判断は医師の領域。理学療法士の役割は傾聴・受容と主治医への橋渡し(連携)
  • 適切な声かけ=「どのような副作用が心配か、教えてください」/「主治医に直接相談するのが難しければ、私から主治医にお伝えすることもできます」。
  • ベンゾジアゼピン系は急な自己中断で離脱症状(不安・不眠・けいれん等)を招く危険がある。

×「眠れない日だけ飲むようにしてみましょう」(用法変更の指示は職域外)×「薬には副作用がつきものです。我慢してください」(訴えを退けている)×「依存性のある薬なので、直ちに中止して様子をみましょう」(自己判断の急な中止は危険)。