第7章|末梢神経麻痺・切断・スポーツ外傷

整形外科学 第7章

7-1 上肢末梢神経麻痺の三大変形

橈骨・正中・尺骨の3神経それぞれに固有の変形・麻痺筋・感覚領域がある。この対応表がこの章の背骨。

障害神経変形麻痺する主な筋・動作感覚障害代表的な原因
橈骨神経下垂手(drop hand)手関節背屈・MP伸展・母指外転が不能手背橈側(母指と示指の間=タバコ窩)上腕骨骨幹部骨折、上腕外側の長時間圧迫
正中神経猿手母指球筋(短母指外転筋・短母指屈筋)萎縮、母指対立が不能掌側の母指〜環指橈側手根管症候群、上腕骨顆上骨折
尺骨神経鷲手骨間筋・虫様筋(環小指)・小指球筋・母指内転筋の麻痺環指尺側〜小指肘部管症候群、上腕骨内側上顆部の損傷

変形の形をことばで持っておく

  • 鷲手=環指・小指のMP関節が過伸展し、PIP・DIP関節が屈曲した鉤爪状。母指内転筋も麻痺するのでFroment徴候が出る。
  • 猿手=母指球が萎縮して手掌が平坦になり、母指が手掌と同一平面に落ち込む。対立ができずつまみが崩れる。
  • 下垂手=手関節が背屈できず手先が垂れる。指のMP伸展・母指外転も不能。

下垂手=橈骨/猿手=正中/鷲手=尺骨。神経名・変形・所見・装具の4点セットで固定する。

7-2 骨折・圧迫部位と損傷される神経

部位損傷神経所見
上腕骨外科頸腋窩神経三角筋麻痺・肩外側の感覚障害
上腕骨骨幹部(中下1/3後面の橈骨神経溝)橈骨神経下垂手
上腕骨顆上(小児に多い)正中神経猿手、Volkmann拘縮
肘内側(上腕骨内側上顆・肘部管)尺骨神経鷲手

上腕骨骨折の年齢と合併症

  • 顆上骨折=小児に多い(転倒時の伸展位受傷)。近位部骨折=骨粗鬆症を背景に高齢者に多い。
  • 近位部骨折の固定は下垂位・体側固定(三角巾など)が基本。外転位固定は標準ではない。
  • 骨頭壊死が問題になるのは血行に乏しい近位部(解剖頸)

「骨幹部骨折では骨壊死が起こりやすい」は誤り→骨幹部で問題になるのは橈骨神経麻痺。骨壊死は近位部。/「顆上骨折は高齢者に多い」「近位部骨折は小児に多い」も逆。

Saturday night palsy=飲酒後にソファや車椅子のアームレストで上腕外側を長時間圧迫して起こる橈骨神経麻痺。高位型では長橈側手根伸筋より遠位(総指伸筋・固有示指伸筋・長母指伸筋)が麻痺して下垂手となる。

7-3 絞扼性神経障害=トンネルと神経の対応

絞扼部位神経主な症候
手根管正中神経猿手・母指球萎縮、母指〜環指橈側のしびれ、夜間痛
Guyon管尺骨神経小指球・骨間筋の麻痺、小指側のしびれ
肘部管(肘頭と内側上顆の間)尺骨神経鷲手、小指球・骨間筋萎縮、Froment徴候
Frohseアーケード(回外筋近位縁)後骨間神経(橈骨神経深枝)下垂指
足根管(内果の後方)脛骨神経足底のしびれ・異常感覚
腓骨頭の後方総腓骨神経下垂足・鶏歩、足背の感覚障害
梨状筋(梨状筋下孔)坐骨神経下腿後面・外側〜足部の症状

組合せ問題の定番の誤り。「手根管-下垂手」(下垂手は橈骨神経)/「足根管-足背の異常感覚」(足背は浅腓骨神経、足根管は足底)/「梨状筋-下腿内側の異常感覚」(下腿内側は伏在神経)/「肘部管-涙滴徴候」(涙滴徴候は前骨間神経)はすべて誤り。

手根管の中を通るもの

  • 通る=正中神経+9本の腱(浅指屈筋腱4・深指屈筋腱4・長母指屈筋腱1)。橈側手根屈筋腱も手根管を通過するものとして扱う。
  • 通らない=尺側手根屈筋腱(豆状骨に停止し手根管の尺側外を通る)、尺骨神経・尺骨動脈(これらはGuyon管側)。

体表から触れる位置

神経触知部位
腕神経叢胸鎖乳突筋の後縁(斜角筋隙)。胸骨頭と鎖骨頭の間ではない
正中神経上腕では上腕動脈に沿い、烏口腕筋の内側を下行
尺骨神経肘頭と上腕骨内側上顆の間(肘部管/ファニーボーン)
脛骨神経内果とアキレス腱の間(足根管)
総腓骨神経腓骨頭の後方〜外側
大腿神経Scarpa三角(大腿三角)。外側から神経・動脈・静脈(NAV)の順

タバコ窩(解剖学的嗅ぎタバコ入れ)の底にあるのは橈骨動脈と舟状骨で、神経の絞扼部ではない。後骨間神経の絞扼部はFrohseアーケード。

前骨間神経麻痺と後骨間神経麻痺

  • 前骨間神経=正中神経の運動枝。長母指屈筋と示指の深指屈筋が麻痺し、母指IP・示指DIPが屈曲できずperfect Oが作れない(涙のしずく/tear drop徴候)。母指と示指のつまみが困難。
  • 後骨間神経=橈骨神経の深枝。指伸筋が麻痺して下垂指(中・環・小指の伸展困難)。長橈側手根伸筋は分岐前で温存されるため手関節背屈は保たれる。
  • 共通点=どちらも純粋な運動神経で感覚は正常。「つまみ困難」は前骨間だけ、「指の伸展困難」は後骨間だけで、共通項ではない。

7-4 誘発テスト・徴候と電気生理検査

テスト・徴候陽性となる病態内容
Tinel徴候末梢神経の絞扼・損傷部(手根管=正中、肘部管=尺骨、足根管=脛骨)神経の走行部を叩打すると支配領域に放散するしびれ
Phalenテスト手根管症候群(正中神経)手関節掌屈位の保持でしびれを誘発
Froment徴候尺骨神経麻痺紙をつまむと母指IPが屈曲。母指内転筋麻痺を長母指屈筋(正中神経)で代償
涙のしずく(tear drop)徴候前骨間神経麻痺母指と示指の輪がしずく状になる
drop armテスト腱板断裂(棘上筋)他動外転位から下ろせず腕が落下
Thomsenテスト上腕骨外側上顆炎手関節背屈への抵抗で外側上顆部に痛み
Finkelsteinテストde Quervain病母指を握り込み尺屈させて誘発
Adsonテスト胸郭出口症候群頸部回旋・吸気で橈骨動脈拍動が減弱

「肘部管症候群でTinel徴候陰性」は誤り→肘部管部で叩打すると放散し陽性。/肘部管症候群で「Phalenテスト陽性」「示指のしびれ」「母指球筋の萎縮」「正中神経伝導速度の低下」を挙げるのはすべて手根管症候群(正中神経)の所見。/手根管症候群で「骨間筋萎縮」「小指のしびれ」「Guyon管のTinel陽性」「前腕回内時の疼痛(回内筋症候群)」を挙げるのも誤り。

末梢神経伝導検査が診断に有用なのは手根管症候群・肘部管症候群などの絞扼性ニューロパチーや多発神経炎・Guillain-Barré症候群。手根管症候群では手関節部で正中神経の伝導遅延・振幅低下を検出する。中枢疾患(Parkinson病・多系統萎縮症)、筋疾患(筋ジストロフィー→CK・筋電図・筋生検・遺伝子検査)、血管疾患(閉塞性動脈硬化症→ABI・血管造影)には用いない。

7-5 手の感覚支配領域

  • 掌側=母指〜環指橈側が正中神経、環指尺側+小指が尺骨神経。境界は環指の正中線を通るため、橈側と尺側で支配が分かれるのは環指だけ。母指・示指・中指は全体が正中神経、小指は全体が尺骨神経。
  • 手背=橈側(母指と示指の間=タバコ窩周辺)が橈骨神経浅枝、尺側が尺骨神経。背側は橈骨神経が加わるため掌側と境界が異なる。
  • 腋窩神経は上腕近位外側(肩の外側)のみ、筋皮神経は前腕外側(外側前腕皮神経)のみを支配し、どちらも手の感覚は支配しない

掌側橈側=正中/掌側尺側=尺骨/手背橈側=橈骨。上腕外側の圧迫で手背の母指・示指間がしびれれば橈骨神経麻痺。

7-6 末梢神経麻痺に対する上肢装具

麻痺変形装具目的
橈骨神経下垂手コックアップ・スプリント、Thomas型懸垂装具、Oppenheimer型装具手関節を背屈位に保持
橈骨神経(高位型)下垂手+下垂指動的コックアップ(ばね・アウトリガー付き)背屈保持に加えMP関節と母指の伸展を動的に補助
正中神経猿手短対立装具(オポーネンス・スプリント)、Rancho型長対立装具母指を対立位に保持しつまみを補助
尺骨神経鷲手ナックルベンダー、虫様筋カフMP関節の過伸展を防ぎ屈曲方向へ補助

まぎらわしい装具の適応。手関節駆動式把持装具=頸髄損傷(C6)でテノデーシスを利用した把持の再建。BFO(balanced forearm orthosis)=上肢筋力低下(頸髄損傷・筋疾患)で前腕を支持し水平面の運動を補助。パンケーキ型装具・母指Z変形用スプリント=関節リウマチ。IP関節伸展補助装具=鷲手で問題となるMP過伸展には対応できない。

図で装具を選ぶ問題は、まず手の形から神経を決める(母指球が平坦=正中/MP過伸展+IP屈曲=尺骨/手関節が垂れる=橈骨)。次に矯正方向で装具を選ぶ(過伸展なら屈曲補助、垂れているなら伸展・背屈補助)。

7-7 切断肢と四肢長の計測

切断部位断端長の計測起点
上腕切断肩峰
前腕切断上腕骨外側上顆
大腿切断・膝関節離断坐骨結節(膝離断は会陰部でも可)
下腿切断膝関節裂隙(膝蓋腱中央)

「上腕=上腕骨大結節」「前腕=肘頭」「膝関節離断=大転子」「下腿=膝蓋骨上縁」はいずれも誤り。上肢は肩峰・外側上顆、下肢は坐骨結節・膝関節裂隙。

大腿切断の計測

  • 大腿長=坐骨結節から断端末まで。軟部組織を押し上げずに測る(押し上げるのは骨長の考え方)。
  • 機能的断端長=会陰部から断端末まで。義足操作の力源となるてこの実効長を示す。
  • 断端最小前後径は坐骨結節レベル(ソケット入口部)で測る。大転子レベルではない。坐骨収納型ソケットの適合の鍵。
  • 測定肢位は立位・座位が基本で、背臥位限定ではない。

断端周径

  • 基準点(大腿=坐骨結節/下腿=膝関節裂隙・膝蓋骨下縁)から一定間隔で複数点を測る。1か所だけ・最大膨隆部だけでは断端全体の変化を追えない。
  • 断端は急速に変化するため頻回に測る(義足作製前は毎日〜週単位)。月2回では不足。
  • 周径が安定=断端の成熟。ソケット作製開始の目安になる。

四肢長の骨指標

計測項目起点→終点
上肢長肩峰外側端→橈骨茎状突起
上腕長肩峰外側端→上腕骨外側上顆の外側突出部
前腕長上腕骨外側上顆→橈骨茎状突起
棘果長上前腸骨棘の最突出部→内果
転子果長大転子の最上端部→外果

語尾のすり替えに注意。肩峰は「最前端部」ではなく外側端、上前腸骨棘は「最上端部」ではなく最突出部。腓骨頭は四肢長の標準的な指標ではない。

7-8 幻肢・幻肢痛と小児の切断

  • 幻肢=失った四肢がまだ存在するように感じる現象。手指・足趾など末梢部ほど明瞭に感じる。
  • 成人に多く、上肢切断のほうが強い。時間とともに短縮(テレスコーピング)し、消失することもある。
  • 術直後義肢装着法(IPOP)・リジッドドレッシングは幻肢痛の予防・軽減に有効。鏡療法も用いる。幻肢(感覚)と幻肢痛(痛み)は区別する。

「幼児の切断では強く現れる」「いったん出現した幻肢は消失しない」「上肢より下肢で強い」はいずれも誤り。すべて逆。

小児切断でよくある誤りの選択肢正しくは
後天性切断は女児に多い活動性の高い男児に多い
義手の装着開始は4歳ころ座位が安定する生後6か月〜1歳前後から導入
下腿切断では外反膝変形を生じやすい問題となるのは断端の過成長(骨棘形成・骨が皮膚を突き破る)
幻肢は成人より多い身体図式が柔軟で成人より少ない
骨肉腫による切断は増加傾向化学療法・患肢温存術の進歩で減少傾向

7-9 義足の足部・ソケットと歩行のエネルギー

足部特徴・適応
SACH足無軸で踵部にクッション。安定重視、低活動者向け
単軸足底背屈の1軸のみ。足底接地を早く得られる
SAFE足SACH足の改良型。内外側の動きに対応
多軸足(Greissinger足)内外反・回旋にも対応し不整地に強い
エネルギー蓄積型(フレックス足)板バネがたわんで弾性エネルギーを蓄え、蹴り出しで放出し推進力を得る。高活動・スポーツ用
下腿義足のソケット・懸垂特徴と適応
PTBソケット+カフベルト膝蓋腱支持の標準型。簡便だがピストン運動が生じやすい
くさび付き(顆上支持)旧来型の懸垂補助。高い懸垂性・衝撃吸収は望めない
大腿コルセット付き膝の側方支持は強いが重く可動域を制限。膝の不安定性が強い例に限る
シリコンライナー付き断端全面に密着し懸垂性・衝撃吸収に優れる。高活動・スポーツ復帰に最適

断端が成熟し皮膚が良好で、膝に軽度の不安定性があってもスポーツ復帰が目標ならシリコンライナー付きソケットを選ぶ。大腿コルセットは重く運動に不向き。

歩行のエネルギー消費は切断が近位ほど大きい(下腿切断<大腿切断)。代謝指標は分母で区別する。エネルギー代謝率(RMR)=労作代謝量÷基礎代謝量(労作代謝量=作業時代謝量−安静時代謝量)。METs=作業時代謝量÷安静時代謝量。RMRは基礎代謝が基準、METsは安静時が基準。

7-10 スポーツ外傷・使いすぎ症候群

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)

  • 手関節伸筋腱の付着部の炎症短橈側手根伸筋を中心とする手関節・手指伸筋群が起始する外側上顆の腱付着部症。
  • 好発は中年(40〜50歳代)。男性優位ではなく女性にもよくみられ、高齢者に特に多いわけでもない。動作時痛が中心だが自発痛を生じることもある。
  • 誘発=Thomsenテスト・中指伸展テスト。
  • 指導=物を持ち上げるときは前腕回外位で。回内位+手関節背屈は伸筋に負荷がかかり疼痛を誘発する。
  • 内側上顆炎(ゴルフ肘)は屈筋群の付着部障害で、外側と対にして覚える。

投球動作の相と障害の起こる時期

動作肘・肩にかかる力
①ワインドアップ踏み出し脚を上げるほぼ負荷なし
②ストライド(前期コッキング)踏み出し脚を接地するまで肩が外転・外旋を始める
③後期コッキング最大外旋位(肘は屈曲90°前後で後方に残る)肘に最大の外反ストレス=内側側副靱帯・回内屈筋群が最も引き伸ばされる。肩は前方不安定性・インピンジメント
④アクセラレーション(加速)最大外旋位から急速に内旋しリリースへ外反ストレスが続き、外側は上腕骨小頭に圧迫力
⑤リリース〜⑥フォロースルーボールを放し減速する肩後方(棘下筋・小円筋)に牽引力。肘内側の張力は落ちる

肘外反ストレステストで内側に疼痛=内側型投球障害肘。痛みが出る動作を図から選ぶ問題では、肩が最大外旋している(腕が後ろへ倒れている)コッキング後期〜加速期の図を選ぶ。振りかぶり・踏み出し・フォロースルーの図は外反ストレスが小さく該当しない。内側=牽引(靱帯・屈筋群)/外側=圧迫(小頭の離断性骨軟骨炎)/後方=衝突(肘頭)で部位と力の向きを対にする。

肘離断性骨軟骨炎(野球肘)

  • 上腕骨小頭に好発。10〜20代の投球を伴うスポーツ選手に多く、肘外側への繰り返す圧迫力が原因。
  • 分離前の初期病変では投球中止と安静による保存療法が第一選択。進行例は手術。
  • 超音波は被曝がなく簡便で、検診・初期診断に有用。

「学童期の野球選手の有病率は20〜30%」は誤り→有病率は数%程度。誤り選択肢は数値を誇張してくる。

肩腱板断裂とその他

  • 腱板断裂=drop armテスト陽性、painful arc(60〜120°の有痛弧)。棘上筋の評価はempty canテスト。
  • そのほか野球肩・シンスプリント・疲労骨折なども使いすぎによる障害として押さえる。