第1章|恒常性・細胞・体液

生理学 第1章

1-1 恒常性(ホメオスタシス)とフィードバック

  • 体温・pH・浸透圧・血糖・血圧などの内部環境を一定に保つしくみ=恒常性(ホメオスタシス)。担い手は自律神経系(速い)内分泌系(遅いが持続)、効果器は肺・腎・血管・汗腺
  • 調節の大半は負のフィードバック=ずれを打ち消す向きに働く(体温上昇→発汗・皮膚血管拡張、血糖上昇→インスリン分泌)
  • 正のフィードバックは変化を増幅する例外的機構=分娩時のオキシトシン、血液凝固、活動電位の脱分極

「体温調節は正のフィードバックによる」は誤り → 恒常性の維持は原則負のフィードバック。正のフィードバックは分娩・凝固・活動電位など少数の例外だけ。

1-2 細胞の構造と細胞小器官

細胞小器官構成・特徴はたらき
二重の核膜・核小体をもつDNAを収める。核小体はrRNAを合成
ミトコンドリア二重膜・内膜はクリステ状。独自のDNAをもつ酸化的リン酸化によるATP産生(細胞の発電所)。TCA回路・電子伝達系
リボソームrRNA+蛋白質。遊離型と粗面小胞体付着型蛋白質合成(翻訳)の場
粗面小胞体リボソームが付着分泌蛋白・膜蛋白の合成
滑面小胞体リボソームなし脂質・ステロイド合成、解毒、Ca²⁺貯蔵(筋では筋小胞体)
ゴルジ装置扁平な膜嚢の積み重ね蛋白質の糖鎖修飾・選別・分泌顆粒の形成
リソソーム加水分解酵素を含む細胞内消化・自己貪食
ペルオキシソームカタラーゼを含む過酸化水素の分解、脂肪酸のβ酸化
中心体中心小体2個細胞分裂時に紡錘体を形成

「リボソームは蛋白質とDNAから構成される」は誤り → 正しくは蛋白質とrRNADNAをもつのは核とミトコンドリアだけで、リボソームにDNAは含まれない。

1-3 遺伝情報:DNAとRNA

DNARNA
デオキシリボースリボース
塩基A・G・C・T(チミン)A・G・C・U(ウラシル)
二本鎖(二重らせん)一本鎖
所在核・ミトコンドリア核・細胞質
  • 相補的塩基対=A–T(RNAではA–U)/G–C。プリン塩基=A・G(二環)、ピリミジン塩基=C・T・U(一環)
  • 流れは転写(核内でDNA→mRNA)→翻訳(細胞質のリボソームでmRNA→蛋白質)。mRNAの3塩基=1コドンが1アミノ酸を指定し、tRNAがアミノ酸を運ぶ

「DNAに含まれないのはどれか」の答えはウラシル。ウラシルはRNA特有で、DNAではチミンがその役を担う。アデニン・グアニン・シトシン・チミンはすべてDNAに含まれる。

1-4 染色体・細胞分裂・遺伝形式

  • ヒトの体細胞の染色体は46本=常染色体22対+性染色体1対(女性XX・男性XY)。配偶子は23本
  • 細胞周期=間期(G₁→S→G₂)+M期。DNAの複製はS期に起こる
  • 体細胞分裂=46本の細胞が2個(遺伝情報は同一)。減数分裂=生殖細胞で染色体数が半減し4個の配偶子ができる
遺伝形式特徴代表疾患
常染色体顕性(優性)各世代に出現、男女差なし筋強直性ジストロフィー、Huntington病
常染色体潜性(劣性)世代を飛ぶ脊髄性筋萎縮症、Wilson病
X連鎖潜性男児に発症・母が保因者Duchenne型筋ジストロフィー、血友病
染色体異常本数・構造の異常Down症候群(21トリソミー)

1-5 細胞膜と物質輸送

  • 細胞膜はリン脂質二重層+膜蛋白質+コレステロール(流動モザイクモデル)。親水性の頭部が外向き、疎水性の尾部が内向き
輸送ATP向き
単純拡散不要高→低O₂・CO₂・脂溶性物質・水
促通(促進)拡散不要高→低(担体・チャネル)グルコース(GLUT)、イオンチャネル
能動輸送必要低→高(勾配に逆らう)Na⁺-K⁺ポンプ、Ca²⁺ポンプ、H⁺-K⁺ポンプ
二次性能動輸送間接的に必要Na⁺の勾配を利用Na⁺/グルコース共輸送、Na⁺/H⁺交換(近位尿細管)
浸透不要水が低張側→高張側細胞の膨潤・収縮

Na⁺-K⁺ポンプ:ATP 1分子でNa⁺を3個細胞外へ、K⁺を2個細胞内へ。これにより細胞内Na⁺は低く・細胞内K⁺は高く保たれ、静止膜電位と二次性能動輸送の土台になる。

「能動輸送はエネルギーを必要としない」は誤り → ATPが必要。エネルギー不要なのは拡散・浸透。

1-6 体液の区分・電解質・浸透圧

  • 成人の体水分は体重の約60%(小児は多く高齢者は約50%と少ない)。内訳は細胞内液2/3(体重の40%)・細胞外液1/3(20%)、細胞外液は間質液15%+血漿5%
  • 主な陽イオンは細胞内=K⁺/細胞外(血漿・間質)=Na⁺。細胞外の主な陰イオンはCl⁻とHCO₃⁻
  • 血漿浸透圧は約290mOsm/Lで主にNa⁺が決める。等張液=生理食塩水(0.9%NaCl)・5%ブドウ糖液
加齢による身体組成の変化(若年との体重比)方向
脂肪増加(増えるのは脂肪だけ)
骨塩/細胞内液/細胞外液/細胞性固形物(筋量)すべて減少

1-7 酸塩基平衡の基本と基準値

指標基準値意味
pH(動脈血)7.35〜7.45(約7.40)7.35未満=アシデミア、7.45超=アルカレミア
PaCO₂35〜45mmHg呼吸性の指標(上昇=酸性へ)
HCO₃⁻22〜26mEq/L代謝性の指標(低下=酸性へ)
PaO₂80〜100mmHg酸素化の指標(酸塩基とは別)
  • 調節の速さ=緩衝系(重炭酸・蛋白・ヘモグロビン/即時)→肺(CO₂排出/数分)→腎(HCO₃⁻再吸収・H⁺排泄/数時間〜数日)
  • 反応式 CO₂+H₂O ⇌ H₂CO₃ ⇌ H⁺+HCO₃⁻。CO₂を吐けば左に動いてH⁺が減りpHは上がる

「正常の血液pHは6.4/7.0である」は誤り → 動脈血は弱アルカリ性の約7.4。7.0や6.4は生存困難な重度アシドーシス。

1-8 酸塩基障害4型と原因

病型一次変化原因(頻出)代償
代謝性アシドーシスHCO₃⁻↓下痢(腸液・重炭酸の喪失)、腎不全・尿毒症、糖尿病性ケトアシドーシス、飢餓、乳酸アシドーシス、ショック過換気(Kussmaul呼吸)でPaCO₂↓、尿は酸性
代謝性アルカローシスHCO₃⁻↑嘔吐(胃酸=HClの喪失)、利尿薬、低K血症換気を抑えPaCO₂↑、尿はアルカリ性
呼吸性アシドーシスPaCO₂↑換気不全=COPD、重症の喘息CO₂ナルコーシス、呼吸抑制、神経筋疾患腎がHCO₃⁻を再吸収し↑、尿は酸性
呼吸性アルカローシスPaCO₂↓過換気(過換気症候群・高地)腎がHCO₃⁻を排泄し↓、尿はアルカリ性

①「嘔吐で代謝性アシドーシス」は誤り → 酸を吐くので代謝性アルカローシス。②「過換気で呼吸性アシドーシス」は誤り → CO₂を飛ばすので呼吸性アルカローシス。③「呼吸性アルカローシスでは尿は酸性」は誤り → 腎はHCO₃⁻を捨てるので尿はアルカリ性。④「代謝性アルカローシスでKussmaul呼吸」は誤り → Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシスの代償。

1-9 血液ガスの読み方と呼吸様式

手順は2段階。①pHで酸性側(<7.35)かアルカリ側(>7.45)かを決める → ②pHと同じ向きに動いている指標が一次変化。PaCO₂が主役なら呼吸性、HCO₃⁻が主役なら代謝性。もう一方のずれは代償。

データ例判定
pH 7.25/PaCO₂ 55/HCO₃⁻ 30呼吸性アシドーシス(酸性+CO₂高値、HCO₃⁻上昇は腎代償)
pH 7.32/PaCO₂ 33/HCO₃⁻ 17代謝性アシドーシス(酸性+HCO₃⁻低値、CO₂低下は呼吸性代償=Kussmaul呼吸)
pH 7.47/PaCO₂ 33/HCO₃⁻ 23呼吸性アルカローシス(アルカリ側+CO₂低値、HCO₃⁻は正常)
pH 7.45/PaCO₂ 45/HCO₃⁻ 35代謝性アルカローシス(アルカリ側+HCO₃⁻高値)
pH 7.40/PaCO₂ 25/HCO₃⁻ 15pHは正常=完全代償(呼吸性アシドーシスではない)
呼吸様式背景
Kussmaul呼吸深く大きい規則的な呼吸代謝性アシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシス等)。H⁺上昇が呼吸中枢を刺激し、CO₂を排出するために起こる代償
Cheyne-Stokes呼吸漸増漸減と無呼吸を周期的に繰り返す心不全、中枢神経障害
頻呼吸/徐呼吸速く浅い/遅い頻呼吸も換気増加だが「深く大きい」Kussmaulとは別。徐呼吸・無呼吸は換気低下でPaCO₂↑

1-10 腎による酸塩基調節と尿毒症

部位分泌されるもの再吸収されるもの
近位尿細管H⁺(Na⁺/H⁺交換体)、NH₃、有機酸Na⁺・HCO₃⁻・グルコース・アミノ酸・水(大部分)
遠位尿細管・集合管K⁺(アルドステロン依存)、H⁺Na⁺・水(ADH)、Ca²⁺(PTH)

「近位尿細管に分泌されるのはHCO₃⁻・Na⁺・Ca²⁺」は誤り → これらは再吸収される側。分泌されるのはH⁺。K⁺分泌は遠位・集合管が主。

尿毒症(末期腎不全)

  • 腎機能が高度に低下した終末期の病態(初期には出ない)
  • 酸が排泄できず代謝性アシドーシス、K⁺が排泄できず高K血症(致死的不整脈=運動療法時の最重要管理項目)
  • 血清クレアチニン・BUNは上昇(低下ではない)。ほかに高リン血症・低Ca血症・腎性貧血(エリスロポエチン低下)
  • 透析患者の死因は心血管疾患(心不全)が最多、次いで感染症。尿毒症そのものではない

1-11 エネルギー代謝・METsと筋疲労

1MET=安静時酸素摂取量3.5mL/kg/分消費エネルギー(kcal)=1.05×METs×時間(h)×体重(kg)

  • 酸素摂取量(mL/分)からMETsを出す手順=①(必要なら目標%をかける)②体重で割ってmL/kg/分にする ③3.5で割る
  • 例:体重50kgで最高酸素摂取量890mL/分 → 890÷50=17.8 → ÷3.5≒5METs
  • 例:最高酸素摂取量2,625mL/分の60%・体重90kg → 2,625×0.6=1,575 → ÷90=17.5 → ÷3.5=5METs
  • 例:3METsで1時間・体重60kg → 1.05×3×1×60=約190kcal
  • 安静座位=1MET、歩行=3〜4METs程度
運動による疲労時、筋内で物質
増える乳酸・水素イオン(H⁺)・無機リン酸 → 筋内pHが低下し収縮力が落ちる
減るATP・クレアチンリン酸・グリコーゲン(いずれも消費される側)