第2章|神経と筋の生理

生理学 第2章

2-1 静止膜電位

  • 静止時の細胞内は外に対して負(約 −70〜−90mV)。
  • 主因はK⁺の細胞外への漏出。
  • 濃度勾配を保つのがNa⁺-K⁺ポンプ(ATP消費・Na⁺3個を外へ/K⁺2個を内へ)。
  • 細胞内に多いのはK⁺、細胞外に多いのはNa⁺・Ca²⁺・Cl⁻。

「静止膜電位は正の値」は誤り → 負の値。

2-2 活動電位とイオンの動き

相主役イオン向き膜電位
静止K⁺漏出—−70〜−90mV
脱分極Na⁺外 → 内急上昇
再分極K⁺内 → 外低下
  • オーバーシュート=脱分極で膜電位が0を超えて正になる部分。
  • 全か無かの法則:閾値に達すれば刺激の強さによらず一定の大きさで発火する。
  • 不応期は発火直後に存在。絶対不応期=どんな強い刺激でも発火しない/相対不応期=強い刺激なら発火。
  • 活動電位の持続は神経・骨格筋で約1〜5msec(心筋は約200〜300msec)。

「K⁺は脱分極のときに細胞外から細胞内に移動する」は誤り → 向きも時期も逆。脱分極=Na⁺イン/再分極=K⁺アウト。

2-3 興奮の伝導と神経線維の分類

  • 無減衰伝導=活動電位は各部位で新たに生成されるので距離が延びても振幅が減らない。
  • 1本の線維を途中で電気刺激すると興奮は両方向へ伝わる(両向性)。一方向性なのはシナプス伝達のほう。
  • 線維同士は絶縁されており並走する別の線維には伝わらない。
  • 伝導速度は太い線維ほど速い。有髄線維は跳躍伝導でさらに速い。
  • 有髄線維の興奮はランビエ絞輪の膜だけで発生。髄鞘は絶縁層で興奮は伝わらない。
分類髄鞘おもな機能
Aα(Ia・Ib・α運動)有髄・最太筋紡錘一次終末、ゴルジ腱器官、骨格筋の運動
Aβ(II)有髄触圧覚、筋紡錘二次終末
Aγ有髄錘内筋を支配=筋紡錘の感度調節
Aδ(III)有髄・細速い痛み、温度覚
C(IV)無髄遅い痛み、自律神経節後線維
寒冷療法が痙縮を下げる機序=γ神経線維の伝導速度の低下。筋紡錘の感度が下がり伸張反射の亢進がゆるむ。寒冷の作用は血管収縮・毛細血管透過性低下・代謝低下・神経伝導速度低下で、いずれも温熱と逆。Aδ線維の伝導低下は鎮痛に効くが痙縮低下の主機序ではない。

「寒冷で筋紡錘からの求心性放電が増大」は誤り → 減少する。

2-4 シナプス伝達と神経伝達物質

化学シナプスの順序:活動電位が軸索終末に到達 → 前膜の脱分極 → 電位依存性Ca²⁺チャネルが開く → Ca²⁺が終末内へ流入 → シナプス小胞が前膜と融合 → 伝達物質を放出 → 後膜の受容体に結合(興奮性はEPSP・抑制性はIPSP)。

「前膜の脱分極に続いて軸索終末に流入するもの」=カルシウムイオン。GABAやグルタミン酸は流入するのではなくCa²⁺流入の結果として放出される側。Na⁺は脱分極相を担うが小胞放出の直接の引き金ではない。
伝達物質おもな部位性質
アセチルコリン神経筋接合部、自律神経節(交感・副交感とも)、副交感節後線維、交感の汗腺興奮性
ノルアドレナリン交感神経節後線維(汗腺を除く)心筋ではβ1受容体で亢進
ドパミン黒質緻密部 → 線条体、中脳皮質系運動制御。変性=Parkinson病
セロトニン脳幹縫線核気分・睡眠
GABA中枢全般主要な抑制性
グルタミン酸中枢全般主要な興奮性

ドパミンの局在部位は黒質。前頭葉は受け取る側で産生部位ではない。視床・小脳はグルタミン酸とGABAが主役、脳梁は白質線維束。

神経回路の基本型(拡散・収束・抑制のかたち)

回路図での見え方はたらき
拡散(発散)1個のニューロンが枝分かれして多数へ接続1つの入力を多数へ広げる
収束多数のニューロンが1個へ集まる多数の入力を1つに統合する
シナプス前抑制抑制性終末が興奮性ニューロンの軸索終末に接する伝達物質の放出量を減らす(後ニューロンにIPSPは生じない)。例:Ia線維終末への抑制
シナプス後抑制抑制性終末が次のニューロンの細胞体・樹状突起に接するIPSPを生じさせる。例:Ia相反抑制・Ib抑制
反回抑制軸索側枝が抑制性介在ニューロンを介して元のニューロン自身へ戻る自己を抑える負のフィードバック(Renshaw細胞)
側方抑制中央の経路が抑制性ニューロンを介して両隣の経路を抑える興奮部位の周囲を抑えてコントラストを高める
シナプス前か後かは抑制性終末がどこに付いているかの一点で見分ける=軸索終末なら前抑制、細胞体・樹状突起なら後抑制。

2-5 神経筋接合部と運動単位

  • 伝達物質はアセチルコリン、受容体は終板のニコチン性(アドレナリン受容体ではない)。AChはアセチルコリンエステラーゼで分解される。
  • 伝達は神経→筋の一方向性。双方向ではない。
  • 運動神経の軸索は有髄だが最終末端では髄鞘を失う。
  • 運動終板は筋線維の表面(筋鞘)。深部ではない。
  • 正常では1本の筋線維に神経筋接合部は1個。
  • 運動神経の活動電位が起これば筋は収縮する(弛緩ではない)。
  • 運動単位=1個のα運動ニューロン+支配する全筋線維。
  • 神経支配比は筋ごとに異なる。外眼筋など微細運動の筋は小さく(1:3〜10)、下肢の大筋群は大きい(1:100〜1000)。

2-6 神経筋接合部を障害するもの

原因作用部位機序結果
ボツリヌス毒素運動神経終末(前膜)ACh放出を阻害弛緩性麻痺。痙縮治療に応用
重症筋無力症後膜ACh受容体への自己抗体易疲労、反復刺激で漸減
筋弛緩薬(クラーレ等)後膜受容体を競合的に遮断弛緩
有機リン中毒シナプス間隙AChエステラーゼ阻害AChが過剰に残る

ボツリヌス毒素は神経を破壊せず放出を可逆的に抑えるだけなので、効果は3〜6か月で消える(効果の出始めは数日後)。

「ボツリヌス毒素は抗ACh受容体抗体を産生させる」は誤り → それは重症筋無力症。毒素は終末でのACh放出を止める。「末梢神経の破壊」「アクチンとミオシンの結合抑制」「ATP産生停止」もすべて誤り。

ボツリヌス療法の時間経過 ― 発現・ピーク・持続

A型ボツリヌス毒素は運動神経終末に取り込まれ、ACh放出に必要な蛋白(SNAP-25)を切断して神経筋伝達を止める。神経終末が発芽して再支配すると効果は消えていく。

時期めやす
効果の出現注射後2〜3日
効果のピーク1〜2週。この時期に装具・ストレッチ・課題指向型練習を集中させる
効果の持続おおむね3〜6か月で消失 → 年2〜3回の反復投与(再投与の間隔は3か月以上)

「持続期間は1〜3日」は誤り → それは効果が出始めるまで。「1〜3週間」も誤り → それはピークの時期。「1〜3年」「10年以上」も誤り → 効果は可逆的で、それが利点でもある。

痙縮の治療作用効果の続き方
内服(バクロフェンなど)中枢性に筋を弛緩させる服用している間だけ
ボツリヌス毒素注射神経筋接合部でACh放出を止める3〜6か月
神経ブロック(フェノール・アルコール)神経を化学的に変性させる数か月〜1年
髄腔内バクロフェン(ITB)脊髄レベルでGABA作用ポンプを留置している間

2-7 骨格筋の興奮収縮連関

  • 順序:運動神経の活動電位 → ACh放出 → 筋線維の活動電位 → T管 → 筋小胞体からCa²⁺放出 → Ca²⁺がトロポニンに結合 → トロポミオシンが動きアクチンの結合部位が露出 → ミオシンが結合して滑走。
  • 活動電位は筋収縮に先行する。遅れて発生するのではない。
  • 筋小胞体が貯蔵・放出するのはCa²⁺(Na⁺ではない)。トロポニンに結合するのもCa²⁺。
  • Ca²⁺の放出=収縮/筋小胞体への再取り込み=弛緩(取り込みにもATPを使う)。

「Ca²⁺が筋小胞体に取り込まれると筋収縮が起こる」は誤り → 取り込みは弛緩。収縮は放出で起こる。

2-8 クロスブリッジとサルコメアの変化

  1. ATPが結合するとミオシン頭部がアクチンから離れる
  2. ATPの加水分解でミオシン頭部の角度が元に戻る(再活性化)
  3. アクチンに再結合する
  4. Piが離れて首振り=パワーストローク
  5. ADPが離れ、次のATPが来るまで結合したまま

エネルギー源はATP。ADPは分解後の産物でエネルギー源ではない。滑走説=フィラメント自体は短くならず互いに滑り込む。

部位構成収縮時
A帯ミオシン変わらない
I帯アクチンのみ短縮
H帯ミオシンのみ短縮
Z線間(サルコメア)—短縮
解糖系(嫌気的・細胞質)=グルコース → ピルビン酸(酸素不足では乳酸へ)。クエン酸・コハク酸・フマル酸・αケトグルタル酸はすべてクエン酸回路の中間体=好気的(ミトコンドリア)。

2-9 単収縮・強縮・階段現象と筋の受容器

  • 単一刺激では単収縮(攣縮)のみ。強縮は生じない。
  • 高頻度の反復刺激で単収縮が加重し不完全強縮 → 完全強縮となる。
  • 階段現象(トレッペ)=一定間隔で単収縮を繰り返すと収縮力が徐々に増大する。

「単一刺激を加えると強縮が生じる」は誤り → 単一刺激は単収縮、強縮には高頻度の連続刺激が要る。

受容器感知求心性線維反射
筋紡錘筋の伸張(長さ)Ia・II伸張反射=深部腱反射
ゴルジ腱器官腱の張力IbIb抑制

2-10 心筋・平滑筋と骨格筋の比較

項目骨格筋心筋平滑筋
横紋ありあり(横紋筋)なし
随意性随意不随意不随意
ギャップ結合なしあり(介在板)=合胞体あり
活動電位1〜5msec200〜300msec(プラトー相)長い
単収縮するする—
強縮するしない(不応期が長い)—
静止張力小骨格筋より大きい—

「心筋は平滑筋」「心筋にギャップ結合はない」「心筋の活動電位は約5msec」はいずれも誤り → 心筋は不随意の横紋筋、介在板のギャップ結合をもち、活動電位は200〜300msec。約5msecは神経・骨格筋の値。

心筋の活動電位

相内容イオン
第0相脱分極Na⁺流入
第1相初期再分極一過性K⁺流出
第2相プラトーCa²⁺流入とK⁺流出が拮抗
第3相再分極K⁺流出
第4相静止電位洞房結節はペースメーカー電流(If)で自発脱分極

再分極に最も影響するのはK⁺電流。Ca²⁺電流はプラトーを作って再分極を遅らせる側、Na⁺電流は脱分極を担う側。プラトーで不応期が長いため心筋は強縮しない。

心臓の周辺事実

  • 冠動脈血流は拡張期に増加(収縮期は心筋が圧迫して減少)。
  • 洞房結節 → 心房収縮 → 房室結節で遅延 → 心室収縮の順。心房が先で同時ではない。
  • Frank-Starlingの法則=一定範囲では伸張されるほど収縮力が増す(低下しない)。
  • 心筋の収縮を起こすのはCa²⁺。H⁺ではない。
  • ノルアドレナリンはβ1受容体を介して収縮力・心拍数を増やす。迷走神経(ACh)は抑制。

2-11 神経伝導検査と針筋電図

  • 運動神経伝導速度=刺激点間の距離 ÷ 潜時差。mm ÷ msec = m/s。
  • 例:175mm ÷(10.9−5.9=5.0msec)=35m/sで正常下限48m/sを下回る。このとき振幅が正常(3.5mV以上)なら軸索は健在=脱髄。
病態振幅伝導速度備考
脱髄保たれる著明に低下跳躍伝導の障害。Guillain-Barré症候群、CIDP
軸索変性低下比較的保たれる機能する軸索数が減る
運動ニューロン変性低下比較的保たれる前角細胞の障害
神経筋接合部異常反復刺激で漸減正常単発刺激では判定できない
筋疾患(筋原性)—正常神経自体は正常
針筋電図波形
神経原性変化高振幅・長持続(巨大電位)=神経再支配による
筋原性変化低振幅・短持続・多相性

「神経原性変化では低振幅・短持続」は誤り → それは筋原性。「軸索変性で振幅は低下しない」も誤りで振幅は低下する。感覚神経伝導速度も測定できる。

2-12 中枢神経の回復機序

用語内容構造変化
アンマスキング抑制されて働いていなかった潜在経路の抑制が外れて機能が現れる(脱抑制)なし・即時
スプラウティング(側芽形成)健常な神経線維が脱神経領域へ枝を伸ばしシナプスを作るあり・遅発
ディアスキシスの回復損傷部から離れた部位の一時的な機能抑制が回復なし
機能の再構成・代償損傷部位以外の組織が再編成され肩代わりするあり
軸索再生軸索切断後、近位部から線維が伸びる(末梢神経の再生機序)あり

「脱神経のために受容体抗体ができて興奮性が高まる」は回復機序ではない → 自己免疫の話でアンマスキングとは無関係。