第1章|精神医学総論・精神症状

精神医学 第1章

1-1 精神症状を分類する2つの軸

総論の設問はほぼすべて「その症状をどの機能の障害に置くか」と「原因をどこに求めるか」の2軸に還元できる。用語を単独で暗記せず、必ず下の表の枠に入れて覚える。

機能別の分類(症状はここに置く)

領域代表的な症状
意識意識混濁(傾眠〜昏睡)・意識変容(せん妄・もうろう状態・アメンチア)
知覚幻覚・錯覚・体感異常
思考過程(形式)観念奔逸・思考制止・思考途絶・連合弛緩・滅裂思考・迂遠・保続
思考内容妄想(妄想気分・妄想着想・妄想知覚)・強迫観念・支配観念
自我意識離人症・作為体験(させられ体験)・思考吹入・思考奪取・考想伝播
感情抑うつ・爽快・不安・アンヘドニア・感情鈍麻・情動失禁
意欲・行動意欲低下・精神運動制止・精神運動興奮・昏迷・カタレプシー・常同
記憶・知能健忘・記銘力障害・作話・見当識障害・認知症

この振り分けの取り違えが最大の失点源。「自我の障害はどれか」の答えは離人症であり、アンヘドニアは感情、観念奔逸と連合弛緩は思考過程、妄想気分は思考内容の障害。同じ「統合失調症でみられる症状」でも所属する領域が違う。

原因別の分類

分類中身代表疾患
内因性脳の機能的要因。原因を外に求められない統合失調症・気分障害
外因性器質性(脳の病変)/症状性(身体疾患)/中毒性(薬物・アルコール)認知症・脳外傷後遺症・肝性脳症・せん妄
心因性心理的ストレス・性格反応神経症性障害・ストレス関連障害・適応障害

中毒性には薬剤性が含まれる。ステロイド薬による精神障害は投与量が多いほど起こりやすい(用量依存)のが原則で、症状は不眠・気分高揚・抑うつから幻覚・妄想・せん妄(意識障害)まで幅広い。「薬を飲み始めてから」という時間経過があれば外因性を疑う。

1-2 意識の障害

量的な障害=意識混濁

  • 軽度から順に、明識困難 → 昏蒙 → 傾眠(呼べば覚醒) → 嗜眠 → 半昏睡 → 昏睡(刺激に無反応)
  • 評価はJCS(3-3-9度方式)・GCS。数値で表せるのが量的障害の特徴

質的な障害=意識変容

状態特徴
せん妄軽〜中等度の意識混濁+幻覚(幻視が主)・不安・精神運動興奮。日内変動があり夜間に悪化。急性発症・可逆性。高齢・術後・脱水・薬剤が誘因
もうろう状態意識野が狭窄。一見まとまった行動をとるが後で健忘。てんかん・解離性障害
アメンチア軽い混濁+思考散乱+困惑(自分でまとまらないと当惑する)
鑑別せん妄認知症うつ病(仮性認知症)
発症急激(数時間〜数日)潜行性(年単位)比較的急・発症時期を言える
意識混濁あり清明清明
経過変動が大きい・夜間増悪慢性進行性日内変動(朝に悪い)
幻覚多い(幻視)少ない少ない
可逆性可逆不可逆が原則可逆(抗うつ療法で改善)

1-3 知覚の障害

  • 幻覚=対象がないのに知覚する錯覚=実在する対象を誤って知覚する。この定義の差がそのまま出題される
  • 幻覚は「本人にとっては現実」であり、説得しても訂正されない
種類内容代表疾患
幻聴人の声が最多。対話性・批評性・命令性統合失調症・アルコール幻覚症(意識清明)
幻視人物・小動物・虫など具体的な像せん妄・Lewy小体型認知症・アルコール離脱(振戦せん妄の小動物幻視)・薬物中毒
体感幻覚「脳が溶ける」等の奇異な身体感覚統合失調症
幻嗅・幻味異臭・異味側頭葉てんかん・統合失調症
入眠時幻覚寝入りばなの鮮明な幻覚ナルコレプシー

1-4 思考過程(形式)の障害と疾患の対応

この節が精神症状の最頻出。用語ではなく定義の文章で選択肢が並ぶ形式が多いので、表の中央列をそのまま覚える。

用語設問に出る記述代表疾患
観念奔逸観念が次々わくが、つながりは表面的で目標から外れていく躁病(双極性障害の躁状態)
思考制止思考が緩徐でうまく進まない・考えが前に出ないうつ病
思考途絶思考の進行が突然遮断され、会話が停止する統合失調症
連合弛緩観念のまとまりが緩み、話が脱線して脈絡を失う統合失調症
滅裂思考論理的関連が失われ支離滅裂。意識は清明統合失調症(連合弛緩の重症型)
言葉のサラダ単語の羅列で文をなさない統合失調症(最重症)
迂遠まわりくどく、要領よく思考目標に到達できないてんかん・認知症
保続同じ観念・語を繰り返し切り替えられない前頭葉障害・認知症
思考散乱観念の間に論理的関連がなく、意識の混濁を伴うせん妄など意識障害

うつ病=遅い(思考制止)/躁病=速い(観念奔逸)で正反対。統合失調症=つながりが切れる(思考途絶・連合弛緩・滅裂思考)。この3グループで大半の設問が切れる。

「観念の間に論理的関連がなく意識の混濁を伴う」を統合失調症の滅裂思考と読むのは誤り → 意識混濁を伴うなら意識障害下の思考散乱。滅裂思考は意識清明である点で区別する。

1-5 思考内容の障害=妄想

妄想=誤った確信であり、訂正不能で、その人の文化的背景では説明できないもの。強迫観念は「ばかげている」と本人が自覚し抵抗する点で妄想と区別する。

一次妄想(了解不能・統合失調症に特徴的)

種類内容
妄想気分内容は不明確なまま「何か不気味なことが起こりそうだ」という不安緊迫感。世界が変容したと感じる。統合失調症の初期(前駆)症状
妄想着想「自分は選ばれた者だ」など、突然確信が浮かぶ。きっかけがない
妄想知覚正常な知覚に異常な意味づけをする(信号が赤になったのは自分への合図だ)

二次妄想は気分や状況から了解できるもの(抑うつ気分から罪業妄想が生じる等)。

内容による分類と疾患

妄想代表疾患
被害・関係・注察・追跡・被毒妄想統合失調症
微小妄想=罪業・貧困・心気妄想うつ病
誇大妄想・血統妄想躁状態
物盗られ妄想Alzheimer型認知症(対象は身近な介護者が多い)
嫉妬妄想アルコール依存症・認知症

1-6 自我意識の障害

自我意識は能動性・単一性・同一性・外界との境界の4要素で成り立つ。ここが崩れるのが自我障害で、統合失調症の中核症状。

症状内容崩れる要素
離人症自分が自分でない・外界が現実感を欠きベール越しに感じる能動性・現実感
作為体験(させられ体験)自分の意思や行動が外部の力に操られていると感じる能動性
思考吹入他人の考えが自分の頭に入れられる境界
思考奪取自分の考えが抜き取られる境界
考想伝播自分の考えが周囲に知れ渡ってしまう境界

Schneiderの一級症状=考想化声、対話性・批評性の幻聴、身体的被影響体験、思考奪取・思考吹入、考想伝播、妄想知覚、感情・意欲・衝動の被影響体験。自我障害と幻聴・妄想知覚が中心で、統合失調症の診断的価値が高いとされる。

離人症は自我意識の障害。感情の障害・思考の障害に分類しない。なお離人体験は統合失調症だけでなくうつ病・不安障害・疲労時にも生じる。

1-7 感情の障害

症状内容代表疾患
抑うつ気分持続する気分の落ち込みうつ病
アンヘドニア(快感消失)今まで楽しめたことが楽しめないうつ病・統合失調症の陰性症状
爽快気分・易刺激性高揚・怒りっぽさ躁状態
感情鈍麻・感情平板化喜怒哀楽の表出が乏しい統合失調症(陰性症状)
両価性(アンビバレンス)相反する感情が同時に存在する統合失調症
情動失禁些細な刺激で泣き笑いが止まらない血管性認知症・仮性球麻痺
多幸状況に不釣合いな上機嫌前頭側頭型認知症・進行麻痺

持続的なものを気分、一過性で激しいものを情動と呼び分ける。

1-8 意欲・行動の障害

  • 意欲低下・無為・自閉=統合失調症の陰性症状、前頭葉障害でも生じる
  • 精神運動制止(うつ病)と精神運動興奮(躁状態・緊張病)は対

緊張病症候群(統合失調症の緊張型で典型)

症状内容
昏迷意思の発動がなく反応しないが、意識は清明で後から出来事を覚えている
カタレプシー(強硬症)・蝋屈症とらされた不自然な姿勢を保ち続ける
拒絶症/命令自動指示に一切従わない/逆に無批判に従う
反響言語・反響動作相手の言葉や動作をおうむ返しにまねる
常同症・衒奇症同じ動作の反復/わざとらしく奇妙な動作

昏迷を意識障害と取り違えない → 昏迷は意欲・行動の障害であり意識は清明。昏睡(意識障害)とは別物。

1-9 記憶・見当識・知能の障害

  • 記銘力障害=新しいことを覚えられない。認知症の早期から出る
  • 前向性健忘=発症後の記憶が作れない/逆向性健忘=発症前にさかのぼって思い出せない
  • 作話=記憶の欠損を無自覚に埋める。Korsakoff症候群(ビタミンB₁欠乏)で前向性健忘・見当識障害とともにみられる
  • 全生活史健忘(自分が誰かも分からない)は解離性障害で、器質的健忘とは区別する
  • 見当識障害は時間 → 場所 → 人物の順に崩れる
  • 認知症=いったん獲得した知能の後天的低下知的障害=発達期からの知能の発達の遅れ

1-10 精神医学の人名・診断分類

人名業績(この一語で識別する)
Freud精神分析。個人的無意識・自由連想法・防衛機制・局所論
Jung分析心理学。集合的(普遍的)無意識=神話や伝承に表れる人類共通の無意識・元型・内向/外向のタイプ論
Adler個人心理学。劣等感とその補償・優越への努力
Kraepelin疾病分類の体系化(早発性痴呆と躁うつ病の二大分類
BleulerSchizophrenie(統合失調症)の命名。基本症状=連合弛緩・感情障害・両価性・自閉
Schneider統合失調症の一級症状
Jaspers精神病理学・了解心理学(了解可能/了解不能)。無意識論の人ではない
Pinel精神障害者を鎖から解放した処遇改革

設問の多くはFreud・Jung・Adlerの3者の弁別で決まる。「神話・伝承・人類共通・普遍的無意識」という語が出たらJung。Kraepelin・Schneider・Jaspersは無意識の理論家ではないので、無意識の話題では全て消える。

現行の診断分類はICD-10/ICD-11(WHO)とDSM-5(米国精神医学会)。どちらも原因論ではなく症状の数と期間で決める操作的診断基準で、内因・外因・心因という伝統的分類とは立場が異なる。