第7章|精神科の治療と法制度

精神医学 第7章

7-1 精神科薬物療法の全体像

薬効群主な対象代表的な副作用
抗精神病薬統合失調症の陽性症状錐体外路症状(薬剤性Parkinson症候群・アカシジア・急性ジストニア・遅発性ジスキネジア)、悪性症候群、高プロラクチン血症
抗うつ薬(SSRI・SNRI)うつ病・不安症・強迫症消化器症状、賦活症候群、セロトニン症候群。効果発現までに2〜4週かかる
気分安定薬(炭酸リチウム)双極性障害リチウム中毒(振戦・運動失調・意識障害)。血中濃度モニタが必須
ベンゾジアゼピン系不安・不眠眠気・ふらつき・運動失調・前向性健忘・依存

副作用の帰属先を取り違えさせる設問が最頻出。錐体外路症状は抗精神病薬運動失調・健忘・依存はベンゾジアゼピン系と、薬効群ごとに副作用を束ねて覚える。

7-2 ベンゾジアゼピン系薬の副作用と依存

副作用

  • 中枢抑制・筋弛緩作用により眠気・ふらつき・運動失調。高齢者では転倒に直結する
  • 消化器症状(下痢・悪心)
  • 前向性健忘=服用後の出来事を覚えていない
  • 依存・離脱症状、大量服用やアルコール併用時の呼吸抑制

アカシジア(静座不能)とParkinson症候群はベンゾジアゼピン系では生じない → 正しくは抗精神病薬による錐体外路症状。ベンゾジアゼピン系はむしろアカシジアの治療に用いられる側である。
健忘も「逆行性」ではなく前向性健忘

依存の性質

論点正しい理解
用量常用量でも長期使用で依存が形成される(常用量依存
依存の種類精神依存だけでなく身体依存も形成される
離脱症状不安・不眠・振戦・けいれん発作・せん妄。突然の中止は危険で漸減が原則
作用時間短時間作用型ほど血中濃度の変動が大きく、依存・離脱を形成しやすい
年齢中高年・高齢者でも依存は生じる。加えて転倒・認知機能低下・せん妄に注意

7-3 抗精神病薬・抗うつ薬とうつ病の治療

抗精神病薬の重大な副作用

  • 錐体外路症状:安静時振戦・筋固縮・寡動(薬剤性Parkinson症候群)、アカシジア(じっと座っていられない)、急性ジストニア、遅発性ジスキネジア
  • 悪性症候群:高熱・著明な筋固縮・意識障害・CK上昇・自律神経症状。緊急対応を要する

うつ病治療の原則

  • 薬物療法の第一選択は抗うつ薬(SSRI等)ベンゾジアゼピン系は第一選択ではない
  • 心理教育は行う。疾患・経過・服薬の説明そのものが治療の一部である
  • 重症例・自殺切迫例・薬物抵抗例には修正型電気けいれん療法(m-ECT)が有効
  • 治療前に躁病相の既往を確認する。双極性障害を抗うつ薬単剤で治療すると躁転の危険がある

精神症状を呈する代謝性疾患Wilson病は常染色体潜性遺伝の代謝異常症。銅が肝・大脳基底核・角膜に蓄積し、肝障害+錐体外路症状(振戦・筋固縮)+精神症状を呈する。角膜のKayser-Fleischer輪が特徴的所見。治療はD-ペニシラミン(銅の排出)と亜鉛製剤(銅の吸収抑制)。の過剰蓄積は別疾患のヘモクロマトーシスであり、亜鉛・コバルト・マンガンの代謝異常症ではない。

7-4 精神療法の識別ポイント

療法核心となる技法主な対象
認知行動療法(CBT)ホームワーク(宿題)が必須技法。思考記録・行動実験をセッション外で実践させ、認知の歪みを修正するうつ病・不安症
森田療法絶対臥褥から始まる4期構成。「あるがまま」の受容を養う日本独自の療法神経症(不安症)
内観療法「してもらったこと・して返したこと・迷惑をかけたこと」を集中的に想起する内省法。日本独自神経症・依存症
精神分析療法自由連想・転移の分析でセッション内の無意識の葛藤を扱う。宿題は用いない神経症圏
支持的精神療法傾聴・共感・励ましで支える。構造化された宿題はない広く適用
系統的脱感作法不安階層表に沿い、弛緩状態で段階的に刺激へ慣らす行動療法恐怖症・不安症

森田療法の4期

  1. 絶対臥褥期(約4〜7日):個室で終日臥床させ、面会・読書・会話などあらゆる活動を禁じる
  2. 軽作業期
  3. 作業期
  4. 社会復帰期

宿題=認知行動療法絶対臥褥=森田療法不安階層表=系統的脱感作法。キーワード1語で一意に決まる出題形式なので、技法名と療法名の対を丸ごと覚える。

7-5 認知症へのアプローチ

用いるもの内容
リアリティオリエンテーション(RO)日時・場所・人物などを繰り返し提示し、見当識の維持・再認識を図る
音楽療法情動の賦活・不安軽減・コミュニケーション促進
回想法昔の写真や生活道具を手がかりに過去を語ってもらい、情緒の安定を図る
バリデーション療法言動を否定せず感情を受容して関係を築く

内観療法・森田療法・精神分析療法は認知症には用いない。いずれも洞察と自己内省を要する神経症圏の精神療法であり、認知機能が低下した対象には不向きである。

7-6 精神科リハビリテーションと社会復帰

  • 作業療法:生活リズムの再建・対人交流・自己効力感の回復
  • SST(社会生活技能訓練):モデリングとロールプレイで対人技能を学習する
  • 精神科デイケア・就労移行支援・地域生活支援による社会参加の維持
  • 理学療法士は身体活動を通じ、活動性低下・薬剤性の錐体外路症状・転倒リスクへ関与する

7-7 自殺の危険因子

危険因子補足
自殺企図の既往最も強力な予測因子
男性・高齢企図(未遂)は女性に多いが、既遂は男性に多い
精神科入院歴精神疾患の重症度を反映する
不安障害の合併焦燥・苦痛を増強する
アルコール・薬物依存の合併衝動性を高める
社会的孤立・喪失体験・身体疾患単身・失業・死別などが重なると危険が高まる

女性」は自殺危険率の高い特徴ではない → 正しくは男性が既遂の危険因子。「自殺企図は女性に多く、既遂は男性に多い」という性差で判断する。

7-8 精神科の入院形態

入院形態本人の同意要件
任意入院あり本人の同意に基づく基本形
医療保護入院なし家族等の同意+精神保健指定医1名の判定
措置入院なし自傷他害のおそれ+指定医2名の一致+都道府県知事の措置
緊急措置入院なし急速を要する場合。指定医1名・72時間以内
応急入院なし家族等の同意が得られない場合。指定医1名・72時間以内

根拠法は精神保健福祉法誰の同意が要るか・指定医は何名かがそのまま問われる。

7-9 予防医学の三段階

段階介入の時点具体例
一次予防発症前健康増進・生活習慣指導、予防接種(インフルエンザワクチン)健康な高齢者への骨折・転倒予防指導や講演会
二次予防発症の早期検診(乳癌のマンモグラフィ・胃内視鏡)・人間ドックによる早期発見、高血圧の薬物療法糖尿病の運動療法など発症後の重症化/合併症予防
三次予防発症後リハビリテーション脳卒中患者の職場復帰支援骨折既往者の再発予防、機能維持

同じ「転倒・骨折予防」でも、健康な高齢者への予防指導=一次予防骨折を経験した高齢者の再発予防=三次予防対象がすでに発症しているかで切り分ける。リハビリテーションと社会復帰支援は三次予防の代表。

7-10 保健所と市町村保健センター

機関根拠法・設置主体業務
保健所地域保健法/都道府県・政令市・特別区広域的・専門的。感染症発症届出の受理、精神保健・難病・障害児の保健相談人口動態統計に関する事務食品営業者の監視・環境衛生
市町村保健センター地域保健法/市町村住民に身近なサービス。健康診査・健康相談・母子健康手帳の交付・予防接種

医療保険の審査事務(レセプト審査)は保健所の業務ではない → 正しくは社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会という審査支払機関が行う。

7-11 理学療法士及び作業療法士法

論点正しい内容
制定年昭和40年(1965年)
免許厚生労働大臣が与える。理学療法士名簿への登録によって免許が与えられる
独占の種類名称独占であり業務独占ではない
名簿の変更登録事項に変更が生じたときは30日以内に訂正を申請する
欠格事由大麻・あへん・覚醒剤の中毒者など。免許の取消し等の処分も厚生労働大臣が行う
守秘義務資格を離れた後・免許証返納後も継続し、解除されない
規定していないもの診療報酬は健康保険法等に基づく診療報酬点数表で定まり、本法の規定ではない

「免許は都道府県知事から交付・再交付される」「違反時の免許取消しは都道府県知事が科す」はいずれも誤り → 正しくは厚生労働大臣。「業務独占を規定している」も誤りで、正しくは名称独占

7-12 職業倫理と個人情報の取扱い

医療倫理の4原則

  • 自律尊重:患者の自己決定権・インフォームドコンセントの尊重
  • 無危害善行正義

「医療倫理には3原則がある」は誤り4原則である。「Hippocratesの誓いが理学療法士の職業倫理」も誤り医師の倫理綱領であり、理学療法士固有のものではない。

個人情報保護法で医療機関に求められること

  • 取得時に利用目的をできる限り特定する
  • 本人の請求に応じて本人に開示する(開示請求権)
  • 内容を正確かつ最新に保つ
  • 安全管理措置・漏えい防止対策を講じる

医療機関の判断で利用目的を変更できる」は誤り → 利用目的の変更には本人の同意が必要で、一方的な変更は個人情報保護法違反となる。