第6章|依存症・摂食障害・発達障害

精神医学 第6章

6-1 依存を構成する概念(用語の弁別)

依存症は「意志の弱さ」ではなく疾患としてとらえる。用語を1語ずつ切り分ける設問が頻出。

用語定義(試験で問われる形)
耐性同じ酔いを得るのに必要な量が次第に増える=酔うまでの飲酒量が徐々に増加する
身体依存中断すると離脱症状(振戦・発汗・けいれん)が出現する状態
精神依存=渇望飲みたいという強い欲求・衝動。量の増加そのものではない
飲酒中心性生活が飲酒優先になり他の関心が失われる行動面の変化
山型飲酒サイクル飲酒量が増減を繰り返す飲酒パターン
共依存相手の世話に過度に依存し、関係が固定化した状態
イネイブラー尻ぬぐいをして結果的に依存を支え続けてしまう人(多くは家族)

「イネイブラー・共依存が問題となる疾患」=アルコール依存症。うつ病・統合失調症・Alzheimer型認知症・自閉スペクトラム症はこの文脈の代表疾患ではない(統合失調症で家族が関わるのは感情表出〈EE〉と再発の話であって共依存ではない)。

6-2 アルコール依存症の全体像

  • 発症には遺伝的影響があり、依存性パーソナリティ障害などの素因もリスクとなる
  • 抑うつの併存が高頻度。うつ病・不安障害の合併(コモビディティ)と自殺リスクに注意
  • 進行すると飲酒パターンが固定化し、飲酒行動の多様性は失われる
  • 断酒に成功しても再飲酒すれば容易に依存状態へ戻る。「もとの適度な飲み方」には戻れない
  • アルコール幻覚症は意識清明のまま幻聴が主体で、意識混濁+幻視の振戦せん妄とは別物

「病気の進行に伴い、以前より少ない量で酩酊するようになる」は誤り → 正しくは耐性が形成され、酩酊にはより多くの量を要する。

「飲酒行動の多様性は維持される」は誤り → 正しくは飲酒中心の生活となり多様性は失われる

酩酊の異常は飲酒中の現象=単純酩酊・複雑酩酊・病的酩酊。離脱症候群は断酒後の現象。「飲酒中か断酒後か」で切り分ければ組合せ問題は落とさない。

6-3 アルコール離脱症候群と振戦せん妄

時期症状
早期(中止後6〜24時間手指振戦・発汗・不眠・不安・嘔気(=単純離脱症候群)
数時間〜48時間離脱けいれん発作・一過性幻覚
後期(72〜96時間=断酒後2〜4日振戦せん妄(重症型)

振戦せん妄の要点

  • 意識混濁・見当識障害小動物幻視・粗大な全身の振戦・興奮
  • 自律神経の過活動(発熱・頻脈・発汗)を伴い、死亡率1〜5%で生命の危険が高い
  • 血中アルコール濃度の低下(離脱)で生じる。上昇に伴って生じるのではない
  • 治療はベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)が第一選択+ビタミンB₁補給・全身管理

「振戦せん妄では見当識は保たれる」「生命への危険性は低い」「飲酒停止後24時間以内に多い」「血中濃度の上昇に伴って生じる」はいずれも誤り。

羽ばたき振戦がみられるのは肝性脳症などの代謝性脳症。振戦せん妄でみられるのは粗大な振戦。

離脱期に抗酒薬(ジスルフィラム等)は使わない → 抗酒薬は断酒維持期の薬。

6-4 アルコール関連の脳症・症候群

名称病態・症状関連
Wernicke脳症ビタミンB₁欠乏。眼球運動障害・運動失調・意識障害の三徴あり(急性期)
Korsakoff症候群B₁欠乏に続発。前向性健忘・作話・見当識障害。Wernicke脳症から移行する後遺症あり(慢性期)
ペラグラ脳症ナイアシン(B₃)欠乏。皮膚炎・下痢・認知障害あり
Liepmann現象眼球を圧迫すると幻視が誘発される。振戦せん妄に伴うあり
Cotard症候群「自分は死んでいる」「内臓が腐っている」等の虚無妄想。主に重症うつ病乏しい

選択肢に紛れる非関連疾患:Kleine-Levin症候群=周期性傾眠+過食/Lennox-Gastaut症候群=小児期発症の難治性てんかん/Rett症候群=主に女児・退行と常同的な手の動き/悪性症候群=抗精神病薬による高熱・筋強剛・自律神経症状。いずれもアルコールとは無関係。

6-5 依存症の治療と家族支援

  • 原則は断酒(節酒ではない)
  • 断酒継続に有効とされるのは集団療法=断酒会・AA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループ。仲間による相互支援が動機づけと再発予防になる
  • 家族への介入も治療の一部(家族教室・アラノン)。イネイブラー役から降りてもらう
  • 抗酒薬・心理教育・認知行動療法を併用

断酒継続の技法として選ばれないもの → 催眠療法・自律訓練法(リラクセーション)・来談者中心療法・修正型電気けいれん療法〈m-ECT〉。m-ECTは重症うつ病や緊張病に用いる治療で、依存症の断酒維持には使わない。

6-6 神経性無食欲症(神経性やせ症)

中核症状

  • やせ願望・肥満恐怖ボディイメージの歪み(やせているのに太っていると感じる)
  • 病識を持たないことが多い。やせを問題と認識せず治療動機が乏しい
  • 食物への関心は低下せずむしろ高い。カロリー計算や料理に没頭する一方で自分は食べない
  • 低栄養にもかかわらず過活動・運動強迫を示す。行動は不活発にならない

身体所見

項目変化
月経無月経(視床下部・下垂体機能の低下)
脈拍・体温・血圧徐脈・低体温・低血圧(代謝低下)
低栄養・低エストロゲンで骨密度は低下し骨粗鬆症リスク
体毛全身に産毛が増生する。恥毛の脱落は典型ではない
消化管吸収能自体の器質的障害はない(摂取量が極端に少ないことが本態)

「骨密度は増加する」「頻脈になる」「体温が上昇する」「行動が不活発になる」「食物に対する関心が低下する」はすべて誤り。方向が逆になる引っかけが定番。

6-7 神経性大食症(神経性過食症)と両病型の比較

  • 過食+体重増加を防ぐ代償行動。最も多い代償行動は自己誘発性嘔吐、次いで下剤・利尿薬乱用、過剰運動
  • 過食するのは高カロリーの食品を大量に。低カロリー食ではない
  • 嘔吐・下剤乱用により低カリウム血症・脱水・う蝕・唾液腺腫大・手背の吐きダコ(Russell徴候)
神経性無食欲症神経性大食症
体重著明な低体重正常〜やや低め
代償行動制限型ではみられない必発(嘔吐が最多)
有病率低い無食欲症より高い
電解質低栄養による異常低カリウム血症

両病型は相互に移行する連続した病態。「移行することはない」は誤り。また女性に多いが男性にも発症するため「女性のみに発症する」も誤り。「〜のみ」「移行しない」「認められない」という断定的な選択肢は外れやすい。

6-8 パーソナリティ障害

3群分類

印象含まれる障害
A群奇妙・風変わり猜疑性〈妄想性〉/シゾイド〈統合失調質〉/統合失調型
B群劇的・情緒的反社会性〈非社会性〉/境界性/演技性/自己愛性
C群不安・恐怖回避性/依存性/強迫性

特徴語の対応(組合せ問題の材料)

障害中心的特徴(キーワード)
猜疑性〈妄想性〉不信・猜疑・敵意的な解釈
シゾイド〈統合失調質〉孤立を好む・感情表出に乏しい=冷淡
統合失調型奇異な考え方・風変わりな行動・魔術的思考。親しい関係を築けない
反社会性〈非社会性〉規範無視・他者の権利侵害・攻撃性
境界性見捨てられ不安・不安定な感情・不明瞭な自己像・持続的な空虚感・繰り返す自傷
演技性注目希求・芝居がかった情動表出・被暗示性
自己愛性誇大性・賞賛欲求・共感性の欠如
回避性拒絶や批判を恐れて接触を避ける(親密は望んでいる
依存性決断を他者に委ねる・世話を求める・分離不安
強迫性完全主義・几帳面・秩序へのこだわり

「見捨てられ不安」=境界性で即断。「奇異な考え方・風変わりな行動」=統合失調型で即断(シゾイドは孤立と無関心が前面で、奇異さは目立たない)。

性差の傾向=男性に多い:反社会性・強迫性・自己愛性女性に多い:境界性・演技性・依存性

境界性パーソナリティ障害にみられないのは孤立への欲求。見捨てられ恐怖からむしろ積極的に関係を求める。孤立への欲求はシゾイドの特徴。

組合せの定番誤り=「回避性─冷淡」(冷淡はシゾイド)/「統合失調質─攻撃性」(攻撃性は反社会性)/「非社会性─几帳面」(几帳面は強迫性)/「依存性─嗜癖」(嗜癖は物質依存の概念で別物)。

6-9 発達障害

自閉スペクトラム症〈ASD〉

中核は①社会的コミュニケーションの障害②限定的・反復的な行動様式とこだわりの2本。

  • 表情・視線・身振りなど非言語的コミュニケーションが乏しい
  • 共感性・心の理論に困難があり、暗黙のルールの理解が困難
  • 物語より事実・規則的な情報(図鑑・時刻表)を好む。ごっこ遊びなど想像的遊びは苦手
  • 突然の予定変更に臨機応変に対応できず混乱する(同一性保持)。感覚過敏も伴いやすい
特徴的行動内容
クレーン現象他者の手をとって目的の物へ持っていく。相手を道具のように使う
オウム返し(反響言語)相手の言葉をそのまま繰り返す言語行動
常同運動同じ動作・パターンの反復(相手の手は使わない)
タイムスリップ現象過去の出来事を今起きているかのように鮮明に想起するとされる現象。ASDの標準的な診断基準・特徴的行動には含まれない(解離症状などで用いられる用語)。選択肢に出たら消す
運動チックまばたき・肩すくめなど不随意で目的性のない反復運動

訴えから疾患を当てる形式の対応:「発作が心配で長距離移動ができない」=パニック症「元栓を何度も確認しないと気がすまない」=強迫症「現実感がなく映画の中のよう」=離人・現実感消失「人前で緊張して話せずスピーチを断った」=社交不安症

注意欠如・多動性障害〈ADHD〉

  • 中核は不注意・多動・衝動性男児に多い(女児は不注意優勢型で見逃されやすい)
  • 診断・支援には幼少期からの生育歴の聴取が重要
  • 叱責や失敗体験の蓄積による二次性の精神症状(抑うつ・不安・反抗挑戦性障害)に注意
  • 治療は環境調整+薬物療法(メチルフェニデート等の中枢刺激薬)。薬物療法を行わないのは誤り
  • 症状が持続し成人期に初めて診断されることもある

学習障害〈LD〉と鑑別

疾患決め手
学習障害〈LD〉全般的知能は正常域なのに読字・書字・計算など特定領域だけが困難。「読めば分かるが書けない」=書字障害
行為障害反社会的・攻撃的行動の反復。学習能力の障害ではない
広汎性発達障害社会性・コミュニケーション・常同的行動の障害(限局的な書字障害ではない)
Tourette症候群運動チック+音声チック

Down症候群の乳児支援

本態は全身性の筋緊張低下(低緊張)と関節過可動性。したがって関節拘縮は生じにくく、拘縮予防の指導は優先度が最も低い。優先されるのは低緊張に由来する課題=離乳食の摂食指導・姿勢の安定を促す抱き方・コミュニケーションの取り方、および家族のストレス対処。

6-10 睡眠障害と睡眠衛生指導

疾患由来夢との関係
レム睡眠行動障害レム睡眠夢の内容を行動化し叫ぶ・暴れる。本人も夢を覚えている
睡眠時驚愕症(夜驚)ノンレム夢の記憶がほとんどない
睡眠時遊行症(夢遊病)ノンレム夢の体験と結びつかない
睡眠関連摂食障害ノンレム無自覚に食べる。夢と関連しない
周期性四肢運動障害下肢の周期的不随意運動。夢と無関係

レム睡眠行動障害は本来レム期に働く骨格筋の緊張抑制が破綻して起こり、Parkinson病やレビー小体型認知症に先行することがある。

入眠困難への睡眠衛生指導

  • 最優先はできるだけ一定時刻に起床すること。体内時計が同期し睡眠覚醒リズムが整う
  • 昼寝は午後早めに15〜20分まで。夕方の1時間以上の昼寝は夜間の睡眠需要を下げて悪化させる
  • 就床直前のアルコールは入眠を促すが睡眠の質を下げ中途覚醒を増やすため避ける

「眠くなくても一定の時刻に就床する」は誤り → 就床時刻ではなく起床時刻を固定し、眠気を感じてから就床する。

「入眠できなくても寝床から出ない」は誤り → 眠れないときは寝床から出て別室で過ごす(刺激制御療法)。寝床=眠る場所という条件づけを守るため。