第1章|評価と重症度・残存レベルの判定

脊髄損傷 第1章

1-1 損傷の部位と病型(椎体と髄節・中心性頸髄損傷)

脊髄損傷(spinal cord injury)の理学療法は、どの髄節まで機能が残っているか(機能残存レベル)と完全損傷か不全損傷かの2つで、到達目標・装具・リスク管理がほぼ決まる。まず損傷の起こり方と病型を押さえる。

好発部位と椎体・髄節のずれ

  • 外傷性の脊椎損傷は中下位頸椎と胸腰椎移行部(T11〜L2)に多い。胸腰椎移行部は、肋骨で固定された胸椎と可動性の大きい腰椎の境目で応力が集中する(転落・尻もちで受傷)。
  • 椎体の番号と脊髄の髄節の番号は一致しない。下へ行くほど髄節が椎体より高い位置にあり、脊髄円錐はおおむねL1〜L2椎体の高さで終わる。それより下は馬尾。
  • L1椎体の骨折では、脊髄円錐・馬尾の障害として下肢の弛緩性麻痺と膀胱直腸障害を呈しやすい。
  • 画像では、椎体が楔状に潰れ後壁が脊柱管内へ突出していれば破裂骨折(burst fracture)。後壁が保たれる単純な圧迫骨折と区別する。破裂骨折は脊柱管を圧迫しうるが、必ずしも不安定型とは限らない(後方の靱帯・骨の損傷や神経症状で安定性を判断する)。椎体は仙骨から数え上げて高位を決める。

中心性頸髄損傷(中心性脊髄損傷)

項目特徴
典型的な受傷高齢者の転倒で頸部が過伸展され、骨傷なしで発症(もともとの脊柱管狭窄が背景)
麻痺の分布上肢>下肢。とくに手指の障害が強い
膀胱直腸障害・感覚障害比較的軽い
予後比較的良好で歩行自立に至る例が多いが、手指の巧緻性障害が残りやすい

「歩けるのに服が着られない」が中心性頸髄損傷の像。FIMで最後まで自立度が低い項目は上半身の更衣など手指の巧緻性を要する項目で、歩行・階段・トイレ移乗・排尿管理は比較的自立しやすい。

1-2 ASIAの神経学的評価(ISNCSCI)とkey muscle

ASIA(American Spinal Injury Association)の評価は、運動(key muscle)と感覚(key sensory point)に絞った脊髄損傷専用の神経学的評価である。意識・運動失調・眼球運動・深部腱反射は評価項目ではない。包括的な神経学的評価法でもない。

評価のきまり

項目内容
肢位原則背臥位(座位ではない)
運動左右10対のkey muscleをMMTに準じて0〜5で評価(上肢5・下肢5筋×左右、合計100点)
感覚左右28対のkey sensory pointで触覚と痛覚(ピン刺激)をそれぞれ0=脱失・1=障害(鈍麻・過敏)・2=正常の3段階。測定できない場合はNT(not testable)
仙髄領域肛門周囲(S4-5)の感覚・肛門深部圧覚・肛門括約筋の随意収縮を必ず調べる=完全/不全の判定に使う
損傷高位の決め方key muscleとkey sensory pointで決める。深部腱反射は用いない

関節可動域制限があっても、評価できる範囲でMMTを判定する。「ROM制限があれば運動はすべてNT」は誤り。

key muscle(丸暗記)

髄節key muscle(運動)代表筋
C5肘関節屈筋群上腕二頭筋・上腕筋(腕橈骨筋)
C6手関節背屈筋群(手関節伸筋群)長・短橈側手根伸筋
C7肘関節伸筋群上腕三頭筋
C8手指屈筋群(中指末節の屈曲)中指の深指屈筋
T1小指外転筋手内在筋
L2股関節屈筋群腸腰筋
L3膝関節伸筋群大腿四頭筋
L4足関節背屈筋群前脛骨筋
L5長趾伸筋群(母趾伸展)長母趾伸筋(長母指伸筋)
S1足関節底屈筋群下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)

選択肢は1髄節ずらして作られる。C6=肘伸筋(本当はC7)、C7=小指外転筋(本当はT1)、C8=指伸筋群(本当は指屈筋群。指伸筋はkey muscleではない)、L2=膝伸筋(本当はL3)、L3=足背屈筋(本当はL4)がよくある形。上肢は「肘曲げ→手首反らし→肘伸ばし→指曲げ→小指開き」、下肢は「股曲げ→膝伸ばし→足首上げ→母趾上げ→足首下げ」の順で上から並べて覚える。

1-3 重症度分類:AIS(ASIA機能障害尺度)とFrankel分類

AIS(ASIA Impairment Scale/ASIA機能障害尺度)

段階内容(ISNCSCIの定義)
A(完全)最下位仙髄(S4-5)の運動・感覚がすべて消失(肛門の随意収縮なし・肛門深部圧覚なし・S4-5の触覚/痛覚なし)
B(感覚不全)S4-5を含めて感覚は残るが、運動は残らない(肛門の随意収縮なし、かつ運動レベルより3髄節を超えて下のkey muscleに随意収縮なし)
C(運動不全)運動の残存がある(肛門の随意収縮がある、または感覚不全で運動レベルより3髄節を超えて下に随意収縮がある)。神経学的損傷高位より下のkey muscleのうちMMT3以上が半数未満
D(運動不全)Cと同じく運動の残存があり、神経学的損傷高位より下のkey muscleのうちMMT3以上が半数以上
E(正常)運動・感覚とも正常

判定の起点は肛門(S4-5)。仙髄の運動・感覚がすべて消えていればA、1つでも残れば不全(B〜D)。次に運動の残存を見る。見るのは運動レベルより3髄節を超えて下のkey muscle(頸髄損傷なら主に下肢筋)で、損傷高位のすぐ下の上肢筋(例:C6損傷の上腕三頭筋MMT2)が少し動くだけでは運動不全にしない。運動不全ならMMT3以上が半数に届くかでCとDを分ける。乳頭の高さ(T4)までの感覚保持などの記載は損傷高位を読む手がかりで、A〜Eの判定は仙髄とkey muscleで決める。

ISNCSCIでは肛門の随意収縮が残れば運動不全(C以上)とする。ただし国試の症例問題では、仙髄の感覚が残り下肢のkey muscleがすべてMMT0の例を、肛門の随意収縮の記載があってもB(感覚のみ残存)として扱った出題がある。迷ったら下肢のkey muscleに随意収縮が残るかで運動の残存を判断する。

Frankel分類

AISのもとになった古い分類。AISが数値(MMT3)で区切るのに対し、Frankelは運動機能が実用的かどうかで区切る。

段階内容
A(complete)損傷高位以下の運動・知覚とも完全麻痺
B(sensory only)知覚のみ残存、運動は完全麻痺
C(motor useless)運動機能は残るが実用性がない(歩行不能)
D(motor useful)実用的な運動機能がある(補助具の有無を問わず歩行可能)
E(recovery)運動・知覚とも正常(反射異常は残ってもよい)

FrankelのCとDの分かれ目は「実用的に歩けるか」。手すり歩行で自宅内を移動できれば、更衣が介助・屋外が車椅子でもD。逆にFrankel B(=運動完全麻痺)の急性期に「麻痺した下肢の筋力増強訓練」は随意収縮が無いので成立しない(2-1参照)。

1-4 機能残存レベルの判定(MMT表の読み方)

機能残存レベル(運動レベル)は、MMT3以上を保つ最も下位(遠位)のkey muscleの髄節で決める(その1つ上の髄節の筋は正常に近いことが前提)。「第○頸髄節まで機能残存」と書かれたら、その髄節のkey muscleまでが使える。

表問題の解き方

  1. 上から順にkey muscleを並べる:三角筋・上腕二頭筋(C5)→ 長・短橈側手根伸筋(C6)→ 上腕三頭筋(C7)→ 深指屈筋(C8)→ 小指外転筋(T1)
  2. MMT3以上の最下位を探す
  3. その下の髄節が2以下なら、そこが機能残存レベル

例:上腕二頭筋5・長橈側手根伸筋4〜5・上腕三頭筋1〜2・手指屈筋0 → C6(手関節背屈は可・肘伸展は不可)。

各レベルで「動く/動かない」

残存レベル可能な運動(代表)まだできない運動
C4横隔膜(呼吸)・頸部・肩甲骨挙上(僧帽筋上部)肩・肘の実用的運動
C5肩関節外転(三角筋)・肘屈曲(上腕二頭筋)・前腕回外手関節背屈・肘伸展・指の運動
C6+手関節背屈(長・短橈側手根伸筋)・前腕回内(円回内筋)肘伸展(上腕三頭筋)・指伸展・指屈曲
C7+肘伸展(上腕三頭筋)・指伸展(総指伸筋)・尺側手根伸筋・母指伸展(長母指伸筋、C7〜C8)指屈曲(深指屈筋)・手内在筋
C8+手指屈曲(深指屈筋)手内在筋(骨間筋・小指外転筋・母指内転筋)
T1+手内在筋(小指外転・母指内転など)=上肢はほぼ正常—

「C6まで残存」で可能なのは手関節背屈と肘屈曲まで。小指外転・母指内転(C8〜T1の手内在筋)や中指DIP屈曲(深指屈筋=C8)はできない。「C5まで残存」なら肩外転と前腕回外は可能だが、肘伸展(C7)・手関節背屈(C6)・指伸展(C7)は不可。

1-5 Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類

頸髄損傷の上肢機能を、基本的機能筋でC5〜C8の群に分け、さらに亜分類(A・B、BのⅠ〜Ⅲ)で細かく分ける分類。ADLの到達目標を決めるのに使う。

基本的機能筋(群を決める筋)

群できる動作基本的機能筋
C5肘屈曲上腕二頭筋・上腕筋
C6手関節伸展(背屈)長・短橈側手根伸筋
C7手指伸展総指伸筋・小指伸筋・尺側手根伸筋
C8手指屈曲深指屈筋など指屈筋

腕橈骨筋・円回内筋・橈側手根屈筋・上腕三頭筋は亜分類を分けるための筋で、基本的機能筋ではない。「上腕三頭筋=C7の基本的機能筋」と思い込むのが定番のひっかけ。

C5・C6の亜分類(頻出)

亜分類追加で機能する筋動作の目安
C5A上腕二頭筋(腕橈骨筋は働かない)肘屈曲のみ
C5B+腕橈骨筋手関節背屈はまだ不可
C6A手関節背屈が弱い安定した上肢支持は難しい
C6BⅠ手関節背屈が強い(長・短橈側手根伸筋)テノデーシス把持が使える。ループ・ベッド柵を使う起き上がりを到達目標にする
C6BⅡ+円回内筋(前腕回内)上肢の反動を使った寝返り。肘ロック型の起き上がり(前腕支持・肘立て位を経由し、肩外旋で肘を他動的に伸展位へロックした上肢で体幹を起こす)の図で「最も上位のレベル」を問われたときの答え
C6BⅢ+橈側手根屈筋・上腕三頭筋上腕三頭筋による肘伸展が加わり、肘伸展の力で押し起こす起き上がりなど上肢支持の動作が広がる
C7A+尺側手根伸筋・総指伸筋など(尺側の指伸展)手指伸展が加わる

連問で「この患者において機能していると推測される筋」と問われたら、判定した亜分類までの筋は機能し、それより下位の筋は機能しないと切り分ける。C6BⅡなら円回内筋は○、橈側手根屈筋・上腕三頭筋(C6BⅢ)・尺側手根伸筋(C7)・長母指伸筋・深指屈筋(C7〜C8)は×。C6BⅢで機能しないのは尺側手根伸筋(C7A)。

起き上がりは型と問い方で答えるレベルが変わる。

  • 到達目標:手関節背屈が強いC6BⅠでも、ループ・ベッド柵を使う起き上がりを到達目標にする。
  • 肘ロック型の図:前腕支持から肘を他動的に伸展位へロックした上肢で体幹を起こす図を示し、「最も上位の機能残存レベル」を選択肢(C5A・C5B・C6A・C6BⅡ・C7A)から選ばせる問題ではC6BⅡを選ぶ。C5A〜C6Aは手関節背屈が無い〜弱く上肢で支えられない。C6BⅠは選択肢に無い。
  • 肘伸展型:長座位で両手を後方につき、肘伸展の力で上体を押し起こす起き上がりは上腕三頭筋が要る。上腕三頭筋が働くのは、髄節レベルではC7、Zancolli分類ではC6BⅢから。上腕三頭筋の働かない段階(Zancolli分類のC6BⅡまで)では肘が折れる。

髄節レベル(C6・C7)とZancolli分類の群名(C6BⅢなど)は別の物差し。「C7が必要」をZancolliのC7群と読み替えない。

図問題で「最も上位の機能残存レベル」を問われたら、その動作ができる最も高位(=最も障害が重い)レベルを選ぶ。より下位のレベル(C7Aなど)でも当然その動作はできるが、答えは「それができる最も上のレベル」。