第1章|神経症候の基礎
神経内科学 第1章
1-1 上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害
| 上位運動ニューロン(UMN)障害=錐体路障害 | 下位運動ニューロン(LMN)障害 |
| 麻痺の型 | 痙性麻痺(折りたたみナイフ現象) | 弛緩性麻痺 |
| 筋緊張 | 亢進 | 低下 |
| 深部腱反射 | 亢進 | 低下・消失 |
| 表在反射(腹壁・挙睾筋) | 消失 | 消失 |
| 病的反射(Babinski) | 出現 | なし |
| 筋萎縮 | 軽度(廃用性) | 著明 |
| 線維束性収縮 | なし | あり |
錐体路徴候=腱反射亢進・病的反射陽性・痙性・表在反射(腹壁反射)消失。深部腱反射は亢進、表在反射は消失と向きが逆なのが最大のひっかけ。
錐体路徴候として誤って選ばれるもの → 膝蓋腱反射低下・筋緊張低下は下位運動ニューロン/末梢神経障害、深部感覚鈍麻は後索(感覚路)、ジストニアは大脳基底核(錐体外路)。
陽性徴候と陰性徴候
| 陽性徴候=過剰に出現する神経活動 | 陰性徴候=機能の喪失 |
| 痙縮、腱反射亢進、病的反射、クローヌス、共同運動 | 運動麻痺、筋力低下、感覚障害、巧緻運動障害 |
痙直型脳性麻痺児の陽性徴候は共同運動(随意運動に伴い協働筋が不随意に同時収縮する)。麻痺・筋力低下・感覚障害・巧緻運動障害はすべて陰性徴候側。
後縦靱帯骨化症(OPLL)は脊柱管の前壁(椎体後面)にある後縦靱帯が骨化して脊髄を前方(腹側)から圧迫し(後方から圧迫するのは黄色靱帯骨化症〈OLF〉)、進行すると痙性麻痺(UMN障害)を生じる。頸椎に最多・日本人(東アジア人)に多い・男性に多い・遺伝的素因が関与。
1-2 随意運動の伝導路と運動野
- α運動ニューロン=錘外筋を支配し随意収縮の命令を筋に伝える/γ運動ニューロン=錘内筋(筋紡錘)を支配し筋緊張を調整。直接伝えるのはγではなくα。
- Betzの巨大錐体細胞は一次運動野(中心前回)の第Ⅴ層。補足運動野ではない。
- 運動のホムンクルスは巧緻性の高い部位ほど代表領域が広く、手・口が大きい(「手の領域が小さい」は誤り)。
- 放線冠は錐体路の通り道で、障害では錐体路症状=片麻痺。錐体外路症状ではない。
- 小脳は運動の協調・タイミング調整・円滑化を担う(=運動をスムーズにする)。
1-3 小脳症候と失調の鑑別
- 小脳症候=企図振戦・測定障害(ジスメトリー)・反復拮抗運動不能(アジアドコキネジア)・運動分解・筋緊張低下・断綴性発語・眼振・動揺性歩行。筋緊張低下により振り子様膝蓋腱反射をみる。
- 指鼻試験で目標に近づくほど振幅が増し、行き過ぎ・修正を繰り返す軌跡=企図振戦+測定障害=小脳性運動失調。同じ患者には断綴性発語が出うる。
小脳障害でみられないもの → 静止(安静時)振戦=Parkinson病、病的反射陽性=錐体路障害、深部感覚障害=後索・末梢神経、折りたたみナイフ現象・はさみ脚歩行=痙性、筋強剛=基底核。
| 小脳性失調 | 感覚性(後索性)失調 |
| Romberg徴候 | 陰性(開閉眼とも動揺) | 陽性(閉眼で増悪) |
| 深部感覚 | 正常 | 障害 |
| 特徴 | 企図振戦・断綴性発語・眼振 | 踵打ち歩行、視覚で代償 |
1-4 不随意運動の鑑別とミオクロニー発作
| 不随意運動 | 性状 | 代表疾患・部位 |
| 振戦 | 律動的(一定のリズム)。拮抗筋の交互収縮 | 安静時=Parkinson病/企図=小脳/姿勢時=本態性 |
| 舞踏運動(コレア) | 素早く不規則 | Huntington病 |
| アテトーゼ | 緩徐でくねる不規則運動 | アテトーゼ型脳性麻痺 |
| ジストニア | 持続的な筋収縮による異常姿勢 | 大脳基底核 |
| バリスム | 四肢を投げ出す粗大・不規則な運動 | 視床下核 |
| ミオクローヌス | 電撃的・瞬間的な筋収縮 | てんかん・代謝性 |
| チック | 突発的・反復的だが不規則、抑制可能 | Tourette症候群 |
律動的な不随意運動は振戦だけ。他はすべて不規則、または電撃的・突発的。
ミオクロニー発作=持続数ミリ秒〜数秒/意識は保たれる/両側性/若年(10〜30歳代)発症/光刺激で誘発(光感受性てんかん)。「意識消失を伴う」「高齢発症」「数分間持続」「片側性」はいずれも誤り。
1-5 感覚障害と中枢性疼痛
- 表在感覚(触・痛・温)/深部感覚(位置覚・振動覚)/複合感覚(立体覚・2点識別)。
- 末梢神経=支配領域に一致/脊髄=レベル以下/視床=反対側半身/大脳皮質=複合感覚が優位に障害。
- 解離性感覚障害(温痛覚と触・深部覚が分かれて障害)は脊髄空洞症・前脊髄動脈症候群・Brown-Séquard症候群。脊髄ショック期の所見ではない。
| 痛み・徴候 | 性質・誘発法 |
| 視床痛(Déjerine-Roussy症候群) | 脳卒中後に遅れて出る中枢性疼痛。対側半身の灼熱感・難治 |
| Lhermitte徴候 | 頸部前屈で背部〜四肢に走る電撃様のしびれ。多発性硬化症など |
| Tinel徴候 | 神経絞扼部を叩打すると支配領域に放散するしびれ |
| Morleyテスト | 胸郭出口症候群の誘発テスト(灼熱痛ではない) |
| 緊張型頭痛 | 締めつけられる頭痛。灼熱感ではない |
1-6 脊髄・神経根の局在診断
- 成人の脊髄下端(脊髄円錐)は第1〜第2腰椎(L1〜L2)。以下は馬尾。新生児はL3付近と低く、成長で相対的に上昇。
- 硬膜嚢はS2まで。腰椎穿刺は脊髄を傷つけないL3/4・L4/5で行う。
- 後根=感覚(求心路):障害で感覚低下と腱反射低下。前根=運動(遠心路):障害で麻痺・筋萎縮・線維束性収縮。
| 腱反射 | 髄節 |
| 上腕二頭筋反射 | C5〜C6 |
| 腕橈骨筋反射 | C6 |
| 上腕三頭筋反射 | C7 |
| 膝蓋腱反射 | L4(L2〜L4) |
| アキレス腱反射 | S1 |
C7後根障害で生じるのは上腕三頭筋腱反射の低下。下垂手=橈骨神経麻痺、Horner徴候=C8〜T1の交感神経、腕橈骨筋萎縮=C5〜C6、上腕二頭筋の線維束性収縮=前角細胞・運動神経障害で、いずれもC7後根では説明できない。
脊髄ショック期と離脱後
| 脊髄ショック期 | 離脱後 |
| 麻痺 | 弛緩性 | 痙性 |
| 深部腱反射 | 消失 | 亢進 |
| 病的反射 | なし | 出現 |
| 肛門・球海綿体反射 | 消失 | 出現(=離脱の指標) |
| 膀胱 | 尿閉(弛緩性膀胱) | 反射性膀胱 |
ショック期の本質は「損傷レベル以下の全反射消失+弛緩性麻痺」。痙性麻痺・腱反射亢進・排尿反射亢進は離脱後の所見。
1-7 髄膜刺激徴候と急性発症の頭蓋内病変
- 髄膜刺激徴候=項部硬直・Kernig徴候・Brudzinski徴候。髄膜・神経根を伸張する操作(頸部前屈、股関節屈曲位からの膝伸展)で疼痛・抵抗が出る。
- 誘発しやすい体位は長座位(両膝伸展で髄膜・神経根が伸張)。側臥位・端座位・背臥位・腹臥位は伸張が加わらず誘発しにくい。
| 疾患 | 発症様式 | 手がかり |
| くも膜下出血 | 突然 | 激しい頭痛・意識障害・項部硬直・高血圧。CTで脳槽・くも膜下腔が高吸収 |
| 髄膜炎 | 数日で進行 | 項部硬直は出るが発熱を伴い、突然発症でない |
| 急性硬膜下血腫 | 急性(外傷後) | 外傷歴が必須。CTで硬膜下に三日月状の血腫 |
| 脳腫瘍 | 慢性進行 | CTで腫瘤陰影 |
| 脳膿瘍 | 亜急性 | 発熱・感染徴候を伴う |
1-8 末梢神経・筋疾患の症候
Guillain-Barré症候群(GBS)
- 先行感染(上気道・消化器、Campylobacterなど)から1〜3週間後に発症(24時間以内ではない)。
- 左右対称性・下肢から上行する弛緩性麻痺と深部腱反射の減弱・消失。末梢神経障害なので亢進しない。
- 極期は2〜4週間以内(1週間以内に9割ではない)。脳神経症状はしばしばみられ、顔面神経麻痺は約半数(5%以下ではない)。
- 病型の地域差=欧米は脱髄型(AIDP)/日本など東アジアは軸索型(AMAN)の比率が高い。
- 髄液で蛋白細胞解離。治療は血漿交換・免疫グロブリン大量療法、ステロイドは無効。
筋強直性ジストロフィー
- 成人で最多の筋ジストロフィー。三大特徴はミオトニア(把握・叩打)・遠位筋優位の筋萎縮による下垂足・斧状顔貌(側頭筋・咬筋・表情筋の萎縮)。
- 白内障・前頭部禿頭・耐糖能異常・心伝導障害を合併。Duchenne型が近位筋優位なのに対し本症は遠位筋優位が鑑別点。
本症でみられないもの → 痙縮(上位運動ニューロン由来)、ジストニア(大脳基底核由来)、有痛性筋けいれん。
1-9 小児にみられる神経症候
Down症候群
- 基本は全身の筋緊張低下+関節弛緩+環軸椎不安定。
- 運動発達の特徴=発達遅延、四つ這いを経ずお尻で移動するシャフリング(いざり)移動、スカーフ徴候陽性(肘が正中を越えやすい)。
- 乳児期の理学療法=腹筋群など体幹・抗重力筋の収縮を促すのが基本。
「シャフリングはDown症候群にみられる特徴」は正しいが、「シャフリングや背這いを移動手段として採用する」は不適切(正常な四つ這い・歩行発達を妨げる)。みられる現象と治療方針を混同しない。
不適切な介入 ── 緊張性迷路反射など原始反射の促通(残存反射は抑制・統合する)/定頸後すぐの立位(段階を飛ばし環軸椎不安定に危険)/不随意運動の抑制(アテトーゼ型脳性麻痺の課題で本症の主問題でない)。
後弓反張・はさみ脚歩行・緊張性迷路反射亢進は筋緊張亢進(痙性)側の所見で、低緊張のDown症候群とは逆向き。
乳児水頭症
三徴は頭囲の異常拡大・大泉門膨隆・落陽現象(setting-sun sign)。落陽現象は頭蓋内圧亢進で眼球が下方に偏位し上方の白目が目立つ所見。乳児は頭蓋縫合が未閉鎖のため圧亢進が頭囲拡大として現れる(成人の頭蓋内圧亢進3徴=頭痛・嘔吐・うっ血乳頭)。錐体路が圧迫されれば痙性麻痺で、弛緩性麻痺・運動失調・肥満・口蓋裂は特徴ではない。
1-10 脳腫瘍の部位別症候と骨転移
| 部位 | 好発腫瘍 | 特徴的症候 |
| 小脳橋角部 | 神経鞘腫(前庭神経鞘腫=聴神経腫瘍)が約8割で最多。2番目が髄膜腫 | 難聴・耳鳴・めまい・顔面神経麻痺 |
| トルコ鞍 | 下垂体腺腫 | 視交叉圧迫による両耳側半盲+内分泌症状 |
| 鞍上部 | 頭蓋咽頭腫 | 視野障害・尿崩症・下垂体機能低下 |
| 傍矢状洞・大脳鎌 | 髄膜腫 | 部位に応じた巣症状 |
| 小脳半球(成人) | 血管芽腫 | von Hippel-Lindau病に合併 |
| 小脳・第四脳室(小児) | 髄芽腫 | 運動失調・水頭症 |
| 大脳半球 | 神経膠腫(グリオーマ) | てんかん発作 |
| 視神経 | 視神経膠腫 | 視力・視野障害(てんかんではない) |
がんの骨転移の四大症候=疼痛(安静時痛・夜間痛)・病的骨折・脊髄圧迫(麻痺・膀胱直腸障害)・高カルシウム血症。原発は乳がん・前立腺がん・肺がん・腎がん・甲状腺がん。振戦は錐体外路系の症状で骨転移の症候ではない。