第2章|脳血管障害

神経内科学 第2章

2-1 脳血管障害の分類・頻度・危険因子

分類

大分類病型機序・特徴
脳梗塞(虚血)アテローム血栓性頸部・頭蓋内主幹動脈の動脈硬化(プラーク)
脳梗塞心原性脳塞栓症心房細動→左房内血栓が飛ぶ。突然発症・大梗塞
脳梗塞ラクナ梗塞穿通枝(細小血管)の小梗塞。高血圧が背景
脳出血高血圧性脳出血活動中・入浴中の突然発症。被殻が最多
くも膜下出血脳動脈瘤破裂突然の激しい頭痛+項部硬直(髄膜刺激徴候)

頻度と死亡率(数字で覚える)

  • 発症数は 脳梗塞(約7割・4分の3)>脳出血(約2割)>くも膜下出血(約1割未満)。2021年以降も脳梗塞が最多。
  • 背景=降圧治療の普及で脳出血が減少し、高齢化で脳梗塞が相対的に増えた。
  • 脳静脈血栓症はまれ。慢性硬膜下血腫は高齢者の軽微な頭部外傷後で、脳血管障害としての発症数は脳梗塞に及ばない。
  • 急性期死亡率は くも膜下出血>脳梗塞。発症数と死亡率は別物。
  • 日本人の死因第1位は悪性新生物。脳血管疾患は上位だが第1位ではない。

危険因子

危険因子主に起こす病態
高血圧脳出血の最大の危険因子。ラクナ梗塞の背景でもある
心房細動(発作性を含む)心内血栓→心原性脳塞栓症
癌に伴う凝固異常Trousseau症候群として脳塞栓を起こす
慢性腎臓病〈CKD〉脳卒中・心血管疾患の独立した危険因子
糖尿病・脂質異常症・喫煙動脈硬化を介して全病型に共通

「くも膜下出血は女性より男性に多い」は誤り → くも膜下出血は女性にやや多い

関連の周辺知識

  • 疫学研究デザイン:喫煙群と非喫煙群に分けて将来の発症を追跡=コホート研究(曝露→結果、前向き、相対危険度)。症例対照研究=結果→曝露を後ろ向き(オッズ比)。横断研究=一時点で同時測定(有病率)。記述的研究=頻度・分布の記述。RCT=無作為割付の介入研究。
  • 人工透析患者の死因は 心不全>感染症(肺炎)>悪性腫瘍>脳血管障害。体液貯留・高血圧・血管石灰化が背景で、脳出血は最多ではない。

2-2 脳を養う動脈の全体像

脳循環は 前方循環=内頸動脈系後方循環=椎骨脳底動脈系 の2系統。どちらの系統かを決めてから症候を考えるのが定石。

心臓から脳まで

  • 大動脈弓 →(右のみ)腕頭動脈→ 右総頸動脈・右鎖骨下動脈/左は総頸動脈・鎖骨下動脈が直接分岐。
  • 椎骨動脈は鎖骨下動脈の枝。頸椎の横突孔を上行し、左右が合流して脳底動脈となる。
  • 総頸動脈 → 内頸動脈・外頸動脈に分岐。

内頸動脈と外頸動脈の枝

血管
内頸動脈(直接分枝)眼動脈(頭蓋内で最初に出す枝)・後交通動脈・前脈絡叢動脈、終枝として前大脳動脈・中大脳動脈
外頸動脈上甲状腺動脈・舌動脈顔面動脈・後頭動脈・顎動脈(顔面・頭皮など浅部へ)
脳底動脈(直接分枝)上小脳動脈・前下小脳動脈〈AICA〉・橋枝・内耳動脈。上端で後大脳動脈へ移行
椎骨動脈後下小脳動脈〈PICA〉・前脊髄動脈(延髄・小脳下部を灌流)

「前交通動脈は内頸動脈から分岐する」は誤り → 前交通動脈は左右の前大脳動脈どうしを連絡する枝で、内頸動脈から直接は出ない。前大脳・中大脳・後交通動脈は内頸動脈から直接出る。

「AICAは椎骨動脈の枝」は誤り → AICAと上小脳動脈は脳底動脈から、PICAは椎骨動脈から出る。

左右一対か、単一か

左右一対単一(正中に1本)片側のみ
総頸動脈・内頸動脈・椎骨動脈・前大脳動脈・中大脳動脈・後大脳動脈・後交通動脈脳底動脈(左右椎骨動脈の合流)・前交通動脈腕頭動脈(右のみ)
Willis動脈輪=前交通動脈+左右前大脳動脈+左右内頸動脈+左右後交通動脈+左右後大脳動脈。前交通動脈と内頸動脈-後交通動脈分岐部は脳動脈瘤の好発部位。

2-3 灌流域と穿通枝

動脈皮質・主な灌流域穿通枝が養う深部
前大脳動脈〈ACA〉前頭葉内側面・中心傍小葉(下肢の運動感覚野尾状核頭など
中大脳動脈〈MCA〉大脳半球外側面(中心前回外側・Broca野・Wernicke野・頭頂葉外側)レンズ核線条体動脈被殻・淡蒼球・内包・尾状核
後大脳動脈〈PCA〉後頭葉(視覚野)・側頭葉内側(海馬)・中脳(黒質)視床穿通動脈・視床膝状体動脈→視床
脳底動脈橋・小脳橋枝
椎骨動脈延髄・小脳下部
被殻=中大脳動脈(レンズ核線条体動脈)/視床=後大脳動脈。この2つの対応は最頻出。淡蒼球は前脈絡叢動脈と中大脳動脈系、尾状核頭は前・中大脳動脈の穿通枝、扁桃体は前脈絡叢動脈・後大脳動脈側頭枝が関与する。

「被殻・淡蒼球・尾状核は後大脳動脈が養う」は誤り → 大脳基底核は中大脳動脈系。後大脳動脈の代表的支配域は視床

「Broca野は脳底動脈、中心前回は椎骨動脈」は誤り → どちらも中大脳動脈支配。「海馬は中大脳動脈」も誤りで、海馬は後大脳動脈

ホムンクルス(体部位局在)と血管領域

  • 中心前回・中心後回の前額断で、大脳縦裂に近い内側面=下肢・足 → 頭頂部=体幹 → 外側面の中ほど=上肢・手 → 最外側下方=顔面・口・舌の順に並ぶ。
  • 手と顔面は割り当て面積が大きい(精密な感覚・運動ほど広い)。
  • 下肢が内側面にあるため ACA障害=下肢優位、外側面が広いため MCA障害=上肢・顔面優位となる。

2-4 血管領域別の症候

閉塞血管特徴的症候
前大脳動脈対側の下肢優位の片麻痺・感覚障害、強制把握現象(本能性把握反応)、尿失禁、意欲低下・無動無言
中大脳動脈対側の上肢・顔面優位の片麻痺・感覚障害、優位半球で失語・観念運動失行、劣位半球で半側空間無視・着衣失行
後大脳動脈対側同名半盲、物体失認などの視覚失認、地誌的失見当、視床症状(感覚障害・視床痛)
内頸動脈本幹前・中大脳動脈領域にまたがる広範な梗塞。分枝の眼動脈領域の虚血で一過性黒内障(一過性の片眼視力障害)
椎骨脳底動脈複視・回転性めまい・構音障害・嚥下障害・運動失調・同名半盲・交代性片麻痺
前方循環(内頸動脈系)と後方循環(椎骨脳底動脈系)の振り分け。失語・半側空間無視・一過性黒内障・上肢優位の片麻痺=前方循環複視・小脳失調・めまい・嚥下障害・脳神経症状=後方循環

「Broca失語・半側空間無視・一過性黒内障は椎骨脳底動脈系でみられやすい」は誤り → いずれも内頸動脈系の症候。後方循環で出やすいのは複視と運動失調

画像から閉塞血管を決める手順

  1. 拡散強調像で梗塞巣の分布を見る(半球外側=中大脳/半球内側=前大脳/後頭葉・視床=後大脳/脳幹・小脳=椎骨脳底)。
  2. MRAで描出が消えている・細くなっている血管を探し、1と一致する血管を選ぶ。
  3. 内頸動脈閉塞なら梗塞はもっと広範(前+中大脳領域)で、MRAでも内頸動脈本幹が途絶する。中大脳動脈領域に限局していれば中大脳動脈閉塞。
  4. 病巣と麻痺は左右逆(右病変→左片麻痺)。

2-5 脳幹・小脳の症候群

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)

責任血管は後下小脳動脈〈PICA〉または椎骨動脈。四肢の運動麻痺は生じないのが特徴。

症状
病側顔面の温痛覚障害、Horner症候群、小脳失調、側方突進(lateropulsion)、嚥下障害・嗄声(疑核)
対側体幹・四肢の温痛覚障害(=解離性感覚障害
側方突進=延髄外側部(Wallenberg)と直結させる。小脳虫部の障害は前後の動揺を主とする体幹失調で一側への突進は典型でない。黒質緻密部=Parkinson症状、視床内側部=感覚障害・視床痛、内包後脚=対側の片麻痺。

交代性片麻痺

  • 定義=病側の脳神経麻痺+対側の片麻痺。責任病巣は必ず脳幹
  • 脳神経核のレベル:中脳=動眼神経/橋=三叉・外転・顔面神経/延髄=舌下・迷走・舌咽神経
  • 例)左の顔面神経麻痺+右片麻痺 → 顔面神経核のある左の橋が病巣(中部脳幹レベルの断面で正中近く)。
  • 放線冠・大脳基底核レベルの病巣では純粋運動性片麻痺は起こるが、交代性片麻痺は生じない(脳神経核が含まれないため)。

2-6 脳梗塞の病型別治療と特殊な血管病態

病態治療
アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞・一過性脳虚血発作〈TIA〉抗血小板薬(内服による再発予防が中心)
心原性脳塞栓症(心房細動)抗凝固薬(ワルファリン・DOAC)
頸動脈狭窄頸動脈血栓内膜剥離術〈CEA〉・頸動脈ステント留置術〈CAS〉
脳動脈瘤(くも膜下出血)クリッピング手術・コイル塞栓術
心房細動そのものアブレーション手術(不整脈治療)
超急性期の脳梗塞t-PA静注療法(発症4.5時間以内)・血栓回収療法

「ラクナ梗塞-頸動脈内膜剥離術」「心原性脳塞栓症-頸動脈ステント」「TIA-コイル塞栓術」「アテローム血栓性-アブレーション」はすべて誤りの組合せ。治療は"病変のある場所"に対応させる(細い穿通枝には手術しない、心臓の血栓には抗凝固)。

「脳梗塞は原因に関わらず抗血小板薬」は誤り → 心原性は抗凝固薬。「脳梗塞は脳動脈瘤の合併が多い」も誤りで、動脈瘤はくも膜下出血の原因。

多発ラクナ梗塞・虚血性白質病変

  • 高血圧+糖尿病を長期に治療、緩徐進行の歩行障害・易転倒、FLAIR像で大脳白質・基底核に多発する高信号 → 多発性脳梗塞。
  • 鑑別:正常圧水頭症も歩行障害を来すが画像は脳室拡大(側脳室前角)が主体。硬膜下血腫は三日月型。視床出血・くも膜下出血は急性発症。

もやもや病

  • 内頸動脈終末部の進行性狭窄+Willis動脈輪周囲の異常血管網(もやもや血管)。脳血管造影で診断。
  • 小児・若年は過換気で誘発される一過性脳虚血発作(熱いラーメンを吹く、笛を吹く、啼泣)。成人は出血発症が多い=二峰性。
  • 若年・既往なし・繰り返す数分の片麻痺+過換気誘発、というキーワードでアテローム性脳梗塞と切り分ける。
同じ設問に並ぶ他の誤答肢も一緒に切る。脳炎発熱・意識障害・痙攣が主体で、過換気で誘発され数分で回復する脱力は説明できない。脳腫瘍進行性の局所症状・頭蓋内圧亢進が主で、完全に回復する一過性発作を繰り返す形は典型でない。硬膜動静脈瘻拍動性耳鳴・頭蓋内出血が主症状で、Willis動脈輪周囲のもやもや血管網は呈さない。アテローム性脳梗塞動脈硬化を背景とする高齢者に多く、25歳・既往歴なしと合わない。

2-7 脳出血の好発部位と症候

部位(頻度)症候CT上の位置
被殻(約40%・最多)対側の片麻痺・感覚障害、病巣側への共同偏視レンズ核=基底核レベルの外側(外包の内側)
視床(約15%)感覚障害が運動障害より目立つ、内下方への共同偏視(鼻先を見る眼位)、脳室穿破しやすい第三脳室の側方、脳深部の正中寄り
皮質下部位に応じた巣症状(対側感覚障害・失語など)脳表近くの皮質直下
小脳(約10%)運動麻痺なし・体幹失調・起立歩行不能・嘔吐・後頭部痛・回転性めまい後頭蓋窩(画像下方の正中後方)
橋(約10%)意識障害・四肢麻痺・縮瞳・除脳硬直脳幹レベルの断面
  • 放線冠は側脳室の外側上方の白質で、被殻より外側かつ高い断面。
  • 発症様式は活動中・入浴中の突然発症で、意識障害+片麻痺が典型。急性期の血腫はCTで高吸収域(HU 50〜70)
  • 「明らかな運動麻痺がないのによろけて立っていられない」=小脳出血を強く疑う。
  • 受傷のエピソードがなければ脳挫傷は考えにくい(脳挫傷は外傷に伴う病態)。

「高血圧性脳出血で最も多いのは小脳・視床」は誤り → 被殻が最多、次いで視床

2-8 くも膜下出血と頭蓋内血腫の鑑別

くも膜下出血の診断の流れ

  1. まず頭部単純CT(第一選択)。脳底槽・シルビウス裂・脳溝にヒトデ状・五角形の高吸収域。迅速・簡便で優先度が最も高い。
  2. CT陰性でも臨床的に疑わしければ腰椎穿刺(血性髄液・キサントクロミー)。第一選択ではない——頭蓋内圧亢進時は脳ヘルニアの危険がある。
  3. 出血源(動脈瘤)の精査は脳血管撮影〈DSA〉・MRA・CTA
  4. 再破裂予防にクリッピング手術またはコイル塞栓術
頭部単純X線・脳血流シンチグラフィは急性期くも膜下出血の診断に役立たない。頸動脈超音波は頸部血管の狭窄・プラーク評価用で頭蓋内出血は評価できない。MRIのT1・T2強調像は急性期のくも膜下出血を髄液と区別しにくく、CTに劣る。

血腫の形で分ける

病態CT像の形成因・経過
硬膜外血腫凸レンズ型(両凸)・頭蓋骨内板に密着・縫合線を越えない中硬膜動脈損傷。受傷後に意識清明期がある
急性硬膜下血腫三日月型(凹レンズ)・高吸収架橋静脈損傷
慢性硬膜下血腫三日月型・低〜等吸収高齢者の軽微な頭部外傷後、数週間以上かけて緩徐に進行
くも膜下出血脳溝・脳槽に沿って線状・ヒトデ状脳動脈瘤破裂
皮質下出血脳実質内の塊状脳表近くの出血。骨には接しない
脳動静脈奇形〈AVM〉異常血管塊として描出均一な血腫像にはならない

2-9 画像診断の使い分け

CTの吸収値

高吸収域(白)低吸収域(黒)
急性期の出血(脳出血・くも膜下出血・急性硬膜下血腫・硬膜外血腫)、石灰化(脈絡叢)、骨脳梗塞慢性期(壊死・嚢胞化)、浮腫、脂肪、空気

急性期の脳梗塞はCTで写りにくく(early CT signに乏しい)、慢性期に明瞭な低吸収域となる。

CTとMRIの比較

項目CTMRI
撮影時間短時間(救急向き)長い
被ばくあり(X線を使う)なし
急性期の脳出血有用(高吸収で即座に描出)CTに劣る
急性期の脳梗塞初期変化に乏しく苦手拡散強調像で有用
脳幹・後頭蓋窩アーチファクトが出て見にくい描出に優れる

MRIの撮像法

撮像法得意な病変・信号の基本発症数時間(超急性期)の脳梗塞での信号
拡散強調像〈DWI〉水分子の拡散制限を捉え、発症数十分〜数時間の超急性期・急性期脳梗塞を高信号で描出高信号(最も早く出る)
FLAIR脳脊髄液を黒く抑制。陳旧性梗塞・虚血性白質病変を高信号で描出まだ目立たない(数時間〜以降に高信号へ)
T2強調像水(髄液は高信号)。梗塞巣も浮腫により高信号まだ目立たない(急性期以降に高信号)
T1強調像水が黒く写る(髄液は低信号)。高信号になるのは脂肪・亜急性期の出血(メトヘモグロビン)・高蛋白/高濃度の液体・造影後の病変低信号〜ほぼ等信号。高信号にはならない
T2*(スター)強調像・SWI微小出血・ヘモジデリン沈着を低信号で鋭敏に検出梗塞巣そのものは描出しない(出血性変化の検出用)
MRA頸動脈狭窄・脳動脈瘤・主幹動脈の閉塞(造影剤不要)責任血管の閉塞・途絶として写る

「陳旧性梗塞の検索に拡散強調像を用いる」は誤り → DWIは急性期用。陳旧性梗塞はFLAIR・T2強調像で評価する。

「T2強調像で髄液は低信号」は誤り → T2で髄液は高信号(低信号はT1)。「T2で脳梗塞の信号変化はみられない」も誤り。

「超急性期の脳梗塞はT1強調像で高信号」は誤り → 超急性期の梗塞巣で起きているのは細胞性浮腫=組織の水分が増える変化。T1は水が黒く写るので、T1では低信号(またはほぼ等信号)になり、高信号にはならない。T1で高信号を見たらまず脂肪か亜急性期の出血を疑う。

「超急性期の脳梗塞をT1で見る」という選択肢は、信号の向き(高/低)もタイミングも両方違うので切れる。T1に求める役割は梗塞の検出ではなく、脳の形態を見ることと、脂肪・出血・造影効果の識別

超急性期脳卒中の画像戦略

  1. 突然発症の片麻痺・構音障害 → まず頭部単純CTで出血を除外(出血なら即座に高吸収域として写る)。
  2. CTで異常なし+梗塞を疑う → 次はMRI(拡散強調像)。発症1時間でも高信号として検出できる。PET・SPECT・造影CT・単純X線はこの場面の第一選択にならない。
  3. t-PAの適応判断(発症4.5時間以内)に直結するため迅速性が問われる。
  4. 脳塞栓の原因検索にはHolter心電図(発作性心房細動の検出)、脳動脈瘤の検索には脳血管撮影。

この場面で並ぶ誤答肢の切り方脳腫瘍緩徐進行が本態で、「突然発症・発症3時間」という急性の経過を取らない(進行性の巣症状・頭蓋内圧亢進で受診する)。脳動静脈瘻・脳動静脈奇形などの血管奇形=画像上は異常血管塊として描出されるのが本態で、突然の片麻痺+単発のDWI高信号病変という所見は作らない。脳出血=CTで即座に高吸収域として写るので、まずCTを撮った時点で除外される。くも膜下出血=突然の激しい頭痛が主症状で片麻痺は典型的でない。

2-10 片麻痺の回復過程・評価とADL指導

回復の法則

  • 順序=弛緩(発症直後は筋緊張低下)→連合反応→共同運動→分離運動。連合反応が共同運動より
  • 回復は近位から遠位へ進む=遠位(手指)の回復が遅れる
  • 下肢のほうが回復しやすく、上肢の回復が遅れる
  • 痙縮パターン=Wernicke-Mann肢位。上肢は屈筋優位(肩内転・内旋、肘屈曲、前腕回内、手指屈曲)、下肢は伸筋優位(股伸展・内転、膝伸展、尖足内反)。

「近位の回復が遅れる」「下肢の回復が遅れる」「共同運動の後に連合反応が出る」「発症直後は筋緊張が高まる」はすべて誤り。上の4つと逆に覚えていないか毎回確認する。

Brunnstrom法ステージ

ステージ上肢手指下肢
弛緩性麻痺。随意運動なし
連合反応・わずかな随意運動、痙縮出現わずかな手指屈曲わずかな随意運動
共同運動が随意的に最大に出現。座位で肩内転・肘伸展・前腕回内(伸筋共同運動)、座位で肩90度外転全指の集団屈曲(鉤形握り)。随意的な伸展は不可座位・立位での股・膝・足の同時屈曲(共同運動)
分離運動が出始める。手を腰の後ろへ回す、肘90度屈曲位での前腕回内外横つまみ、わずかな半随意的手指伸展座位で踵を床につけたまま足関節背屈/座位で膝90度以上屈曲
分離運動が進む。肩90度外転位で肘伸展、前方挙上で肘伸展、肘伸展位で肩90度屈曲し前腕回内外対向つまみ・筒握り・球握り、随意的な手指の集団伸展立位・股関節伸展位での膝屈曲、立位・膝伸展位での足関節背屈
協調運動がほぼ正常。個々の指の分離運動立位での股関節外転、座位での下腿の内外旋
判定のコツ=共同運動パターンを脱した分離運動があるか。屈筋共同運動=肩甲帯挙上・後退+肩外転外旋+肘屈曲+前腕回外/伸筋共同運動=肩内転内旋+肘伸展+前腕回内。上肢・手指・下肢は別々に判定するので、3つとも同じステージとは限らない。

「手指Ⅲ=不十分な全指伸展」は誤り → 手指Ⅲは集団屈曲で、不十分な伸展はⅣ以降。

「下肢Ⅲ=座位で踵接地のまま足関節背屈」は誤り → それは下肢Ⅳ。「下肢Ⅳ=立位で股伸展位の膝屈曲」も誤りで、それは下肢Ⅴ。「下肢Ⅴ=立位で股外転」も誤りで、股外転や下腿内外旋はより高度な段階。

SIAS(脳卒中機能評価法)

  • 22項目・合計76点で運動・感覚・可動域・疼痛・体幹・視空間認知・言語・健側機能を多面的に評価。
  • 上肢近位の運動機能は knee-mouth test(膝から口へ手を運ぶ)で判定。
  • 採点=0(まったく動かない)/1A・1B・2(課題は遂行できるが共同運動が強く分離運動が乏しい)/3(中等度の分離)/4(軽度拙劣)/5(正常)。
  • Brunnstrom stageとは別の尺度なので混同しない。

ADL指導の優先順位と合併症

  • 上肢Ⅱ・下肢Ⅲ=重度麻痺。この段階は非麻痺側を主に使う動作から自立を図る。
  • 指導しやすい:ベッド上の起き上がり(非麻痺側上肢で支持し肘立て位を経る)、更衣(シャツを着る)
  • 優先度が低い(難度が高く転倒リスク大):浴槽に入る(浴槽縁をまたぐ=片脚立位のバランスと熱傷リスク)、床から立ち上がる(強い下肢支持と動的バランス)、階段を上る(麻痺側下肢の支持・分離運動が必要)。
  • 更衣の原則=着患脱健(着るときは麻痺側から、脱ぐときは非麻痺側から)。
  • 重度感覚障害+肩関節亜脱臼を合併する場合は、麻痺側上肢への荷重・牽引を避けるのが最優先 → 麻痺側を圧迫する起き上がりや四つ這いからの立ち上がりは不適で、座位での更衣が最も安全。アームスリングやポジショニングで亜脱臼を予防する。
  • その他の合併症:肩手症候群、視床痛、嚥下障害、廃用症候群(急性期からの早期離床で予防)。

脳卒中とてんかん

  • 高齢初発の症候性てんかんの原因は脳血管障害(脳卒中後)が最多
  • 発症率は乳幼児期と高齢期に高い二峰性=70歳代のほうが30歳代より高い。
  • けいれんを伴わない発作型もある(欠神発作・複雑部分発作)。
  • West症候群(点頭てんかん)は乳児期(生後3〜11か月)発症でヒプスアリスミアを示す(3〜5歳ではない)。
  • てんかんによる突然死〈SUDEP〉のリスクは全身性の強直間代発作で高く、欠神発作では低い。