第7章|高次脳機能障害・認知症

神経内科学 第7章

7-1 機能局在と病巣—症状の対応

高次脳機能の問題はほぼ「どこが壊れると何が出るか」に還元できる。まず半球の側性、次に葉、最後に皮質下・脳幹の順で押さえる。

半球の側性(右利きでは左が優位半球)

半球出現する症状
優位半球(多くは左)失語(Broca・Wernicke)/観念失行・観念運動失行/Gerstmann症候群/純粋失読/失書
劣位半球(多くは右)半側空間無視(左無視)病態失認/着衣失行/構成障害/地誌的障害

「右利き+右半球病変」なら劣位半球症状(左半側空間無視・病態失認・着衣失行)を選ぶ。失語・観念失行・左右失認・純粋失読はすべて左半球症状なので、この設定では消える。

葉別の機能局在

部位代表症状
前頭葉遂行機能障害・注意障害・脱抑制・情緒/人格変化・保続・肢節運動失行Broca失語(左)・歩行失行・運動麻痺
頭頂葉感覚障害・触覚失認・視覚失調・構成障害・観念運動失行/左=Gerstmann症候群/右=半側空間無視
側頭葉Wernicke失語(左)・聴覚の障害・記憶障害(内側=海馬)・相貌失認(紡錘状回)
後頭葉視覚失認・皮質盲・Anton症状・半盲・純粋失読(左+脳梁膨大部)
脳梁離断症候=拮抗失行(左右の手が相反する動きをする)・左手の失行

脳回・連合野レベル

  • Broca野(左下前頭回)=運動性言語。損傷で非流暢性失語。聴覚ではない
  • Wernicke野(左上側頭回後部)=感覚性言語=言語理解。運動のプログラミングではない
  • 角回=読字・書字・計算。損傷でGerstmann症候群。情動は扁桃体・辺縁系
  • 縁上回=空間的構成。損傷で構成障害・観念運動失行
  • 前頭前野=遂行機能・行動の抑制・社会的行動の制御

Gerstmann症候群=左角回病変。4徴は失算・失書・手指失認・左右失認(「指・左右・算・書」)。健忘・失構音・遂行機能障害・半側空間無視は含まれない。

皮質下・脳幹・小脳

病巣出現しやすい症状
内包後脚錐体路・感覚路が通る → 対側の運動麻痺・感覚障害(前脚は前頭橋路で感覚障害は出ない)
被殻対側の片麻痺・感覚障害(作話は出ない)
視床感覚の中継核 → 対側の感覚障害・感覚脱失、慢性期に視床痛。覚醒・注意・記憶にも関与し注意障害を伴う。下方共同偏視
放線冠運動・感覚の伝導路。感覚性失語は生じない
意識障害・四肢麻痺・縮瞳(pinpoint)・眼球運動障害・複視
中脳背側垂直性眼球運動障害(Parinaud症候群)
延髄背外側Wallenberg症候群。嚥下障害・嗄声・交代性感覚障害・Horner症候群・小脳性失調・回転性めまい。片麻痺は出ない
小脳半球・歯状核同側の協調運動障害(運動失調・測定異常・企図振戦)・断綴性言語。虫部は体幹失調
視交叉両耳側半盲(失語ではない)

交叉の原則を取り違えさせる出題が定番。大脳・脳幹の病変=対側症状(錐体路は延髄で交叉)、小脳の病変=同側症状。「右小脳半球 ― 左上下肢の運動失調」は誤り → 正しくは右上下肢の運動失調。

よく出る誤りの組合せ → 正しい対応。

「前頭葉 ― 半側空間無視」→ 正しくは右頭頂葉/「前頭葉 ― 聴力障害」→ 聴覚は側頭葉/「脳幹 ― 人格障害」→ 人格は前頭葉/「視床 ― 嚥下障害」→ 嚥下は延髄(疑核)/「視床 ― 視力障害」→ 視床は感覚障害/「橋 ― 半側空間無視」「小脳 ― 反響言語」「被殻 ― 作話」はいずれも誤り(作話はKorsakoff症候群など記憶系)。

7-2 失語症の分類—流暢性・理解・復唱の3軸

失語型は発話の流暢性・聴覚理解・復唱の3軸だけで機械的に決まる。表を丸ごと覚えれば分類問題は全部解ける。

発話聴覚理解復唱主な病巣
Broca(運動性)非流暢・努力性比較的良好不良左下前頭回(Broca野)
Wernicke(感覚性)流暢・錯語・ジャルゴン重度に障害不良左上側頭回後部
伝導流暢・音韻性錯語・接近行為良好不良(最も目立つ)弓状束・縁上回付近
健忘(失名詞)流暢・喚語困難・迂言良好良好角回付近ほか
超皮質性運動非流暢・発話開始困難比較的良好良好Broca野の前上方
超皮質性感覚流暢・反響的復唱障害良好側頭頭頂移行部
全失語非流暢障害不良左中大脳動脈領域の広範

切り分けの順序。①非流暢なら Broca・超皮質性運動・全失語 → 復唱良好なら超皮質性運動、理解不良なら全失語。②流暢なら 理解不良=Wernicke・超皮質性感覚(復唱良好なら超皮質性感覚)、理解良好=伝導(復唱不良)と健忘(復唱良好)。「復唱が保たれる=超皮質性」「復唱だけ落ちる=伝導」が最重要の対比。

症状語の対応。音韻性錯語(「とけい」→「とげい」)と自己修正の繰り返し(接近行為)=伝導失語/ジャルゴン(意味不明な発話の連続)=Wernicke失語など重度の感覚性失語/迂言(遠回しな言い換え)=健忘失語。障害の重さはBroca失語で軽〜中等度にとどまることが多い。

入れ替えのひっかけ → 正しくは。

「Wernicke失語は聴覚理解が保たれる」は誤り → 理解が高度に障害される。

「伝導失語は復唱が保たれる」は誤り → 復唱が選択的に障害される。

「超皮質性失語は復唱が障害される」は誤り → 復唱は良好

「健忘失語は非流暢/理解が障害される」は誤り → 流暢・理解良好・復唱良好で喚語困難だけ。

「超皮質性運動失語は流暢」は誤り → 非流暢

「伝導失語の本質は物品呼称ができないこと」は誤り → 本質は復唱障害

7-3 失語症患者への対応

Broca失語は理解が比較的保たれ、表出が困難。したがって配慮は「理解を助ける」より「表出の負担を減らす」方向に置く。

  • 「はい/いいえ」で答えられる閉じた質問にする(表出困難への第一選択)
  • 文字を使うなら易しい漢字。漢字は表意文字で意味を直接つかめ、仮名より理解されやすい
  • 使用頻度の高い身近な語を使う/短く区切った平易な文で話す/ゆっくり、急がせず待つ
  • ジェスチャー・絵・実物・指さしなど非言語手段は積極的に併用してよい

不適切な対応 → 正しくは。

「出にくい言葉を先回りして言う」→ 発話の機会を奪う。待つ・選択肢を示す。

「文法の誤りを即座に細かく修正する」→ 意欲を削ぐ。意図の汲み取りを優先

「できるだけ長い文章で話す」「使用頻度の低い単語を用いる」→ 逆。

「ジェスチャーは用いない」→ 逆。ただし聴覚理解が良好な例ではジェスチャーは最優先の配慮にならない(表出補助が要点)。

「メモをとらせる」→ 失語では失書を伴うことが多く実用的でない。

「コミュニケーションエイド(AAC)の導入」→ 重度・慢性期で検討する手段。発症1か月で理解良好なら時期尚早。

7-4 失行の鑑別と検査

失行=運動麻痺・感覚障害・理解力低下がないのに、目的に沿った動作が遂行できない状態。型ごとの「何ができないか」を一対一で覚える。

障害の中身典型例病巣
観念失行道具の用途・使用概念と系列動作の障害。実際に物を持たせても誤る杖を上下逆に使う/くしを歯ブラシのように使う/スプーンの柄に食物を乗せる/スプーンの柄を握りこむ/装具装着の手順を繰り返し間違える左(優位)頭頂葉
観念運動失行命令・模倣での単純動作ができない。自発的にはできる(自動性と意図性の乖離)「歯を磨くまねをして」ができないが実際の歯磨きはできる/敬礼・バイバイ・おいでおいでの模倣ができない/キツネの指の模倣ができない左頭頂葉(縁上回)
肢節運動失行習熟した巧緻運動が拙劣になる。自発・命令を問わずぎこちないボタンをとめる動作がぎこちない前頭葉(運動前野)・皮質基底核変性症でも
着衣失行身体と衣服の空間関係の把握障害服の左右の袖に腕を通せない/上着の左右を間違える右(劣位)頭頂葉
構成失行空間的に組み立てる行為の障害図形の模写・積み木ができない頭頂葉(縁上回)
拮抗失行左右の手が相反する動きをする一方の手の意図的動作をもう一方が妨げる脳梁(離断症候)

検査課題も型で決まる。観念失行=お茶を入れる・金槌で釘を打つ・紙を折って封筒に入れる(実物の系列操作)。観念運動失行=「歯を磨くまね」「おいでおいで」などのパントマイム・ジェスチャー模倣。日常物品の名前を答えてもらうのは呼称課題=言語(失語)の検査であり、失行の検査ではない。「今何時ですか」=見当識、「右手の薬指はどれですか」=手指失認、「絵を覚えてください」=記銘力の検査。

定義の入れ替えに注意 → 正しくは。

「観念運動失行=適切に道具を使用できない」は誤り → それは観念失行

「観念失行=敬礼など単純な口頭指示に従った動作ができない」は誤り → それは観念運動失行

実物を渡せば使えるのが観念運動失行、実物を渡しても誤るのが観念失行、という切り分けが決め手。

「食事のときスプーンの柄を握りこんでしまう」型の設問で並ぶ他の肢の切り方。運動維持困難閉眼・挺舌・把握など、いったん始めた姿勢や運動を持続できない状態(保持が続かない)。握りこみが止まらない=持続してしまうのとは向きが逆なので該当しない。視覚性失認ならスプーンを見ても何か分からないはずで、道具に手を伸ばして操作しようとしている時点で否定される。運動麻痺は筋力低下が主で「用途どおりに使えない」という動作パターンの誤りにはならない。深部覚障害は手指の位置覚が失われて動作が拙劣になるだけで、道具の使い方そのものは崩れない。「使い方が壊れている」なら観念失行

7-5 失認と半側空間無視

失認=感覚は保たれているのに対象を認知できない障害。感覚障害・失語・失行と区別する。

失認症状病巣
視覚失認見ても何かわからない(触ればわかる)後頭葉〜側頭後頭移行部
相貌失認顔を見ただけでは誰かわからない(声を聞けばわかる)両側または右の後頭側頭葉腹側(紡錘状回)
触覚失認触っても物がわからない頭頂葉(体性感覚野・二次感覚野)
病態失認自分の麻痺・障害を認識しない。重度麻痺でも意識せず立ち上がろうとする劣位(右)半球。半側空間無視と合併しやすい
純粋失読読めないが書ける。指でなぞると読める左後頭葉〜脳梁膨大部
Anton症状皮質盲があるのに見えると言い張る両側後頭葉
視覚失調見た対象へ正確に手を伸ばせない頭頂葉後方

半側空間無視

  • 右半球(特に右頭頂葉)損傷 → 左半側空間無視が圧倒的に多い。麻痺ではなく「気づかない」障害
  • 検査:線分二等分試験(中点が健側=右へ偏る)、線分抹消試験(無視側=左の線分を消し残す)、標準化された検査はBIT(行動性無視検査)
  • 臨床像:車椅子で左の壁や人にぶつかる/左側からの声かけへの反応が遅い/常に右を向く/左の食事を残す

「純粋失読は指でなぞっても読めない」は誤り → なぞれば読めるのが純粋失読の鑑別点。

「半側空間無視は前頭葉病変で生じる」は誤り → 主体は右頭頂葉

右半球病変の症例で「装具装着の手順を間違える」「系列動作が順番通りにできない」を選ぶのは誤り → それは左半球の観念(運動)失行

7-6 半側空間無視への理学療法

治療原則はただ一つ、無視側(左)へ注意を引き込むこと。健側(右)に手を加える対応・無視側を回避させる対応はすべて誤りになる。

適切不適切
視覚探索課題(左空間を能動的に探索させる)右側から聴覚刺激を与える(健側刺激)
プリズム適応療法=対象が右へ偏位するプリズム眼鏡でリーチ動作を反復し、左への注意を改善する左にある視覚標的を右へ移動させる(無視側の回避)
後頸部(無視側=左)の筋への振動刺激・経皮的通電刺激後頸部筋への振動刺激(健側で効果なし)
カロリック刺激(冷水による前庭刺激)体幹を右へ回旋させる(左がさらに見えなくなる)
車椅子駆動時に進行方向の左側に注意するよう指導する車椅子の右側のブレーキレバーを延長する(無視対策にならない)

プリズム眼鏡は「右へ偏位させる」ものを使う。視野を右にずらして適応させた結果、左空間への注意が広がるという仕組みで、「左へずらす」ではない点に注意。

7-7 記憶障害・注意障害・遂行機能障害

障害中核症状病巣・原因
記憶障害前向性健忘=新しい出来事を覚えられない(毎日初対面のように挨拶する)/逆行性健忘=発症前の記憶が想起できない海馬・側頭葉内側。前交通動脈瘤破裂後の前脳基底部・前頭葉内側面
注意障害持続・選択・分配・転換の低下。二重課題が困難前頭葉、視床など広範
遂行機能障害目標設定・計画・優先順位づけ・段取りができない。仕事内容は覚えているのに何から手を付けるか決められない前頭前野(背外側部)
脱抑制・人格変化社会的に不適切な行動、我慢できない、無関心、保続、環境依存前頭葉(前頭前野・眼窩面)

くも膜下出血(前交通動脈瘤破裂)後は、前頭葉内側面・前脳基底部の障害により前向性健忘・自発性低下・人格変化が典型。着衣失行(右頭頂葉)・観念運動失行(左頭頂葉)・左半側空間無視(右頭頂葉)・相貌失認(後頭側頭葉)はいずれも部位が異なり、この病態では選ばない。

外傷性脳損傷(びまん性軸索損傷:DAI)

  • 回転加速度による剪断力で軸索が広範に断裂。脳幹・脳梁に強く及ぶ
  • CTで明らかな血腫が乏しいのに意識障害が重いのが特徴(「広く・深く・意識障害」)
  • 身体機能が保たれても注意障害・遂行機能障害・脱抑制が残り、復職後に問題化しやすい

DAIについての誤り → 正しくは。

「急性硬膜下血腫を合併しやすい」→ 血腫は局所性脳損傷の合併症。

「重度の感覚障害を合併しやすい」→ 主体は意識障害・高次脳機能障害・失調。

「行動障害は早期に改善しやすい」→ 遷延し回復は緩慢。

「バランス障害は軽度」→ 脳幹・小脳系が障害され強く出やすい

鑑別キーワード。遂行機能障害=段取り・優先順位/記憶障害=新しいことを覚えられない/注意障害=集中の持続・選択ができない/失行=動作・道具使用ができない/失認=認知できない。

7-8 高次脳機能検査—略語と対象機能

検査評価する機能
CAT(標準注意検査法)注意(持続・選択・分配・転換)
TMT(Trail Making Test)注意(持続・転換)・処理速度
かな拾いテスト注意・前頭葉機能(失語の検査ではない)
BIT(行動性無視検査)半側空間無視
BADS/WCST遂行機能(WCSTは概念化・認知的柔軟性)
Stroop test前頭葉機能(抑制・反応速度)
RBMT/WMS-R記憶(RBMTは日常記憶)
SLTA/WAB失語症
VPTA(標準高次視知覚検査)視覚失認・視空間障害
Kohs立方体組み合わせ検査非言語性知能・構成能力
WAIS-Ⅳ知的能力の包括的評価(特異性が低く急性期の優先度は低い)
FAST脳卒中の初期スクリーニング(顔面・上肢・言語)。認知機能検査ではない

入れ替えの定番 → 正しくは。

「遂行機能障害 ― BIT」は誤り → BITは半側空間無視

「半側空間無視 ― BADS」は誤り → BADSは遂行機能

「失語 ― かな拾いテスト」は誤り → 失語はSLTA・WAB。

「記憶障害 ― Kohs立方体」は誤り → 記憶はRBMT・WMS-R。

左片麻痺で右を向き左からの声かけに反応が遅い症例で優先度が最も高い検査はBIT

7-9 高次脳機能障害とADL・動作指導

歩行自立との関連

歩行自立には運動麻痺・深部覚・バランス・注意・空間認知が直接関与する。両側性片麻痺・深部覚障害・注意障害・半側空間無視はいずれも歩行自立を妨げる。失語症は言語の障害であり、歩行能力そのものとの関連が最も少ない(指示理解には影響しうる)。

前頭葉性(遂行機能・注意)障害への動作指導

原則不適切な指導
課題を小さく分割し、手順を1つずつ確認しながら進める起き上がる方向を次々と変えて練習する(手順は一貫・単純化する)
一度に一つに注意を向けさせる股・膝・足関節に同時に注意を払わせる(分配注意の負荷が過大)
誤りはその場でフィードバック(エラーレス学習)自分で気付くまで指摘しない(自己モニタリングが低下している)
一つの動作を確実にしてから次へ進む上衣と下衣を交互に練習する(転換の負荷が増す)

移乗でフットサポートに足を乗せたまま立ち上がろうとする=目の前の対象に行動が引きずられ手順を踏めない状態で、前頭葉障害(遂行機能・行動制御・保続・環境依存)を反映する。ブレーキのかけ忘れなど手順の脱落も同様。

摂食嚥下の5期と高次脳機能

内容障害の例
先行期(認知期)食物を認知し口へ運ぶRSST・改訂水飲みテスト・食物テストが良好で咀嚼も可能なのに自分で口に運ぼうとしない=先行期障害(失認・注意障害・意欲低下)
準備期咀嚼・食塊形成義歯不適合、観念失行
口腔期舌で咽頭へ送り込む舌運動麻痺
咽頭期嚥下反射で食道へ(誤嚥のリスク期)Wallenberg症候群=疑核障害で輪状咽頭筋が弛緩せず食道入口部開大不全
食道期蠕動で胃へ胃食道逆流

脳血管障害の治療技法

  • CI療法(拘束誘発運動療法)=健側を拘束し麻痺側上肢を集中的に使わせる
  • トレッドミル歩行練習(体重免荷併用を含む)=歩行能力の改善
  • 認知行動療法=脳卒中後うつに有効
  • プリズム適応療法=半側空間無視

ボツリヌス毒素療法は「痙縮」に対する治療。神経筋接合部でアセチルコリン放出を抑えて筋緊張を下げる。弛緩性麻痺(筋緊張低下)に用いるのは不適切で、麻痺を悪化させる。

7-10 認知症の鑑別と治療可能な認知症

疾患中核・特徴症状画像・血流
Alzheimer型近時記憶(エピソード記憶)障害・取り繕い・緩徐進行・最多側頭葉内側(海馬)から始まる萎縮。血流低下は頭頂葉・後部帯状回・楔前部(後頭葉は保たれる)
Lewy小体型具体的な幻視・パーキンソニズム・認知の変動・REM睡眠行動障害後頭葉の血流・代謝低下(視覚野=幻視と結びつく)
前頭側頭型(Pick病)脱抑制・常同行動・人格変化前頭葉と側頭葉に限局した萎縮・血流低下
血管性情動失禁・まだら認知症・階段状進行梗塞/出血の分布に応じた多巣性・不均一な血流低下
進行性核上性麻痺垂直性眼球運動障害・易転倒・頸部後屈中脳被蓋の萎縮
大脳皮質基底核変性症他人の手徴候・肢節運動失行・非対称性パーキンソニズム非対称性の皮質萎縮

血流低下の部位で選ばせる設問は、後頭葉=Lewy小体型/頭頂葉・後部帯状回=Alzheimer型/前頭葉・側頭葉前部=前頭側頭型の3対応で決まる。残る肢も部位で切れる。HIV認知症(HIV関連神経認知障害)皮質下優位(白質・基底核)のびまん性の変化で、後頭葉に限局した血流低下ではない。精神運動の緩慢・注意集中困難が前景に立つ。血管性認知症=梗塞・出血の分布どおりのまだら(不均一)な血流低下で、特定の葉に限局しない。

組合せの入れ替えが最頻出 → 正しくは。

「進行性核上性麻痺 ― 取り繕い」→ 取り繕いはAlzheimer型

「進行性核上性麻痺 ― 他人の手徴候」→ 他人の手徴候は皮質基底核変性症

「皮質基底核変性症 ― 認知の変動/幻視」→ どちらもLewy小体型

「Lewy小体型 ― 肢節運動失行/アテトーゼ」→ 肢節運動失行は皮質基底核変性症

「Alzheimer型 ― 垂直性眼球運動障害/パーキンソニズム」→ それぞれ進行性核上性麻痺Lewy小体型

治療可能(treatable)な認知症

疾患治療
正常圧水頭症シャント術(VPシャント)=脳外科手術で改善しうる
慢性硬膜下血腫穿頭血腫除去術=脳外科手術で改善しうる
甲状腺機能低下症ホルモン補充(手術ではない)
Wernicke脳症ビタミンB1投与(手術ではない)

特発性正常圧水頭症(iNPH):三徴は歩行障害・認知機能低下・尿失禁で、歩行障害が最も早く出て最も改善しやすい。診断は髄液タップテスト(腰椎穿刺で髄液を排出し歩行が改善するかをみる)。画像はDESH=側脳室拡大+高位円蓋部の脳溝狭小化+シルビウス裂の開大。皮質の限局萎縮ではない点でPick病と区別する。

iNPHで「誤っているのはどれか」と問われたら髄液所見を疑う。iNPHは非炎症性の病態で、髄液圧は正常(=正常圧水頭症)・細胞数も正常「髄液で細胞増加がみられる」は誤り → 髄液の細胞増加は髄膜炎・脳炎など炎症性疾患の所見。

正しい記述として並ぶ側も潰しておく。シャント術はVPシャント(脳室-腹腔)だけでなくLPシャント(腰椎-腹腔)も用いられるので「腰椎-腹腔シャント術が用いられる」は正しい(VP・LP・VA〈脳室-心房〉のいずれもありうる)。歩行障害の具体像は小刻み・すり足・開脚(足を外に広げた不安定な歩行)ですくみ足を伴う=「小刻み歩行がみられる」は正しい。認知症状は記銘力低下だけでなく自発性・意欲の低下を含む=「自発性の低下がみられる」も正しい。脳室拡大(DESH)も上記のとおり正しい。

Lewy小体型・進行性核上性麻痺は神経変性疾患で手術適応はない。慢性硬膜下血腫は頭蓋骨内面に沿う三日月状の血腫、正常圧水頭症は対称性の脳室拡大、という画像の違いも合わせて押さえる。