第1章|心電図とリスク管理

心疾患・心リハ 第1章

1-1 心電図の基本と期外収縮の見分け方

心疾患の理学療法では、モニター心電図・12誘導心電図を見て「運動を続けてよいか」を判断する。国試の心電図問題は、まずQRS幅と先行P波の有無、次にRR間隔が整か不整かを見る順で解ける。

波形と間隔の意味

部分意味変化したときに考えること
P波心房の興奮消失して基線が細かく揺れる(f波)=心房細動
PQ(PR)間隔房室伝導時間0.20秒を超える延長=Ⅰ度房室ブロック。房室伝導の抑制はPRの延長で見る
QRS幅心室内の伝導0.12秒以上の幅広いQRS=心室起源(心室期外収縮・心室頻拍)または脚ブロック
ST部分心筋虚血の指標上昇=貫壁性虚血(急性心筋梗塞など)/低下=心内膜下虚血(労作性狭心症・運動誘発性虚血)
QT間隔心室の脱分極+再分極=心室筋の活動電位持続時間QT延長=再分極の遅れ=活動電位持続時間(不応期)の延長。Ⅲ群抗不整脈薬などで起こる

心電図は電気活動の記録であり、心収縮力の増強は心電図の間隔からは判定できない。治療前後の比較問題では「どの間隔が変わったか(RR=心拍数、PR=房室伝導、QT=再分極)」だけを見る。

心拍数の読み方

  • 記録速度25mm/秒では1大マス(5mm)=0.2秒。
  • 心拍数(/分)≒300÷RR間隔の大マス数(または60÷RR間隔の秒数)。
  • 例:RRが4大マス(0.8秒)→約75/分。3大マス(0.6秒)→約100/分。
  • 60/分未満=徐脈、100/分超=頻脈。

期外収縮・心房細動の見分け

所見先行P波QRS幅その他の特徴
心室期外収縮(PVC)
=心室性期外収縮
なし幅広く変形(0.12秒以上)予定より早く出る。T波がQRSと逆向き。代償性休止を伴うことが多い
心房期外収縮(PAC)
=心房性(上室性)期外収縮
あり(形がやや異なる早期のP波)狭い(正常)基本調律は整で、その中に早期の拍が混じる
心房細動消失(基線がf波で細かく揺れる)通常は狭いRR間隔がバラバラ(絶対性不整)。冠動脈バイパス術後など開心術後に起こりやすい
心房粗動鋸歯状の粗動波狭い心室応答は規則的なことが多い
心室頻拍なし幅広い幅広いQRSが3拍以上連続
心室細動なしQRSとして判別できない規則的な波形がなく基線が不規則に揺れる。心拍出が失われる
洞性徐脈あり狭い規則的で60/分未満

判断の軸=「幅が広い=心室性、幅が狭い=上室性(心房性)」「P波が消えてRRがバラバラ=心房細動」。画像問題では「早期に出た幅広いQRS」を探すとPVCが見つかる。

WPW症候群は短いPR間隔とデルタ波が特徴で、RRの不整そのものを表す所見ではない。Ⅱ度房室ブロックは規則的なP波の一部にQRSが続かない(脱落する)所見で、全体がバラバラになる心房細動とは違う。

1-2 危険な不整脈・房室ブロック・ST変化

Lown分類(心室期外収縮の重症度分類)

グレード内容
0心室期外収縮なし
1散発性(30個/時未満)・単源性
2多発性(30個/時以上)・単源性
3多源性(多形性)=形の異なるPVCが混在
4A2連発(couplet)
4B3連発以上(心室頻拍)
5R on T(先行するT波の上に出現)

Lown分類は心室期外収縮だけの分類。グレード3以上は危険な不整脈として扱い、運動を中止して医師に報告する。同じ形のPVCが散発するだけ=単源性(グレード1〜2)で、形の違うPVCが混じる=多源性(グレード3)と見分ける。

房室ブロックの型とブロック部位

型心電図所見主なブロック部位運動療法との関係
Ⅰ度PQ間隔が0.20秒を超えて延長。脱落なし房室結節血行動態への影響が乏しく、これだけでは中止基準にならない
Ⅱ度 Wenckebach型(MobitzⅠ型)PQが徐々に延長して1拍脱落。休止は直前のRRの2倍未満。QRS幅は狭い房室結節迷走神経緊張でも生じ、比較的予後良好
Ⅱ度 MobitzⅡ型PQ一定のまま突然脱落ヒス束以下中止対象。Adams-Stokes発作の危険
Ⅲ度(完全)P波とQRSが無関係(房室解離)、補充調律房室結節〜ヒス束以下中止対象。ペースメーカ適応

洞結節の異常では、洞房ブロックは休止が基本のP-P間隔の整数倍になり、洞停止は整数倍にならない。どちらもP波ごと脱落し、休止の前にR-R間隔が段階的に短縮する変化はない(Wenckebach型との違い)。ヒス束以下・Purkinje線維など心室内の伝導障害ではQRS幅が広がる。QRSが狭いまま脱落していれば房室結節を考える。

ST変化と誘導の対応

誘導見ている部位主な責任血管
Ⅱ・Ⅲ・aVF下壁右冠動脈
V1〜V4前壁中隔左前下行枝
Ⅰ・aVL・V5・V6側壁左回旋枝
  • ST上昇はJ点が基線より上方に偏位しているかで判定する。右側胸部誘導(V1〜V2)でJ点が基線上にありなだらかに上行するのは生理的なパターンで、ST上昇とは判定しない。
  • 下壁のST上昇に対し、側壁誘導(aVLなど)では鏡像変化としてSTが低下しうる。
  • 運動中に出現する水平型・下降型のST低下は運動誘発性の心筋虚血を示す。運動前の記録と比べて基線より下がっていないかを見る。

1-3 心肺蘇生とAED

AEDのショック適応リズム=心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(pulseless VT)。心静止(asystole)と無脈性電気活動(PEA)はショック非適応で、胸骨圧迫を中心としたCPRを絶え間なく続ける。

リズム除細動理由・対応
心室細動適応心室が無秩序に細動し心拍出が失われている
(無脈性)心室頻拍適応AEDが自動解析でショック適応と判定する
心静止適応外電気活動がないので除細動は無効。CPRを続ける
洞性頻脈適応外心拍出は保たれている。原因への対応
房室ブロック適応外徐脈にはペーシングで対応する

成人の胸骨圧迫

  • テンポ:1分間に100〜120回。
  • 深さ:約5cm(6cmを超えない)。
  • 中断を最小限にして継続する。

「除細動は無秩序に痙攣しているリズムを止めて整えるもの」と考えると、電気活動のない心静止や、心拍出が保たれている洞性頻脈に使わない理由が分かる。

1-4 運動療法の開始・中止基準

心疾患の運動療法では「始めてよいか」「続けてよいか」を数値で判断する。基準は循環・呼吸・意識が安定しているかで一貫している。

運動を行わない・中止する目安(Anderson・土肥の基準などで扱われる代表的な数値)

項目運動を行わない・中止する目安
心拍数安静時120/分以上
血圧安静時の収縮期200mmHg以上/拡張期120mmHg以上。著明な低血圧(収縮期60mmHgなど)も不可
体温38℃以上の発熱
酸素化SpO₂(SaO₂)90%未満
呼吸頻呼吸(おおむね30回/分以上)
不整脈心室頻拍、多源性・連発する心室期外収縮などの危険な不整脈
自覚症状・徴候胸痛・胸部不快感、強い呼吸困難(喘鳴を伴うものなど)、めまい、チアノーゼ、顔面蒼白、冷汗

「開始してよい状態はどれか」では、基準内の値(例:SpO₂ 94%)を選ぶ。単発(散発性)の心室期外収縮は健常者にもみられ、それだけでは中止しない。危険度は「単発か、多発・多源性・連発か」で分かれる。

顔面紅潮は運動時の皮膚血管拡張による正常反応。中止のサインは顔面蒼白・チアノーゼ・冷汗(末梢循環不全)の方である。

運動負荷試験の中止基準

指標中止のライン(目安)
収縮期血圧負荷を上げても上昇しない、または低下する(前値より10mmHg以上の低下)/過度の上昇
心電図ST水平型・下降型のST低下が0.2mV(2mm)以上
不整脈心室頻拍、多源性・連発する心室期外収縮、Ⅱ度MobitzⅡ型以上の房室ブロック
症状胸痛、強い呼吸困難、めまい、失神、下肢疲労で継続困難

運動中の収縮期血圧の低下は心拍出量を保てない(重症の心筋虚血・左心機能不全)サインで、直ちに中止する。「血圧は上がるのが正常、下がるのが異常」が最重要の判断軸。

Ⅰ度房室ブロック(PQ延長のみ)や上室性期外収縮の散発は、それだけでは負荷試験の中止理由にならない。ST低下1mmは虚血を疑わせる所見だが、運動負荷試験の中止ラインとしては水平型・下降型0.2mVが目安とされる(急性期プログラムの進行基準とは数値が違う→1-5)。

集中治療・急性大動脈疾患での離床開始

  • 大動脈解離のリハ開始も、ICUでの離床と同じく意識・循環・呼吸の安定が条件。
  • RASS(鎮静・興奮の指標)は0が清明。−1〜−2の軽度鎮静は開始可能域。深い鎮静(−3以下)や強い興奮(+2以上)は不可。
  • 38℃以上の発熱、頻呼吸、SaO₂ 90%未満、高い吸入酸素濃度(FiO₂)を要する状態は基準外。

1-5 急性心筋梗塞の急性期プログラムと病棟ADL

急性心筋梗塞の急性期リハは、負荷(座位→立位→室内歩行→病棟歩行…)を1段階ずつ上げ、そのたびに進行基準を満たせば次の段階へ進む。

進行基準(厚生省研究班の基準で扱われる項目)

項目次の段階へ進めない目安
自覚症状胸痛、強い息切れ、動悸、めまい、強い疲労感の出現
心拍数120/分以上、または安静時より40/分以上の増加。安静時から120/分以上なら当然不可
収縮期血圧負荷で20mmHg以上の上昇または低下(室内トイレ使用の段階まで)
心電図0.1mV(1mm)以上の虚血性ST低下、著明なST上昇、新たな危険な不整脈

進行基準の項目は自覚症状・心拍数・血圧・心電図(ST変化・不整脈)という循環器の指標。SpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)は項目に含まれない(SpO₂ 90%未満は呼吸器リハで重視される中止基準)。

訓練時に収縮期血圧が10mmHg程度上昇するのは負荷に対する正常な反応で、次の段階へ進んでよい。20mmHg以上の上昇は進行不可。

病棟での活動とMETs(代表例)

活動おおよそのMETs
安静臥床・座位での読書(ソファーで新聞など)・食事1.0〜1.5
室内便器(ポータブルトイレ)・室内歩行・立位での体重測定1.5〜2.0
平地歩行(時速3〜4km)・シャワー浴約3
入浴(全身浴)・階段昇降・軽い荷物運び4〜5
  • 「室内を2分程度ゆっくり歩ける」段階(1.5〜2METs相当)では、座位での活動・ポータブルトイレ・立位での体重測定・短時間の面会は可。
  • 入浴は不可:4〜5METsに加え、温熱による末梢血管拡張と静水圧による静脈還流増加で心負荷が大きい。清拭→(200m程度歩ける頃に)シャワー浴→入浴と段階的に進める。
  • ポータブルトイレは差し込み便器での臥位排泄より努責が少なく、むしろ望ましい。

入浴指導の定番:湯温40℃前後、みぞおちまでの半身浴、長湯を避ける、脱衣所と浴室の温度差をなくす、食後すぐ・飲酒後は避ける。

心臓リハビリテーションの相

相時期主な目的
第Ⅰ相急性期(入院中)段階的離床・院内ADLの再獲得
第Ⅱ相回復期監視下の運動療法・社会復帰
第Ⅲ相維持期(生涯)再発予防・運動習慣の定着・危険因子の是正