第2章|運動処方と心臓リハビリテーションの実際

心疾患・心リハ 第2章

2-1 運動負荷試験と運動耐容能の評価

負荷のかけ方で分ける

分類方法特徴
漸増負荷Bruce法トレッドミルで3分ごとに速度と傾斜を上げる多段階漸増負荷。「負荷を段階的に増やす評価法」の代表
漸増負荷ramp(ランプ)負荷法自転車エルゴメーターなどで一定の割合で連続的に負荷を増す
漸増負荷多段階漸増負荷一定時間ごとに段階的に負荷を上げる
漸増負荷(漸増)シャトルウォーキングテスト発信音に合わせて歩行速度を段階的に上げる
固定負荷マスターシングル(ダブル)テスト・踏み台昇降テスト規定の高さ・回数で昇降し、負荷は漸増しない。心電図を併用して虚血の評価に用いる
一定時間の歩行6分間・12分間歩行テスト一定時間に歩ける距離。負荷は本人のペース次第で、漸増しない
等尺性負荷ハンドグリップテスト握力による等尺性負荷で循環応答をみる

マスターテストは2段階(ダブル)があっても負荷を連続的に漸増する方法ではない。「固定負荷=マスター」「段階的に増やす=Bruce」と対で覚える。

評価の目的で使い分ける

評価目的
6分間歩行テスト(6MWT)運動耐容能(持久力)。簡便・安全で、心不全の予後や日常生活の活動能力を反映する。退院時の運動機能評価に適する
心肺運動負荷試験(CPX)最高酸素摂取量・AT(嫌気性代謝閾値)を測り、運動処方の強度を決める
マスターテスト運動負荷心電図による虚血の評価
NYHA心機能分類身体活動で出る症状の程度による重症度(Ⅰ:制限なし〜Ⅳ:安静時にも症状)
Nohria-Stevenson分類うっ血・低灌流の有無による急性心不全の病態分類
クリニカルシナリオ(CS)分類来院時の収縮期血圧などによる急性心不全の初期治療方針の分類

選択肢を「病態分類か、運動耐容能か、虚血評価か」で仕分ける。急性期の病態分類(Nohria-Stevenson・クリニカルシナリオ)は運動機能の評価ではない。

2-2 運動強度の決め方(Karvonen法・Borg指数・AT・二重積)

指標運動療法の目安
Borg指数(自覚的運動強度)11〜13(楽である〜ややきつい)。15(きつい)は心疾患には強すぎる
AT(嫌気性代謝閾値)AT強度で運動する。Borg 11〜13にほぼ相当
最高酸素摂取量40〜60%程度。10〜20%では低すぎる
Karvonen法の係数k心疾患では0.4〜0.6程度。低心機能例・心筋梗塞後は低め(0.3〜0.5)
頻度・時間週3〜5回、1回20〜60分程度。週2回以内・1回10分以下では効果が乏しい

Karvonen法の計算

目標心拍数=安静時心拍数+k×(最大心拍数−安静時心拍数)、最大心拍数=220−年齢。(最大心拍数−安静時心拍数)が予備心拍数。

例:70歳・安静時心拍数70/分・k=0.5 → 最大心拍数150 → 70+0.5×(150−70)=70+40=110/分。予備心拍数の引き算を飛ばしたり、最大心拍数を誤ったりすると別の選択肢に誘導される。

β遮断薬の服用中は心拍数が上がりにくいため、心拍数を使う指標(Karvonen法など)が使いにくい。Borg指数など自覚的運動強度を優先する。

症状が出る強度があるとき

  • 運動負荷試験中に胸部不快感(狭心症状)・ST低下・危険な不整脈が出たら、その強度が虚血閾値。
  • 運動処方は症状出現時の運動強度より低く設定する(心拍数でおおむね10拍/分程度下、または1段階低い負荷)。
  • 虚血が出る例では、最大酸素摂取量や心拍数・血圧の変化量より症状出現点を優先する。考え方は「症状が出たら、そこが上限」。

二重積(ダブルプロダクト)

二重積=心拍数×収縮期血圧。心筋酸素消費量の非侵襲的な指標。

二重積に呼吸数・一回拍出量・動静脈酸素較差・拡張期血圧は入らない。拡張期血圧は運動中あまり変化せず、心筋負荷量を決める指標には向かない。

2-3 METsとエネルギー消費量の計算

1 MET=3.5 mL/kg/分(安静座位の酸素摂取量)。METs=酸素摂取量(mL/kg/分)÷3.5。

酸素摂取量からMETsを求める

  1. L/分をmL/分に直す(×1000)
  2. 体重(kg)で割る → mL/kg/分
  3. 3.5で割る → METs

例:最大酸素摂取量2.10 L/分・体重50kg → 2100÷50=42 mL/kg/分 → 42÷3.5=12 METs。AT 17.5 mL/kg/分なら17.5÷3.5=5 METs。

エネルギー消費量

消費エネルギー(kcal)≒METs×体重(kg)×時間(h)。より正確には×1.05を掛ける。

例:5METs・体重80kg・30分(=0.5時間)→ 5×80×0.5=200、×1.05で約210kcal。30分を0.5時間に直し忘れるのが典型的な誤り。

活動ごとのMETsの目安は1-5の表を参照(室内歩行1.5〜2、平地歩行・シャワー浴約3、入浴・階段昇降4〜5)。

2-4 運動の様式(有酸素・インターバル・レジスタンス)

様式内容心疾患での扱い
持続的な有酸素運動歩行・自転車エルゴメーターなど一定強度で続ける中心となる運動。散歩は時間と速度を決めて行うと強度を一定に保て自己管理しやすい
インターバルトレーニング高強度と低強度(回復)を交互に繰り返す(例:高強度45秒+低強度90秒)連続負荷で下肢疲労・血圧上昇が顕著になる高齢・低体力・高リスク例(TAVI後など)。循環負担を分散しつつ運動量を確保できる
サーキットトレーニング複数の異なる種目(ステーション)を順に巡る単一種目の強弱の繰り返しはサーキットではない
Ramp負荷・多段階漸増負荷負荷を連続的・段階的に上げる運動負荷試験の負荷方法
コンディショニング運動療法導入前の柔軟性・呼吸・リラクセーションなどの準備的調整負荷様式の名称ではない
レジスタンストレーニング下肢などの筋力増強適切な負荷で有酸素運動に併用する。動的(等張性)運動・低負荷高反復が主体

強い等尺性(静的)収縮・息こらえ(Valsalva)は血圧を急上昇させ後負荷を増やすため避ける。下肢の筋力強化で「静的収縮の多い種目を選ぶ」は誤り。

2-5 運動療法の効果

心臓リハの効果は「同じ負荷でのコストが下がり、天井(最大能力)が上がる」。そして予後(再入院・死亡)が良くなる。向きが逆の選択肢を切る。

指標運動療法後の変化
安静時心拍数低下
同一負荷時の心拍数・血圧・二重積低下
同一負荷時のBorg指数(自覚的強度)低下
最大心拍数ほぼ不変(年齢で決まる)
最大(最高)酸素摂取量・運動耐容能増加
一回拍出量増加
AT上昇
安静時血圧低下(降圧効果)
安静時の交感神経活動・同一強度でのカテコラミン分泌低下(抑制)
HDLコレステロール増加
中性脂肪・LDLコレステロール低下
血小板凝集能低下(血栓形成の抑制)
冠循環の側副血行・血管内皮機能改善(側副血行の増大)
冠動脈硬化進展抑制(退縮も期待される)
再入院・心事故・死亡率低下
QOL向上

壊死した心筋は再生しない(線維化して瘢痕になる)。「運動療法で壊死部の心筋が再生する」は常に誤り。

ひっかけの定番:「最大運動時の心拍数が低下する」「交感神経活動の亢進」「血小板凝集能の増加」「HDLの低下」「収縮期血圧の上昇」はすべて誤り。乳酸の蓄積は嫌気性運動の現象で、有酸素運動を勧める理由ではない。除脂肪体重(筋量)の増加は主にレジスタンス運動の効果。

2-6 退院後・在宅の生活指導と末梢動脈疾患

心筋梗塞後・弁膜症治療後の退院指導

  • 中心は動的な有酸素運動をBorg 11〜13・週3〜5回・1回20〜60分。
  • 心肺運動負荷試験の結果がある場合はAT強度で運動する。
  • 耐容能が保たれている例(NYHA classⅠ、ATが約5METsなど)で生活活動を3METsまでに制限するのは過剰な制限で、活動性低下・廃用を招く。
  • 心房細動などで抗凝固療法を受けている場合は服薬を継続する。
  • 体重・血圧を日誌に付ける自己管理は増悪の早期発見に役立つ。
  • 拡張期血圧120mmHgのような高度高血圧では運動しない(1-4)。

慢性心不全の在宅での自己管理

場面正しい指導誤りの例
活動量適切な強度の運動を継続する安静時間を長くする(廃用・運動耐容能低下)
強度Borg 11〜13Borg 15程度(きつい)
体重毎日測る。短期間(数日で2〜3kg)の増加は体液貯留=増悪のサインで受診体重増加を栄養改善の指標とみる
疲労疲労感が残っているときは運動を休む(翌日まで残る疲労は過負荷のサイン)疲労があっても予定どおり続ける
服薬症状が安定していても医師の指示どおり続ける症状に変化がなければ自己判断で中止する

心不全の在宅管理のキーワード=「体重・症状のセルフモニタリング」。体重の急増・下腿浮腫・息切れの増悪は受診のサイン。

閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患:ASO/PAD)

  • 運動療法の前に最も重要な情報は足関節上腕血圧比(ABI)。下肢虚血の程度を非侵襲的に示す。
  • ABI 0.9以下で末梢動脈疾患を疑い、低いほど重症。
  • 症状の分類はFontaine分類(Ⅰ:無症状、Ⅱ:間欠性跛行、Ⅲ:安静時痛、Ⅳ:潰瘍・壊疽)。
  • 間欠性跛行に対しては歩行訓練が運動療法の中心。

脊椎MRIは腰部脊柱管狭窄症(神経性の間欠性跛行)との鑑別には役立つが、動脈の虚血の程度は分からない。筋電図・単純エックス線・胸部CTも下肢の血流評価には使えない。