第2章|初期対応・上肢の障害・物理療法

スポーツ外傷 第2章

2-1 急性外傷の初期対応と肉離れ

急性外傷の初期対応はRICE=Rest(安静)・Icing(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)。受傷後おおむね48〜72時間は温める・もむ・伸ばす(+動かす・飲酒)を避ける。

要素ねらい注意
Rest(安静・固定)患部の保護、二次損傷の防止鎮痛薬で痛みを隠して競技を続けさせない(投薬は医師の判断)
Icing(冷却)血管収縮で出血・炎症・腫脹・疼痛を抑える1回15〜20分を間欠的に反復。常時冷やし続けると凍傷など組織障害を起こす。氷を直接当て続けない
Compression(圧迫)弾性包帯で出血・腫脹の広がりを抑える末梢の循環障害が出ない強さで巻く
Elevation(挙上)患部を心臓より高くして静脈還流を促し腫脹を抑える現場ですぐに安全に実施できる

関連する考え方:保護を加えたPRICE、適切な負荷を重視するPOLICE(Protection・Optimal Loading・Ice・Compression・Elevation)、急性期に避けるHARM(Heat・Alcohol・Running・Massage)。国試ではRICEの4要素を確実に。

時期と物理療法の切り替え

時期目安適する物理療法
急性期受傷後24〜72時間寒冷療法(アイシング)・圧迫・挙上
亜急性期数日〜2週交代浴・軽い可動域運動など
慢性期2週以降温熱療法(ホットパック・超音波)・ストレッチ・筋力増強

時期の境目は目安。急性期=冷却、炎症が落ち着いてから温熱という順番が問われる。

急性期に不適切な代表例:超音波照射(温熱効果で血流が増え出血・腫脹を悪化)、極超短波(深部温熱)、ホットパック・温湿布、交代浴(亜急性期以降の方法)、マッサージ(出血・血腫増大、瘢痕形成・異所性骨化の誘因)、損傷筋のストレッチ(断裂部の拡大)。パラフィン浴は手指など小関節の慢性疾患向けで大腿の急性外傷には用いない。

肉離れ(筋挫傷)

  • 好発:ハムストリングス(特に大腿二頭筋長頭)と下腿三頭筋(腓腹筋内側頭:テニスレッグ)。
  • 機序:二関節筋の遠心性収縮時(ダッシュ・急停止、走行の遊脚後期)。走塁・短距離走中に大腿後面や下腿に痛み、エックス線で骨折なし→肉離れの急性期と判断する。
  • 再発が多い。疼痛の消失だけで復帰させず、可動域・筋力(特に遠心性収縮を含む)・スプリント動作を段階的に確認する。再発予防は遠心性収縮を含む筋力強化と柔軟性の改善。

2-2 スポーツ外傷と強化すべき筋

考え方は1つ。「損傷した靱帯・関節包が止めていた動きを、どの筋なら代わりに止められるか」。その筋を強化し、損傷部にストレスをかける筋の強化は避ける。

外傷強化する筋理由取り違えやすい誤り
肩関節前方脱臼肩甲下筋など内旋筋(+腱板全体)外転・外旋・水平伸展位で脱臼するので、前方に位置する内旋筋で前方を動的に安定化—
肩鎖関節脱臼僧帽筋・三角筋上方へ転位する鎖骨遠位端・肩甲骨を支持上腕二頭筋は関与しない
肘関節内側(尺側)側副靱帯損傷(野球肘内側)前腕屈筋回内筋群(尺側手根屈筋・浅指屈筋など=手関節屈筋)内側上顆から起こり、外反ストレスを動的に制動尺側手根伸筋・橈側手根伸筋など伸筋群は外側で寄与しない
反復性膝蓋骨脱臼・内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)損傷大腿四頭筋(特に内側広筋・斜走線維)MPFLは膝蓋骨の外側への逸脱を防ぐ靱帯。内側広筋が膝蓋骨を内側上方へ引く—
ACL損傷ハムストリングス脛骨を後方へ引く大腿四頭筋の単独伸展(OKC)は慎重に
PCL損傷大腿四頭筋脛骨を前方へ引くハムストリングスは誤り
前距腓靱帯損傷(内反捻挫)長・短腓骨筋外がえしで内反を制動後脛骨筋・前脛骨筋は誤り(内がえし作用)

組合せ問題はACLとPCLの逆転、肘の屈筋と伸筋の取り違え、足の内がえし筋と外がえし筋の取り違えが定番のひっかけ。筋の作用方向から必ず検算する。

2-3 投球障害肘(野球肘)

投球動作の相と肘へのストレス

投球動作の相の分け方の例:ワインドアップ→早期コッキング→後期コッキング→加速→減速→フォロースルー。

肘の外反ストレスが最大になるのは後期コッキング〜加速期(肩最大外旋位で肘を挙げ、腕を前へ振り出す直前)。肘外反ストレステストで内側痛が出る例では、この相で痛みが出る。ワインドアップ・早期コッキングでは外反力は小さく、フォロースルーでは減少している。

部位とストレス

部位ストレス代表的な病態好発
内側牽引(外反で引き離される)内側側副靱帯損傷、内側上顆裂離骨折・内側上顆炎(リトルリーグ肘)成長期・成人
外側圧迫(骨同士が押しつけられる)上腕骨小頭離断性骨軟骨炎少年期(10〜12歳ごろ)
後方伸展時の衝突肘頭疲労骨折、後方インピンジメント成人

理学療法

  • 外反ストレスに対する肘の保護として強化する筋=内側上顆から起こり内側側副靱帯を覆うように走る尺側手根屈筋(寄与が最も大きいとされる)と浅指屈筋などの屈筋回内筋群。
  • 円回内筋も内側上顆起始だが、前腕を斜めに横切って橈骨へ向かうため外反制動への寄与は尺側手根屈筋より小さい。腕橈骨筋・橈側手根伸筋・指伸筋は外側を通り外反を制動しない(伸筋群の使いすぎは上腕骨外側上顆炎の原因)。
  • 復帰には前腕の筋力強化に加え、フォーム修正(肘下がりの是正)、肩甲帯・体幹・下肢の柔軟性改善、投球数の制限など全身的に取り組む。

上肢の関節可動域測定の肢位(日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の基準)

野球肘などの症例文で出ても、測定肢位の規定は疾患によって変わらない。前腕の位置が指定される運動を覚えれば解ける。

運動測定肢位
肘屈曲・伸展前腕回外位(基本軸=上腕骨、移動軸=橈骨)
前腕回内・回外肘90°屈曲位(肩の回旋の混入を防ぐ)
肩屈曲・伸展前腕中間位
肩外旋・内旋上腕を体幹に接し、肘90°屈曲・前腕中間位
手屈曲(掌屈)・伸展(背屈)前腕中間位

2-4 肩のスポーツ障害:腱板・翼状肩甲・投球肩

腱板(ローテーターカフ)

筋主な作用
棘上筋外転(初期)
棘下筋・小円筋外旋
肩甲下筋内旋
  • 腱板損傷の検査=Drop armテスト:他動的に外転させた上肢をゆっくり下ろせず落下すれば陽性(特に棘上筋断裂)。
  • 腱板修復術後の強化では、図の運動方向から作用筋を逆算する。腹臥位・肩90°外転・肘屈曲位でダンベルを持った前腕を背側へ挙げる=肩外旋=棘下筋(・小円筋)の等張性強化。

肩の検査と紛らわしい名前:Chairテスト・Thomsenテスト(中指伸展テストも)=上腕骨外側上顆炎(テニス肘)、Jackson・Spurling=頸椎神経根症。

翼状肩甲

  • 壁を前方に押させたとき(壁押し・push-up)に肩甲骨内側縁全体が胸郭から浮く=前鋸筋の筋力低下(長胸神経麻痺)。
  • 前鋸筋は肩甲骨を胸郭に固定し、外転(前方突出)・上方回旋させる。
  • 僧帽筋麻痺(副神経)では肩甲骨が下方・外側へ偏位し、肩外転で目立つ。

投球肩のストレッチ

原則:筋の作用と逆方向がストレッチ肢位。大円筋(肩甲骨下角→上腕骨小結節稜)は伸展・内転・内旋に働くので、背臥位で上肢を屈曲・挙上(外転・外旋)方向へ伸ばすと最も伸張される。投球・水泳では大円筋・広背筋の柔軟性低下が肩後方のタイトネスにつながる。棘下筋・小円筋(外旋筋)を伸ばすには内旋肢位が要る。

肩の可動域制限とADL

動作主に必要な肩の運動
結髪動作(後頭部に手を回す)屈曲・外転・外旋
結帯動作(背中で手を組む)伸展・内旋
洗顔・歯磨き・爪切り・靴下の着脱体幹前面〜口元の動作で、大きな挙上・外旋はあまり要らない

肩関節周囲炎では外旋・外転の制限が強く、結髪動作が早く障害されやすい。外旋がほとんどなく外転も小さい可動域なら、結髪が最も困難になる。