第1章|膝・下腿・足のスポーツ外傷

スポーツ外傷 第1章

1-1 膝の徒手検査:どの構造を・どの方向でみるか

スポーツ外傷で最も多く問われるのは膝の徒手検査と対象構造の対応である。図の実地問題では「どちらへ力を加えているか」「回旋を加えているか」で見分ける。

対象構造検査操作のポイント
前十字靱帯(ACL)Lachmanテスト・前方引き出しテスト・Nテスト(N-テスト)/pivot shift・JerkテストLachman=膝軽度屈曲(20〜30°)で脛骨を前方へ引く(感度が最も高い)。前方引き出し=膝90°屈曲で前方へ引く。N・Jerk・pivot shift=屈伸+回旋で前外側回旋不安定性を誘発
後十字靱帯(PCL)後方引き出しテスト(後方引き出し徴候)・sagging徴候(sag sign)膝90°屈曲で下腿近位を後方へ押す。背臥位・膝90°屈曲で脛骨粗面が後方へ落ち込むのがsagging
内側側副靱帯(MCL)外反ストレステスト膝に外反力を加え内側関節裂隙の開大をみる
外側側副靱帯(LCL)内反ストレステスト膝に内反力を加え外側関節裂隙の開大をみる
半月板McMurrayテスト・Apleyテスト(圧迫)McMurray=背臥位で膝最大屈曲位から下腿を内旋・外旋しながら伸展し、クリック・疼痛をみる。Apley=腹臥位・膝90°屈曲で下腿を軸圧しながら回旋
膝蓋骨アプリヘンジョンサイン(膝蓋骨脱臼不安感テスト)膝蓋骨を外方へ押して脱臼不安感をみる(反復性膝蓋骨脱臼)
関節水腫膝蓋跳動関節内の液体貯留をみる

判断の軸は2つ。①脛骨を前へ引く→ACL/後ろへ押す→PCL、②回旋を加えながら屈伸してクリック・疼痛をみる→半月板(McMurray)。N・Jerk・pivot shiftも屈伸に回旋(+外反)を加えるが、みるのは脛骨の亜脱臼・整復(がくっとずれる)=ACLで、半月板の検査ではない。外反・内反の力は側副靱帯。Apleyは圧迫で痛む=半月板、牽引で痛む=靱帯と区別する。

選択肢には膝以外の検査名が紛れ込む。代表例:Ely=大腿直筋の短縮、Ober=腸脛靱帯(大腿筋膜張筋)の短縮、Patrick(FABER)=股関節・仙腸関節、Barlow・Ortolani=乳児の股関節脱臼(発育性股関節形成不全)、Jackson・Spurling=頸椎神経根症、Roos=胸郭出口症候群、Lasègue(SLR)=坐骨神経(腰椎椎間板ヘルニアなど)、Thompson=アキレス腱断裂。名前と部位の対応で消去できる。

受傷機転から損傷部位を推定する

受傷機転・訴え疑う損傷陽性になる検査
非接触の着地・急停止・方向転換(cutting)、膝崩れ(giving way)ACL損傷Lachman・前方引き出し・pivot shift(N・Jerk)
膝屈曲位で脛骨前面(膝前面)を強打(ダッシュボード損傷・スライディングで膝前面を打つ)PCL損傷後方引き出し・sagging
膝外側からの外力(外反強制)MCL損傷外反ストレス
膝内側からの外力(内反強制)LCL損傷内反ストレス
荷重位で膝を捻る(階段・方向転換)、関節裂隙の痛み半月板損傷McMurray・Apley
  • ACL損傷は女性に多い。受傷時の断裂音(「ブツッ」)と関節血症を伴うことが多い。
  • PCLはACLより強い靱帯で、単独損傷では保存療法が選ばれることが多い(1-3)。
  • 受傷から時間がたち疼痛は軽減したが不安定感が残る、という経過で出題されやすい。

画像検査の選び方

エックス線で異常がなくても軟部組織(半月板・靱帯)の損傷は否定できない。半月板・ACL・MCLなどの評価はMRIが第一選択。CTは骨の評価向きで軟部組織の描出はMRIに劣る。関節造影は侵襲的で現在は限定的。PETは代謝の評価、SPECTは核医学の断層撮影(脳血流の評価や骨シンチグラフィに用いる)で、いずれも急性の膝外傷の診断には用いない。

MRIの読み方の目安:PCLは脛骨後方から大腿骨内側顆へ弓状に走る低信号帯。断裂するとその連続性が途絶え、出血・浮腫が高信号になる。

1-2 前十字靱帯損傷:予防・装具・再建術後

予防の指導

  • 動的な不安定性・固有感覚の低下が損傷に関わるため、静的な姿勢保持から動的なバランストレーニングへ段階的に進める(静的→動的→競技特有の動作)。
  • 着地や切り返しで膝が内側に入る(knee-in・膝外反位)動作は受傷の典型。予防では下肢アライメントの指導が柱の一つ。
  • 予防プログラムの代表的な要素=体幹の安定性・下肢アライメント(knee-inの回避)・動的バランスなど。

後方重心は膝伸展筋の負荷を増やし逆効果。体幹は深層筋(腹横筋など)による動的安定性が重要で、浅層筋だけでは不十分。協調性は股関節・膝関節を含めて扱い、下肢遠位筋だけでは損傷機序に対応できない。

機能的膝装具と他の膝装具

装具形の特徴止める動き・適応
機能的膝装具(ACLブレース)大腿〜下腿の長い支柱+膝継手、顆部パッド、4点ストラップの硬性装具脛骨の前方移動・回旋。ACL損傷のスポーツ復帰期
スウェーデン式膝装具3本のベルト+短い側方支柱(3点固定)膝の過伸展(反張膝)。片麻痺の反張膝など
支柱付き長膝装具(膝継手ロック)鼠径部から足関節近くまでの両側支柱完全固定。術直後・骨折後
軟性サポーター(パテラオープン)布製・支柱なし・膝蓋骨部が開いている保温・軽い圧迫・膝蓋骨の安定化。靱帯性の不安定性は止められない
変形性膝関節症用の免荷装具顆上部を横切る幅広バンド+短い支柱前額面(内反・外反)の制動。変形性膝関節症

ACL再建術後の運動療法

最大の原則は移植腱に脛骨の前方剪断力をかけないこと。大腿四頭筋は脛骨を前方へ引き、ハムストリングスは脛骨を後方へ引く(ACLの補助)。

運動術後早期(数週)理由
大腿四頭筋セッティング(等尺性)術直後から可関節運動を伴わず移植腱への負担が小さい
レッグカール(ハムストリングス)早期から可脛骨を後方へ引き移植腱を保護する方向
ハーフスクワット・レッグプレス(CKC)4週ごろには可(浅い角度)四頭筋とハムストリングスの同時収縮で剪断力が小さい。術直後は腫脹・疼痛に応じて装具下の荷重から始め、CKCは浅い角度から段階的に導入する
バイクエクササイズ屈曲可動域が確保できれば可衝撃が少ないCKC
等運動性(アイソキネティック)訓練・レッグエクステンション(OKCの膝伸展)早期は行わない(術後3か月以降が一般的)下腿遠位への抵抗で脛骨前方移動が大きく、特に屈曲30°〜伸展位で移植腱が引き伸ばされる

経過の目安:術直後から可動域運動(CPM・装具下の自動介助)とセッティング、数週で部分荷重から全荷重、3か月ごろからジョギング、競技復帰はおおむね6〜9か月以降(1年近くかかることもある)。

1-3 後十字靱帯損傷と「脛骨をどちらへ引くか」

大腿四頭筋は脛骨を前方へ、ハムストリングスは脛骨を後方へ引く。この1行でACL・PCLどちらの問題にも対応できる。

損傷靱帯止めている脛骨の動き強化する筋早期に避ける運動検査
ACL前方移動ハムストリングス(CKCも有用)抵抗下の膝伸展(特に伸展終末域のOKC)Lachman・前方引き出し・pivot shift
PCL後方移動大腿四頭筋抵抗下の膝屈曲(ハムストリングス)後方引き出し・sagging

PCL損傷の理学療法

  • 他に損傷がなければ保存療法が基本で、その中核が大腿四頭筋の強化。脛骨を前方に引くことで失われたPCLの働きを肩代わりする。
  • 受傷から時間がたち疼痛が軽減し、不安定感が残っている時期に優先するのは筋力強化。固定の継続は筋萎縮・可動域制限を招き不安定感を悪化させる。物理療法は補助、水中歩行は不安定感の原因(筋力低下)に直接効かない。
  • 筋萎縮が残る時期に行ってよい運動の例:大腿四頭筋の等尺性収縮、SLR(下肢伸展挙上)、抵抗下の膝伸展、ヒールレイズ(荷重位の下腿三頭筋運動)。

「PCL損傷→ハムストリングス強化」は誤り。ハムストリングスの収縮は脛骨を後方へ引き、損傷したPCLに直接ストレスをかける。腹臥位で踵を殿部へ引く抵抗下の膝屈曲の図が出たら、PCL損傷では「行わない」側。ハムストリングス強化はACL損傷の代償筋トレーニングである。

1-4 足関節外側靱帯損傷(内反捻挫)

  • 内反捻挫で最も損傷しやすいのは前距腓靱帯(底屈・内反位で受傷)。圧痛は外果の前下方。
  • 足関節の前方引き出しテストは前距腓靱帯損傷の評価に用いる。

時期ごとの対応

時期行うこと行わないこと
急性期(受傷当日〜)RICE:受傷日から固定・安静、冷却、圧迫、挙上積極的な可動域練習、入浴など温めて循環を促すこと、鎮痛薬で痛みを抑えて試合に出すこと、連続した冷却(冷却は1回15〜20分を間欠的に)
固定終了後(亜急性期〜回復期)拘縮予防の足関節周囲筋のストレッチ・可動域運動、短下肢装具で保護しての早期からの荷重・歩行練習圧痛の消失まで歩行を待つこと、装具を一気に外すこと(段階的に外す)

固定後の筋力強化は疼痛のない範囲の等尺性運動から始め、荷重を伴うCKCは関節の安定性が回復してから導入する(「CKCから開始」は誤り)。バランス練習は両脚→片脚、開眼→閉眼と易しい方から進め、開眼片脚起立から始めるのは負荷が高すぎる。装具で保護した早期歩行は「移動の練習」であり、筋力トレーニングの開始様式とは別に考える。

再発予防に強化する筋

内反を動的に制動するのは足を外がえし(外反)させる長腓骨筋・短腓骨筋。

後脛骨筋・前脛骨筋は内がえし(内反)作用をもつので、内反捻挫の再発予防の強化対象としては誤り(内反を助長する方向)。下腿三頭筋は底屈、長指屈筋は足趾屈曲が主で、内反制動には直接寄与しない。

1-5 アキレス腱断裂

  • 中年のスポーツ愛好者に多い。受傷時に「後ろから蹴られた(踵の上を蹴られた)ような感じ」を訴える。
  • 所見:下腿後面遠位の疼痛・腫脹、断裂部の陥凹、片脚つま先立ち(片脚起立)不能。
  • MRI(矢状断)では腱の連続性が途絶し、断裂部が高信号・腫大する。

Thompsonテスト:腹臥位で足部を台から出し、下腿三頭筋の筋腹を握る。健常なら足関節が底屈するが、断裂していると底屈が起こらない=陽性。

縫合術後の超音波療法(伸張性の改善)

縫合術後に軟部組織の伸張性を高める目的では温熱効果が要るため、連続モード(時間照射率100%)またはそれに近い高い照射率を用いる。10〜20%などの低い時間照射率(パルス)は温熱がほとんど得られず、この目的には不適切。他の設定の目安は、強度1.0〜2.0 W/cm²程度、治療面積は有効照射面積の2倍程度以内、移動速度は約1 cm/秒、1部位3〜5分程度。

1-6 成長期の膝・足の障害と「痛む場所」

Osgood-Schlatter病・Sever病などの成長期の骨端症は骨端(成長軟骨)への反復牽引で起こり、対応の第一は原因となる牽引ストレスを減らすこと。これらの牽引型の骨端症は成長軟骨の閉鎖とともに自然軽快するのが原則で、手術はまれ。離断性骨軟骨炎は別で、進行例では手術になりうる。年齢を問わず起こるスポーツ障害・外傷も、痛む場所の比較のため2つ目の表に並べる。

成長期に多い骨・軟骨の障害(骨端症など)

疾患病変・疼痛部位好発・原因
Osgood-Schlatter病(オスグッド・シュラッター病)脛骨粗面(膝のやや遠位)10〜15歳。大腿四頭筋の収縮が膝蓋腱を介して脛骨粗面の骨端を反復牽引
Sinding-Larsen-Johansson病膝蓋骨下極10〜14歳前後
Sever病(踵骨骨端症)踵骨隆起(踵骨後方の骨端)10歳前後の男児。アキレス腱・足底腱膜の牽引
離断性骨軟骨炎大腿骨内側顆・上腕骨小頭10〜16歳前後

年齢を問わず起こる膝・足のスポーツ障害・外傷

疾患病変・疼痛部位好発・原因
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)膝蓋骨下極〜膝蓋腱ジャンプの着地・踏切(バレー・バスケ)
鵞足炎脛骨近位内側(縫工筋・薄筋・半腱様筋の停止部)ランニング・方向転換
腸脛靱帯炎(ランナー膝)大腿骨外側上顆周囲長距離走・下り坂
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)下腿遠位1/3の脛骨内側後縁走行距離の急増・硬い路面
足関節内反捻挫外果前下方(前距腓靱帯)内がえし強制

超音波の照射部位を図で選ぶ問題は、表の部位と図の網かけが一致するかで決める。ジャンパー膝なら膝蓋骨の直下(膝蓋骨下極〜膝蓋腱)、膝蓋骨より近位は大腿四頭筋腱、脛骨近位内側は鵞足。Osgood-Schlatter病の脛骨粗面は骨端部なので、部位が合っていても成長期は超音波を照射しない(下の囲み参照)。骨突出部(果部そのもの)への照射は骨膜痛を生じやすく不適切。

Osgood-Schlatter病

  • エックス線(側面):脛骨粗面の骨端核の分節化・不整・隆起。骨膜反応(骨腫瘍・骨髄炎)、骨棘や顆間隆起の尖鋭化(変形性関節症)とは区別する。
  • 症状は運動後に悪化し安静で軽快する。
行うこと避けること
運動の制限(活動量の調整)、大腿四頭筋(特に大腿直筋)のストレッチ、ハムストリングス・下腿三頭筋のストレッチ、運動後のアイシング(アイスマッサージ)、膝蓋腱バンド・サポーター(牽引力の分散)スクワット・ジャンプ・ダッシュなど大腿四頭筋の強い収縮を伴う運動(疼痛期)、ギプス固定(不要で筋萎縮・拘縮を招く)、運動後の温熱(ホットパック・極超短波)、腸脛靱帯のストレッチ(部位が違う)

Sever病

治療はスポーツ活動の制限、下腿三頭筋のストレッチ、ヒールパッド(踵の免荷・衝撃吸収)が中心。疼痛緩和の物理療法では赤外線・ホットパック・パラフィン浴などの表在温熱や運動後のアイシングは使える。

成長期の骨端線(骨端軟骨)への超音波照射は禁忌(骨の成長障害のおそれ)。極超短波などの深部温熱も成長期の骨端部は避ける。骨端線が開いた小児の骨端症の部位は、まさに照射してはならない場所である。