第2章|運動強度の計算と関連する内部障害

糖尿病・内部障害 第2章

2-1 運動強度とエネルギーの計算

内部障害の症例問題では、運動負荷試験の数値から運動強度(METs)を出す計算と、消費エネルギー・減量の計算がくり返し問われる。手順を固定しておけば代入だけで解ける。

酸素摂取量からMETsへ

  1. 酸素摂取量(mL/分)を体重(kg)で割る → mL/分/kg
  2. 3.5で割る(1 MET=3.5 mL/分/kg) → METs
  3. 処方が「最大酸素摂取量の○%」なら、その割合をかける
出発点計算例
AT(嫌気性代謝閾値)の酸素摂取量を読むAT時 1,200 mL/分・体重55kg → 1,200÷55≒21.8 → 21.8÷3.5≒約6 METs
最大酸素摂取量に処方の割合をかける最大 1,225 mL/分・体重70kg → 1,225÷70=17.5 → 17.5÷3.5=5 METs(最大)→ 60%で3 METs

最大酸素摂取量そのもの(100%)を答えにしない。また単位の取り違え(mL/分 と mL/分/kg)に注意。ATは呼気ガス分析のグラフで二酸化炭素排出量(VCO₂)の傾きが急に増す点として読む。AT強度は有酸素運動を勧める症例の安全な運動強度の目安になる。

METsの目安(代表例)

METs活動の例
1安静座位
2〜3ゆっくりした歩行・軽い家事
3〜4やや速い歩行(普通〜速歩)

同じ活動でも速さ・やり方で値に幅がある。計算問題では、問題文に示された値を使う。

消費エネルギー

消費エネルギー(kcal)=1.05 × METs × 時間(h) × 体重(kg)。例:3 METs・1時間・60kg → 1.05×3×1×60=189 → 約190kcal。

減量の計算

体脂肪1kg=約7,000kcal。
摂取エネルギー=(1日の消費エネルギー+運動による消費)-(目標減量kg×7,000÷日数)。
例:消費2,000kcal・運動200kcal・1週間で1kg → 1日あたり1,000kcalのマイナスが必要 → 2,200-1,000=1,200kcal。

極端な摂取制限は筋量の減少と代謝の低下を招く。有酸素運動を中心にレジスタンス運動を併用して筋量を保つ。

2-2 運動耐容能の評価と検査の使い分け

検査何を見るか
心肺運動負荷試験〈CPX〉運動耐容能(全身持久力)。呼気ガス分析で最高酸素摂取量(peak VO₂)・ATを求め、運動処方に使う。透析・心不全患者でも標準の検査
足関節上腕血圧比〈ABI〉下肢の動脈の狭窄・閉塞(末梢動脈疾患)
CAVI(心臓足首血管指数)動脈硬化(血管壁の硬さ)
HOMA-Rインスリン抵抗性
HRV(心拍変動)自律神経機能

「持久力・運動耐容能を測る」とくればCPX。ABI・CAVIは血管、HOMA-Rは糖代謝、HRVは自律神経で、運動耐容能そのものは測らない。

2-3 肥満・メタボリックシンドロームと行動変容

運動の選び方

メタボリックシンドロームの運動療法は内臓脂肪を減らす中等度の有酸素運動を習慣化することが基本。

運動肥満・高血圧を伴う例での評価
自転車エルゴメーター非荷重で関節への負担が少なく、強度を細かく調整できる。導入に最適
ランニング・階段昇降膝・足関節への衝撃・荷重が大きく、導入には不向き
腹筋運動・プランク有酸素運動でないうえ、いきみ(等尺性収縮)で血圧が上がりやすい

行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)

ステージ状態支援
無関心期6か月以内に始めるつもりがない運動不足の害・生活習慣病の知識を伝えて関心を高める
関心期6か月以内に始めるつもりがある(まだ実行していない)達成感・楽しみなど運動習慣の意味・価値を認識させる
準備期1か月以内に始めるつもりがある(または不定期に少し行っている)実行可能で無理のない運動から始め、成功体験を積ませる
実行期始めて6か月未満具体的な目標の提示など継続への動機づけ
維持期6か月以上続いている仲間づくり・周囲のサポート、逆戻りの予防

関心期と準備期は「いつまでに始めるつもりか」(6か月以内か、1か月以内か)で分ける。いま運動していないが近く始めるつもりで、無理のない運動から始める段階なら準備期の支援を選ぶ。知識提供(無関心期)や仲間づくり(実行期・維持期)を選ばない。

2-4 末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)

末梢動脈疾患(PAD)は下肢の動脈の狭窄・閉塞で血流が不足する病気で、大半が動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症(ASO)。糖尿病の合併症としても重要。

  • 危険因子:喫煙・糖尿病・高血圧・脂質異常症。男性に多い
  • 好発部位:大腿動脈〜膝窩動脈(腸骨動脈・下腿の動脈にも起こる)
  • 評価:ABIは低下(0.9以下でPADを疑う。異常に高い値は動脈の石灰化を疑う)、足背動脈の拍動減弱
  • 重症化すると潰瘍・壊疽に至り、下肢切断が必要になることがある

Fontaine分類

度症状理学療法・治療の軸
Ⅰ冷感・しびれ(無症状を含む)危険因子の管理
Ⅱ間欠性跛行監視下運動療法(トレッドミル歩行練習)が第一選択
Ⅲ安静時痛重症虚血。血行再建が優先。救肢困難なら切断
Ⅳ潰瘍・壊死

冷感・しびれ・安静時痛はASOで起こる症状。「冷感はない」「安静時痛はない」「間欠性跛行を呈することはない」はいずれも誤り。

間欠性跛行の鑑別

血管性(ASO)神経性(腰部脊柱管狭窄症)
改善のしかた立ち止まって休むと改善(姿勢によらない)体幹前屈(前傾)で改善、後屈で増悪

間欠性跛行(Fontaine Ⅱ度)の理学療法

痛みが出るまで歩く → 休む → 再開、を反復する監視下歩行運動療法。側副血行路の発達と歩行効率の改善で、連続歩行距離・最大歩行距離が延びる。

適切不適切(理由)
トレッドミル歩行練習寒冷療法(血管収縮で虚血が悪化)
ー弾性ストッキングによる圧迫(静脈・リンパの還流障害に用いるもの。動脈疾患では虚血を悪化させうる)
ーコンプレッションポンプ(連続歩行距離を改善する手段ではない)
ー極超短波などの深部温熱(虚血肢への熱刺激は組織障害の危険)
ーPNFによる最大抵抗運動(虚血肢への過負荷)
ー他動的関節可動域運動・足底挿板(歩行距離の改善にはつながらない)

「動脈は冷やさない・弾性ストッキングで締めつけない・歩く/静脈は圧迫する」。

2-5 慢性腎臓病・透析患者の運動療法

糖尿病性腎症は透析導入の主要な原因であり、糖尿病の症例問題では透析患者の運動療法も問われる。かつての「安静第一」から、運動耐容能・QOL・生命予後の改善のために運動を推奨する方針(腎臓リハビリテーション)へ変わった。

生活指導

制限する制限しない
食塩(1日3g以上6g未満)・蛋白質(病期に応じて)・水分(尿量減少期・透析期)・飲酒量・カリウム(病期による)日常の身体活動量(安静は筋萎縮・心肺機能低下・インスリン抵抗性の悪化を招く)

CKDの生活指導は「食事は引き算、運動は足し算」。

運動療法の注意点

正しい誤り
高血圧合併例では等尺性運動を避ける(血圧が急上昇する)。行うなら息を止めさせないー
強度の指標にBorg指数(11〜13)などの自覚的運動強度が有用(自律神経障害や降圧薬の影響で心拍数が強度を反映しにくい)自覚的強度は運動負荷の指標に適さない
透析日も状態を確認しながら運動できる。透析中の下肢エルゴメーター運動も行われる透析日の運動は禁忌
腹膜透析(CAPD)導入後も歩行・有酸素運動は行う(注意は強い腹圧と出口部の感染)CAPD導入後は歩行を避ける
むずむず脚症候群(むずむず足症候群)は下肢を動かすと症状が軽くなるむずむず脚症候群では下肢運動が禁忌
下肢の浮腫には下肢挙上・足関節の自動運動(筋ポンプ)・弾性ストッキング起立台での起立訓練(立位で静脈還流が滞り浮腫は悪化)
水分は制限の範囲内で管理運動前に口渇が改善するまで飲水させる(体液過剰)

シャント肢では血圧測定・重い物の運搬・圧迫を避ける。透析直後・除水量が多いときは起立性低血圧に注意する。インスリン使用中の透析患者が倦怠感を訴えたら低血糖も疑う。