第1章|運動の種類・筋力増強・可動域・神経筋

運動療法 第1章

1-1 運動療法の全体像と運動の種類

目的別の手技

目的主な手技
関節可動域の維持・改善ROM運動(他動・自動介助・自動)、ストレッチング、CPM、連続ギプス・動的装具
筋力の維持・増強抵抗運動(等尺性・等張性・等速性)、漸増抵抗運動
全身持久力の改善有酸素運動(自転車エルゴメーター・トレッドミル・歩行)
協調性・随意性の再獲得PNF・神経筋再教育・Frenkel体操・バイオフィードバック
気道クリアランス体位排痰、squeezing(呼気介助)、胸郭ストレッチ
バランス支持面の広い課題から。両脚→片脚、開眼→閉眼と段階づける

外力と筋収縮による分類

種類定義特徴・適応
他動運動外力のみで動かす。筋収縮を伴わない意識障害・重度麻痺でも実施できる。循環・呼吸への負荷が小さく、全身状態が不安定な時期の第一選択
自動介助運動不足する筋力を他者・器具・健側が補助するMMT2程度の弱い筋でも、過負荷を与えられれば筋力向上は得られる
自動運動外力を加えず患者自身の筋収縮で動かす重力に抗するか否かは定義に含まれない
抵抗運動外部から加わる抵抗に抗して行う筋力増強の主手段。徒手・重錘・ゴムバンド・機器

「自動運動=重力に抗して行う運動」「自動介助運動=最小重力肢位で行う運動」はどちらも誤り → 自動運動は外力を加えず自身の筋収縮で動かす運動、自動介助運動は不足する筋力を介助で補う運動。肢位や重力の向きで定義されるものではない。

運動療法の位置づけ=三次予防

  • 一次予防:発症そのものの予防(ワクチン接種・健康教育・環境整備)
  • 二次予防:早期発見・早期治療(人間ドック・がん検診・肺がん検診)
  • 三次予防:合併症予防・機能回復・QOL向上(リハビリテーション・透析患者の運動療法・褥瘡対策)

効果を検証した研究の読み方

  • 効果量0.78(95%信頼区間 0.66〜0.90)のように、信頼区間が「効果なしの値」をまたがなければ統計学的に有意
  • 効果量は効果の大きさを表す指標で、「78%の人に効果がある」という人数割合ではない
  • 研究が測っていないアウトカム(生命予後・危険因子)へ結論を広げてはならない。再発を評価した研究から言えるのは再発予防効果まで

1-2 筋収縮の3様式

様式一定なもの関節運動器具代表例
等尺性(isometric)筋長・関節角度伴わない不要大腿四頭筋セッティング、壁押し、姿勢の保持、握力計
等張性(isotonic)張力=負荷伴う不要(重錘・ダンベル・ゴムバンド)ダンベルカール、レッグエクステンション
等速性(等運動性・isokinetic)角速度伴う専用機器が必須等速性運動機器による測定・訓練

機器がなければ実施できないのは等速性(等運動性)運動だけ。徒手では一定の角速度を保てないため徒手では行えない。重錘ベルトは等張性運動の道具であり、等速性運動には使えない。等速性では関節角度に応じて抵抗が変化し、全可動域で最大負荷が得られるため筋力増強効率が最も高い。

等張性収縮の2型

  • 求心性(短縮性)収縮:筋が短縮しながら張力を発揮する。重りを持ち上げる動作
  • 遠心性(伸張性)収縮:筋が伸張されながら張力を発揮する。重りをゆっくり下ろす動作。同じ筋でも求心性より大きな張力を発揮できる

どちらも機器なしで実施できる。「等張性収縮には求心性収縮と遠心性収縮がある」は正しい記述として頻出。

等尺性と等張性の比較

項目等尺性等張性
血圧上昇しやすい(筋内圧上昇+息こらえ=Valsalva)上昇しにくい
収縮時の筋血流減少(持続収縮で血管が圧迫される)増加しやすい(収縮弛緩の反復=筋ポンプ)
心拍数運動強度に応じて上昇する(様式としての特徴は昇圧反応のほう)運動強度に応じて上昇する
筋持久力の増強劣る優れる(反復を伴う動的運動)
負荷の一定性—重錘ではモーメントアームが角度で変わり、全可動域で負荷は一定でない
姿勢の保持負荷に抗して姿勢を維持する収縮はこれ—

「等尺性運動は等張性運動よりも筋持久力の増強効果が大きい」は誤り → 筋持久力の向上には反復を伴う動的な等張性運動のほうが有利。等尺性が優れるのは、関節を動かさずに特定角度の筋力を維持・増強できる点である。

「等張性運動は等尺性運動に比べ心拍数が増加しやすい」は両者を区別する記述にならない → 心拍数はどちらの様式でも運動強度に応じて上昇するため、様式の識別点にはならない。等尺性と等張性を分ける軸は血圧(等尺性で上昇しやすい=昇圧反応)と収縮時の筋血流(等張性で増加しやすい=筋ポンプ)の2つで、「等張性運動について正しいのはどれか」ではこの2軸のうち筋血流の増加が正答になる。

力‐速度関係:筋の短縮速度が速いほど発揮できる張力(トルク)は低下する。したがって等速性運動では低速のほうが大きな筋力を発揮できる。「角速度の高速域で筋出力効果が増大する」は誤り。

自動運動・自動介助運動・他動運動の定義

種類定義
自動運動患者自身の筋収縮で動かす。重力に抗するかどうかは問わない(重力を除いた面で動かしても自動運動)
自動介助運動自分の筋収縮で動かし、足りない分だけを療法士・器具・滑車などで介助する
他動運動筋収縮を伴わず、外力だけで動かす
分類は誰の力で動かしているかで決まり、肢位で決まるのではない。

1-3 筋力増強の原則と負荷設定

3つの原則

  • 過負荷の原則:日常以上の負荷を与えなければ筋力は向上しない。最大筋力に対して極めて弱い抵抗は、回数を増やしても筋力増強効果は乏しい
  • 特異性の原則:速度特異性=等速性運動はトレーニングに用いた角速度付近で最も大きな効果が得られる/角度特異性=等尺性運動は訓練した関節角度付近に効果が限られる
  • 可逆性の原則:中止すれば得られた効果は失われる

負荷量・時間・頻度の目安

項目目安
筋力の維持最大筋力の20〜30%程度
筋力の増強最大筋力の約2/3(60〜70%)以上
等尺性運動の1回の収縮時間5〜6秒程度(20〜30秒は長すぎる)
頻度週2〜3回程度(最大抵抗でも月1回では刺激不足で効果は得られない)
高齢者高負荷低頻度ではなく、低〜中負荷で反復回数を確保するほうが関節・心血管に安全

数値の取り違えが定番。維持=20〜30%/増強=約2/3以上。「維持には40〜50%以上が必要」「維持には70〜80%以上が必要」はいずれも過大な記述で誤り。

効果の出かた・実施上の注意

  • トレーニング初期(数週間)の筋力増加は主に神経性適応(運動単位の動員増加・発火頻度の増加)による。筋肥大はその後に起こるため、「筋肥大が生じるまで効果は得られない」は誤り
  • 自動介助運動でも過負荷が与えられれば筋力は向上する。「自動介助運動では効果は得られない」は誤り
  • 運動効果には対象者の運動経験・トレーニング歴が影響する(伸びしろ・適応が異なる)
  • 代償運動は目的筋への負荷を減らし効果を下げる。固定・肢位調整で起こらないようにする(「代償運動が起こる方がよい」は誤り)
  • 等尺性運動は息こらえで血圧が著明に上昇する。高血圧・心疾患・血圧変動の大きい急性期では避け、行う場合は息を止めないよう指導する

運動連鎖(OKC・CKC)

項目開放性運動連鎖〈OKC〉閉鎖性運動連鎖〈CKC〉
四肢末端自由床・壁などに固定・接地
動員単関節的・目的筋を選択的に鍛える多関節・複数筋を同時動員=協調的な筋力増強に適する
例座位での膝伸展運動、ダンベルカールスクワット、ブリッジ、腕立て伏せ
注意膝伸展のOKCは脛骨に前方剪断力が加わり、前十字靱帯再建後には不利荷重を伴うため術後急性期には時期尚早

「開放性連鎖運動は四肢末端が地面に接した状態で行う」は誤り → 末端が接地・固定されるのは閉鎖性連鎖運動(CKC)。OKCとCKCの用語入れ替えは頻出の引っかけ。あわせて「等運動性運動は徒手で行う」「等尺性運動は関節運動を伴う」「等張性運動では関節運動の速度を調整する」もすべて誤り。

漸増抵抗運動は重錘・ダンベル・徒手抵抗で負荷を段階的に増やす方法で、専用機器は必須ではない。

徒手抵抗と機器による抵抗の違い

項目徒手抵抗機器(重錘・マシン)
抵抗量の調整全可動域で・痛みに合わせてその場で変えられる設定した負荷で一定になりやすい
抵抗をかける部位・方向変えやすい。斜め・回旋など多方向(PNFのパターン)も可機器の構造で決まる
定量性・再現性低い高い
筋力の強い人療法士の力が上限になり不向き大きな負荷をかけられる
人手療法士が常に必要自主練習にできる

1-4 関節可動域運動とストレッチング

ROM運動

  • 主目的は関節拘縮の予防・改善。運動麻痺そのものの改善が主目的ではない
  • 他動・自動介助・自動の3種があり、自動・自動介助では筋収縮を伴う(「筋収縮を伴ってはならない」は誤り)
  • 意識障害があっても他動的に実施でき、むしろ必要。深部感覚障害があっても他動運動は安全に行える
  • 循環・呼吸への負荷が小さく、全身状態が不安定な急性期でも選べる最も安全な介入
  • 注意・禁忌=急性炎症、骨折部の不安定、異所性骨化の進行期、疼痛を伴う過度な伸張

ストレッチングの種類

種類方法要点
スタティック反動をつけずゆっくり持続的に伸張20〜30秒持続。息を止めない。強い痛みが出るまで伸ばさない
バリスティック反動をつけて素早く伸張筋紡錘を刺激し伸張反射を誘発するため疼痛緩和目的には不適
ホールド・リラックス/コントラクト・リラックス収縮後の弛緩を利用(PNF)可動域の拡大が目的

スタティック・ストレッチングで「素早く伸張する」「強い痛みが生じるまで伸張する」「伸張時間は5秒以内」「高頻度に伸張する」はいずれも誤り。呼吸を止めると血圧上昇・筋緊張増大を招くため、自然な呼吸を続けながら心地よい伸張感の範囲で20〜30秒持続する。

拘縮の伸張・矯正の原則

  1. 近位を固定し遠位を動かす。膝関節なら大腿を固定して下腿を動かし、伸張力を目的の関節に集中させる。固定が不十分だと隣接関節が動いて伸張が逃げる
  2. 疼痛の出ない範囲で弱い力を長時間加える(低負荷持続伸張)。疼痛を伴う強い矯正は筋スパズム・組織損傷・炎症を招き逆効果
  3. 連続ギプス法は数日〜1週ごとに巻き替えて段階的に矯正する(1日ごとに5°ずつ強めるのは急速すぎる)
  4. 動的(ダイナミック)装具は持続的な低負荷伸張を加えられ拘縮治療に有用(「用いない」は誤り)

CPM(持続的他動運動)

  • 目的は可動域の維持・改善。他動運動であり筋収縮を伴わないため筋力増強は目的ではない
  • 人工膝関節全置換術後・靱帯再建術後などで術後早期から導入する(術後2週から開始では遅すぎる)
  • ゆっくりした速度で行う。速い運動は疼痛・組織損傷を招く
  • 疼痛・腫脹に応じて屈曲角度を徐々に大きくする
  • 患者は力を入れずリラックスして装置に委ねる(装置の動きに抵抗させない)
  • アーム長は患者の四肢長に合わせて調整する(決められた長さのものを使うのではない)
  • すでに完成した拘縮を矯正する手段としては効果が限定的で、伸張手技のほうが優先される

関節モビリゼーション(関節包内運動への徒手的手技)

対象は骨運動(屈曲・伸展など)ではなく、関節面どうしの副運動=関節包内運動(滑り・転がり・軸回旋)。関節包・靱帯の短縮で副運動が制限され可動域が落ちている例が適応となる。

項目原則
評価関節包内運動の制限は関節の遊び(joint play)の大きさで評価する
適応関節包内運動が制限されている場合(関節包・靱帯性の制限、疼痛)。制限の原因が筋だけならストレッチングが先
開始肢位関節包・靱帯が最も緩む関節の遊びが大きい位置=緩みの肢位(loose packed position、安静肢位)から始め、徐々に制限方向へ進める
手技牽引と滑りを緩やかな振幅運動(oscillation)で加える。Maitlandのグレード分けでは疼痛が強い時期ほど小さい振幅から
対象関節1関節ずつ。近位を固定し、遠位の関節面を目的の方向へ限局して動かす

「複数の関節を同時に治療する」は誤り → 同時に扱うとどの関節にどれだけ力がかかったか制御できない。正しくは一関節を選択し、固定側と可動側を明確にして行う。

凹凸の法則:凸面が動くときは関節面の滑りは骨運動と反対方向、凹面が動くときは同方向。例=肩関節外転では凸面の上腕骨頭が下方へ滑る。禁忌の代表例は悪性腫瘍・感染性関節炎・関節の不安定性・骨折部や偽関節・著明な骨粗鬆症・関節リウマチの急性期。

痙縮筋への持続伸張

  • 痙縮は速度依存性の伸張反射亢進なので、ゆっくり持続的に伸ばす。速く伸ばすと伸張反射を誘発して逆効果。
  • 背臥位に限らず座位でも行える(体重を利用した持続伸張など)。
  • 麻痺側の痙縮筋を伸ばすのが目的で、非麻痺側をリラックスさせても痙縮筋は伸びない。
  • Frenkel体操は感覚性(脊髄性)運動失調への練習で、痙縮の治療ではない。
  • 動作練習へ移すときは易しい順(座位 → 立位 → 歩行 → 階段など)に進める。

1-5 PNF・神経筋再教育・運動失調へのアプローチ

PNFの手技内容目的
ホールド・リラックス等尺性収縮の後の弛緩を利用する可動域の拡大
コントラクト・リラックス等張性に収縮させた後に弛緩させる可動域の拡大
リズミック・スタビリゼーション多方向から交互に等尺性抵抗を加え、動かさずに保持させる(同時収縮)姿勢・体幹の安定性向上
スローリバーサル拮抗する運動方向へ交互に抵抗を加え能動的に動かす協調性・筋力
リピーテッド・コントラクション弱い筋に反復収縮を行わせる筋力増強

運動失調例で体幹回旋筋の同時収縮により座位の安定性を高める手技=リズミック・スタビリゼーション。識別点は「動かさずに多方向から抵抗を加える」こと。可動域拡大系(ホールド/コントラクト・リラックス)や筋力増強系(リピーテッドコントラクション)と混同しない。

神経筋再教育

  • 目的は随意運動の促通・再学習。患者の能動的な運動が前提となる
  • 手段=PNF、バイオフィードバック、感覚入力の活用
  • 導入や運動イメージの形成に他動運動・自動介助運動を併用する(「用いることはない」「自動介助運動は用いない」は誤り)
  • 骨関節障害後の筋の協調性低下・再学習にも適用できる(「適用できない」は誤り)
  • 適応外=完全脱神経筋・神経断裂(随意収縮が起こせない)、重度意識障害(JCSⅢ-200のように運動学習が成立しない状態)

運動失調へのアプローチ

方法原理
Frenkel体操目で四肢の動きを確認しながら反復=視覚による代償(深部感覚障害による失調)
重錘負荷法四肢に重りを付け固有受容入力を増強して動揺を抑える
弾性緊縛帯(緊縛帯法)弾性帯を巻いて固有受容入力を増強する
不安定板を用いた練習バランス反応・固有受容感覚の訓練
リズミック・スタビリゼーション同時収縮による体幹・姿勢の安定化

「視覚の代償=Frenkel体操」「固有受容感覚の増強=重錘負荷・弾性緊縛帯」。深部感覚障害では視覚を遮断すると動揺が増す(Romberg徴候陽性)ことと結びつけて覚える。

徒手抵抗で動作を誘導するときの原則

  • 抵抗量で運動の速さを調整できる(抵抗を増やすと遅く、減らすと速く)。
  • 抵抗は運動の開始から加え、可動域の中で筋の出せる力に合わせて量を変える(最大抵抗)。
  • 手の当て方は虫様筋握り(MP屈曲・IP伸展)で、動かしたい方向の面に限って接触する。広く握り込むと方向の情報があいまいになる。
  • ほかの要素:開始時の伸張刺激、関節の牽引(動きを促す)・圧縮(安定を促す)、短く明確な口頭指示。

1-6 失調に対する治療手技の選択

手技適応
rhythmic stabilization小脳性協調運動障害。周期的に方向を変えた抵抗を加え、安定性と協調性を同時に高める
Frenkel体操脊髄性(後索性)運動失調。視覚による代償を利用した反復学習
Epley法良性発作性頭位めまい症(耳石置換)。失調の治療ではない
持続的伸張短縮・拘縮への対応。協調性改善に寄与しない
エルゴメーターのペダリング持久力・全身調整。協調性改善に特異的でない

小脳性失調にFrenkel体操を当てるのは誤り → Frenkel体操は脊髄性(深部感覚障害)向け。眼振・構音障害・鼻指鼻試験異常があり関節位置覚障害なし・Romberg陰性なら小脳性であり、選ぶのはrhythmic stabilization。