第2章|バランス練習・動作練習とADL指導

運動療法 第2章

2-1 バランス練習の進め方

難度を上げる方向は支持を減らす・支持基底面を狭める・課題を動的にする・二重課題を加える。

両手支持立位 → 片手支持 → 支持なしの静的立位 → 立位での重心移動 → 片手支持でのステップ → 支持なしでの外乱対応 → 歩行 → タンデム歩行
  • 「物的介助なしで立位の重心移動が可能・歩行は平行棒内両手支持で軽介助」の段階なら、次は片側上肢を支持した立位での下肢ステップ練習。
  • 杖歩行・支持なしのタンデム歩行・支持なしでの外乱付加は難度が高すぎ転倒リスクが大きい。すでに獲得した重心移動の反復は次の一歩にならない。

スポーツ外傷予防でも順序は同じ

  • 膝前十字靱帯損傷の予防は静的な姿勢保持からバランストレーニングへ漸進させる。動的安定性と固有感覚を段階的に高めるのが最も有効。
  • 体幹は深層筋(腹横筋など)の動的安定性が要で、浅層筋のみでは不十分。協調性は股・膝を含めて求められ、下肢遠位筋だけでは損傷機序に対応できない。後方重心は膝伸展筋の負荷を増やし逆効果。着地動作の単一指導だけでは包括的な予防プログラムにならない。

2-2 ADL指導・目標設定・活動量の指標

片麻痺のADL動作原則

場面どちらから
上衣・下衣を着る患側から
上衣・下衣を脱ぐ健側から
階段を上る健側下肢から
階段を下りる患側下肢から(健側で支える)
浴槽に入る・出る健側下肢から
車椅子↔ベッドの移乗健側をベッド側に寄せ、健側を軸に方向転換
合言葉は「着患脱健」+「上り健側・下り患側」。浴槽・移乗は安定した健側が先。

車椅子から床への移乗(前方へ降りる手順)

手順要点
① 車椅子のブレーキを確認し、フットレストを上げて足を床につける転動防止。どの移乗でも最初に行う安全確認
② 殿部を座面の前方へ移動する重心を前に出しておかないと、膝つき動作へ移れない
③ 非麻痺側(健側)の足部を十分後方に引く支持基底面を作り、健側下肢で体重を支えられるようにする
④ 上体を前傾させ、非麻痺側の膝から床につく支持力のある側から接地する。ここが最頻出の判断点
⑤ 膝をついた側(非麻痺側)の殿部を接地させ、回転するように着座する膝立ち位 → 横座り → 座位へと回りながら降りる

「上体を前傾させて麻痺側の膝を床につく」は誤り → 正しくは非麻痺側(健側)の膝からつく。麻痺側は支持力が不足し、体重を預けた瞬間に崩れて転倒する。①ブレーキ確認・②殿部を前方へ・③非麻痺側足部を後方へ・⑤膝をついた側の殿部を接地させて回転着座は、いずれも正しい手順なので消去できる。

床への移乗も床からの立ち上がりも原則は同じで、支えるのは常に非麻痺側。「健側から降り、健側で押し上げて戻る」と覚えると、手順の各段階を個別に暗記しなくても肢を切れる。

指導順序と目標の優先順位

  • 難易度は基本動作(寝返り・起き上がり・座位・立ち上がり)→応用動作(移乗・歩行・段差・更衣・入浴)の順。重度麻痺(Brunnstrom上肢Ⅱ・下肢Ⅲなど)ではまず起き上がりの自立を指導し、段差昇降・浴槽出入りは後回し。
  • 在宅・通所リハの目標も排泄・更衣・移動・立位保持といった基本的ADLが先。家事動作(IADL)の自立は複合的で難度が高く、優先順位は低い。
  • 実用的な移動手段は「安全に・自立して・生活に必要な距離を移動できるか」で決める。5m程度しか自力歩行できないなら実用的移動手段は車椅子(歩行練習は別に継続する)。
  • 歩行予後の目標設定では回復の経過(歩行能力・Brunnstrom法ステージの推移)が最優先、次いで画像所見・発症前ADL。糖尿病などの併存疾患は管理上重要でも歩行目標の予測情報としては優先度が最も低い。

活動強度の指標(METs・BMI)

  • 1 MET=3.5 mL/kg/分。手順は①L→mL(×1000)②体重で割る③3.5で割る。例:最大酸素摂取量2.10 L/分・体重50kg → 2100÷50=42 mL/kg/分 → 42÷3.5=12 METs。
  • 代表値:皿洗い約1.8/子供を抱えて立つ約2.0/ピアノ演奏約2.3/植物への水やり約2.5/普通歩行約3/ラジオ体操第1約4 METs/階段昇降4〜5。身体活動基準2013では3 METs以上を身体活動として扱い、4 METs以上の「運動」に当たるのはラジオ体操第1。
  • BMI=体重(kg)÷身長(m)²。判定は18.5未満=低体重/18.5〜25未満=普通/25以上=肥満。目標体重は目標BMI×身長²で逆算(身長1.70m→1.70²=2.89、BMI24なら24×2.89≒69kg)。標準体重はBMI22で計算。
ADLに関わる周辺知識
・慢性心不全の運動療法では運動耐容能とQOLが向上し、BNP・交感神経活性は低下する。左室駆出率は維持〜改善で、低下はしない。適応は安定期でBorg 11〜13程度。
・食事動作に関わる嚥下代償法:喉頭蓋谷残留→うなずき嚥下/梨状窩残留→横向き嚥下・複数回嚥下/食道入口部の開大不全→Mendelsohn手技・バルーン拡張法/舌骨上筋群の筋力低下→Shaker法。

片麻痺者のトイレ・入浴で危ない場面

  • 立位の支えが非麻痺側上肢だけの人では、その手を手すりから離して前方へ手を伸ばす動作(便器の蓋を開ける、物を取るなど)が転倒しやすい。座る・座って清拭する・手すりを使った立ち上がり・壁に体を寄せたズボン上げは、支えを残したまま行える。
  • 長柄ブラシは背中や下肢など手の届きにくい所を非麻痺側の片手で洗う自助具。利き手が廃用手だと、ブラシを持っている非麻痺側上肢そのものを洗う手がなく洗い残しが多い → 壁に固定したブラシなどで補う。
  • 片手での爪切りには台付きの爪切りを使う。