第1章|運動学の基礎(面・軸・てこ)

運動学 第1章

1-1 3つの基本面と3つの運動軸

身体運動は3つの基本面3つの運動軸で記述する。運動が起こる面と回転軸は必ず直交する。

基本面身体を分ける向きその面で起こる運動回転軸
矢状面左右に分ける屈曲・伸展/掌屈・背屈/底屈・背屈前額–水平軸(左右軸)
前額面(前頭面)前後に分ける外転・内転/側屈/橈屈・尺屈/挙上・下制/内がえし・外がえし矢状–水平軸(前後軸)
水平面(横断面)上下に分ける回旋(内旋・外旋)/水平屈曲・水平伸展/回内・回外垂直軸

軸は「運動が起こる面に垂直」。「屈曲・伸展は前後軸まわりの運動」は誤り → 矢状面に垂直な左右軸(前額–水平軸)まわり。「外転・内転は左右軸まわり」も誤り → 前後軸まわり。

1-2 ROM測定はどの面で測るか

関節可動域測定法(日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会基準)では、運動名の語尾で面が機械的に決まる

判定キーワード測定項目の例
矢状面屈曲・伸展/掌屈・背屈/底屈・背屈頸部・胸腰部の屈曲伸展、肩伸展、肘屈曲伸展、手掌屈・背屈、股屈曲伸展、膝屈曲・伸展、足背屈・底屈
前額面外転・内転/側屈/橈屈・尺屈/挙上・下制肩甲帯挙上・下制、肩外転内転、手橈屈・尺屈股外転・内転、頸部・胸腰部の側屈、足部内がえし外がえし
水平面回旋/水平屈曲・水平伸展頸部回旋、胸腰部回旋肩内旋・外旋、肩水平屈曲伸展、股内旋外旋、肩甲帯屈曲伸展

手関節は同じ関節でも面が分かれる。掌屈・背屈=矢状面橈屈・尺屈=前額面。「手尺屈は矢状面で測る」は誤り。

引っかけ3点。①肩甲帯挙上・下制は数少ない前額面測定(肩甲帯の屈曲・伸展は水平面)。②肩内旋・外旋は肘90°屈曲位で前腕を指標にする水平面の測定。③胸腰部回旋は座位での水平面測定。

1-3 関節運動の名称

  • 屈曲/伸展:矢状面。多くの関節で関節角度が小さくなるのが屈曲
  • 外転/内転:前額面。正中から遠ざかるのが外転
  • 内旋/外旋:長軸まわりの回旋(水平面)/回内・回外は前腕(橈骨が尺骨をまたぐのが回内)
  • 背屈/底屈:足関節。背屈=つま先を上げる橈屈・尺屈は手関節の外転・内転にあたる
  • 母指の対立CM関節(手根中手関節)の複合運動/分回しは屈曲・外転・伸展・内転の連続で単一の面の運動ではない
  • Drehmann徴候:大腿骨頭すべり症で陽性。背臥位で罹患側股関節を他動的に屈曲すると、その罹患側が不随意に外転・外旋する(内転・内旋でも健側でもない)

1-4 てこの3種類

骨・関節・筋は「てこ」として働く。支点(関節)・力点(筋の付着部)・作用点(荷重)の並び順で3種に分かれ、中央にあるものが種類を決める

種類中央にあるもの力学的特徴身体の例
第1のてこ支点安定性・平衡型環椎後頭関節での頭部支持、肘伸展での上腕三頭筋
第2のてこ作用点(荷重点)力に有利下腿三頭筋によるつま先立ち
第3のてこ力点速度・可動範囲に有利/力に不利。人体で最多上腕二頭筋による肘屈曲

「人体で最も多いのは第2のてこ」は誤り → 第3のてこ。「第3のてこは力に有利」も誤り → 力には不利で、速度と運動範囲をかせぐ。

1-5 モーメント(トルク)計算の型

  • トルク(N·m)=力(N)×モーメントアーム(m)。求める力=トルク÷距離
  • モーメントアーム=関節中心から力の作用線までの垂直距離。隣の関節までの距離ではない
  • 筋が角度θで斜めに付着すると有効モーメントアーム=距離×sinθ(45°ならsin45°=cos45°=0.71)
  • 単位換算:1 kgf(kg重)≒9.8 N。距離は必ずcm→mに直す
  • 輪軸:力×大輪の半径=荷重×小輪の半径。大輪に力を加えるほど小さい力で済む
状況立てる式答え
股関節中心から30 cmの点で外転トルク30 N·mF=30÷0.3=100 N、÷9.810.2 kgf
膝中心から25 cmで28 kgf(股〜膝は33 cm)28×9.8=274.4 N、×0.25 m68.6 N·m(33 cmは無関係)
肘から25 cmに4 kgw、筋付着は肘から4 cmで45°4×25=F×(4×0.71)35 kgw
支点Aの3 cm先Bに60 kg重、さらに15 cm先Cに力F(1 N=100 g重)F×18=60×3 → 10 kg重100 N
小輪半径15 cmに18 kg、大輪半径45 cmに力F(100 g=1 N)18 kg=180 N、F×45=180×1560 N

問われているのが力(N)モーメント(N·m)かを単位で見分ける。支点にかかる力(支点反力)は鉛直方向の力の釣り合いで決まり、下向き荷重の総和=W1+W2。左右のつり合いのほうはモーメントの釣り合い d1×W1=d2×W2。d1×W1+d2×W2 型の式は次元がN·mで、力ではない。

典型ミスは①cmをmに直さない ②kgf→N換算(×9.8)を忘れる ③無関係な距離(隣接関節間の長さ)を使う、の3つ。

1-6 力学の単位と物理量

定義式単位
F=ma(質量×加速度)N(ニュートン)=kg·m/s²
仕事・エネルギーW=F×移動距離J(ジュール)=N·m
仕事率(パワー)仕事÷時間W(ワット)=J/s
圧力/トルク力÷面積/力×モーメントアームPa/N·m

「ワットは仕事の単位である」は誤り → ワットは仕事率の単位で、仕事の単位はジュール。この入れ替えが定番の引っかけ。

  • ベクトル量(大きさ+向き)=力・速度・加速度・変位/スカラー量(大きさのみ)=質量・速さ・距離・仕事・時間
  • エネルギー代謝率(RMR)=労作代謝量÷基礎代謝量。労作代謝量=作業時代謝量−安静時代謝量。体格差を除いて作業強度を比較できる
  • METs安静時代謝の倍数で、RMR(基礎代謝基準)とは分母が違う。「労作代謝量÷安静時代謝量」「基礎代謝量÷基準体表面積」はRMRの式ではない

1-7 重心・支持基底面・床反力

  • 身体重心(COG):立位でおよそ第2仙椎の高さ(やや前方)
  • 支持基底面(BOS):床と接する部分を結んだ範囲。重心線がBOS内にあれば安定、外に出ると転倒する
  • 床反力:身体が床を押す力の反作用。静的平衡が成立する条件は床反力ベクトルの作用線が身体重心を通ること
  • 作用線が重心からずれると、そのずれ(モーメントアーム)に応じた回転モーメントが生じて静止できない。重心より後方を通れば後方へ、前方を通れば前方へ倒れる

膝屈曲・体幹前傾で静止した姿勢の図問題では、重心の印(●)を通る矢印を選ぶ。姿勢が崩れて見えても、静止しているなら作用線は必ず重心を通る。

1-8 筋収縮の様式

様式筋長張力と抵抗動作の言い方
求心性(短縮性)短くなる張力>抵抗持ち上げる・立ち上がる・上げる
遠心性(伸張性)引き伸ばされる張力<抵抗下ろす・降りる・座る・しゃがむ(ブレーキ)
等尺性変わらない張力=抵抗保持する・支える

判定は「その筋が伸びているか縮んでいるか」だけ。同じ筋でも動作の向きで様式が逆になる。

動作様式
頭上に手を挙げる/頭上の手を下ろす三角筋前部線維求心性/遠心性
懸垂で体を上げる/体を下ろす上腕二頭筋求心性/遠心性
椅子から立ち上がる/椅子に座る大腿四頭筋求心性/遠心性
つま先立ちする/しゃがみ込む下腿三頭筋(ヒラメ筋)求心性/遠心性
腕立て伏せで肘を伸ばす上腕三頭筋求心性
  • 張力は同一条件下で 遠心性 > 等尺性 > 求心性
  • 遠心性収縮は遅発性筋痛(DOMS)・筋損傷を生じやすい
  • 等張性=一定の張力での収縮/等速性(アイソキネティック)=一定の角速度での収縮で専用機器が必要

「ゆっくり階段を下りるときの大腿四頭筋は求心性収縮」は誤り → 遠心性。「等尺性収縮では筋が短縮する」も誤り → 筋長は不変

1-9 開放性運動連鎖と閉鎖性運動連鎖

OKC(開放性運動連鎖)CKC(閉鎖性運動連鎖)
遠位端(足・手)自由に動く床・壁などに固定
荷重非荷重荷重
関節の動き単関節が独立して動く複数関節が連動する
端座位での膝伸展、背臥位でのSLR(下肢伸展挙上)、レッグエクステンション不安定板上での立位保持、背臥位で足底を壁に押す運動、立位でチューブに抗した膝伸展、スクワット

判別は「足(手)が地面・壁に接して固定されているか」の一点。CKCは関節の圧迫力で安定性が高まり共同収縮が起こるため、前十字靱帯(ACL)再建術後など安定性を重視する場面で選ばれる。

「立位でチューブの抵抗に対して膝を伸展する運動はOKC」は誤り → 足部が床に固定され荷重もかかるためCKC

1-10 面で切り分ける — 義足・装具のアライメント

義足・装具の不具合は前額面の問題か矢状面の問題かをまず分けると一手で絞れる。

関与するアライメント要素現れる現象
前額面初期内転角・外転角、ソケットの内外側移動足部外側が浮く=初期内転角が大きすぎる/足部内側が浮く=初期外転角が大きすぎる
矢状面初期屈曲角、ソケットの前後移動、後方バンパーの硬さつま先が浮き膝折れ感=初期屈曲角が大きすぎる → 初期屈曲角を減らす/ソケットを後方へ移すと膝屈曲方向に押され膝折れが悪化

「つま先の浮き上がり+膝折れ感」にソケットの内側・外側移動で対応するのは誤り → それは前額面の調整で矢状面の不安定は解決しない。後方バンパーの硬さやトウブレーク位置は歩行の動的局面(踵接地・蹴り出し)の要素で、静的立位の外側浮きの原因にならない。

長下肢装具の継手軸=関節運動軸に合わせる

部位正しい位置
膝継手軸矢状面で膝の前後径の1/2の点と後方1/3の点の中間点を通る
股継手軸大転子と小転子の中点付近(小転子より2 cm上方ではない)
足継手軸前額面で両果中央(内果と外果の中点)を通る(内果中央ではない)
骨盤帯側方は腸骨稜の直下(腸骨稜と上前腸骨棘の間ではない)
下腿半月上縁腓骨頭下端よりさらに下方(腓骨頭直下ではない)

継手軸が関節の回転軸からずれると、装具と身体の運動軸が一致せず屈伸のたびにずれる。軸は面に垂直・関節中心を通るという1-1の原則が、そのまま適合判定の根拠になっている。