腰痛・下肢痛の問題は、まずどの方向の動きで症状が悪化するかで病態を仕分ける。これが体操・装具を選ぶ向きを考える出発点になる(ただし就寝時の姿勢は例外で、ヘルニアでも膝を曲げた軽度屈曲位の側臥位が望ましい)。
| 疾患 | 壊れる所 | 悪化する動き | 典型像 |
|---|---|---|---|
| 腰椎椎間板ヘルニア | 椎間板(髄核の後方突出) | 前屈・座位・重量物の前屈持ち上げで悪化しやすい | 20〜40歳代男性に多い。L4/5・L5/S1が好発。片側の下肢放散痛(坐骨神経痛)、SLR陽性 |
| 腰部脊柱管狭窄症 | 脊柱管・椎間孔の狭小化 | 伸展(立位・歩行)で悪化、前屈で軽快 | 中高年。下肢のしびれ(馬尾型は両側・神経根型は片側のことが多い)、神経性間欠跛行 |
| 腰椎変性すべり症 | 椎体の前方へのずれ(加齢変性) | 伸展で悪化(狭窄症と同じ向き) | 中高年女性に多い。狭窄症状として間欠跛行を起こす |
| 腰椎分離症 | 椎弓の峡部(上関節突起と下関節突起の間=関節突起間部)の疲労骨折 | 伸展・回旋で痛む | 成長期のスポーツ選手(野球など)。第5腰椎に多い。進行すると分離すべり症 |
分離症で「分離」するのは椎弓(峡部)。横突起・棘突起・椎体・椎間板ではない。椎間板が壊れるのはヘルニア、椎体が潰れるのは圧迫骨折。
| 神経性(脊柱管狭窄症・すべり症) | 血管性(閉塞性動脈硬化症など) | |
|---|---|---|
| 軽快する条件 | 前屈・しゃがみこみ・座る(姿勢で軽快) | 立ち止まって休む(姿勢に関係なく安静で軽快) |
| 足背動脈 | 触知できる | 拍動が減弱・消失 |
| 自転車 | 前屈位なので長くこげる | こぐと下肢痛が出る |
歩行中に殿部〜下肢痛が出た狭窄症・すべり症の患者には「しゃがむ・座る・前かがみで休む」と指導する。立ち止まって体幹を伸展するのは脊柱管をさらに狭めて逆効果。速度を変えて歩き続けても、回旋しても軽快しない。
| 疾患 | 画像で見る所 |
|---|---|
| 椎間板ヘルニア | 椎間板高位に限局した後方への突出が硬膜管を圧排。椎間板は変性して信号が低下していることが多い |
| すべり症 | 椎体後縁の並びに階段状のずれ(step off) |
| 圧迫骨折 | 椎体が楔状・扁平に潰れる。新鮮例では椎体内の信号変化 |
| 後縦靱帯骨化症 | 頸椎に好発。椎体後面に沿って複数椎体にわたる帯状の骨化 |
| 骨粗鬆症 | MRIで直接診断するものではなく、骨密度測定(DXA)で評価 |
| テスト | やり方 | 陽性で疑う所 |
|---|---|---|
| SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)/Lasègue テスト | 背臥位で膝伸展のまま下肢を挙上し、坐骨神経を伸張 | L4/5・L5/S1のヘルニア(坐骨神経領域=下腿〜足部後面・外側の放散痛) |
| Bragard テスト | SLRで痛みが出た角度から少し下げ、足関節を背屈して再び痛みが出るかをみる(SLRの変法) | 同上(腰椎椎間板ヘルニアの神経根症状) |
| FNST(大腿神経伸張テスト/大腿神経伸展テスト) | 腹臥位で膝を屈曲(股関節伸展)し大腿神経を伸張 | L2/3・L3/4の上位腰椎ヘルニア(大腿前面の痛み・しびれ) |
| Kemp 徴候 | 腰椎の伸展+側屈+回旋で痛みを誘発 | 椎間関節・分離症・狭窄症など伸展で悪化する病態 |
| Spurling テスト | 頸椎を伸展・側屈し頭部から軸圧をかけ椎間孔を圧迫 | 頸椎の神経根症(上肢への放散痛) |
症状の場所でテストを選ぶ。大腿前面=FNST(腹臥位・膝屈曲)、殿部〜下腿後面=SLR・Bragard(背臥位・下肢挙上)。大腿前面のしびれ+筋力低下の症例にSLRを選ぶのは誤り。
| テスト | 対象 |
|---|---|
| Adson・Wright・Morley・Eden | 胸郭出口症候群 |
| Allen | 手の動脈(橈骨・尺骨動脈)の開存 |
| Eichhoff | de Quervain 病(狭窄性腱鞘炎) |
| Thomsen | 上腕骨外側上顆炎(テニス肘) |
| Yergason | 上腕二頭筋長頭腱の障害 |
| Lachman | 膝前十字靱帯損傷 |
| McMurray・Apley | 膝半月板損傷 |
| Thompson | アキレス腱断裂 |
Spurlingは頸椎神経根(椎間孔圧迫)のテストで、Adson・Morley・Wright・Eden は胸郭出口症候群のグループ。「椎間孔圧迫=Spurling」と直結させる。頸椎神経根症の誘発テストには、ほかにJacksonテスト(頭部圧迫テスト)もある。
| 高位 | 障害神経根 | 感覚障害 | 筋力低下 | 腱反射 |
|---|---|---|---|---|
| L3/4 | L4 | 下腿内側 | 大腿四頭筋・前脛骨筋 | 膝蓋腱反射低下 |
| L4/5 | L5 | 下腿外側・足背・母趾 | 長母趾伸筋(前脛骨筋も一部関与) | 明らかな変化なし |
| L5/S1 | S1 | 下腿後面・足底・小趾 | 下腿三頭筋 | アキレス腱反射低下 |
膀胱直腸障害や進行する麻痺を伴うヘルニア(馬尾障害)は緊急手術の適応。理学療法で様子をみる対象ではない。
| Williams体操 | McKenzie体操 | |
|---|---|---|
| 型 | 屈曲型(骨盤後傾・腰椎前弯を減らす) | 伸展型(腰椎伸展が中心) |
| 主な適応 | 腰部脊柱管狭窄症・変形性脊椎症・脊椎分離すべり症など伸展で悪化する病態 | 後方突出型の椎間板ヘルニアなど屈曲で悪化する例。症状が末梢から腰部へ戻る「中枢化(centralization)」を指標にする |
| 主な要素 | 腹筋強化・殿筋強化・腰背部(背筋)の伸張・股関節屈筋(腸腰筋・大腿直筋)の伸張・ハムストリングスの伸張・スクワット | 腹臥位での上体反らし(パピーポジション=腹臥位で両肘をついた腰椎伸展位)など |
Williams体操に骨盤前傾訓練は入らない(前弯を増やす=狙いと逆)。大殿筋は強化する側で、伸張の対象ではない(45B027の「股関節伸展筋伸張訓練」は正答に入らない。ただしハムストリングスの伸張はWilliams体操に含まれる)。「腰椎前弯を減らす方向のものは全部含む」と覚えると前弯を増やす肢を切れる。
| 体操 | 対象 |
|---|---|
| Williams・McKenzie | 腰痛 |
| Böhler | 脊椎(椎体)圧迫骨折(背筋強化の伸展体操) |
| Klapp | 脊柱側弯症(四つ這い位) |
| Frenkel | 深部感覚障害による運動失調 |
| Codman(振り子運動) | 肩関節周囲炎 |
| Buerger-Allen | 末梢循環障害 |
分離症・分離すべり症は伸展・回旋を避け、屈曲位で体幹を安定させるが原則。腹臥位で上体を反らす背筋強化は分離部にストレスをかけ、疼痛の再燃や偽関節化を招くので行わない。ブリッジや体幹の急激な回旋も避ける。
向きの対比:ヘルニア=前屈で悪化しやすい/狭窄症・すべり症・分離症=伸展で悪化。体操・装具はこの向きで選ぶのが基本。ただし寝る姿勢はヘルニアでも膝を曲げた側臥位(腰椎軽度屈曲位)で、伸展位にはしない。
| 装具 | 働き | 主な適応 |
|---|---|---|
| Williams型(腰仙椎装具) | 伸展を制限し屈曲位を保つ | 腰部脊柱管狭窄症・脊椎分離すべり症 |
| Knight型(腰仙椎装具) | 腰椎の前後屈・側屈を制限 | 腰痛症・腰椎術後など |
| Steindler型 | 硬性の体幹装具で、体幹の動きを広く制限する(屈曲位保持が目的の装具ではない) | 腰痛症など |
| 軟性コルセット | 腰椎を軽度屈曲位に保持 | 狭窄症・すべり症にも使われる |
| Jewett型・Taylor型 | 屈曲を制限(伸展位を保持) | 胸腰椎の圧迫骨折(腰痛疾患とは向きが逆) |
「前屈で楽になる=狭窄症=Williams型(屈曲位保持)」。両下肢しびれ+間欠跛行+足背動脈触知+前屈で歩きやすい、の症例ならWilliams型。Boston・Milwaukeeは側弯症用、Jewettは圧迫骨折用で、どれも狭窄症の装具ではない。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 周波数 | 1 MHz=深部(約3〜5 cm)/3 MHz=表在(約1〜2 cm)。腰部の深い筋・筋膜には1 MHz |
| 強度 | おおむね0.5〜2.0 W/cm²。3.0 W/cm² は過大 |
| 照射時間率 | 100%=連続波(温熱作用が強い)。急性〜亜急性ではパルス波(非温熱)が適することが多い |
| 導子 | 超音波は空気を通らないので皮膚に密着させカップリング剤を使う。離さない |
| BNR(ビーム不均等率) | 低いほど均一で安全。高BNRの導子を固定法で使うとホットスポットで熱傷の危険 |
産業理学療法の目的は働き続けられるように支援すること。作業そのものと環境を変えて腰への負担を減らす。
| 優先度が高い | 優先度が低い |
|---|---|
| 作業姿勢の評価(前傾・ひねり姿勢の把握) 作業方法の変更(持ち上げ動作の改善・補助具の導入) ストレスの軽減(心理的ストレスは遷延化要因) 労働生産性を保ちながらの腰痛管理 | 職場の配置転換(職そのものを変える対応で、理学療法的介入の本筋ではない) |
腰痛予防の動作指導はボディメカニクス:荷物は体に近づけ、膝を曲げて腰を落として持ち上げる。腰を丸めた前屈での持ち上げとひねりを避ける。