第1章|腰痛・腰椎疾患の評価と理学療法

脊椎疾患・腰痛 第1章

1-1 腰椎疾患の見分け方(ヘルニア・脊柱管狭窄症・すべり症・分離症)

腰痛・下肢痛の問題は、まずどの方向の動きで症状が悪化するかで病態を仕分ける。これが体操・装具を選ぶ向きを考える出発点になる(ただし就寝時の姿勢は例外で、ヘルニアでも膝を曲げた軽度屈曲位の側臥位が望ましい)。

疾患壊れる所悪化する動き典型像
腰椎椎間板ヘルニア椎間板(髄核の後方突出)前屈・座位・重量物の前屈持ち上げで悪化しやすい20〜40歳代男性に多い。L4/5・L5/S1が好発。片側の下肢放散痛(坐骨神経痛)、SLR陽性
腰部脊柱管狭窄症脊柱管・椎間孔の狭小化伸展(立位・歩行)で悪化、前屈で軽快中高年。下肢のしびれ(馬尾型は両側・神経根型は片側のことが多い)、神経性間欠跛行
腰椎変性すべり症椎体の前方へのずれ(加齢変性)伸展で悪化(狭窄症と同じ向き)中高年女性に多い。狭窄症状として間欠跛行を起こす
腰椎分離症椎弓の峡部(上関節突起と下関節突起の間=関節突起間部)の疲労骨折伸展・回旋で痛む成長期のスポーツ選手(野球など)。第5腰椎に多い。進行すると分離すべり症

分離症で「分離」するのは椎弓(峡部)。横突起・棘突起・椎体・椎間板ではない。椎間板が壊れるのはヘルニア、椎体が潰れるのは圧迫骨折。

間欠跛行:神経性か血管性か

神経性(脊柱管狭窄症・すべり症)血管性(閉塞性動脈硬化症など)
軽快する条件前屈・しゃがみこみ・座る(姿勢で軽快)立ち止まって休む(姿勢に関係なく安静で軽快)
足背動脈触知できる拍動が減弱・消失
自転車前屈位なので長くこげるこぐと下肢痛が出る

歩行中に殿部〜下肢痛が出た狭窄症・すべり症の患者には「しゃがむ・座る・前かがみで休む」と指導する。立ち止まって体幹を伸展するのは脊柱管をさらに狭めて逆効果。速度を変えて歩き続けても、回旋しても軽快しない。

MRI(矢状断)の読み分け

疾患画像で見る所
椎間板ヘルニア椎間板高位に限局した後方への突出が硬膜管を圧排。椎間板は変性して信号が低下していることが多い
すべり症椎体後縁の並びに階段状のずれ(step off)
圧迫骨折椎体が楔状・扁平に潰れる。新鮮例では椎体内の信号変化
後縦靱帯骨化症頸椎に好発。椎体後面に沿って複数椎体にわたる帯状の骨化
骨粗鬆症MRIで直接診断するものではなく、骨密度測定(DXA)で評価

1-2 神経根の誘発テストと障害高位

テストやり方陽性で疑う所
SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)/Lasègue テスト背臥位で膝伸展のまま下肢を挙上し、坐骨神経を伸張L4/5・L5/S1のヘルニア(坐骨神経領域=下腿〜足部後面・外側の放散痛)
Bragard テストSLRで痛みが出た角度から少し下げ、足関節を背屈して再び痛みが出るかをみる(SLRの変法)同上(腰椎椎間板ヘルニアの神経根症状)
FNST(大腿神経伸張テスト/大腿神経伸展テスト)腹臥位で膝を屈曲(股関節伸展)し大腿神経を伸張L2/3・L3/4の上位腰椎ヘルニア(大腿前面の痛み・しびれ)
Kemp 徴候腰椎の伸展+側屈+回旋で痛みを誘発椎間関節・分離症・狭窄症など伸展で悪化する病態
Spurling テスト頸椎を伸展・側屈し頭部から軸圧をかけ椎間孔を圧迫頸椎の神経根症(上肢への放散痛)

症状の場所でテストを選ぶ。大腿前面=FNST(腹臥位・膝屈曲)、殿部〜下腿後面=SLR・Bragard(背臥位・下肢挙上)。大腿前面のしびれ+筋力低下の症例にSLRを選ぶのは誤り。

名前の似た他部位のテスト(ひっかけ肢の代表例)

テスト対象
Adson・Wright・Morley・Eden胸郭出口症候群
Allen手の動脈(橈骨・尺骨動脈)の開存
Eichhoffde Quervain 病(狭窄性腱鞘炎)
Thomsen上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
Yergason上腕二頭筋長頭腱の障害
Lachman膝前十字靱帯損傷
McMurray・Apley膝半月板損傷
Thompsonアキレス腱断裂

Spurlingは頸椎神経根(椎間孔圧迫)のテストで、Adson・Morley・Wright・Eden は胸郭出口症候群のグループ。「椎間孔圧迫=Spurling」と直結させる。頸椎神経根症の誘発テストには、ほかにJacksonテスト(頭部圧迫テスト)もある。

ヘルニアの高位別所見

高位障害神経根感覚障害筋力低下腱反射
L3/4L4下腿内側大腿四頭筋・前脛骨筋膝蓋腱反射低下
L4/5L5下腿外側・足背・母趾長母趾伸筋(前脛骨筋も一部関与)明らかな変化なし
L5/S1S1下腿後面・足底・小趾下腿三頭筋アキレス腱反射低下

膀胱直腸障害や進行する麻痺を伴うヘルニア(馬尾障害)は緊急手術の適応。理学療法で様子をみる対象ではない。

1-3 腰痛体操と運動療法(Williams・McKenzie・分離症)

Williams体操McKenzie体操
型屈曲型(骨盤後傾・腰椎前弯を減らす)伸展型(腰椎伸展が中心)
主な適応腰部脊柱管狭窄症・変形性脊椎症・脊椎分離すべり症など伸展で悪化する病態後方突出型の椎間板ヘルニアなど屈曲で悪化する例。症状が末梢から腰部へ戻る「中枢化(centralization)」を指標にする
主な要素腹筋強化・殿筋強化・腰背部(背筋)の伸張・股関節屈筋(腸腰筋・大腿直筋)の伸張・ハムストリングスの伸張・スクワット腹臥位での上体反らし(パピーポジション=腹臥位で両肘をついた腰椎伸展位)など

Williams体操に骨盤前傾訓練は入らない(前弯を増やす=狙いと逆)。大殿筋は強化する側で、伸張の対象ではない(45B027の「股関節伸展筋伸張訓練」は正答に入らない。ただしハムストリングスの伸張はWilliams体操に含まれる)。「腰椎前弯を減らす方向のものは全部含む」と覚えると前弯を増やす肢を切れる。

人名のついた体操の仕分け(代表例)

体操対象
Williams・McKenzie腰痛
Böhler脊椎(椎体)圧迫骨折(背筋強化の伸展体操)
Klapp脊柱側弯症(四つ這い位)
Frenkel深部感覚障害による運動失調
Codman(振り子運動)肩関節周囲炎
Buerger-Allen末梢循環障害

腰椎椎間板ヘルニアの保存療法後の運動と生活指導

  • 四つ這い位で一側下肢を挙上する体幹安定化運動は適切
  • 腸腰筋が短縮していれば伸張する(短縮は骨盤前傾・腰椎前弯を強める)
  • 端座位での骨盤前後傾運動をゆっくり行い、骨盤・腰椎の可動性と運動コントロールを高める
  • McKenzie法の伸展運動(パピーポジション)は保存療法の一手段として用いられる
  • 就寝時は膝を軽く曲げた側臥位(腰椎軽度屈曲位)が望ましい。腰椎伸展位で寝るよう指導するのは誤り
  • 急性期は安静と疼痛管理、落ち着けば体幹深部筋の安定化運動と、前屈での重量物持ち上げを避ける動作指導へ

腰椎分離症の運動療法

分離症・分離すべり症は伸展・回旋を避け、屈曲位で体幹を安定させるが原則。腹臥位で上体を反らす背筋強化は分離部にストレスをかけ、疼痛の再燃や偽関節化を招くので行わない。ブリッジや体幹の急激な回旋も避ける。

  • 行ってよい例:背臥位・膝屈曲位での腹筋運動(クランチ)、腰椎が伸展しない姿勢での腕立て伏せ、SLR訓練、踵上げ
  • 中心は腹横筋・多裂筋による体幹安定化と、ハムストリングス・腸腰筋のストレッチ

向きの対比:ヘルニア=前屈で悪化しやすい/狭窄症・すべり症・分離症=伸展で悪化。体操・装具はこの向きで選ぶのが基本。ただし寝る姿勢はヘルニアでも膝を曲げた側臥位(腰椎軽度屈曲位)で、伸展位にはしない。

1-4 腰部の装具・物理療法・ガイドライン

腰部の装具

装具働き主な適応
Williams型(腰仙椎装具)伸展を制限し屈曲位を保つ腰部脊柱管狭窄症・脊椎分離すべり症
Knight型(腰仙椎装具)腰椎の前後屈・側屈を制限腰痛症・腰椎術後など
Steindler型硬性の体幹装具で、体幹の動きを広く制限する(屈曲位保持が目的の装具ではない)腰痛症など
軟性コルセット腰椎を軽度屈曲位に保持狭窄症・すべり症にも使われる
Jewett型・Taylor型屈曲を制限(伸展位を保持)胸腰椎の圧迫骨折(腰痛疾患とは向きが逆)

「前屈で楽になる=狭窄症=Williams型(屈曲位保持)」。両下肢しびれ+間欠跛行+足背動脈触知+前屈で歩きやすい、の症例ならWilliams型。Boston・Milwaukeeは側弯症用、Jewettは圧迫骨折用で、どれも狭窄症の装具ではない。

超音波療法(腰部の筋・筋膜)

項目要点
周波数1 MHz=深部(約3〜5 cm)/3 MHz=表在(約1〜2 cm)。腰部の深い筋・筋膜には1 MHz
強度おおむね0.5〜2.0 W/cm²。3.0 W/cm² は過大
照射時間率100%=連続波(温熱作用が強い)。急性〜亜急性ではパルス波(非温熱)が適することが多い
導子超音波は空気を通らないので皮膚に密着させカップリング剤を使う。離さない
BNR(ビーム不均等率)低いほど均一で安全。高BNRの導子を固定法で使うとホットスポットで熱傷の危険

慢性非特異的腰痛:理学療法診療ガイドライン

  • 強く推奨されるのは運動療法と認知行動療法(恐怖回避行動・不安を減らし、能動的な対処を促す)
  • 超音波・TENS・寒冷療法などの物理療法単独は根拠が限られ、強い推奨ではない。腰椎牽引は推奨されない
  • 慢性腰痛は生物心理社会モデルで捉える

1-5 産業理学療法と腰痛予防

産業理学療法の目的は働き続けられるように支援すること。作業そのものと環境を変えて腰への負担を減らす。

優先度が高い優先度が低い
作業姿勢の評価(前傾・ひねり姿勢の把握)
作業方法の変更(持ち上げ動作の改善・補助具の導入)
ストレスの軽減(心理的ストレスは遷延化要因)
労働生産性を保ちながらの腰痛管理
職場の配置転換(職そのものを変える対応で、理学療法的介入の本筋ではない)

腰痛予防の動作指導はボディメカニクス:荷物は体に近づけ、膝を曲げて腰を落として持ち上げる。腰を丸めた前屈での持ち上げとひねりを避ける。