第1章|吃音の基礎知識

吃音 第1章

吃音の定義と中核症状

吃音中核症状(DSM-5:小児期発症流暢障害)

中核症状は以下の3種:

  1. 繰り返し(音・音節・語の繰り返し)
  2. 引き伸ばし(音の延長)
  3. 阻止(ブロック)(音が出ない状態)

「挿入(えー・あのー)」「語全体の繰り返し」「遠回しの言い方(語の置き換え)」「間投詞の出現」は中核症状ではなく二次的症状または回避行動。DSM-5でも「間投詞の出現」は中核症状に含まれない。

中核症状の具体例

  • 「ここここんにちは」→ 音の繰り返し ✅ 中核
  • 「こーんにちは」→ 引き伸ばし ✅ 中核
  • 「こんこんこんにちは」→ 語節の繰り返し ✅ 中核
  • 「えー。こんにちは」→ 挿入 ❌ 中核でない
  • 「こんにゅ。いや。こんにちは」→ 言い直し ❌ 中核でない

吃音の二次的症状

二次的症状 ≠ チック

二次的症状に含まれるもの:

  • 随伴症状(体の動き・顔の緊張など)
  • 予期不安(吃ることへの恐れ)
  • 場面回避(電話・発表などを避ける)
  • 情緒性反応(恥・怒り・恥ずかしさ)

チックは吃音の二次的症状ではない。チックは神経発達障害の一つであり、吃音とは独立した概念。

吃音の流暢性変動要因

流暢になりやすい条件(適応・変動)

  • ささやき声で話す
  • ゆっくり話す
  • 一人で話す・歌う
  • リズム・拍に合わせて話す
  • 遅延聴覚フィードバック(DAF)使用時

悪化しやすい条件

  • はきはきと速く話す
  • 大声・高い声で話す
  • 電話・人前での発表

発達性吃音の疫学・自然経過

基本データ

項目内容
発症年齢2〜5歳が多い(好発年齢は2〜5歳)
発症率約5%(生涯で吃音を経験する割合)
有症率約1%(現在吃音がある割合)
男女比(発症)発症時は男女差が少ない(2〜3歳児)
自然治癒就学前後までに約80%が自然治癒
女児の自然治癒率女児の方が男児より自然治癒率が高い

「好発年齢は6歳前後」は誤り。2〜5歳が正しい。「発症率と有症率が同程度」は誤り。発症率(約5%)>有症率(約1%)——自然治癒があるため差がある。

幼児期の吃音の特徴

  • 繰り返しの症状が多い(引き伸ばし・ブロックは少ない)
  • 症状の出現頻度は変動する(日や状況により変わる)
  • 話しにくさを自覚していないことが多い
  • 随伴症状はみられない(または少ない)
  • 構音障害の合併率が高い

吃音の進展段階(吃音検査法第2版)

段階特徴
第1層吃ることに気づいていない;繰り返しが多い;随伴症状なし
第2層興奮時・速く話すときに症状が出る;吃音を恥ずかしいと感じ始める
第3層解除反応・助走・延期を使う;語の置き換えが出る
第4層強い情緒性反応;語の置き換え以外の回避も加わる;吃音で深刻に悩む;不登校など生活への影響

「第1層では吃ることに気づいている」は誤り。第1層は気づいていないのが特徴。「進展すると症状が阻止から引き伸ばしになる」は誤り——逆(繰り返し→引き伸ばし→阻止の順に重症化)。

発達性吃音の変動性

一貫性効果・適応効果・被刺激性

概念内容
一貫性効果同じ文章を繰り返し読むと同じ場所で吃りやすい
適応効果同じ文章を繰り返し読むと吃音が減少する
被刺激性治療者が流暢な発話モデルを示すと流暢になる
変動性日・場面・感情状態によって症状が変わる

発達性吃音は一貫性効果・適応効果の両方を示す

「症状は語尾で生じない」は正しい(吃音は語頭・語中で生じる)。「適応効果はない」「一貫性効果はない」「DAFで変化しない」「変動性はない」はすべて誤り。

獲得性吃音・神経原性吃音

項目発達性吃音獲得性(神経原性)吃音
適応効果ありない(または低い)
一貫性効果ありあり(神経原性は示しやすい)
予期不安あり乏しい
随伴症状あり少ない
症状変動大きい比較的少ない・一定
語頭集中あり語頭以外にも生じやすい
中枢神経疾患関係なし随伴する

神経原性吃音:適応効果が低い・予期不安が乏しい・随伴症状が少ない・語頭以外にも生じる——が発達性吃音との鑑別ポイント。

クラタリング(速語症)

  • 衝動的に発話速度が速くなる
  • 構音が不明瞭になる
  • 挿入・言い直しが多い
  • 病識に乏しい(自覚が少ない)
  • 緊張すると改善する(吃音と逆)

「緊張すると悪化する」は誤り。クラタリングは緊張場面(集中するとき)に改善する傾向がある。これが吃音との最大の鑑別点の一つ。