第10章|血液系

臨床医学総論 第10章
収録 11問(第31〜39回)貧血の分類(小球性・正球性・大球性)・鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血・溶血性貧血・白血病・骨髄腫・DIC・血友病・HIT・血液製剤の保存

出題の中心は貧血の分類とDICの検査所見の2つで、どちらも「上がるか下がるか」の向きで問われる。臨床工学技士にとっては、体外循環による機械的溶血、透析の抗凝固で起こるHIT、血漿交換の適応(TTP・マクログロブリン血症)が業務と直結する。

10-1 赤血球系の疾患(貧血症・赤血球増加症)

貧血の症状は「酸素不足の代償」

貧血の症状は組織の酸素不足と、それを補う反応として出る。頭痛・めまい・息切れ・全身倦怠感・顔面蒼白・動悸、そして頻脈。心臓は心拍数を増やして酸素の運搬量を保とうとするので、徐脈にはならない。「貧血の所見でないもの」として徐脈が出る。

MCV(赤血球の大きさ)で3つに分ける

分類MCVの目安代表的な貧血
小球性(低色素性)80 fL未満鉄欠乏性貧血・サラセミア・慢性炎症に伴う貧血
正球性80〜100 fL腎性貧血・再生不良性貧血・溶血性貧血・急性出血
大球性100 fL超巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏)

もう1つの切り方が原因で、作れない(産生低下)・壊れる(破壊亢進)・失う(出血)の3つ。選択肢に並ぶ貧血のうち、破壊亢進の側は溶血性貧血で、鉄欠乏性・腎性・再生不良性・巨赤芽球性は産生低下の側。

骨髄の機能の異常による貧血

  • 再生不良性貧血:骨髄の造血が低下し、赤血球・白血球・血小板がそろって減る(汎血球減少)。正球性。
  • 骨髄異形成症候群(MDS):形の異常な血球しか作れず血球が減る。高齢者に多く、白血病へ移ることがある。
  • 腎性貧血:腎臓のエリスロポエチン(EPO)産生が落ちて起こる正球性正色素性貧血。治療はエリスロポエチン製剤(ESA)やHIF-PH阻害薬。血清EPOが低いのは腎性貧血で、鉄欠乏性貧血ではEPOは下がらない。
  • 赤芽球癆:赤血球系だけが作られなくなる(白血球・血小板は保たれる)。胸腺腫やパルボウイルスB19感染に伴うことがある。

鉄欠乏性貧血(ヘモグロビン代謝の異常)

鉄欠乏性貧血の検査値は向きで覚える

フェリチンは低下(貯蔵鉄の枯渇を最も鋭敏に反映)、血清鉄は低下、総鉄結合能(TIBC)は上昇、MCVは低下(小球性低色素性)。「フェリチン増加」「間接ビリルビン高値(溶血の所見)」「エリスロポエチン低値(腎性貧血の所見)」は誤り。

原因は、閉経前の女性では月経過多が最多、男性や閉経後の女性ではまず消化管出血を疑う。症状は貧血の一般症状に加えて、さじ状爪(スプーンネイル・匙状爪)、氷などを無性に食べる異食症、舌炎、嚥下障害(Plummer-Vinson症候群)。サラセミアも小球性貧血だが、鉄は足りている。

サラセミアはヘモグロビンを作るグロビン鎖の量が足りない病気。異常ヘモグロビン症は、グロビンの構造(アミノ酸の並び)が違う異常ヘモグロビンができる病気で、代表は鎌状赤血球症(赤血球が鎌の形になって壊れやすい)。どちらもグロビンの異常だが、量の異常と構造の異常で分けて覚える。

巨赤芽球性貧血

ビタミンB12または葉酸が不足すると、DNA合成が障害されて大きな未熟な赤芽球(巨赤芽球)ができ、大球性貧血になる。胃全摘後は胃の壁細胞から出る内因子がなくなり、ビタミンB12が吸収できない。体内の蓄えがあるので、手術の数年後に貧血として現れる。自己免疫で内因子が失われるものが悪性貧血。

貧血治療に使うもの
巨赤芽球性貧血(胃全摘後)ビタミンB12製剤(吸収できないので筋注)
鉄欠乏性貧血鉄剤
腎性貧血エリスロポエチン製剤
自己免疫性溶血性貧血など副腎皮質ステロイド薬

亜鉛製剤は味覚障害の治療で、貧血の治療ではない。ビタミンB12欠乏ではハンター舌炎や、しびれ・深部感覚の低下(亜急性連合性脊髄変性症)などの神経症状も伴う。

溶血性貧血

赤血球が壊れる速さに骨髄が追いつかずに起こる貧血。指標は間接ビリルビン上昇(黄疸)・LDH上昇・ハプトグロビン低下・網赤血球増加。原因の分け方は3つ。

  • 免疫学的:自己抗体が赤血球を壊す(自己免疫性溶血性貧血。直接クームス試験陽性)。不適合輸血もこの仲間。
  • 遺伝的な異常:赤血球膜の異常(遺伝性球状赤血球症)、酵素の異常(G6PD欠乏症など)。
  • 機械的:人工弁、体外循環の血液ポンプや吸引、DICなどで細い血管に張ったフィブリンの網による破壊。体外循環ではポンプや吸引による溶血を、遊離ヘモグロビンで監視する。

その他の貧血と赤血球増加症

出血性貧血は急性なら正球性、慢性に続けば鉄が失われて鉄欠乏性になる。未熟児貧血は生後に赤血球が減る時期に、エリスロポエチンの産生が未熟で回復が遅れるもの。

赤血球増加症(多血症)のうち、真性赤血球増加症は骨髄の腫瘍性の増殖で、エリスロポエチンは低い。二次性赤血球増加症は低酸素(慢性呼吸不全・高地・チアノーゼ型心疾患)やEPO産生腫瘍でエリスロポエチンが増えて起こる。ストレス性は脱水などで血漿が減った見かけの増加(相対的)。新生児多血症は胎内の低酸素などによる。真性の治療は瀉血。

10-2 白血球系の疾患(白血病・リンパ腫・骨髄腫)

この小項目は過去問の収録が無いが、出題基準の範囲。病名と「特徴の1語」を対にしておく。

骨髄の増殖性疾患と白血病

疾患特徴の1語
急性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病未熟な芽球が増え、正常な血球が作れない(貧血・感染・出血)。急性リンパ性は小児に多い
慢性骨髄性白血病フィラデルフィア染色体(BCR-ABL融合遺伝子)。分子標的薬(イマチニブ)が効く
慢性リンパ性白血病成熟したリンパ球の増加。高齢者に多い
成人T細胞白血病ウイルスHTLV-1が原因。母乳で感染しやすい
骨髄線維症骨髄が線維化し、脾臓で造血(巨大な脾腫)。涙滴赤血球

類白血病反応は重い感染症などで白血球が著しく増え、白血病に似た血液像になるもので、腫瘍ではない。伝染性単核球症はEBウイルスの感染で、発熱・咽頭炎・リンパ節腫脹・異型リンパ球の増加をみる。

血漿蛋白の異常(形質細胞の腫瘍)

多発性骨髄腫は形質細胞の腫瘍で、同じ形の免疫グロブリン(M蛋白)が増える。尿にはベンス・ジョーンズ蛋白、症状は骨痛・病的骨折・高カルシウム血症・腎障害・貧血。原発性マクログロブリン血症はIgMのM蛋白が増えて血液がどろどろになる(過粘稠症候群)。粘稠度を下げる目的で血漿交換の適応になる。

リンパ増殖性疾患と白血球減少症

悪性リンパ腫はHodgkinリンパ腫と非Hodgkinリンパ腫に分かれる。Hodgkinリンパ腫はReed-Sternberg細胞が特徴で、隣のリンパ節へ順に広がる。日本では非Hodgkinリンパ腫が大部分を占める。

無顆粒球症は好中球がほとんどなくなる状態で、原因は薬剤が多い(抗甲状腺薬・抗菌薬・抗悪性腫瘍薬など)。好中球が500/μL未満になると重い感染症を起こしやすく、高熱・咽頭痛で気づく。原因の薬を止め、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を使う。

10-3 凝固・線溶系の異常(出血傾向・DIC)と血液製剤

DIC(播種性血管内凝固症候群)

DICは基礎疾患をきっかけに全身の細い血管で凝固が起こり、微小血栓が多発する状態。基礎疾患は敗血症・悪性腫瘍・産科合併症・外傷など。血栓を作るために血小板と凝固因子が使い果たされ(消費性凝固障害)、同時に線溶も亢進するので、結果として出血しやすくなる。

検査DICでの向き誤りとして出る向き
血小板数減少(消費)増加
フィブリノーゲン低下(消費)増加・上昇
プロトロンビン時間(PT)・APTT延長(凝固因子の消費)短縮
FDP・Dダイマー上昇(線溶亢進。特徴的所見)低値
末梢血破砕赤血球の出現(フィブリン網で機械的に壊れる)ヘモグロビン上昇

抗血小板抗体陽性はITPの所見で、DICの所見ではない。DICの治療は基礎疾患の治療に、抗凝固療法(ヘパリン、トロンボモジュリン製剤)を加える。出血しているのに抗凝固薬を使うのは、凝固の暴走を止めて消費を減らすため。足りないものは濃厚血小板や新鮮凍結血漿で補う。

血小板の異常

  • 特発性血小板減少性紫斑病(ITP):自己抗体(抗血小板抗体)で血小板が脾臓で壊される。凝固検査は正常。ピロリ菌の除菌で改善する例がある。
  • 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):ADAMTS13の活性低下で血小板血栓ができる。血小板減少・溶血性貧血(破砕赤血球)・腎障害・発熱・精神神経症状。治療は血漿交換で、臨床工学技士が関わる。
  • 薬剤性血小板減少症:薬に対する抗体などで血小板が減る。
  • ヘパリン起因性血小板減少症(HIT):ヘパリンに対する抗体が血小板を活性化し、血小板が減るのに血栓ができる。出血傾向ではなく血栓傾向。疑ったらヘパリンをすぐ止め、アルガトロバンなど別の抗凝固薬へ替える。透析や体外循環でヘパリンを使う場面で起こる。

凝固因子の異常と血管の異常

疾患原因検査の特徴
血友病A第Ⅷ因子の欠乏(X連鎖劣性遺伝・ほぼ男性)APTT延長・PT正常。関節内出血・筋肉内出血
血友病B第Ⅸ因子の欠乏(同上)APTT延長・PT正常
von Willebrand病von Willebrand因子の異常(血小板の粘着障害+第Ⅷ因子の低下)出血時間延長・APTT延長。鼻出血・歯肉出血
ビタミンK欠乏症第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子が作れない(ワルファリン・抗菌薬・吸収障害)PT延長
肝機能障害凝固因子の多くは肝臓で作られるPT延長
新生児出血傾向新生児はビタミンKが不足しやすい(新生児メレナ・頭蓋内出血)予防にビタミンK2シロップ
血管性紫斑病(IgA血管炎)血管壁の炎症血小板数・凝固検査は正常。紫斑・腹痛・関節痛・腎炎
出血傾向を示すもの・示さないもの

血友病・von Willebrand病・ビタミンK欠乏症は凝固の異常で出血傾向を示す。HITは血小板が減っても血栓傾向。血管性紫斑病は紫斑は出るが血小板と凝固検査は正常で、凝固・血小板系の出血傾向の組合せには入らない。

血液製剤の保存温度と有効期間

製剤保存温度有効期間の要点
赤血球液(問題では旧称の赤血球濃厚液)2〜6℃(冷蔵)出題の正答は採血後21日間(現在は28日間に延長)
洗浄赤血球2〜6℃出題の時点の正答では「洗浄後7日間」は誤りで、洗浄後は短い時間で使うとされた。製剤の有効期間は改定されることがあるので、今の値は最新の資料で確かめる
血小板20〜24℃(振盪保存)採血後4日間(「6時間」は誤り)
新鮮凍結血漿−20℃以下(冷凍)採血後1年間(「10日間」は誤り)
グロブリン製剤(血漿分画製剤)10℃以下約2年間と長い

血小板は冷やすと機能が落ちるので、冷蔵せず室温で振り混ぜながら保存する。赤血球の冷蔵と取り違えないこと。