第6章|神経・筋肉系

臨床医学総論 第6章
収録 6問(第31〜39回)意識障害の評価(JCS・GCS)・運動障害と言語障害・けいれん・脳血管障害とくも膜下出血・パーキンソン病・アルツハイマー病・筋萎縮性側索硬化症・重症筋無力症・ギラン・バレー症候群・全身の病気による神経症状

神経と筋肉の病気の章。収録は6問と少ないので、出題基準の全項目を4節でひととおり押さえる。出題の型は「病気と症状・原因の組合せ」がほとんどで、どこが壊れる病気か(脳・脊髄の運動ニューロン・神経筋接合部・末梢神経・筋肉)を言えれば、組合せの誤りはすぐ見抜ける。人工呼吸器や血漿交換など、臨床工学技士の装置を使う病気も多い。

6-1 神経の症状のみかた(意識障害・運動障害・言語障害・けいれん)

意識障害の評価

意識の程度は、決まった物差しで点数にして伝える。日本でよく使うJCS(Japan Coma Scale)と、世界で使うGCS(Glasgow Coma Scale)の2つがある。JCSは数字が大きいほど重く、GCSは点数が小さいほど重い。向きが逆なので取り違えない。

JCS(3-3-9度方式)状態
Ⅰ(1・2・3)刺激しなくても目を開けているが、意識がはっきりしない
Ⅱ(10・20・30)刺激すると目を開ける
Ⅲ(100・200・300)刺激しても目を開けない(300が最も重い)
GCS見るところ点数
E(Eye)開眼1〜4
V(Verbal)言葉の反応1〜5
M(Motor)運動の反応1〜6
合計3〜15点。15点が正常、3点が最も重い。8点以下は重い意識障害で、気道確保(気管挿管)を考える目安

運動障害・言語障害・けいれん

運動障害は、壊れた場所で型が分かれる。大脳皮質から脊髄へ下りる運動ニューロン(上位運動ニューロン・錐体路)が壊れると、筋肉はつっぱり(痙性麻痺)、腱反射は強くなる。脊髄前角から筋肉へ向かう運動ニューロン(下位運動ニューロン)や末梢神経が壊れると、筋肉はだらりとして(弛緩性麻痺)やせ、腱反射は弱くなる。体の半分の麻痺は片麻痺、両下肢の麻痺は対麻痺と呼ぶ。

言語障害の種類どこの障害か
失語症大脳の言語の中枢の障害。言葉を理解する・組み立てる働きが失われる(運動性失語・感覚性失語など)
構音障害言葉は組み立てられるが、口・舌・のどの動きが悪くて発音がうまくできない(ALS・脳血管障害など)

けいれんは、筋肉が意思と関係なく強く縮むこと。脳の神経細胞が一斉に興奮するてんかん発作のほか、低血糖・低カルシウム血症(テタニー)・高熱・脳の病気でも起こる。けいれんが長く続くてんかん重積状態は、呼吸が止まるおそれがあり、気道確保と酸素投与を急ぐ。

6-2 脳血管障害・脳炎と髄膜炎・脳腫瘍・アルツハイマー病

脳血管障害

種類原因特徴
アテローム血栓性脳梗塞太い脳の動脈の動脈硬化段階的に悪くなることがある
心原性脳塞栓症心房細動などで心臓にできた血栓が飛ぶ突然発症し、梗塞が広く重い(予防は抗凝固療法・第4章)
ラクナ梗塞細い血管が詰まる(高血圧)小さい梗塞で、症状は軽いことが多い
脳出血主に高血圧で細い動脈が破れる頭痛・片麻痺・意識障害
くも膜下出血脳動脈瘤の破裂突然の激しい頭痛(人生最大の頭痛)・項部硬直・嘔吐

発症時に激しい頭痛を伴うことが多いのはくも膜下出血。脳梗塞は、麻痺や言語障害などの症状が中心で、頭痛は目立たないことが多い。脳梗塞か出血かは、まず頭部CTで出血の有無を見て分ける。

脳炎・髄膜炎・脳腫瘍

髄膜炎は脳と脊髄を包む膜の炎症で、発熱・頭痛・項部硬直がみられ、髄液検査で診断する。脳炎は脳そのものの炎症で、意識障害・けいれんが加わる(単純ヘルペスウイルスによるものが多い)。脳腫瘍は頭の中の圧(頭蓋内圧)を上げ、頭痛・嘔吐・視神経乳頭のむくみ(うっ血乳頭)を起こし、できた場所によってけいれんや麻痺も起こる。

アルツハイマー病

アルツハイマー病は、脳にβアミロイドがたまり、神経細胞が減って脳が縮む病気(神経原線維変化も起こる)。最も多い認知症で、もの忘れ(記憶障害)から始まる。アルツハイマー病の症状は認知障害。

原因の取り違えに注意

βアミロイドの沈着=アルツハイマー病。中脳黒質の神経細胞の変性=パーキンソン病。パーキンソン病にβアミロイド、アルツハイマー病に黒質の変性、を組み合わせた肢は入れ替えの誤り。

6-3 神経・筋肉の病気(パーキンソン病・ALS・筋ジストロフィー・重症筋無力症・ギラン・バレー症候群)

疾患壊れるところ・原因正しい組合せの症状
パーキンソン病中脳黒質のドパミン神経の変性筋固縮など4大症状(下の表)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)上位と下位の運動ニューロンがともに変性する筋力低下・筋萎縮・構音障害・嚥下障害(球麻痺)・呼吸筋力低下
進行性筋ジストロフィー筋肉そのものが壊れていく遺伝性の病気(デュシェンヌ型は男児)筋力低下・ふくらはぎの肥大・呼吸不全・心筋障害
重症筋無力症神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する自己抗体(胸腺腫を合併することがある)くり返し動かすと疲れやすく、夕方(午後)に悪くなる筋力低下(易疲労性・日内変動)・眼瞼下垂・複視
ギラン・バレー症候群かぜや下痢などの感染の1〜3週間後に、免疫が末梢神経を攻撃する(カンピロバクターなど)足から上へ広がる左右対称の弛緩性麻痺・腱反射の消失

感染を契機に発症するのはギラン・バレー症候群。重症筋無力症・パーキンソン病・ALS・筋ジストロフィーは感染がきっかけではない。

パーキンソン病の4大症状

主要症状(正しい)主要症状でないもの
安静時振戦(じっとしているときのふるえ)
筋固縮(関節を動かすと歯車のような抵抗)
無動・寡動(動きが少なく遅い)
姿勢反射障害(転びやすい)
眼振は小脳や内耳の障害でみられる症状

そのほか小刻み歩行・仮面様顔貌・前かがみの姿勢がみられる。治療はドパミンを補う薬(L-ドパ)。

ALSでみられない症状

ALSでは、運動ニューロン以外の神経は末期まで保たれる。膀胱直腸障害・感覚障害・眼球運動障害・褥瘡は起こりにくい(陰性徴候)。呼吸筋が弱るので、NPPVや気管切開による人工呼吸(TPPV)が必要になる。

組合せ問題で出た誤り

正しい組合せ誤りの組合せ
アルツハイマー病 ― 認知障害
パーキンソン病 ― 筋固縮
重症筋無力症 ― 午後に増悪する筋力低下
くも膜下出血 ― 動脈瘤破裂
重症筋無力症 ― 神経筋接合部の障害
ALS ― 運動ニューロンの変性
ALSに昏睡(意識は末期まで保たれる)
ギラン・バレー症候群にけいれん(弛緩性麻痺が主で、けいれんではない)
パーキンソン病 ― βアミロイドの沈着
アルツハイマー病 ― 中脳黒質の変性

治療と装置:重症筋無力症とギラン・バレー症候群では、血漿交換(血液浄化)と免疫グロブリン大量療法を使う。どちらも呼吸筋が弱ると人工呼吸が必要になる。

6-4 全身の病気による神経症状

脳や神経そのものの病気でなくても、ほかの臓器の病気で神経の症状が出る。臨床工学技士がかかわる透析・呼吸療法・高気圧酸素治療と結びつく項目が多い。

原因神経症状
糖尿病末梢神経障害は、手足の先からしびれや感覚の低下が始まる(手袋・靴下型)。足の感覚が鈍るので、けがや靴ずれに気づかず潰瘍・壊疽になりやすい。立ちくらみ・便秘などの自律神経障害も起こる。三大合併症の一つ
腎不全尿毒症の物質がたまって意識障害・けいれん(尿毒症性脳症)、末梢神経障害(尿毒症性ニューロパチー)。透析の導入期には、血液と脳の浸透圧の差で頭痛・吐き気・意識障害が起こる不均衡症候群に注意する
呼吸不全低酸素で落ち着きがなくなり意識が低下する。CO2がたまると、頭痛・羽ばたき振戦・意識障害(CO2ナルコーシス)が起こる(第3章)
肝不全アンモニアなどが分解されずに脳に届き、肝性脳症が起こる。羽ばたき振戦・意識障害・昼夜逆転
一酸化炭素中毒COがヘモグロビンに強く結合して(CO-Hb)酸素を運べなくなり、頭痛・意識障害を起こす。回復した後に、数週間たって物忘れや異常行動が出る間欠型(遅発性)の症状もある

糖尿病の治療中に起こる低血糖でも、脳がブドウ糖不足になって意識障害・けいれんが起こる(第5章)。意識障害の患者を見たら、脳の病気だけでなく、血糖・電解質・血液ガス・アンモニアなど全身の検査で原因を探す。

一酸化炭素中毒と装置

一般的なパルスオキシメータはCO-Hbと酸素化ヘモグロビンを区別できず、SpO2が見かけ上正常に出る。治療は高濃度酸素の吸入と高気圧酸素治療で、COを早く追い出す。