第2章|機能訓練と合併症・リスク管理

脳卒中 第2章

2-1 急性期の作業療法とリスク管理

急性期の原則

正しい誤り(よく出るひっかけ)
医学的に安定していれば早期離床で廃用症候群を予防する点滴が抜けるまで開始しない
ベッド上でも整容・食事などのADL訓練を行うベッド上のADL訓練は禁忌
弛緩性麻痺でも関節可動域訓練(拘縮予防)を行う弛緩性麻痺なら可動域訓練は不要
生活歴・職業歴・家族状況を急性期から集める生活歴の情報収集は不要

Brunnstromステージ Ⅰ(弛緩期)の上肢

  • 中心は筋再教育訓練(随意収縮の誘発・促通)と良肢位保持・可動域維持
  • 弛緩期は肩関節亜脱臼を起こしやすい→ポジショニング・アームスリングなどで保護
  • 発症1週程度で利き手交換に踏み切るのは早すぎる(回復の可能性を追う時期)
  • 浮腫がなければ間欠的機械圧迫は不要、疼痛がなければ渦流浴の優先度は低い

深部静脈血栓症(DVT)

重度麻痺で動かない下肢に浮腫があり、Dダイマー高値なら、まず深部静脈血栓症を考える。自発痛がなくても否定できない。心不全は両側性浮腫と呼吸・バイタルの異常、蜂窩織炎は発赤・熱感・疼痛、肩手症候群は上肢の疼痛・腫脹で、それぞれ区別する。

DVTが疑われる下肢は、確認されるまでマッサージや強い運動を加えない(血栓が飛ぶと肺塞栓症)。医師に報告する。

2-2 上肢機能訓練の段階付け(ステージⅡ〜Ⅲ中心)

段階付けの原則

軸進め方
運動の大きさ粗大運動→巧緻運動
速度遅い→速い
課題の難しさ単純→複雑
運動パターン共同運動→分離運動

選択肢は逆向き(巧緻→粗大、速い→遅い、分離→共同)にして誤りを作る。

ステージⅢ(共同運動期)の上肢課題

共同運動は出るが分離運動はまだ。次の段階(Ⅳ)のテスト動作の要素を含む課題で、共同運動から少し外れた運動を促す。

  • 手を背中の方へ回す課題(例:輪を背中で持ち替える)→Ⅳの「手を腰の後ろへ」
  • 肘を体側につけ、肘90°屈曲位で前腕を回内・回外する課題(例:机上の積み木を裏返す)→Ⅳの「肘屈曲位での前腕回内外」。屈筋共同運動では肘屈曲に前腕回外が伴うため、共同運動から外れる要素は肘屈曲位での回内の方
  • 棒を垂直に保持するなど、肩・肘を一定の位置に保つ課題(分離運動の促通の自主訓練)

ステージⅢに対して、ペグ差し・書字(手指の巧緻性)、立位での輪投げ、ボールの受け取り、肘伸展位での頭上の拭き動作(Ⅴ相当)は難しすぎる。手を口元へ運ぶ・反対側の大腿へ運ぶ動作は共同運動そのもので、Ⅳを目指す課題にならない。

机上のワイピング(手を布に乗せて前方へ滑らせる)は、上肢Ⅳでの肘伸展(分離運動)の促通に使う(2-3参照)。あわせて肩甲帯の前方突出も促す。握力や手指巧緻性の訓練ではない。

ステージに合わない治療

  • 緊張性頸反射など原始的な反射の利用はステージⅡ以下で用いる考え方。Ⅲ以上は分離運動の獲得を目指す
  • 重錘を使った反復の筋力訓練は痙縮・共同運動を強めやすい
  • 下肢ステージⅣで立位が取れる段階では、立位で麻痺側下肢へ荷重を促す

CI療法(constraint-induced movement therapy)

非麻痺側上肢を拘束し、麻痺側上肢を強制的に使用させる訓練。脳卒中治療ガイドライン2021では軽度から中等度の上肢麻痺に対して強く勧められている(推奨グレードA)。手指の随意伸展が乏しい重度麻痺(手指Ⅲ以下)はよい適応ではない。効果判定にはMAL(麻痺手の使用頻度・質)を用いる。

2-3 ステージⅣ〜Ⅵの上肢と活動の選択

ステージから「できる活動」を判断する

上肢・手指麻痺手の役割向く活動の例難しい活動の例
Ⅳ補助手(押さえる・添える)掃除機をかける(非麻痺手が主、麻痺手は添える)、テーブルの雑巾がけ、タオルたたみ、ループ付きタオルでの洗体両手を頭上に挙げる動作(棚への収納・蛍光灯の交換)、背中で腰ひもを結ぶ、強い力の両手作業(網戸の取り外し)、手掌の上で豆腐を切る
Ⅴ実用的な補助手〜一部実用手革細工・木工(麻痺手で固定)、陶芸(手掌で押す粗大操作)、ちぎり絵マクラメなど、左右の手で持続的に細かい張力調整が要る両手巧緻作業
Ⅵ実用手に近い復職・趣味など生活場面での使用—

判断の軸は「肩をどこまで挙げるか」と「指をどれだけ分けて使うか」。頭上の動作は上肢Ⅴ以上、両手の細かい結び作業は手指Ⅵ近くまで要る。

ステージⅣの肘伸展の促通

伸筋群に随意運動が出てきたら、机上で前方へ押し出す・滑らせるなど肘伸展を引き出す課題を使う。肩を高く挙げた位置での押し動作は肩・肘の分離がさらに要るので、段階を飛ばさない。

2-4 肩・手の合併症と感覚障害

肩手症候群

  • 脳卒中後の複合性局所疼痛症候群(CRPS)typeⅠに分類される(旧称:反射性交感神経性ジストロフィー)
  • 麻痺側の肩の痛みと、手指・手背の腫脹・発赤・熱感・疼痛。運動麻痺が重い例に多い
  • 治療:肩・手関節・手指の可動域訓練を続ける(痛みの範囲内で)、温熱療法・交代浴、浮腫の管理、亜脱臼にはアームスリング

「発赤があれば可動域訓練は禁忌」「手指の可動域訓練は禁忌」「肩を安静に保つ」はいずれも誤り。動かさないと拘縮と痛みが固定する。手関節を固定装具で固める、亜脱臼を徒手整復する、も誤り。

視床痛(中枢性疼痛)

  • 視床(またはその経路)の損傷による中枢性疼痛。CRPSではない
  • 発症直後ではなく、しばらくたってから出ることが多い
  • 非侵害刺激で痛む(アロディニア:触れる・温度の変化など)
  • 一般的な鎮痛剤は効きにくい

感覚障害のある人の生活指導

場面指導理由
熱い湯呑・調理非麻痺側の手で持つ麻痺側は熱傷に気づかない
髭剃り電動カミソリ(T字カミソリは避ける)顔面の感覚脱失で切り傷に気づかない
履物脱げにくい靴(スリッパは避ける)足底感覚がなく脱げても気づかず転倒
車椅子駆動非麻痺側で駆動(両手駆動は勧めない)麻痺手をスポークやリムで傷つける
麻痺手の使用使用は控えさせず、目で確認しながら使う使わないと廃用が進む

知覚再教育(感覚再教育)

  • 基本は閉眼で感覚に注意を集中させる。視覚は確認(答え合わせ)に使うもので、開眼で代償させるのは知覚再教育ではない
  • 運動・動作はゆっくり行う
  • 短時間(15分程度)を1日数回
  • 識別する素材は固定し、患側手を動かして探索させる(能動的な触知覚)
  • 書字などの実際の動作の中で、道具と手の接触部分の感覚に注意を向けさせる

2-5 摂食嚥下障害(Wallenberg症候群を中心に)

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)は手足の麻痺がなくても重い嚥下障害が出る。咽頭収縮が悪い側(病巣側=患側)を食塊が通りにくい。

対応内容
頸部回旋病巣側(患側)へ首を回す→患側の梨状窩が狭まり、健側を食塊が通る
姿勢頸部は前屈位(顎を引く)。頸部伸展位は誤嚥を増やすので用いない
Shaker法(頭部挙上訓練)舌骨上筋群を鍛え、食道入口部の開大を助ける間接訓練
Mendelsohn手技喉頭挙上を意識的に保ち、食道入口部の開大時間を延ばす
バルーン拡張法開きにくい食道入口部をバルーンで広げる

Wallenberg症候群で「間接訓練は禁忌」「頸部の筋力訓練は禁忌」は誤り。唾液も飲み込めない段階でも間接訓練は行う。

食事場面での工夫(代表例)

  • 嚥下機能(改訂水飲みテスト・反復唾液嚥下テスト)は保たれているのに次々と口に運ぶ人→小さいスプーンで一口量を減らす
  • 経鼻胃管は長期の栄養管理には向かない。誤嚥の危険がないわけではない。胃瘻を造設しても経口摂取の練習は続けられる