第1章|評価と残存レベルの読み方

脊髄損傷 第1章

1-1 脊髄損傷の基礎:疫学・脊髄ショック・不全損傷の型

わが国の外傷性脊髄損傷の傾向

項目傾向ひっかけ
性別男性が多い(約8割)「女性に多い」は誤り
部位頸髄損傷が最多(胸腰髄より多い)「腰髄・胸腰髄が最多」は誤り
原因転倒・転落が多い(高齢者の転倒が増加)「交通事故が最多」「スポーツ事故が転倒より多い」は誤り。労働災害は減少傾向
年齢高齢者が増加。かつての若年と高齢の二峰性から高齢側が中心に「20歳代が最多」「20歳代ピークの一峰性」は誤り
完全・不全不全損傷が完全損傷より多い高齢者の軽微な外力(過伸展)による不全損傷が多い

脊髄ショックと神経原性ショック

脊髄ショック神経原性ショック
正体受傷直後、損傷レベル以下の脊髄機能が一時的にすべて消える状態交感神経の遮断で血管が拡張して起こる循環のショック(分布性ショック)
所見弛緩性麻痺・反射消失(腱反射消失、肛門括約筋反射・球海綿体反射も消失)、尿閉低血圧+徐脈、皮膚は温かい(血管拡張)、中心静脈圧・心拍出量は低下
その後球海綿体反射などの回復が離脱の目安。離脱後は損傷レベル以下が痙性麻痺・腱反射亢進へ他のショック(出血など)は頻脈・皮膚冷感なので逆

ショック期に「痙性」「腱反射亢進」「排尿反射亢進」は出ない(それは慢性期の上位運動ニューロン徴候)。受傷直後の膀胱は尿失禁ではなく尿閉。

不全損傷の型

型特徴
中心性頸髄損傷高齢者に多い。変性・狭窄のある頸椎の過伸展で起こり、骨傷を伴わないことが多い。下肢より上肢(特に手)の障害が強い。仙髄領域は保たれやすい
Brown-Séquard症候群(脊髄半側損傷)損傷側(同側):運動麻痺・深部覚障害/反対側:損傷レベル以下の温痛覚障害
前脊髄動脈症候群運動麻痺と温痛覚障害。後索は保たれるので位置覚・振動覚は残る
脊髄円錐症候群肛門周囲・会陰部(サドル状)の感覚障害、膀胱直腸障害
馬尾症候群末梢神経(下位運動ニューロン)の障害。下肢・会陰部の感覚障害も出る(「感覚障害はない」は誤り)

Brown-Séquardは「同側=運動と深部覚、反対側=温痛覚」。温痛覚の経路(脊髄視床路)は入ってすぐ交叉し、運動(皮質脊髄路)と深部覚(後索)は延髄で交叉するから。

頸椎の圧迫性脊髄症(頸椎症・後縦靱帯骨化症)

  • 中高年で四肢末梢のしびれ・手指巧緻性低下・歩行障害が徐々に進む。上位運動ニューロン障害なので下肢腱反射は亢進、進行すると膀胱直腸障害。
  • 後縦靱帯骨化症(OPLL)があると軽い転倒でも頸髄損傷(中心性頸髄損傷など)を起こしやすい。
  • MRIのT2強調矢状断像では、圧迫が最も強い椎間で脊髄が細くなり、脊髄内に高信号(白い)が出る。椎間の番号は、歯突起をもつ第2頸椎から1つずつ数えて決める。

間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症や末梢動脈疾患、鉛管様固縮はParkinson病、Wrightテストは胸郭出口症候群。頸髄の圧迫症状と混同しない。

1-2 ASIAの評価(ISNCSCI):key muscle と key sensory point

ASIA(米国脊髄損傷協会)の「脊髄損傷の神経学的・機能的国際評価表」は、運動(key muscle の筋力)と感覚(key sensory point)、仙髄(S4〜S5)領域の所見から、神経学的レベルと完全・不全(AIS)を決める。

評価に含まれるもの・含まれないもの

含まれる含まれない(よく出る誤肢)
  • 運動:左右の key muscle(C5〜T1・L2〜S1の10髄節)を0〜5の6段階で評価(徒手筋力テスト)
  • 感覚:各皮節の key sensory point で触覚(light touch)とピン刺し(痛覚)を0・1・2の3段階で評価
  • 仙髄:肛門括約筋の随意収縮(VAC)、肛門周囲(S4〜S5)の感覚、深部肛門圧覚(DAP)
  • 握力
  • 関節可動域
  • 深部腱反射・球海綿体反射・肛門反射(ショック期の判断には使うが評価表の採点項目ではない)
  • 意識レベル・運動失調・眼球運動
  • C1〜C4 の運動(key muscle が設定されていない=感覚で判定する)

key muscle(上肢・下肢)

髄節key muscle(運動)代表筋
C5肘屈筋群上腕二頭筋・上腕筋
C6手関節背屈筋群長・短橈側手根伸筋
C7肘伸筋群上腕三頭筋
C8指屈筋群(中指の末節)深指屈筋
T1小指外転筋小指外転筋
L2股関節屈筋群腸腰筋
L3膝伸筋群大腿四頭筋
L4足関節背屈筋群前脛骨筋
L5長趾伸筋群長母趾伸筋
S1足関節底屈筋群下腿三頭筋

「C6=上腕二頭筋」「C8=上腕三頭筋」「C7=小指外転筋」「L1=大腿四頭筋」(正しくはL3。L1には key muscle が無い)は近い髄節にずらしたひっかけ。二頭筋C5・手首C6・三頭筋C7・指屈曲C8・小指外転T1と上から順に唱える。写真問題でT1を問われたら小指を外に開かせて抵抗をかける検査を選ぶ。

key sensory point(よく問われる所)

髄節部位
C4肩鎖関節の頂部(鎖骨上窩はC3)
C5肘窩の外側(橈側)
C6母指
C7中指
C8小指
T1肘窩の内側(尺側)
T4乳頭
T10臍
T12鼠径靱帯の中点
L3大腿骨内側顆(膝の内側)
L4内果
L5足背(第3中足趾節関節の背側)
S1踵の外側
S4〜S5肛門周囲

手は「母指C6・中指C7・小指C8」、体幹は「乳頭T4・臍T10・鼠径T12」。図で上腕外側の近位を指していたらC4ではなくC5寄り、膝の内側はL3、内果はL4、膝窩は仙髄(S2付近)でS4ではない。

1-3 AIS(ASIA機能障害尺度)の判定と残存レベルの読み方

AIS名称定義(要点)
A完全S4〜S5に感覚も運動も残っていない
B不全(感覚のみ)損傷レベル以下に感覚は残る(S4〜S5を含む)が運動はない
C不全(運動あり)損傷レベル以下に運動が残るが、key muscle の半数以上がMMT3未満
D不全(運動あり)損傷レベル以下の key muscle の半数以上がMMT3以上
E正常感覚・運動とも正常(脊髄損傷の既往がある人に用いる)

判定の順番:①肛門周囲(S4〜S5)の感覚も肛門の随意収縮もない→A。②仙髄の感覚は残るが、肛門の随意収縮がなく、損傷レベル以下(運動レベルより3髄節を超えて下)に運動がない→B。頸髄損傷では上肢の key muscle も「損傷レベル以下の運動」に入る。③肛門の随意収縮があるか、運動レベルより3髄節を超えて下に運動が残る→C以上。損傷レベル以下の key muscle でMMT3以上が半数未満ならC、半数以上ならD。「下肢MMTすべて0・肛門の随意収縮なしでも、肛門周囲の感覚が残る」=B。

損傷レベル以下に感覚鈍麻(障害)があっても、肛門周囲の感覚が残っていればAではない。Aと判定する決め手は仙髄領域の消失。

頸髄の髄節と保たれる機能(高位頸髄)

機能髄節・神経読み方
肩すくめ(肩甲骨挙上)僧帽筋上部:副神経+C3・C4C4まで残っていれば可能
横隔膜(自発呼吸)横隔神経:C3〜C5(主にC4)C4残存なら自発呼吸できることが多い。C3以上の高位で人工呼吸器を要する
頸部の感覚C2〜C4損傷が下位頸髄なら保たれる
スプーンを握る手指の屈曲(C8)損傷レベル以下の運動がないAIS Bでは、損傷部以下の筋が担う動作はできない
棚の上の物をとる肩の屈曲(C5)+肘伸展(C7)+手指の把持

画像で中下位頸椎(C4/5〜C5/6付近)に圧迫があり運動完全麻痺(AIS A・B)なら、上の髄節が担う機能(肩すくめ・横隔膜・頸部の感覚)は残り、圧迫部以下の筋が担う動作はできないと読む。

1-4 Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類

頸髄損傷の上肢を、機能している最下位の筋で細かく分ける分類。手の機能再建や装具・ADLの目標設定に使う。

群亜群残存機能の決め手
C5(肘屈曲可能)A腕橈骨筋が機能しない
B腕橈骨筋が機能する
C6(手関節背屈可能)A手関節背屈が弱い(橈側手根伸筋が弱い)
B1手関節背屈が強い。円回内筋・橈側手根屈筋・上腕三頭筋は機能しない
B2手関節背屈が強い+円回内筋が機能。橈側手根屈筋・上腕三頭筋は機能しない
B3手関節背屈が強い+円回内筋・橈側手根屈筋・上腕三頭筋が機能
C7(手指伸展可能)A尺側の指は完全に伸展できるが、橈側の指と母指は麻痺
Bすべての指が完全伸展できる。母指の伸展は弱い
C8(手指屈曲可能)A尺側の指は完全に屈曲できるが、橈側の指と母指の屈曲は麻痺。母指の伸展は可能
Bすべての指の屈曲が可能。母指の屈曲は弱く、手内在筋は麻痺

C6Bの亜群は「B1=なし → B2=円回内筋 → B3=円回内筋+橈側手根屈筋+上腕三頭筋」と1つずつ足していく。C6B3は「C7の筋が加わり始めたC6」。総指伸筋・尺側手根伸筋(C7〜C8)、深指屈筋(C8)はC6B3ではまだ機能しない。

動作の写真・図から最上位レベルを当てる

見えている動作読み取る機能レベル
手指の屈曲拘縮を利用してフォークを手に引っかけ、肘屈曲で口へ運ぶ手関節背屈はあるが手指の随意的な把持はないC6A
ボールペンを両手で挟んで保持して書く(片手では保持できない)テノデーシスでの片手把持が不十分C6A
便座へ側方移乗し、手に固定した自助具で坐薬を挿入する側方移乗に要る肘伸展(上腕三頭筋)があり、手指の能動的把持はないC6B3

「肘伸展(上腕三頭筋)がある」と「手指の随意的な屈伸がない」が同時に読み取れたら C6B3。C6Bの亜群はすべて手関節背屈が強いことが前提で、そのうえで円回内筋→橈側手根屈筋・上腕三頭筋の順に加わる。手関節背屈(橈側手根伸筋)がなければC6には入らない。

1-5 残存髄節ごとの主な残存筋とMMTでの代償

残存髄節(最下位)新たに使える主な筋可能になる運動
C4横隔膜・僧帽筋上部・胸鎖乳突筋自発呼吸、頸部の運動、肩すくめ
C5三角筋・上腕二頭筋・腕橈骨筋(C5B)・棘上筋など肩の屈曲・外転、肘屈曲、前腕回外
C6長・短橈側手根伸筋・大胸筋(鎖骨部)・前鋸筋・円回内筋(一部)手関節背屈→テノデーシス(腱固定作用)による把持、肩の内転・内旋
C7上腕三頭筋・橈側手根屈筋・総指伸筋・広背筋肘伸展→プッシュアップ、手関節掌屈、手指伸展
C8深指屈筋・浅指屈筋など手指屈曲(握り)
T1手内在筋(骨間筋・小指外転筋・母指内転筋など)指の外転・内転、つまみ

C6残存で可能なのは手関節背屈と肘屈曲。小指の外転・母指の内転(C8〜T1の手内在筋)、中指DIPの屈曲(深指屈筋C8)はできない。

C6残存者の上腕三頭筋MMTで抑える代償

  • C6では上腕三頭筋(C7)が麻痺しているが、肩関節を外旋させると前腕の重みで肘が伸びてしまい、肘伸展ができるように見える。
  • 検査では肩の外旋を抑えて肘伸展だけを見る。
  • 同じ仕組みを逆に利用し、C6者は肩の外旋・前腕回外で肘を伸展位にロックして上肢で体を支える(起居・移乗の練習で使う)。

筋力表から機能レベルを読む

MMTの表が出たら、MMT3以上(実用上は4〜5)の最下位の筋で判断する。例えば三角筋・上腕二頭筋・腕橈骨筋が良好で橈側手根伸筋が0ならC5(C5B)、橈側手根伸筋が4で上腕三頭筋・円回内筋・橈側手根屈筋が0〜1ならC6(Zancolli C6B1相当)、と読む。左右差があれば低いほうも確認する。

1-6 二分脊椎のSharrard分類

二分脊椎(脊髄髄膜瘤)の下肢の麻痺を、働いている最下位の運動で6群に分ける分類。

群働く主な運動移動・ADLの目安
Ⅰ群股関節の運動なし(胸髄レベル)車椅子中心
Ⅱ群股関節屈曲・内転が可能床上で股関節を曲げて下肢を引き寄せる動作が使える
Ⅲ群Ⅱ群+膝伸展装具と杖で歩行の可能性
Ⅳ群+足関節背屈・膝屈曲短下肢装具で歩行
Ⅴ群+足関節底屈装具なしで歩行の可能性
Ⅵ群麻痺なし—

「股関節屈曲ができる」ことを使う動作(床上で長座位をとり、股関節を曲げて足先にズボンを通す、など)が可能な最も上位の群=Ⅱ群。Ⅰ群は股関節の運動がないので不可、Ⅲ群以上でも可能だが「最も上位」ではない。