第2章|回復過程と作業療法の関わり

統合失調症 第2章

2-1 回復過程と各時期の作業療法の目的

病期の問題は「その時期にまだ早いもの」を消していけば解ける。早い時期ほど休息・刺激の調整・身体と生活の土台、後の時期ほど対人技能・役割・社会参加・QOL。

時期状態作業療法の目的・役割まだ早いもの
急性期陽性症状が前景。消耗しやすい休息の援助・安全の保障、現実への移行の準備(現実との接点を保つ)身辺処理能力の回復・生活管理・対人交流技能
亜急性期
(急性期を脱した直後)
幻覚妄想は減弱。疲れやすく、外的刺激への敏感さが残る疲労度の調整(活動量・刺激量の調整)、定期的な実施(予測できる枠)、回復のイメージについての心理教育自信の回復・達成感・対人交流の拡大、役割の付与、行動範囲の急な拡大、身体的負荷の高い活動
回復期前期現実感が少し戻り始める。無為・抑うつ・過眠が残る身体感覚の回復、基本的な生活リズムの回復、現実生活への移行(保護的な場から現実の生活へ橋をかける)仲間づくり・社会生活技能の習得・対人交流技能の向上
回復期後期生活が安定してくる身辺処理・生活管理(服薬・金銭)、生活技能・対人交流技能の改善、自信の回復、達成感—
維持期(生活期)地域生活・就労生活の質(QOL)の向上、社会参加、就労支援—

「現実への移行の準備」は急性期、「現実生活への移行」は回復期前期と語形で分けて出る。回復期前期に「現実への移行準備」「休息の援助」を選ぶのは1段階前。施設内生活の自立は回復期前期の目標ではなく、QOL向上・社会参加は維持期。

事例の読み方:「入院1か月で幻聴・妄想が減弱したところで作業療法開始」⇒疲労度の調整。「入院2か月で症状は改善したが無為が続く」⇒基本的な生活リズムの回復。「急性の幻覚妄想が軽減して1週間・復学が目標の外来導入」⇒生活リズムの獲得(余暇・社会参加・対人スキル・デイケア移行はその後)。

2-2 急性期後の関わり:生活リズム・回復のサイン・心理教育

精神病後抑うつ(急性期後の消耗状態)

  • 不穏興奮が落ち着いた後に抑うつ気分・睡眠過剰・無力感・億劫さが出る時期がある。
  • 回復の初期指標=空腹感(食欲の回復)と熟眠感。身体の回復が先に来る。億劫感・疲労感・不安感は回復初期の指標ではない。
  • 次の段階の回復サイン=退屈感を訴える(何かしたいという欲求の芽生え)。億劫さ・発語の減少・異常体験の訴え・作業手順の混乱は回復サインではない。

この時期の不安への答え方

  • 「学校に戻れるだろうか」などの将来への不安には、まず生活リズムから整えるという段階的で現実的な見通しを示す。
  • 勉強の再開・スポーツで体力向上・集団レクリエーション・SSTへの参加は、この時期には負荷が高すぎる。
  • 亜急性期は病気と向き合い始める時期で、回復のイメージ(回復には段階があり、休息→リズム→活動と進むこと)を心理教育で伝える。

急性期後の導入時は低負荷・少人数・短時間・定期的。行動範囲を速やかに広げる、身体的負荷の高い活動から始める、対人交流の多い活動を多く入れる、役割を与える、はいずれも再燃のリスク。作業療法士は同じ担当者が一貫して関わる(複数の担当者で対応しない)。

2-3 異常体験(幻覚・妄想)の訴えへの対応と治療的態度

作業中に「見られている」「見張られているからやめたい」と訴えられる場面は定番。答えの軸は否定も肯定もせず、深入りせず、いまの作業へ注意を戻す(継続を支える)。

対応可否理由
作業活動に注意を向け直す声かけ・手工芸を継続できるような声かけ○現実の作業が安心の足場になる。症状は軽減しており、作業療法は無為への働きかけとして始まった段階
「勘違いだ」「事実はない」と説明する・その都度訂正する×妄想は説得で消えない。否定は自我を脅かし関係を壊す
妄想の内容を詳しく聞き出す・主治医報告のために訴えを詳細に聴く×内容への深入りはとらわれを強める
作業療法の参加を直ちに中止する×活動から遠ざかり無為が固定する。中止は主治医と相談する事項
作業種目を変更する×原因は種目ではなく症状。本人が希望して安定参加できていた種目なら続ける

精神科作業療法の治療的態度

  • ○ 患者との心理的距離を保つ(巻き込まれない・密着しすぎない)。
  • ○ 無理に活動しなくてもよいことを保障する(参加の自由・安心の保障)。
  • ○ 患者の主体的な活動を支援する。退院後の生活支援を行う。
  • × 異常体験の訴えをその都度修正する。

「本人が困っていることを聴く」「興味・関心を把握する」は○だが、「妄想の内容を詳しく聞き出す」は×。聴く対象は本人の困りごと・希望で、妄想の中身ではない。

2-4 行動特性に合わせた作業の構造化と集団の使い方

統合失調症の行動特性と対応

特性作業療法士の対応
環境の変化・刺激に弱い作業環境を一定にする(同じ場所・同じ時間・同じ担当者)。緊張度は低く保つ
一度に多くの情報を処理できない指示は短く・具体的に・一つずつ。まとめて指示しない。指示の前後に無関係な話をしない
状況判断・臨機応変が苦手手順を決めておく(構造化)。状況に応じて判断させない
同じ失敗を繰り返す・並行処理が苦手工程を分ける、1工程ずつ確認する、見本・手順書を使う

集団作業療法

用語正しい理解
オープングループメンバーの出入りが自由(固定しない)。離脱が起こりやすい
クローズドグループメンバーを固定。結束が高まりやすく離脱は起こりにくい
規模治療者1名に15名程度は多すぎる(小集団は数名〜10名前後)
同質集団/異質集団共感が得られやすいのは同質集団
集団と個人作業療法の集団は個人の回復のための手段。集団の凝集性よりもメンバー個人の主観的体験を優先する

精神科デイケアの小集団療法の運営

  • ○ メンバー間の相互交流を促す(相互作用が治療因子)。スタッフはファシリテーター。
  • × 混乱したら多数決で決める(少数者を排除する)。
  • × スタッフがリーダーシップをとる(主体性が育たない)。
  • × 感情的な発言を取り上げない(感情も集団の中で扱う)。
  • × 沈黙があればすぐスタッフが議題を出す(沈黙にも意味があり、見守る)。