第3章|炎症

病理学 第3章

3-1 炎症とは・炎症の5徴候

炎症=組織傷害に対する生体の防御反応。有害因子を排除し、傷害された組織を修復する一連の過程である。

徴候ラテン語成り立ち
発赤rubor細動脈の拡張・充血
熱感calor局所血流の増加
腫脹tumor血管透過性亢進による滲出液の貯留
疼痛dolor発痛物質・腫脹による神経の圧迫
機能障害functio laesa上の4つの結果として生じる

古典的4徴候はCelsus、機能障害を加えた5徴候はGalenがまとめたとされる。5徴候はいずれも急性炎症の初期の血管反応・滲出に由来する。

壊疽は炎症初期の徴候ではない。壊疽は組織が壊死して腐敗・乾燥した状態であり、組織障害が進行した結果として遅れて生じる。「急性炎症初期にみられないのはどれか」で壊疽を選ばせる出題がある。

3-2 急性炎症の進み方

  1. 細動脈の拡張・血流増加(→発赤・熱感)
  2. 内皮細胞の間隙拡大・内皮損傷=血管透過性の亢進
  3. 血漿蛋白を含む滲出液の漏出、フィブリンの析出(→腫脹・浮腫)
  4. 好中球の遊走(遊出)と貪食

「急性炎症の初期にみられるのはどれか」の答えは好中球遊走。線維化・血管新生・肉芽組織形成はいずれも修復期以降の所見、乾酪化(乾酪壊死)は結核などの肉芽腫性の慢性炎症の所見で、どれも急性初期ではない。

3-3 急性炎症と慢性炎症の対比

項目急性炎症慢性炎症
経過数時間〜数日数週間〜数か月以上
主な細胞好中球リンパ球・形質細胞・マクロファージ(単核球)
血管の反応拡張・透過性亢進・内皮細胞の損傷肉芽期は血管新生/瘢痕期は毛細血管が退縮
滲出血漿蛋白の滲出・フィブリン析出乏しい
組織変化浮腫(腫脹)線維化・瘢痕化

「慢性炎症の特徴はどれか」で選ぶべきは組織の線維化血管の増殖。逆に、好中球の集積・血漿蛋白の滲出・血管内皮細胞の損傷・血管透過性の亢進・局所の浮腫・フィブリン析出はすべて急性側である。

サイトカインの分泌は急性・慢性いずれにも共通する現象で、慢性炎症に特異的な特徴として選んではいけない。

慢性炎症の「血管」は二段構え

  • 肉芽組織がつくられる時期 → 毛細血管の新生・増殖が慢性炎症の特徴になる
  • 炎症が鎮静し瘢痕へ成熟する時期 → 増生していた毛細血管は退縮する

どちらも慢性側の所見。選択肢に「局所の浮腫/白血球の集積/フィブリン析出/血管透過性の亢進」が並んでいたらこれらは全部急性の所見なので、残った毛細血管の退縮が答えになる。

3-4 肉芽組織と創傷治癒

肉芽組織=新生毛細血管+線維芽細胞+炎症細胞からなる修復組織。組織欠損を埋めたのち膠原線維が増生し、血管が減って瘢痕(線維化)へ成熟する。

項目正常な肉芽異常(感染)肉芽
色調鮮紅色〜淡紅色白色・くすんだ色
性状適度に湿潤し柔らかい乾燥、または膿性分泌物が多量
出血出血しやすい(新生血管が脆い)易出血性がさらに悪化
感染マクロファージ・リンパ球が常在し感染防御能をもつ感染しやすい

「正常な肉芽の特徴」=出血しやすい。白色である・乾燥している・分泌物が多い・感染しやすいは、いずれも異常肉芽側の記述。

3-5 創傷治癒を促進する因子・遅延させる因子

区分内容
促進蛋白質・アミノ酸(肉芽と膠原線維の材料)/ビタミンC(コラーゲン合成=ヒドロキシプロリン生成に必須)/亜鉛(細胞分裂・蛋白合成)/十分な酸素(コラーゲン合成と殺菌)/適度な湿潤環境
遅延(全身)低栄養(蛋白・ビタミンC・亜鉛の欠乏)/糖尿病/副腎皮質ステロイド・抗癌薬/高齢/貧血
遅延(局所)感染/血流障害/乾燥/異物/反復する機械的刺激

「創傷治癒を遅延させるのはどれか」の答えは副腎皮質ステロイド。抗炎症作用に加え線維芽細胞の増殖抑制・コラーゲン合成抑制・易感染性で治癒を妨げる。亜鉛・アミノ酸・酸素・ビタミンCは逆に促進因子で、欠乏したときに遅延する。

3-6 褥瘡

持続的な圧迫で局所の血流が途絶え、組織が壊死したもの。好発部位は仙骨部・踵部・大転子部・坐骨結節など骨突出部。

  • 危険因子=局所的な圧迫・ずれ・摩擦/体動の減少(不動)/湿潤(失禁・発汗)/低栄養/知覚低下/低血圧・末梢循環不全
  • 低栄養は皮膚・皮下組織を脆弱にし、創傷治癒も遅らせる二重の危険因子

血圧の上昇は褥瘡の危険因子ではない。血圧が保たれるほど末梢の組織灌流は維持される。危険なのは低血圧のほう。

評価=ブレーデンスケール(知覚の認知・湿潤・活動性・可動性・栄養状態・摩擦とずれの6項目)。予防=おおむね2時間ごとの体位変換と除圧、および栄養管理。

3-7 熱傷の深度分類

深度障害層外見・水疱疼痛治癒・瘢痕
Ⅰ度表皮のみ発赤・熱感、水疱なしあり数日で自然治癒・瘢痕を残さない(植皮不要)
浅達性Ⅱ度真皮浅層水疱あり・水疱底は赤(充血)強い1〜2週で自然治癒・瘢痕を残さない
深達性Ⅱ度真皮深層水疱あり・水疱底は白(蒼白)あるが鈍い瘢痕を残す・植皮を要することが多い
Ⅲ度皮下組織まで全層白色〜褐色〜黒色の痂皮・炭化、水疱なし無痛(神経終末も壊死)創底から上皮化せず・植皮が必要

ひっかけの定番。

  • Ⅰ度に水疱はない(水疱はⅡ度から)/Ⅰ度でも発赤・熱感・疼痛はある
  • 水疱底の色は浅達性=赤・深達性=白(逆に書かれる)
  • Ⅲ度は疼痛が著明ではなく無痛
  • Ⅲ度は汗腺・毛包など皮膚付属器も破壊されるため創底からの上皮化は起こらない(辺縁からの上皮化か植皮)。「Ⅲ度は汗腺まで達しない」は誤り
  • 壊死組織(痂皮)は赤色ではなく黒色〜褐色。赤色は炎症部位や肉芽組織の色

3-8 熱傷の全身管理・時間経過

受傷面積と初期輸液

  • 熱傷面積はⅡ度以上を合算して算定する(発赤のみのⅠ度は含めない)
  • 成人ではⅡ度以上おおむね15〜20%を超えると初期輸液(Baxter法などの細胞外液補充)の適応。Ⅱ度20%は輸液が行われる
  • 重症熱傷では蛋白の異化が亢進する(低下ではない)→高蛋白・高エネルギーの栄養管理が要る
  • 化学損傷は大量の流水洗浄が最優先(洗浄を避けるは誤り)
  • 創傷被覆材は感染予防・創部保護のため早期から使用する
  • 広範囲熱傷の壊死組織は早期にデブリードマンして植皮するのが原則

時期でみる合併症

時期起こること
受傷〜12時間(〜48時間)血管透過性亢進による浮腫と血漿漏出 → 熱傷ショック(循環血液量減少)。気道熱傷では喉頭浮腫
数日〜数週感染期。長期の重症管理・不動により集中治療室獲得性筋力低下〈ICU-AW〉
数週〜数か月肥厚性瘢痕・瘢痕拘縮・関節拘縮・骨化性筋炎(異所性骨化)

「受傷後12時間以内に生じやすいのはどれか」=浮腫。肥厚性瘢痕・関節拘縮・骨化性筋炎・ICU-AWはすべて数日〜数週以降に遅れて出るので消せる。

気道熱傷を疑うサイン

顔面の熱傷、鼻咽腔・口腔内の煤(すす)、鼻毛の焦げ、嗄声。喉頭浮腫による気道閉塞・窒息のリスクがあり、生命予後を大きく左右する。

植皮

  • 感染があると肉芽形成が阻害され植皮床の血行が悪化し、植皮の生着が阻害される
  • 植皮後の運動開始は知覚の回復を待たず、植皮の活着(おおむね2〜3週)を確認してから段階的に進める

3-9 炎症・侵襲と全身の代謝

基礎代謝量因子
高くなる体温上昇(1℃で約13%増)・発熱/慢性炎症性疾患・感染/甲状腺機能亢進/寒冷環境/除脂肪体重(筋肉量)が多い/同一年齢では男性>女性
低くなる思春期以降の加齢(ピークは思春期)/睡眠/低栄養/甲状腺機能低下/除脂肪体重が少ない

基礎代謝量は安静・空腹・快適温度下で生命維持に要するエネルギー量。炎症や発熱では代謝が亢進する側に動く、が判断の軸になる。

栄養管理の基準値

  • 成人の蛋白質摂取=体重1kgあたり約1.0g/日(0.1g/kgでは著しく不足)
  • やせ(低体重)の判定はBMI 18.5未満(標準18.5〜25)。22.5は標準域であり栄養障害の基準ではない
  • 低栄養の指標=血清アルブミン低下・総リンパ球数の減少(増加ではない)
  • 発熱時はエネルギー必要量が増加する
  • 重度熱傷では異化亢進で体蛋白が分解され、尿中窒素排泄量は増加する(減少ではない)

3-10 慢性炎症・免疫反応が主体の病態

気管支喘息=気道の慢性炎症

区分薬剤
長期管理(コントローラー)吸入ステロイド(第一選択)・長時間作用性β2刺激薬〈LABA〉
発作時(リリーバー)短時間作用性β2刺激薬〈SABA〉
禁忌・悪化因子β遮断薬(気管支を収縮させる)・アスピリンなどNSAIDs(アスピリン喘息を誘発)
治療薬ではないフロセミド(ループ利尿薬)・マクロライド系抗菌薬

移植片対宿主病〈GVHD〉

  • 同種造血幹細胞移植後に、ドナー由来のTリンパ球が宿主の組織を攻撃する反応(好中球による反応ではない)
  • 三大標的臓器=皮膚・肝臓・腸管(消化管)。腸管に好発し下痢・腹痛を生じる
  • 主因はHLA(主要組織適合抗原)の不一致。ABO血液型を一致させても発症は防げない
  • 自己組織の移植(自己遊離皮弁術など)では免疫反応が起こらず、GVHDは生じない
  • 重症例は予後不良で、移植後の重要な合併症・死因となる

語の向きで覚える。GVHD=移植片(Graft)が宿主(Host)を攻撃拒絶反応=宿主が移植片を攻撃