第3章|運動発達

人間発達学 第3章

3-1 粗大運動のマイルストーン

粗大運動は頭尾方向(頭→体幹→下肢)に、そして抗重力の程度が低い姿勢から高い姿勢へ順に獲得される。月齢の目安は個人差があるが、国試は月齢と運動の対応をそのまま問う。

月齢の目安獲得する粗大運動
新生児〜2か月腹臥位で顔を横に向ける。四肢は屈曲優位
3〜4か月定頸(腹臥位で頭を持ち上げる)・正中位指向
5〜6か月寝返り
6〜7か月支えなしの座位が始まる(7〜8か月で独座が安定)
7〜8か月腹臥位で前腕支持から手支持へ・ずり這い
8〜9か月四つ這い(はいはい)
8〜10か月つかまって立ち上がる(つかまり立ち)
10〜11か月つたい歩き。高這い(膝を伸ばした四つ這い)もこの頃以降
12〜15か月独歩
1歳6か月頃走る・階段を這って上る
1歳半〜2歳ボールを前にける

アンカーは3つ。定頸3〜4か月・独座7か月前後・独歩1歳前後。これを軸に前後を推定すれば、細かい月齢を丸暗記しなくても順序問題は解ける。

ボールを前にける=1歳6か月では、まだできない。「1歳6か月までに獲得されるのはどれか」型では走る・階段を這って上る・積み木を重ねるは○だが、ボールをけるは×(1歳半〜2歳)。走ることとセットで1歳半と覚えると引っかかる。

3-2 姿勢の出現順序を並べる原則

図に示された姿勢を古い順に並べる形式が繰り返し出る。図が読めなくても、次の原則で並べれば正答に届く。

  • 臥位 → 座位 → 四つ這い → 立位 → 歩行の順。抗重力位に近いほど後。
  • 頭尾方向。頸の抗重力活動(腹臥位での頭上げ)が最も早く、下肢の支持は最も遅い。
  • 中枢→末梢、粗大→微細。体幹の安定が先で、四肢の分離した動きが後。
  • 「立位」はひとまとまりではなく3段階に割れる——①腋窩を支えられた立位(体重を下肢で支える経験。5〜6か月ごろ)→②自分でつかまって立つ(つかまり立ち)(8〜10か月)→③支持なしの独立(11か月〜1歳)。図に立位が2つ以上あるときは「誰が支えているか」で前後を決める支えが多いほど早い(他者に支えられた立位 → 自分でつかまって立つ → 何も持たない独り立ち、の順に遅くなる)。
図に描かれた姿勢該当する時期
腹臥位で頭を上げる(定頸)3〜4か月=最早期
背臥位で物へ手を伸ばす(随意的なリーチ4〜5か月。ただし背臥位で頭を横に向け、顔側の上下肢が伸びている図はリーチではなくATNR(出生時〜。後述「図に立位がないとき」で扱う)
腋窩を支えられた立位(他動的に立たせた姿勢で、自分では保持できない)5〜6か月
支えのない座位6〜8か月
四つ這い位8〜9か月
つかまり立ち(自分で物につかまって立ち上がる)8〜10か月
支持なしの独り立ち11〜12か月

臥位以外を先頭に置いた選択肢は、まず消してよい。座位や立位を最初に置く並びは発達の方向と逆で誤り。逆に、臥位を最後に置く並びも同じ理由で誤り。

立位は1つの図でなく3段階で出る。①腋窩を支えられた立位(5〜6か月。他動的に立たせた姿勢で、自分では保持できない)→②つかまり立ち(8〜10か月。自分で物につかまって立ち上がる)→③支持なしの独り立ち(11〜12か月)。図の並べ替えで立位が2つ出てきたら、支えられているほうが必ず先。ただし図に立位が1枚も描かれていないとき(背臥位・抱え上げ・反応をみる肢位だけのとき)は、このものさしは使えない——後述「図に立位がないとき」で並べる。

背臥位からの立ち上がりパターン ― 成熟は5歳(60か月)

寝た姿勢から立つまでのやり方そのものが年齢で変わる。図の並べ替え・月齢当てで出る。

年齢の目安立ち上がり方
1歳半〜2歳ごろいったん腹臥位になり、四つ這い→高這いを経て立つ(完全な回旋を伴う)
3〜4歳ごろ体幹を部分的に回旋させ、片手を床につきながら立つ
5歳(60か月)ごろ回旋を伴わない対称的な立ち上がり=背臥位から体幹を屈曲し、両手を床につかずにしゃがみ位を経てまっすぐ立つ。成人と同じ型が完成する

読み方は表と同じ向き=発達につれて回旋と手支持は「減って消えていく」。図に腹臥位・四つ這い・高這いを経る完全な回旋があれば2歳前後、部分的な回旋や片手の床支持が残っていれば3〜4歳、回旋も床への手支持もなく、体幹を正中で屈曲したまましゃがみ位を経てまっすぐ立つ対称的な型なら5歳(60か月)。8か月ではそもそも自力で立ち上がれない(つかまり立ちの段階)ので、選択肢に月齢が並んだら「回旋・手支持がどれだけ残っているか」で読む。

向きを逆に覚えると全滅する。回旋と手支持は「幼いほど多い」。左右対称で床に手をつかない立ち上がりを見て「まだ未熟」と読むのは誤り——それが成人と同じ型=5歳(60か月)で完成する最も成熟した立ち上がり

図に立位がないとき ― 姿勢反射・姿勢反応で並べる

並べ替えの図が、立位でも座位でもなく反射・反応をみる肢位のことがある。背臥位・抱え上げ・傾けた姿勢しか描かれていない図には、冒頭の「臥位→座位→立位」も「立位3段階」も当てはまらない。使えるのは臥位が最も早いことだけで、残りはその反射・反応が出現する月齢で並べる。

反射・反応肢位・図での見え方出現/消失
非対称性緊張性頸反射〈ATNR〉背臥位で頭を横に向けると、顔を向けた側の上下肢が伸展し(手も開く)、後頭側の上下肢は屈曲する(手は握る)出生時からみられ、4〜6か月で消失=この3つで最も早い
Landau反応腹臥位懸垂(腹部を支えて水平に抱え上げる)で頭部を挙上し、続いて体幹・股関節が伸展する。四肢はまだ垂れ下がっていることが多い3〜4か月ごろから段階的に出現(6か月ごろ完成)・1〜2歳で消失
前方パラシュート反応(保護伸展反応)体幹・骨盤を持って頭から前下方へ傾けると、両上肢を伸ばし手を開いて床につく6〜7か月ごろ出現し、消えずに生涯残る=この3つで最も遅い

並べる順はATNR(出生時)→ Landau(3〜4か月)→ 前方パラシュート(6〜7か月)。パラシュート(保護伸展)反応は方向で時期がずれる——下方(おおむね4か月ごろ文献により4〜6か月と幅があるので、下方の月齢を単独で断定しない)→ 前方6〜7か月 → 側方7〜8か月 → 後方9〜10か月。原始反射と違って消失せず生涯残るのが特徴。

下方と前方は「誘発のしかた」で見分ける——下方は児を縦(立位の向き)に保ったまま床へ下ろす下肢が伸展・外転する反応。前方体幹・骨盤を持って頭から前下方へ傾ける両上肢を伸ばして手を開き床につく反応。図で手が床についていれば前方(6〜7か月)と読む。

この3つが並ぶ図に「立位」は1枚もない。抱え上げられた姿勢を「支えられた立位」と読み替えて立位3段階のものさしを当てるとまず外す。抱え上げ・傾けた肢位が出てきたら、姿勢のカテゴリではなく反射・反応の名前と出現月齢で並べる

3-3 手の把握の発達——手掌からピンセットへ

手の機能は近位から遠位へ・手掌全体から指先へ洗練される。把握のかたちには段階ごとに名前がついており、そのまま出題される。

時期把握のかたち内容
新生児〜手掌把握反射手掌に触れると握る。随意的でない
3〜4か月正中位指向身体の正中で両手を合わせる
4〜5か月リーチ・手掌握り物へ手を伸ばし、手掌全体で握る
6〜7か月レーキグリップ5本指全体で熊手のようにかき寄せる
9〜10か月スクープグリップ母指と他の指ではさむ。まだ精密でない
12〜13か月ピンセットグリップ母指と示指の精密なつまみ。通過率75%
14〜15か月同上通過率90%に達する

「母指と示指によるつまみは9〜10か月」は誤り。9〜10か月はスクープグリップの段階で、母指と示指の精密なつまみが75%通過するのは12〜13か月。3〜4か月はまだ反射的な握りにとどまる。

「最も早く可能になるのはどれか」型では、手掌握り(新生児期の把握反射に始まる)が独座・つかまり立ち・高這い・バイバイのいずれよりも早い。

3-4 改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査〈JDDST-R〉

  • 領域は4つ個人-社会/微細運動-適応/言語/粗大運動
  • 各項目は横棒で表され、その項目を25%・50%・75%・90%の子が通過する月齢が読み取れる。
  • 「○か月児が通過率75%以上で可能なのはどれか」は、その月齢が棒の75%の位置を越えているかを問うている。
  • スクリーニング検査であり、診断名を決めるものではない。

発達の遅れを1領域・1時点だけで判断しない。複数領域の通過状況と経過、養育環境を合わせて評価する。

2つの発達検査の区別

JDDST-R(デンバー式)遠城寺式
領域数4領域6領域
領域名個人-社会/微細運動-適応/言語/粗大運動移動運動/手の運動/基本的習慣/対人関係/発語/言語理解
読み方通過率25・50・75・90%の月齢を棒で読む領域ごとに発達年齢を折れ線で結ぶ(発達プロフィール)
性格スクリーニング検査同じくスクリーニング検査

領域名の細かさで見分けられる。運動を「移動運動」と「手の運動」に分け、生活面を「基本的習慣」として立てているのが遠城寺式。運動をまとめて「粗大運動」「微細運動-適応」の2本で扱うのがJDDST-R。

3-5 個人-社会領域と基本的習慣の順序

時期項目
7〜8か月ビスケットを自分で食べる(この群で最も早い)
11か月前後コップを自分で持って飲む
1歳前後お菓子のつつみ紙をとって食べる
1歳過ぎ簡単なお手伝いをする
1歳半〜2歳上着などを脱ぐ
2〜3歳手を洗ってふく

「自分で口へ運ぶ」が最も早く、「衣服の着脱」「手洗い」など手順の多い身辺処理ほど遅い。この粗さでも順序問題は足りる。

3-6 遠城寺式乳幼児分析的発達検査の月齢

領域は6つ移動運動・手の運動・基本的習慣・対人関係・発語・言語理解。JDDST-Rの4領域と数が違う点で区別する。

時期獲得する項目
6〜7か月支えなしで座る
6〜9か月人見知りをする
8〜10か月つかまって立っている
9〜11か月パチパチ・バイバイ
10〜11か月つたい歩き
11か月前後コップを自分で持って飲む
1歳ひとり歩き・有意味語1語・つつみ紙をとって食べる
1歳〜1歳半2語言える
1歳3か月前後積み木を2つ重ねる
1歳半走る
1歳半〜2歳ボールを前に蹴る
2歳前後積木を横に2つ以上ならべる・まねて直線を引く
2歳以降親から離れて遊ぶ
2〜3歳大きい・小さいがわかる/自分の姓名を言う

組合せ問題で頻出の「早すぎる」誤り。5か月で人見知り(正しくは6〜9か月)、6か月でつかまり立ち(正しくは8〜10か月)、12か月で積み木を2つ重ねる(正しくは1歳3か月前後)、15か月で自分の姓名を言う(正しくは2〜3歳)。

3-7 同じ月齢で領域を横に並べる

「つたい歩きをする時期に可能なのはどれか」のように、運動の月齢を手がかりに他領域を当てさせる形式がある。月齢で横に並べておくと即答できる。

月齢移動運動手・生活対人・言語
7〜8か月独座・ずり這いビスケットを自分で食べる人見知り
9〜10か月四つ這い・つかまり立ち(8〜10か月)スクープグリップバイバイ・パチパチ(9〜11か月)
10〜11か月つたい歩きコップを自分で持って飲む(11か月前後)喃語から有意味語へ
12〜15か月独歩・高這いピンセットグリップ・つつみ紙をとる有意味語1語
1歳半走る(ボールをけるのは1歳半〜2歳でまだ積み木を積む(2つ重ねるのは1歳3か月前後)・上着を脱ぐ2語・簡単なお手伝い
2〜3歳階段昇降直線の模倣・手を洗ってふく姓名を言う・大小がわかる

組合せ問題は「月齢が早すぎる肢」から消すのが最短。残った1つを検算する。

3-8 シャフリングベビー(いざり這い)

  • 四つ這いを経ずに座位のまま殿部で移動する児。正常発達のバリエーションで、多くは正常範囲に収まる。
  • 特徴は腹臥位・腹這いを嫌うこと。独歩の開始がやや遅れることがある。
  • 促すべきは足底を床につけた椅子座位。下肢の支持を経験させ、立ち上がり・立位へつなげる。

腹這いを無理に促すのは適切でない(本人が嫌う姿勢)。寝返り・背臥位も誤り——寝返りはより早期の段階で発達的に後退、背臥位は抗重力活動を引き出せない。起き上がりも第一選択にしない——シャフリング児はすでに座位を獲得しており、起き上がりは臥位↔座位の行き来を増やすだけで下肢への荷重を経験させない。課題は「立位・歩行へつながるか」で選ぶ。

3-9 発達段階に合わせた課題選択とハンドリング

「優先して行う運動はどれか」型は、今できていることの1つ先を選ぶ。飛ばした段階も、すでに獲得済みの段階も誤り。

現在の状態優先する課題選んではいけない課題
8か月・座位保持可、腹臥位で手支持可四つ這い(次の移動手段)寝返り(獲得済み)/膝立ち・立ち上がり・免荷立位での交互振り出し(段階が先)

正中位指向を促すハンドリング

  • 児を屈曲位で抱えて両上肢を体の前(正中)に集め、頭部も正中に保つ支え方=正中位指向の促進
  • 正中位指向は3〜4か月頃に現れ、正中で両手を合わせる動きの前提になる。

この抱き方で体幹伸展筋は促通されない(体幹は屈曲位)。頭部は正中で安定させるので頭部回旋の促通でもない。Galant反射は脊柱側方の皮膚刺激で誘発される反射で、抱き方とは無関係。下肢を体幹前面にまとめるためキッキングも促されない。

3-10 ハイリスク児・NICUでの優先順位

NICU入室中の低緊張児では、生命維持>発達支援>長期的な機能改善の順で優先度が決まる。

優先度介入理由
呼吸理学療法呼吸筋力低下があり生命維持に直結
ポジショニング異常姿勢の予防・褥瘡対策
運動発達指導発達遅滞のリスクが高く、早期の刺激が予後を左右
保護者への育児指導退院後の在宅管理のためNICU期から始める
装具療法適応は状態が安定した外来フォロー期以降

急性期の病棟で「装具」「歩行練習」など長期的・高負荷の選択肢が並んだら、それが優先度の低い肢である可能性が高い。