第6章|成人期・老年期

人間発達学 第6章

6-1 成人期・老年期の区分 — どの時期の記述かを見分ける

成人期以降は年齢の幅が広く、「ある年齢帯の特徴として適切なのはどれか」という形で、選択肢に別のライフステージの記述を混ぜてくるのが定番。区分と、その時期を象徴する語を1対1で結びつけておく。

時期年齢のめやす象徴するキーワード
青年期12〜22歳ころアイデンティティの確立、モラトリアム(心理社会的猶予期間)
成人期前期(壮年期)22〜40歳ころ就職・結婚・育児。仕事や家庭をもち社会人として成長する
成人期後期(中年期)40〜65歳ころ経験の蓄積で判断力は向上、一方で記憶力は低下。更年期、中年期の危機
老年期(高齢期)65歳ころ〜退職による社会的役割の減少、身体的不自由、喪失体験、死の受容

50〜60歳ころ=成人期後期の特徴を選ぶ設問の正答は「経験の蓄積により判断力は向上を続けるが記憶力は低下を示す」。喪失体験・死の受容は老年期、モラトリアムは青年期、仕事や家庭をもち社会人として成長は成人期前期であり、いずれも中年期の記述ではない。

6-2 成人期以降の心理社会的発達課題

エリクソンは生涯を8段階に分け、各段階に達成すべき課題と、失敗した場合の状態を対で示した。成人期以降の3段階が頻出。

段階課題 対 危機内容
青年期同一性 対 同一性拡散自分は何者かの答えを探す。猶予期間が認められる
成人期前期親密性 対 孤立特定の他者と深く関わる。配偶者選択・就職
成人期中期世代性(生殖性)対 停滞次世代を育て導く。後進の指導・子育て
老年期統合 対 絶望自分の人生をこれでよかったと意味づける

老年期をさらに細かく示したのがペックの3課題。自我の分化 対 仕事役割への没頭(退職後も役割を見いだせるか)、身体の超越 対 身体への没頭(衰えにとらわれないか)、自我の超越 対 自我への没頭(死を越えて次世代に何を残すか)。

6-3 中年期の危機と更年期

  • 人生半ばの過渡期は40〜45歳ころ。若さ・万能感の喪失を受け入れ、人生を再構築する時期とされる。
  • 更年期=閉経の前後5年ほど。日本人女性の閉経は平均50歳前後
  • エストロゲン低下により、ほてり・発汗(ホットフラッシュ)、動悸、不眠、抑うつ、易疲労が生じる。
  • エストロゲンは骨吸収を抑えるため、閉経後に骨量が急速に減少し閉経後骨粗鬆症の要因となる。
  • 子の独立に伴う空の巣症候群、親の介護と子育てが重なる負担も中年期の課題。

身体機能の多くは20歳代がピークで、以後ゆるやかに低下する。ただし低下の始まりと速さは機能ごとに違い、経験の蓄積で伸び続ける能力もある点が成人期の理解の核心。

6-4 加齢と知能 — 流動性知能と結晶性知能

知能は一様に低下しない。新しい場面に対処する流動性知能と、経験で積み上げた結晶性知能を分けて考える。

流動性知能結晶性知能
中身新規学習、記銘力、計算、推論、処理速度、注意語彙、一般知識、言語理解、経験に基づく判断
ピーク20歳代60歳前後まで上昇しうる
加齢変化低下する高齢期まで比較的保たれる

「加齢によっても保たれる精神機能はどれか」の答えは言語理解力。記銘力・計算力・注意力・情報処理速度はすべて流動性知能側で、加齢により低下する。とくに情報処理速度は最も低下しやすい代表格。

「加齢ではすべての知能が一様に低下する」は誤り。正しくは結晶性知能は維持され、流動性知能が低下する。判断力が向上し続けることと記憶力が低下することは矛盾しない。

6-5 加齢と記憶・注意

保たれやすい低下しやすい
意味記憶(知識・語彙)エピソード記憶(出来事の記憶)
手続き記憶(体で覚えた動作)作業記憶(ワーキングメモリ)
再認(見て思い出す)自由再生(手がかりなしに思い出す)
単純な短期記憶(数唱の順唱)展望記憶(予定を思い出す)、記銘力
持続性注意選択性注意・分配性注意

高齢者への指導は、覚え直しを求める課題より手続き記憶と結晶性知能に乗せる形が有効。情報は一度に多く与えず、注意の分配を要求しない環境で行う。

6-6 老年期の生理的変化 — 予備力と恒常性の低下

加齢の本体は、安静時の値そのものより予備力(余力)とホメオスタシス(恒常性)の低下。ふだんは足りていても、負荷やストレスが加わると破綻しやすい。

系統加齢による変化
筋量・筋力低下。速筋(Ⅱ型)線維が優先的に減少し、収縮速度・パワーが落ちる。減少は上肢より下肢(抗重力筋)で顕著
骨・関節骨量減少、椎間板の菲薄化による身長低下、脊柱後彎、関節可動域の減少
循環最大心拍数の低下(およそ220−年齢)、動脈壁の硬化により収縮期血圧上昇・脈圧増大、圧受容器反射の低下で起立性低血圧を起こしやすい
呼吸肺弾性の低下により肺活量低下・残気量増加、動脈血酸素分圧の低下、咳嗽力低下による誤嚥性肺炎リスク
腎・体液糸球体濾過量低下、尿濃縮力低下、体水分量減少と口渇感の鈍化により脱水になりやすい
免疫・内分泌胸腺は思春期をピークに退縮し脂肪に置換、T細胞機能低下、耐糖能低下
体温調節汗腺減少と皮膚血流低下で放熱が遅れ、熱中症・低体温の双方に弱い
神経脳重量減少、神経伝導速度は軽度低下にとどまる

「胸腺が肥大する」「筋の収縮速度が速くなる」「筋量は下肢より上肢のほうが減少する」はいずれも誤り。正しくは胸腺は退縮、収縮速度は遅くなる、筋量減少は下肢で顕著。加齢の変化は「遅い・少ない・小さい」方向にそろうと覚え、逆向きの肢を消す。

6-7 感覚器の加齢変化

感覚変化
視覚水晶体の弾性低下で調節力が落ち老視(近点が遠のく)。水晶体の混濁(白内障)と黄変で青系の識別が低下。瞳孔は縮小し網膜到達光量が減る。明順応・暗順応とも時間が延長
聴覚加齢性難聴は高音域から低下する感音難聴。蝸牛基底回転の有毛細胞が先に障害されるため。語音明瞭度が落ち、大きな音がうるさく響く補充現象を伴う。
平衡前庭有毛細胞の減少と体性感覚低下により姿勢動揺が増大。閉眼時の動揺増大が顕著。
体性感覚振動覚が下肢遠位から低下。皮膚感覚・温度覚も鈍化し熱傷に気づきにくい。
味覚・嗅覚閾値が上昇。とくに塩味の閾値上昇が目立ち、味付けが濃くなりやすい。

「視覚の明順応時間は変化しない」は誤り。正しくは明順応・暗順応とも延長する。夜間や急な明暗差での転倒につながる。
「低音域が聞こえにくくなる」も誤り。正しくは高音域から聞こえにくくなる。

6-8 サルコペニア・フレイル・ロコモティブシンドローム

概念定義と基準
サルコペニア加齢による骨格筋量の減少+筋力低下または身体機能低下。握力:男性28kg未満/女性18kg未満歩行速度1.0m/秒未満、骨格筋量指数の低下で判定
フレイル健常と要介護の中間の可逆的な虚弱。①体重減少 ②疲労感 ③活動量低下 ④歩行速度低下 ⑤筋力低下 のうち3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル。身体的・精神心理的・社会的の3側面をもつ
ロコモティブシンドローム運動器の障害により移動機能が低下した状態。立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25で判定

下肢の筋量減少が先行するため、立ち上がり・歩行・階段が最初に困る。転倒→骨折→廃用の連鎖の入口であり、フレイルは可逆=介入対象という点が理学療法の存在理由になる。

6-9 加齢と睡眠 — ノンレムとレム

ノンレム睡眠レム睡眠
成人の睡眠に占める割合約75〜80%=大半を占める約20〜25%
眼球運動穏やか急速眼球運動あり
脳波徐波(段階が深いほど高振幅徐波)低振幅速波で覚醒に近い(逆説睡眠)
まれ・断片的で記憶に残りにくい鮮明な夢
自律神経副交感優位。心拍・呼吸・血圧は規則的で低下不規則に変動。陰茎勃起がみられる
骨格筋緊張は保たれる抗重力筋の緊張が消失
役割身体の回復。成長ホルモン分泌は深睡眠でピーク記憶の整理・定着

睡眠周期は約90分で、夜の前半は深いノンレムが、後半はレムが多くなる。

ノンレム睡眠の記述として正しいのは「成人の睡眠の大半を占める」。夢を見る・陰茎勃起・急速眼球運動・心拍数が不規則の4つはすべてレム睡眠の特徴で、そろって誤答肢に並ぶ。

高齢者の睡眠は、深いノンレム(徐波睡眠)が減少し、中途覚醒・早朝覚醒が増え、睡眠効率が低下する。体内時計の位相が前進して早寝早起きになり、日中の居眠りが増える。総睡眠時間の短縮そのものより、分断されて浅くなるのが特徴。

6-10 老年期の心理社会理論とサクセスフルエイジング

理論主張
離脱理論社会的役割から退いていくことは高齢者と社会の双方にとって自然かつ相互的な過程
活動理論役割を失っても新たな活動で置き換え、活動水準を保つほど適応がよい
継続性理論それまでの生活様式・価値観を維持できることが適応につながる
SOC理論できることを絞り(選択)、資源を集中し(最適化)、道具や他者で補う(補償)ことで加齢の損失に適応する

サクセスフルエイジングは、①疾病・障害の回避 ②高い認知・身体機能の維持 ③人生への積極的関与 の3要件で説明される。単に長生きすることではなく、機能と社会参加を伴った加齢を指す。

老年期には配偶者や友人との死別、退職、健康の喪失という喪失体験が重なる。死の受容過程は否認→怒り→取引→抑うつ→受容の5段階で説明されるが、順に一方向へ進むとは限らない。

老年期の課題は統合 対 絶望。喪失を含めて自分の人生を意味づけられれば統合、後悔にとらわれれば絶望となる。理学療法では機能改善そのものより、その人が続けたい活動と役割を残すことが統合を支える。