第3章|姿勢・バランス・歩行分析
評価・検査 第3章
3-1 姿勢・アライメントとバランスの基礎
立位姿勢は矢状面の重心線で評価する。耳垂 → 肩峰 → 大転子 → 膝関節前部(膝蓋骨後面) → 外果のやや前方を通る。不良姿勢は円背・側弯・骨盤傾斜として記述する。
静的バランスと動的バランス
| 区分 | 定義 | 代表的な検査 |
| 静的バランス | 支持基底面を変えずに姿勢を保持する能力 | 片脚立位、閉眼・閉脚立位、Trunk control test |
| 動的バランス | 重心を動かす・支持基底面が変わる中で保持する能力 | Functional Reach Test、TUG、タンデム歩行 |
Trunk control test は体幹制御の検査だが姿勢保持が主体で、動的バランス検査には数えない。10m歩行テストは移動速度、6分間歩行テストは持久性で、どちらもバランス検査ではない。
バランスに関与する感覚
- 視覚・前庭覚・体性感覚(深部感覚)の3つ。温痛覚は中心ではない。
- 深部感覚のスクリーニング=振動覚(C128音叉)と、モノフィラメントによる触圧覚。
- 糖尿病性多発神経障害は長さ依存性で靴下・手袋型に下肢遠位から進み、内果の振動覚が最も早く低下する。障害の順は 感覚(振動覚・温痛覚)→ 反射(アキレス腱反射消失)→ 運動(筋力低下)。膝蓋腱反射の低下・ROM制限・TUGの延長はいずれも振動覚より遅れる。
3-2 Berg Balance Scale〈BBS=FBS〉
| 項目 | 内容 |
| 項目数 | 14項目 |
| 採点 | 各項目 0〜4点の5段階(0=不能、4=自立) |
| 満点 | 14×4=56点 |
| 向き | 得点が高いほどバランス能力が高い |
| カットオフ | 約45点以下で転倒リスクが高い |
- 含まれる項目=座位保持・立ち上がり・移乗・閉眼立位・閉脚立位・前方リーチ・床の物を拾う・振り向き・360度回転・タンデム立位(継ぎ足立位)保持・片脚立位 など。
- 評価の中心は課題の遂行であり、外乱に対する反応をみる検査ではない。
よくある誤り → 正しくは:「16項目」→14項目/「1〜4の4段階」→0〜4の5段階/「カットオフ52点」「カットオフ56点」→56点は満点でカットオフは約45点/「4m歩行時間を含む」→歩行時間の測定項目はない/「外乱負荷への反応が中心」→課題遂行が中心。
3-3 Timed Up and Go〈TUG〉
| 項目 | 内容 |
| 開始肢位 | 背もたれのある椅子に座った座位(立位ではない) |
| コース | 3m先に目印を置き折り返す(往復で約6m。「6m先に目印」は誤り) |
| 終了 | 戻って背もたれ座位に着くまでの時間を測る |
| 補助具 | 普段使っている杖・歩行器の使用は可(禁止ではない) |
| 測るもの | 起立・歩行・方向転換・着座を含む動的バランスと移動能力 |
| 基準 | 13.5秒以上で転倒リスク高/11秒以上でフレイル/10秒以内が健常域の目安。短いほど良好 |
3-4 Functional Reach Test〈FRT〉と各種パフォーマンステスト
- 立位で片側上肢を90度前方挙上し、足部は床に固定したまま(踵を浮かせない・足を動かさない)前方へ最大限リーチする。
- 測るのは肩峰の高さでのリーチ距離の水平成分。両上肢をそろえてリーチさせるのではない。
- 15cm未満で転倒リスク高。大きいほど良好。歩行速度の予測には用いない。
- SPPBには含まれない。SPPB=バランス(立位保持)+歩行速度+椅子立ち上がりの3要素。
| 検査 | 何を測るか |
| 6分間歩行テスト | 全身持久性(運動耐容能)。歩行距離は最大酸素摂取量と相関。呼吸器・心疾患・術後の持久性評価の第一選択 |
| シャトルウォーキングテスト | 全身持久性 |
| 10m最大歩行速度 | 移動速度・歩行能力(持久性ではない) |
| five times sit to stand test | 下肢筋力・パワー |
| 片脚立位時間 | 静的バランス。長いほど良好、5秒未満で転倒リスク |
3-5 数値の向き — 改善か悪化かを読む
| 大きい・長い・高いほど良好 | 小さい・短い・少ないほど良好 |
| FBS〈BBS〉(56点満点)、FRT(cm)、片脚立位時間、MMSE、FIM、Barthel Index | TUG(秒)、10m歩行時間、基本チェックリスト(該当数)、Borg指数 |
「バランス機能の低下を示すのはどれか」型は向きだけで解ける。FBS 47点→33点は低下。TUG 25→9秒、10m歩行 45→12秒、片脚立位 10→55秒、FRT 6→20cm はすべて改善。
「好ましい変化はどれか」型では FBS 42→52 だけが改善。BMI 22.6→17.0(18.5未満は低体重)、TUG 14.2→20.2秒、MMSE 25→20、基本チェックリスト 4→10項目 はすべて悪化。
3-6 転倒リスクとフレイル
| 指標 | 転倒・虚弱の目安 |
| BBS〈FBS〉 | 約45点以下 |
| TUG | 13.5秒以上 |
| 片脚立位時間 | 5秒未満 |
| 歩行速度 | 1.0m/秒未満 |
| FRT | 15cm未満 |
フレイルでの各指標の動き
- 筋量↓(サルコペニア)、握力↓、歩行速度↓、FBS↓、TUG時間↑、Borg指数↑(同じ負荷でもきつく感じる)、基本チェックリスト該当数↑。
- 診断の中核は 体重減少・疲労感・活動量低下・歩行速度低下・握力低下。
「筋量が増加する」「TUG時間が短くなる」「Borg指数が低値になる」はすべて方向が逆で誤り。「長座位前屈距離が短くなる」は柔軟性の話であり、フレイルの中核所見ではないので正答には選ばない。
転倒予防の原則
- 認知機能の低下(注意・遂行機能・二重課題能力)は転倒リスク因子。
- 練習は静的バランスから動的バランスへ段階的に進める。
- 歩行速度を上げることを最優先にしない(危険が増す。安全な姿勢制御の獲得が先)。
- 筋力・認知・薬剤・環境への多因子包括的介入が基本。
3-7 まぎらわしい評価尺度の整理
| 尺度 | 測るもの |
| KPS〈Karnofsky performance scale〉 | がん患者などの全身状態・ADL自立度(0〜100%) |
| PGCモラールスケール | 高齢者の主観的幸福感 |
| SIAS | 脳卒中の総合的機能障害(麻痺・感覚・体幹) |
| NIHSS | 脳卒中急性期の神経学的重症度 |
| WCST | 遂行機能(前頭葉機能) |
| UPDRS | Parkinson病の重症度 |
| modified Tardieu scale | 痙縮(速度依存性の伸張反射) |
| PCI〈Physiological cost index〉 | 歩行の生理的コスト(心拍数と歩行速度から算出) |
| MRC sum score | 四肢の筋力合計。ICU-AWの判定 |
転倒リスクの評価を問われたら、この表の尺度ではなくFBS〈BBS〉・TUG・FRT・片脚立位時間を選ぶ。
MRC sum score は両側合計48点未満または平均4点未満でICU-AW(集中治療室獲得性筋力低下)の判定を満たす。ICU入室時の値ではなく入室中〜退室後の経時的な低下で判断し、握力は基準に含まれない。測るのは上肢3筋(肩外転・肘屈曲・手関節伸展)+下肢3筋(股屈曲・膝伸展・足背屈)を左右で計12項目。背臥位だけで完結せず、筋ごとに定められた肢位(座位・側臥位を含む)で測るので「背臥位で測定する」と限定した記述は誤り。
3-8 歩行周期
- 1歩行周期=立脚期 約60%+遊脚期 約40%。両脚支持期は1周期に2回あり、歩行が遅いほど長くなる。
- 立脚期の相:踵接地 → 足底接地 → 立脚中期 → 踵離地 → 足趾離地。
3-9 異常歩行と原因の対応
| 異常歩行 | 原因・特徴 |
| frozen gait(すくみ足) | Parkinson病。歩き出しや方向転換で足が床に張り付く |
| 小刻み歩行 | Parkinson病(運動失調ではない) |
| scissors gait(はさみ脚歩行) | 両下肢の痙縮(痙性対麻痺・脳性麻痺) |
| steppage gait(鶏歩) | 総腓骨神経麻痺による下垂足。足尖が垂れるため股・膝を高く挙げる |
| waddling gait(動揺性歩行) | 下肢帯(中殿筋など)の筋力低下。骨盤を左右に振る。筋ジストロフィー・変形性股関節症 |
| wide-based gait(開脚歩行) | 小脳性運動失調。足幅を広げて安定を得る。酩酊様歩行 |
組合せ問題は入れ替えが定番 → 「frozen=小脳性運動失調」「scissors=パーキンソニズム」「wide-based=両下肢の痙縮」はすべて誤り。正しくは frozen=パーキンソン、scissors=両下肢痙縮、wide-based=小脳失調。
3-10 股関節疾患の跛行 — Trendelenburg と Duchenne
- Trendelenburg徴候・歩行=立脚側(支持側)の股関節外転筋(中殿筋)の筋力低下により、遊脚側(非支持側)の骨盤が下降する。変形性股関節症で典型的にみられる。
- Duchenne歩行=患側立脚期に体幹を患側(筋力低下側)へ傾け、重心を支持脚上に寄せて代償する跛行。
変形性股関節症の(術前)評価の柱は筋力検査・関節可動域検査・疼痛検査・形態計測(脚長差・周径)。神経疾患ではないため反射検査の重要度は低い。
| 徴候 | 意味するもの |
| Tinel徴候 | 末梢神経の叩打で末梢へ放散するしびれ=末梢神経障害 |
| Froment徴候 | 尺骨神経麻痺(手内筋の筋力低下) |
| Romberg徴候 | 開眼で立てても閉眼で動揺・転倒=深部感覚障害・脊髄後索病変 |
| Lhermitte徴候 | 頸部前屈で電撃様感覚が走る=頸髄病変 |
上の4つはいずれも神経学的徴候であり、変形性股関節症ではみられない。
3-11 Pusher現象と姿勢認識の障害
- 身体軸が麻痺側へ傾斜し、非麻痺側の上下肢で床を押して麻痺側へ倒れようとする。
- 正中位へ戻そうとすると抵抗して押し返す。端座位で体幹を正中位に近づけると非麻痺側の股関節が外旋する。
- 右半球損傷(左片麻痺)に多い。背景に垂直判断(主観的身体垂直)の障害がある。
- 座位だけでなく立位でも認められる。
「身体軸が非麻痺側に傾斜する」は方向が逆で誤り → 正しくは麻痺側へ傾斜する。
介入
- 立位や座位の傾きに対しては前方に鏡を置き、視覚的な垂直の手がかりで自分の傾きを認識させるのが有効。能動的な姿勢修正を促す。
- 他動的に骨盤を押す・膝装具で支える・非麻痺側上肢でリーチさせるといった受動的あるいは間接的な方法は、姿勢認識の改善には直結しない。
- レイミステ現象(非麻痺側の抵抗運動で麻痺側に同じ動きが出る連合反応)は、重心偏位の是正には用いない。