第1章|測定の原則と参考可動域

関節可動域測定 第1章

1-1 ROM測定の基本原則と角度表記

  • 基準は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の基準(1995年制定。2022年改訂で日本足の外科学会も加わり、前腕回内・回外の基本軸などが変わった)
  • ゴニオメーター(角度計)を用い、5度きざみで記録
  • 基本肢位を0度とし、自動(AROM)と他動(PROM)を区別して記載
  • 正誤は基本軸・移動軸・測定肢位の3点で決まる。基本軸=固定する近位側、移動軸=動く遠位側が原則
自動では出ないが他動で出る → 筋力低下・神経の問題。他動でも出ない → 関節・軟部組織の問題(拘縮・強直)。

マイナス表記の読み方

ある運動方向の角度が0度に届かず手前で止まれば、その方向にマイナス。同じ状態でも屈曲側から書くか伸展側から書くかで符号が反転する。

状態屈曲側の表記伸展側の表記
肘が伸びきらない=屈曲拘縮屈曲10°伸展−10°
0°を越えて反る=過伸展(反張肘)屈曲−10°伸展10°
完全に伸びきる=正常屈曲0°伸展0°
「屈曲−10°」は過伸展であって屈曲拘縮ではない。「伸展0°」は基本肢位まで伸びきった正常で拘縮なし。

最終域感(end feel)

  • 前腕回外の最終域感は軟部組織性・靱帯性(結合組織性)。骨性ではない
  • 骨性は肘伸展のように骨同士が当たって止まるもの

距離(cm)で表示する項目 — 角度で測らない所

ROMは角度表示が原則だが、角度では測りにくい所は距離(cm)で表示することが基準に定められている。出題は「距離の規定がないのはどれか」の否定形が多いので、距離で表す側を先に覚え、それ以外の選択肢を探す。下の表は出題された代表例。

項目何と何の距離か
母指対立母指先端と小指基部(または小指先端)
指(手指)外転・内転中指先端と示指・環指・小指の先端
指(手指)屈曲指尖と近位手掌皮線(または遠位手掌皮線)
胸腰部屈曲最大前屈での指先と床=指床間距離(FFD)
顎関節開口=上顎の正中線で上歯と下歯の先端の間(参考値 約5.0cm)/左右偏位=上下歯列の正中のずれ(約1.0cm)

距離の規定がなく角度だけで表すものの出題例:肩甲帯挙上・引き下げ(基本軸=両側の肩峰を結ぶ線、移動軸=肩峰と胸骨上縁を結ぶ線)/膝関節屈曲(基本軸=大腿骨、移動軸=腓骨)。膝の「踵殿距離」は臨床で使うが基準の表示法ではない。肩・肘・股・膝・足関節の四肢の大関節は角度で答える。

顎関節は角度では測らない。「矢状面で〜線と下顎骨中央線のなす角」(床への垂直線・フランクフルト線・上顎骨中央線のどれを基準にしても)は誤り → 正しくは上歯と下歯の先端の距離。オトガイ隆起と胸骨切痕の距離は頸部の屈曲・伸展を距離で代用する見方で、顎関節の計測ではない。

基本軸が「垂直線」の運動と、竿間角度の読み替え

基本軸には骨(線)そのものを使う運動と、ある線・面への垂直線を使う運動がある。「垂直線を基本軸に用いるのはどれか」はこの2群の仕分けで解く。

群運動と基本軸(代表例)
垂直線を使う肩屈曲・伸展/肩外転・内転=肩峰を通る床への垂直線
肩水平屈曲・水平伸展=肩峰を通る矢状面への垂直線
肩外旋・内旋=肘を通る前額面への垂直線
頸部回旋=両側の肩峰を結ぶ線への垂直線
股外転・内転=両ASISを結ぶ線への垂直線
股外旋・内旋=膝蓋骨より下ろした垂直線
足関節背屈・底屈=腓骨への垂直線/足部内がえし・外がえし=下腿軸への垂直線
骨・線そのものを使う肘屈曲・伸展=上腕骨/膝屈曲・伸展=大腿骨/頸部側屈=第7頸椎棘突起と第1仙椎棘突起を結ぶ線/前腕回内・回外=上腕骨(1-4の表)

前腕回内・回外の基本軸は現行の基準では上腕骨(1-4)。古い基準に基づく教材・解説では「床への垂直線」と書かれていることがあるので、選択肢でこの語形を見ても慌てない。

竿間角度の読み替え:図で角度計の竿が垂直線そのものではなく、垂直線の元になる線(両肩峰を結ぶ線・下腿軸・前額面)に沿って置かれているときは、竿間の角度は測定値にならない。90°との差が測定値になる。

  • 頸部回旋:竿が両肩峰を結ぶ線と鼻梁−後頭結節線 → 竿間40°なら90−40=50°
  • 足部外がえし:竿が下腿軸と足底面 → 竿間75°なら90−75=15°
  • 肩外旋:竿が前額面(左右方向)と尺骨 → 竿間120°なら120−90=30°
  • 竿が基本軸そのもの(肩水平屈曲の矢状面への垂直線=左右方向の線、前腕の上腕骨)に置かれていれば竿間角度がそのまま値

図の問題はまず基本軸が垂直線の運動かを確認し、竿がその垂直線に乗っているかを見る。「竿間角度をそのまま答えた値」が誤り肢として必ず用意されている。

1-2 参考可動域角度〈全一覧〉

部位運動方向と参考可動域角度
肩甲帯屈曲20°/伸展20°/挙上20°/引き下げ(下制)10°
肩屈曲180°/伸展50°/外転180°/内転0°/外旋60°/内旋80°/水平屈曲135°/水平伸展30°
肘屈曲145°/伸展5°
前腕回内90°/回外90°
手屈曲(掌屈)90°/伸展(背屈)70°/橈屈25°/尺屈55°
母指橈側外転60°/尺側内転0°/掌側外転90°/掌側内転0°/MCP屈曲60°・伸展10°/IP屈曲80°・伸展10°
指MCP屈曲90°・伸展45°/PIP屈曲100°・伸展0°/DIP屈曲80°・伸展0°
頸部屈曲(前屈)60°/伸展(後屈)50°/回旋 左右各60°/側屈 左右各50°
胸腰部屈曲(前屈)45°/伸展(後屈)30°/回旋 左右各40°/側屈 左右各50°
股屈曲125°/伸展15°/外転45°/内転20°/外旋45°/内旋45°
膝屈曲130°/伸展0°
足関節背屈(伸展)20°/底屈(屈曲)45°
足部内がえし30°/外がえし20°/外転10°/内転20°
母趾・足趾母趾MTP屈曲35°・伸展60°/母趾IP屈曲60°/足趾MTP屈曲35°・伸展40°/PIP屈曲35°/DIP屈曲50°
数値の比較で問われやすい所。肩内旋80°>肩外旋60°/母指橈側外転60°/肩甲帯屈曲20°/股内旋45°。足・足部で30°は内がえしだけ(外がえし20°・外転10°・内転20°・背屈20°)。
よくある誤り → 正しくは。頸部屈曲80°→60°/肩伸展30°→50°/股外転25°→45°/足底屈60°→45°/股屈曲150°や60°→125°/肩外転135°→180°(135°は水平屈曲)/肩水平屈曲150°→135°。

1-3 測定肢位と代償運動

運動測定肢位理由・注意
肩 屈曲前腕中間位前腕回外位は誤り
肩 外転・内転座位または立位(体幹を垂直に保つ)「背臥位で測定する」は誤り → 背臥位を用いるのは肩の屈曲や内旋・外旋など。体幹側屈の代償を見るには体幹を起こす必要がある。外転=側方挙上/屈曲=前方挙上で運動面が違う
肩 外旋・内旋上腕を体側・肘90°屈曲前腕は中間位
股 外転・内転股関節伸展位(中間位)・背臥位骨盤を固定する
股 屈曲背臥位・膝屈曲位骨盤が動き出す手前を終点にする
股 伸展腹臥位・膝伸展位背臥位で下肢を挙げるのは屈曲の肢位
股 外旋・内旋背臥位で股・膝とも90°屈曲位(下腿を左右に振る)膝伸展位では測らない。固定するのは骨盤で、「固定部位は脊柱」は誤り → 脊柱を押さえても骨盤が代償して回ってしまう
膝 屈曲股関節屈曲位二関節筋の大腿直筋を緩めるため
足 背屈・底屈膝屈曲位二関節筋の腓腹筋を緩めるため
手 屈曲・伸展/橈屈・尺屈前腕回内位—
測定肢位は二関節筋を緩めるように決められている。膝屈曲は股屈曲位、足背屈・底屈は膝屈曲位。「膝屈曲—股伸展位」「足底屈—膝伸展位」は誤りの組合せ。

代償運動(見かけの角度を稼ぐ動き)

運動方向典型的な代償運動
肩 屈曲体幹伸展(後方へ反る)
肩 外転体幹側屈(対側へ傾く)
肩 水平屈曲肩甲骨の前方突出(外転)
股 屈曲骨盤後傾(対側下肢の浮き上がり)
股 伸展骨盤前傾(腰椎前弯の増強)
「肩外転—体幹回旋」「股伸展—骨盤側方傾斜」「肩外旋—体幹側屈」はいずれも誤りの組合せ → 正しくは肩外転は体幹側屈、股伸展は骨盤前傾、肩外旋は体幹の対側回旋。

基本軸・移動軸の取り違えやすい組合せ

運動基本軸移動軸・肢位
肩甲帯 挙上・下制両側の肩峰を結ぶ線肩峰と胸骨上縁を結ぶ線(胸骨上縁が頂点)
肩甲帯 屈曲・伸展両側の肩峰を結ぶ線頭頂と肩峰を結ぶ線(上から見て測る)
足部 内がえし・外がえし下腿軸への垂直線足底面。膝関節屈曲位で測る
頸部 側屈第7頸椎棘突起と第1仙椎棘突起を結ぶ線頭頂と第7頸椎棘突起を結ぶ線(背面から)
肘 屈曲・伸展上腕骨橈骨。前腕回外位

図の判定問題では軸そのものだけでなくどこを頂点に角度を読むかと測定肢位まで見る。肩甲帯挙上を「両肩峰を結ぶ線の傾き」で読む図、足部内がえしを「下腿軸そのもの」を0°にした図は誤り。

1-4 可動域制限の評価・身体計測・SIAS

Thomasテスト(股関節屈曲拘縮)

背臥位で非検査側の股・膝を最大屈曲させて腰椎前弯を消す。検査側の大腿が床から浮けば陽性=その側の股関節屈曲拘縮(腸腰筋の短縮)。一側の股関節を屈曲したときに対側下肢が浮いた場合は、浮いた側の腸腰筋短縮を疑う。

テスト対象
Thomas股関節屈曲拘縮(腸腰筋短縮)
Adson胸郭出口症候群
Jackson頸椎神経根の圧迫
Lachman膝前十字靱帯(ACL)損傷
Neer肩インピンジメント症候群
腸骨大腿靱帯(Y靱帯)は股関節の伸展を制限する靱帯。「屈曲の制限因子」とするのは誤り。

可動域改善を目的とする運動療法

名称目的
Codman体操(振り子・アイロン体操)肩関節のROM改善・疼痛軽減
McKenzie体操腰椎伸展主体。椎間板性腰痛の軽減とROM改善
Böhler体操体幹伸展による背筋強化(脊椎(椎体)圧迫骨折)
Buerger-Allen体操末梢循環の改善(閉塞性動脈疾患)
Frenkel体操協調性の改善(運動失調)

手背の熱傷後瘢痕拘縮は伸展拘縮となるため、慢性期は手指屈曲方向のROM練習+圧迫療法(ガーメント)で対応する。手関節背屈位に保持するコックアップ・スプリントは拘縮を助長するため不適。拘縮と逆方向へ伸張するのが原則。

身体計測・周径

  • 体重=早朝空腹時・排尿後/身長=両踵をつけ、つま先を約30〜40度開く/胸囲=安静呼吸の呼気の終わり
  • 棘果長(SMD)=上前腸骨棘→内果/転子果長(TMD)=大転子→外果。「棘果長は外果まで」は誤り
  • 手長=手関節横紋の中点(橈骨茎状突起と尺骨茎状突起を結ぶ線の中点)→中指(第3指)先端。「尺骨茎状突起から第3指先端まで」は誤り → 起点は片側の茎状突起ではなく横紋の中点
  • 周径は0.1cm(mm)単位で記録(1cm単位は誤り)
  • メジャーは皮膚に密着させ、締めすぎず緩めすぎない。着衣の上からは測らない
  • 大腿周径は膝伸展位で膝蓋骨上縁から一定距離(5cm・10cmなど)/下腿周径は下腿後面をベッドに密着させない(下腿三頭筋が圧迫変形する)
  • 左右・経時比較のため毎回同じ部位・同じ条件で測る

SIAS(脳卒中機能評価法)

  • 上肢触覚は手掌で評価(手背ではない)
  • 上肢の関節可動域は肩関節外転で評価(屈曲ではない)
  • 股屈曲テストでは座位保持を介助してよい
  • 膝・口テストは麻痺側手部を反対側(健側)の膝から口元へ運ぶ
  • 構成=運動機能(上肢:膝・口テスト/手指テスト、下肢:股屈曲・膝伸展・足パットテスト)・筋緊張・感覚・関節可動域・疼痛・体幹・視空間認知・言語

運動機能項目は0〜5の6段階で採点し、1点だけが1A・1B・1Cに細分される。何をもって1A/1B/1Cとするかはテストごとに中身が違うので、テスト名とセットで覚える。

段階膝・口テスト(上肢近位)手指テスト(上肢遠位)
0全く動かない
1A肩のわずかな動きはあるが手が乳頭部に届かないわずかな動き、または集団屈曲が可能
1B手が乳頭部に届く集団伸展が可能
1C手が下顎に届く(課題は完遂できない)分離運動が可能だが不十分(全指ではできない)
2課題は遂行できるが著しくぎこちない
3中等度のぎこちなさ
4軽度のぎこちなさ
5健側と同等
手指テストで「集団伸展が可能なら1C」は誤り → 正しくは1B。1Cは分離運動が一部できる段階で、集団屈曲どまりは1A。「集団」で動くうちは1A・1B、「分離」が出て初めて1Cと押さえる。

姿勢をとるのに要る可動域(表から姿勢を選ぶ問題)

姿勢主に要る可動域(代表例)
四つ這い手関節背屈 約90°+膝関節屈曲 約90°
正座・割り座(踵を殿部の横に置く座り方)膝の深い屈曲+強い足関節底屈
長座位で後ろに手をついて支える手関節の大きな背屈+肩関節伸展
膝を曲げた前傾立位下腿を前に倒す=足関節背屈
高い座面への腰かけ(手は大腿の上)膝屈曲は少なくてよく、手関節・肩の可動域はほとんど要らない
表の制限角度と、姿勢ごとに「どの関節がどこまで動く必要があるか」を1つずつ照合して消す。

自動と他動の差・隣の関節の肢位で変わる制限

  • 自動ROM<他動ROM:関節は動くのに自分で動かせない=筋力低下(出力不足)か随意性の低下を示す。
  • 隣の関節の肢位で制限が変わる=二関節筋を疑う。例:大腿直筋の短縮=股伸展位(腹臥位)でだけ膝屈曲が減る(Elyテスト)/腓腹筋の短縮=膝伸展位でだけ足背屈が減る。ヒラメ筋は膝をまたがないので、短縮すれば膝の肢位に関係なく背屈が制限される。
  • 他動運動で出る痛み=筋が伸ばされるときの伸張痛や、関節包・靱帯など筋以外の組織の痛みを考える。収縮時痛は自動運動(収縮させたとき)で判定する。
  • 脳卒中片麻痺で膝伸展位のときだけ自動背屈が落ちる(膝屈曲位では自動=他動)=筋力は保たれており、伸展共同運動に引き込まれる分離運動の障害と読む。