第3章|筋系

解剖学 第3章

3-1 骨格筋の構造・補助装置と運動単位

  • 骨格筋はで骨に付く。体幹に近く動きの少ない付着部が起始、遠くよく動く側が停止
  • 補助装置=腱鞘(腱を包み摩擦を減らす)・滑液包・筋膜・種子骨(最大は膝蓋骨)・筋滑車

筋滑車(trochlea)をもつ筋は2つだけ

  • 顎二腹筋…前腹と後腹をつなぐ中間腱が、舌骨に付く線維性の係蹄(滑車)を通って走行を変える。
  • 上斜筋…眼窩の内側上方にある滑車を腱が回り、眼球を下転・内旋させる。支配は滑車神経で名前がそのまま対応する。

烏口腕筋・示指伸筋・小胸筋は腱が直走するだけで滑車をもたない。

運動単位と神経支配比

  • 運動単位=1個の運動ニューロンと、それが支配する筋線維群。1つの筋は多数の運動単位で構成される。
  • 神経支配比=1個の運動ニューロンが支配する筋線維の本数。
  • 最大の張力は、その筋のすべての運動単位が同期して活動したときに生じる。
神経支配比代表的な筋意味
小さい(数本〜十数本)外眼筋・虫様筋・手内在筋細かく精密な調節ができる
大きい(数百〜千本)上腕二頭筋・大腿四頭筋・腓腹筋大きな力を発揮する

「上腕二頭筋より虫様筋のほうが神経支配比は大きい」は誤り。正しくはで、精密運動を担う虫様筋のほうが支配比は小さい。

二重神経支配の筋

支配神経
上腕筋筋皮神経(主)+橈骨神経
恥骨筋大腿神経+閉鎖神経
大内転筋閉鎖神経(内転部)+脛骨神経(坐骨結節由来の伸筋部)
深指屈筋/短母指屈筋橈側半=正中・尺側半=尺骨/浅頭=正中・深頭=尺骨

紛れやすい単一支配:上腕二頭筋=筋皮神経のみ。肘筋・浅指屈筋・尺側手根屈筋・手の骨間筋・長内転筋・中間広筋・半膜様筋・ヒラメ筋も1本の神経のみ。

3-2 表情筋と咀嚼筋 ― 顔・下顎の運動

顔の筋は2系統に割る。表情筋=顔面神経(Ⅶ)/咀嚼筋=三叉神経第3枝(下顎神経・V3)。この1行で顔面の設問の大半が処理できる。

咀嚼筋は4つだけ

咀嚼筋(すべてV3支配)作用
咬筋下顎の挙上(閉口)。最も強力な閉口筋
側頭筋下顎の挙上+後退
内側翼突筋下顎の挙上
外側翼突筋下頭が下顎の前突・側方移動、上頭は開口相に働く
下顎の運動働く筋
挙上(閉口)咬筋・側頭筋・内側翼突筋
下制(開口)顎二腹筋・外側翼突筋(上頭)・舌骨上筋群
前突外側翼突筋(下頭)
後退側頭筋(後部線維)
側方移動片側の外側翼突筋

頻出の誤り。「咬筋=下顎を引き下げる」「内側翼突筋=後退/唇をすぼめる」「顎二腹筋=挙上」はすべて誤り。正しくは咬筋・内側翼突筋は挙上、顎二腹筋は下制(開口)。オトガイ舌筋はの筋で下顎運動筋ではない。

表情筋の作用(すべて顔面神経支配)

作用
頬筋頬壁を歯列に押しつける(咀嚼の補助・吹奏)。「ラッパ筋」
口輪筋口裂を閉じる・すぼめる(括約筋)
大頬骨筋・口角挙筋口角を上外側へ引き上げる(笑う)
小頬骨筋上唇を引き上げる
オトガイ筋下唇を前方へ突き出し、オトガイの皮膚を持ち上げる
前頭筋眉を挙上し、額に横じわをつくる
皺眉筋眉を内下方に引き、眉間にじわ
鼻根筋/鼻筋眉間にじわ/鼻孔を開大する
眼輪筋眼瞼を閉じる(閉眼)。眼球は動かさない
広頸筋頸部の皮筋。口角を下方に引く。顔面神経頸枝支配

選択肢に並ぶ定番の偽物 → 正しくは:「頬筋が頬をふくらませる」(歯列に押しつけて空気を出す)/「大頬骨筋が下唇を下制」(口角を挙上)/「オトガイ筋が口裂を閉じる」(口輪筋)/「口輪筋が口角を挙上」(閉じる)/「鼻根筋が鼻孔を広げる」(鼻筋)/「皺眉筋が眉毛を挙上」(挙上は前頭筋)。

顔面神経麻痺で残る運動

  • 末梢性(Bell麻痺型)=患側の表情筋が全部麻痺。額のしわ寄せ不能・閉眼不全(兎眼)・口角下垂・口すぼめ不能。
  • 中枢性(核上性)=前頭筋は両側支配のため額のしわは保たれ、顔面下半分のみ麻痺。
  • どちらでも奥歯を噛む(咬筋・側頭筋=三叉神経)は保たれる。ここが鑑別の決め手。

3-3 脳神経と支配筋の対応

脳神経支配する筋・機能
Ⅲ 動眼神経上直筋・下直筋・内側直筋・下斜筋・上眼瞼挙筋、瞳孔括約筋
Ⅳ 滑車神経上斜筋のみ(下転・内旋)
Ⅴ 三叉神経(V3)咀嚼筋4筋+顎二腹筋前腹・顎舌骨筋・鼓膜張筋。顔面の一般感覚
Ⅵ 外転神経外側直筋のみ(外転)
Ⅶ 顔面神経表情筋すべて(広頸筋を含む)+顎二腹筋後腹・茎突舌骨筋・アブミ骨筋。舌前2/3の味覚(鼓索神経)
Ⅸ 舌咽神経茎突咽頭筋。舌後1/3の味覚・知覚、耳下腺分泌
Ⅹ 迷走神経咽頭・喉頭の筋。声帯の運動は反回(下喉頭)神経
Ⅺ 副神経胸鎖乳突筋・僧帽筋
Ⅻ 舌下神経舌筋(内舌筋・外舌筋)の運動

組合せ問題の誤答肢。動眼/滑車神経―眼輪筋(眼輪筋は顔面神経)、舌咽神経―舌筋(舌下神経)、副神経―側頭筋(三叉神経)、顔面神経―咀嚼筋、三叉神経―舌前2/3の味覚(顔面神経)、舌下神経―声帯(迷走神経)、滑車神経―眼球の内転(内転は内側直筋=動眼)。顔面神経―広頸筋は○

外眼筋と眼輪筋を混同しない

  • 眼球を動かす=外眼筋6筋(上直・下直・内側直・外側直の4直筋+上斜・下斜の2斜筋)。内側直筋=内転
  • まぶたを閉じる=眼輪筋(表情筋・顔面神経)。眼球運動には関与しない。

三叉神経の皮膚感覚領域(顔面を横3分割)

  • V1 眼神経=前額・上眼瞼・鼻背上部/V2 上顎神経=下眼瞼・頬・鼻側面・上口唇/V3 下顎神経=下口唇・オトガイ・側頭(耳介側頭神経)。
  • 下顎角の皮膚は三叉神経ではなく頸神経叢(大耳介神経)。鼓室神経は舌咽神経の枝で中耳の感覚・耳下腺分泌に関与し、顔面皮膚は支配しない。

中耳の筋と耳小骨 ツチ骨→キヌタ骨→アブミ骨の順に連結。鼓膜に接するのはツチ骨柄アブミ骨と関節するのはキヌタ骨の長脚(短脚は後方に固定)、アブミ骨底は前庭窓(卵円窓)に嵌入する。耳小骨筋は鼓膜張筋=三叉神経(V3)/アブミ骨筋=顔面神経と支配が分かれる。迷路動脈(内耳動脈)は内耳を栄養し、耳管の栄養血管ではない。

喉頭の筋 内喉頭筋(横披裂筋・甲状披裂筋・後輪状披裂筋・披裂喉頭蓋筋など)は反回神経支配。ただし輪状甲状筋だけは上喉頭神経外枝支配で唯一の例外。後輪状披裂筋は声門を開大する唯一の外転筋で、反回神経麻痺で嗄声・呼吸障害を生じる。

3-4 舌骨筋群と嚥下

作用・支配
舌骨上筋群顎二腹筋・茎突舌骨筋・顎舌骨筋・オトガイ舌骨筋舌骨を挙上(+開口)。前腹と顎舌骨筋=V3、後腹と茎突舌骨筋=顔面神経、オトガイ舌骨筋=舌下神経
舌骨下筋群胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・胸骨甲状筋・甲状舌骨筋舌骨を下降(甲状舌骨筋は甲状軟骨の挙上にも働く)。頸神経ワナ支配

嚥下時は舌骨上筋群が舌骨・喉頭を前上方へ引き上げ、食道入口部(上部食道括約筋)を開大して誤嚥を防ぐ。「嚥下時に活動しつつ舌骨を下降させる筋」を問われたら舌骨下筋群=甲状舌骨筋

  • Shaker法(頭部挙上訓練)背臥位で頭部を前屈挙上して爪先を見る運動の反復。舌骨上筋群(喉頭挙上筋群)の筋力増強により食道入口部の開大を改善する。
  • 混同注意:メンデルソン手技=喉頭挙上位の保持/息こらえ嚥下=呼吸を止めて声門閉鎖/頸部屈曲(顎引き)=誤嚥防止の姿勢調整。

Shaker法について「端座位で行う」「頭部を伸展する」「呼吸を数秒止める」「食道入口部を閉鎖する」はいずれも誤り。背臥位・頭部前屈・息止めなし・入口部は開大させる。

3-5 頸部・肩甲帯の筋

位置作用
前面(椎前筋)頸長筋・頭長筋・前頭直筋頭頸部の屈曲
後面頭板状筋・頸板状筋・頭半棘筋・後頭下筋群伸展+同側側屈・同側回旋
側面斜角筋(前・中・後)側屈、第1・2肋骨の挙上(吸気補助)
浅層胸鎖乳突筋両側=頸部屈曲かつ頭部後屈、片側=同側側屈・対側回旋

「頭頸部の屈曲と伸展の両方に作用する筋」=胸鎖乳突筋。両側収縮で顎を引く屈曲を起こしつつ、上位頸椎では頭部を後屈させるため。副神経支配で、斜頸の原因筋でもある。

斜角筋隙 前斜角筋と中斜角筋の間を腕神経叢と鎖骨下動脈が通る。ここが絞扼されると胸郭出口症候群(斜角筋症候群)。体表では胸鎖乳突筋の後縁から鎖骨中央の上方へ向かう部位が中斜角筋にあたる(最も大きく第1肋骨に停止)。

神経支配筋特徴・付着
肩甲背神経(C5)肩甲挙筋・大小菱形筋肩甲挙筋はC1〜4横突起→肩甲骨上角。菱形筋は肩甲骨を内転
長胸神経(C5〜7)前鋸筋第1〜9肋骨→肩甲骨内側縁。麻痺で翼状肩甲
副神経僧帽筋外後頭隆起・項靱帯・全胸椎棘突起→鎖骨・肩甲棘
鎖骨下筋神経(C5・6)鎖骨下筋肩甲背神経支配ではない

3-6 呼吸筋

働く筋
安静吸気横隔膜(主役・横隔神経C3〜5)・外肋間筋
努力(強制)吸気の補助胸鎖乳突筋・斜角筋・大胸筋・小胸筋(上肢固定時)
安静呼気筋活動はほぼなし。肺・胸郭の弾性による受動的な運動
努力(強制)呼気腹筋群(腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)・内肋間筋(後部)・肋下筋

整理は方向で行う。外肋間筋=肋骨挙上=吸気/内肋間筋・肋下筋=肋骨下制=呼気腹筋=呼気側/頸部の筋=吸気側。腹筋は腹圧を高めて横隔膜を押し上げる。

「努力性呼気に働く筋」に外肋間筋・横隔膜・胸鎖乳突筋・大胸筋が混じったらすべて誤りで、いずれも吸気側。逆に「努力吸気」の選択肢に腹直筋・腹横筋・内外腹斜筋・肋下筋が並んだらすべて呼気側

3-7 体幹の筋 ― 腹壁・背部・回旋

  • 白線は腹部正中で左右の腹直筋鞘(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の腱膜)が癒合してできる線維性の縫線。剣状突起から恥骨結合まで走り、白線をもつ筋=腹直筋。腹直筋には通常3本の腱画がある。
  • 腹直筋の作用は体幹屈曲のみで、回旋作用はない
筋(片側収縮)側屈回旋
外腹斜筋同側対側
内腹斜筋同側同側
多裂筋・回旋筋・半棘筋同側対側
脊柱起立筋(最長筋など)同側同側(主作用は伸展)
腰方形筋同側(骨盤挙上)主動筋ではない

体幹の右回旋=右内腹斜筋+左外腹斜筋のペアで働く。深層の多裂筋・回旋筋は対側回旋なので、右回旋なら多裂筋。

付着(起始)
僧帽筋外後頭隆起・項靱帯・全胸椎棘突起(胸椎に付着する筋)
広背筋下位6胸椎〜腰椎棘突起・正中仙骨稜・腸骨稜・下位3〜4肋骨
外腹斜筋/内腹斜筋下位肋骨→腸骨稜・鼠径靱帯・腹直筋鞘/胸腰筋膜・腸骨稜・鼠径靱帯
腰方形筋腸骨稜→第12肋骨・腰椎横突起
小殿筋・中殿筋腸骨翼の外面(殿筋面)で、腸骨稜そのものではない
多裂筋/大腰筋仙骨・腰椎の乳頭突起/腰椎の椎体・横突起→小転子

3-8 上肢の筋と末梢神経支配

由来神経主な支配筋
神経根から直接長胸神経/肩甲背神経前鋸筋/肩甲挙筋・菱形筋
上神経幹肩甲上神経棘上筋・棘下筋
外側神経束筋皮神経+正中神経外側根上腕二頭筋・上腕筋・烏口腕筋
後神経束腋窩神経+橈骨神経三角筋・小円筋/上腕三頭筋・前腕伸筋群
内側神経束尺骨神経+正中神経内側根手内在筋・前腕屈筋群

後神経束の障害で弱るのは上腕三頭筋と三角筋。上腕二頭筋(筋皮=外側束)・大胸筋(内側/外側胸筋神経)・前鋸筋(長胸神経=神経根から直接)は後神経束ではない

神経支配筋
正中神経円回内筋・橈側手根屈筋・長掌筋・浅指屈筋。手内在筋は短母指外転筋・母指対立筋・短母指屈筋浅頭・第1/2虫様筋
前骨間神経(正中の枝)長母指屈筋・深指屈筋橈側半・方形回内筋の3つ
尺骨神経尺側手根屈筋・深指屈筋尺側半。手内在筋は骨間筋・第3/4虫様筋・小指球筋・母指内転筋・短母指屈筋深頭・短掌筋
橈骨神経上腕三頭筋・肘筋・腕橈骨筋・長短橈側手根伸筋
後骨間神経(橈骨の枝)総指伸筋・長母指伸筋・短母指伸筋・長母指外転筋・示指伸筋・尺側手根伸筋・回外筋
  • 前骨間神経麻痺→母指IPと示指DIPが曲げられず、OKサインが作れない(涙のしずく徴候)。
  • 母指内転筋(尺骨神経)麻痺→Froment徴候。短母指外転筋(正中神経)麻痺→手根管症候群・猿手。

手の外来筋と内在筋

  • 外来筋=前腕に起始して腱が手に及ぶ。長母指屈筋・長母指伸筋・短母指伸筋・長母指外転筋・指の屈伸筋群。
  • 内在筋=手の中で起始停止が完結。母指球筋(短母指外転筋・短母指屈筋・母指対立筋・母指内転筋)・小指球筋(短小指屈筋など)・短掌筋・虫様筋・骨間筋。
  • 判断は名前の「短/長」ではなく起始の位置で行う。短母指伸筋は「短」でも前腕起始の外来筋。

手関節背側の腱区画 第1区画=長母指外転筋腱+短母指伸筋腱で、ここの狭窄性腱鞘炎がde Quervain病(母指を握り込んで尺屈させると痛むFinkelsteinテスト陽性)。第3区画=長母指伸筋(Lister結節を回る)、第4区画=総指伸筋・示指伸筋、第6区画=尺側手根伸筋で、いずれもde Quervain病の罹患腱ではない。

頸椎症性神経根症の高位判定 C5=三角筋・上腕二頭筋/C6=母指のしびれ・腕橈骨筋・長橈側手根伸筋/C7=中指・上腕三頭筋/C8=小指・手内在筋。母指のしびれ+上肢脱力なら弱るのは長橈側手根伸筋。腕神経叢損傷では感覚から逆算し、前腕外側=筋皮神経/母指〜環指橈側の掌側=正中神経なら上腕二頭筋と円回内筋が弱化する。

3-9 下肢の筋 ― 作用・付着部・神経支配

大腿の神経支配は3区分。前面(伸筋群)=大腿神経/内側(内転筋群)=閉鎖神経/後面(ハムストリングス)=坐骨神経。大腿二頭筋短頭のみ総腓骨神経部、大内転筋は閉鎖+脛骨の二重支配。

股関節膝関節神経
大殿筋伸展・外旋(上部線維は外転も)―(腸脛靱帯を介して伸展を補助)下殿神経
中殿筋・小殿筋外転前部線維=屈曲・内旋/後部線維=伸展・外旋上殿神経
半腱様筋・半膜様筋伸展・内転・内旋屈曲・内旋坐骨(脛骨神経部)
大腿二頭筋伸展(長頭)屈曲・外旋坐骨
縫工筋屈曲・外転・外旋屈曲・内旋大腿神経
薄筋内転屈曲・内旋閉鎖神経
大腿直筋屈曲伸展大腿神経
大腿筋膜張筋屈曲・外転・内旋(腸脛靱帯を緊張)上殿神経
膝窩筋屈曲・下腿内旋(伸展位のロック解除)脛骨神経
広筋群(中間広筋など)作用しない伸展大腿神経
  • 鵞足=縫工筋・薄筋・半腱様筋の3腱が脛骨近位内側に集まったもの。全部が膝屈曲・下腿内旋に働くが、神経は大腿・閉鎖・坐骨とばらばら。
  • 膝の回旋は外旋=大腿二頭筋だけ内旋=半腱様筋・半膜様筋・薄筋・縫工筋・膝窩筋
  • 内転筋群のうち膝関節をまたぐのは薄筋のみ。長内転筋・短内転筋・大内転筋・恥骨筋・外閉鎖筋は膝に作用しない。
  • 「股伸展+内転+内旋+膝屈曲」を全部満たすのは内側ハムストリングス(半腱様筋・半膜様筋)。縫工筋・大腿筋膜張筋は逆に「屈曲+外転」側。
  • 股関節の外旋筋群=梨状筋・大腿方形筋・内閉鎖筋・外閉鎖筋・上下双子筋。外旋筋なので伸張されるのは内旋位で、股関節を内転・伸展させるOber肢位で最も伸びるのは大腿筋膜張筋
起始/停止
縫工筋上前腸骨棘(ASIS)→鵞足。人体最長の筋
大腿直筋下前腸骨棘(AIIS)→膝蓋骨・脛骨粗面
長内転筋/短内転筋恥骨結節下方(恥骨体前面)/恥骨下枝
恥骨筋恥骨櫛→大腿骨の恥骨筋線(大腿骨頸部ではない)
大腿二頭筋坐骨結節・粗線→腓骨頭(脛骨と腓骨の両方に付く)
後脛骨筋脛骨・腓骨・骨間膜→舟状骨など足底。両骨に付く
前脛骨筋/短腓骨筋脛骨のみ/腓骨のみ

ASISとAIISの取り違えが定番。ASIS=縫工筋、AIIS=大腿直筋。座位で股関節を屈曲・外転・外旋し膝を屈曲する(脚を組む)動作でASIS直下に緊張を触れるのは縫工筋

MMTの代償 股関節内転筋のMMT段階3は側臥位で下側の下肢を挙上させる。内転筋が弱いと股関節屈曲(前方挙上)で持ち上げる代償が出る。これを起こすのは股関節屈筋の腸骨筋(腸腰筋)

3-10 二関節筋・筋短縮テスト・触診と髄節

筋を伸張する肢位はその筋の作用と逆方向に関節を動かせば求まる。二関節筋はまたぐ2つの関節を反対方向に動かすのが原則。

二関節筋最大伸張の肢位短縮テスト
大腿直筋股関節伸展+膝屈曲(腹臥位で踵を殿部へ)Ely(尻上がり現象)
ハムストリングス股関節屈曲+膝伸展SLR・膝窩角
腓腹筋膝伸展+足関節背屈膝伸展位と屈曲位の背屈差
ヒラメ筋(単関節)膝屈曲+足関節背屈膝の肢位で変わらない
大腿筋膜張筋・腸脛靱帯股関節伸展・内転(+外旋)Ober
腸腰筋(単関節的に評価)股関節伸展Thomas
  • 尻上がり現象=腹臥位で膝を屈曲すると同側の殿部が浮く。二関節筋の大腿直筋が伸張され股関節を屈曲方向へ引くため=大腿直筋の短縮。大殿筋・腸腰筋・梨状筋・ハムストリングスでは起こらない。
  • 下腿三頭筋の鑑別=膝伸展位で足背屈が制限され、膝屈曲位で制限が消えるなら二関節筋の腓腹筋短縮。膝の肢位で変わらなければ単関節筋のヒラメ筋(または関節性)。
  • 別系統の紛らわしい検査:Speedテスト=上腕二頭筋長頭腱炎、Thompsonテスト=アキレス腱断裂、Finkelsteinテスト=de Quervain病。

体表から触れる筋・触れない筋

  • 触知しにくい=他の筋や骨に覆われる筋。棘上筋(僧帽筋の下)・中間広筋(大腿直筋の下)・方形回内筋(前腕遠位の最深層)・後脛骨筋(下腿後面深層)。
  • 深指屈筋は名前に「深」がつくが、前腕掌側の尺側では比較的浅く筋腹を触知できる
  • ヒラメ筋は近位が腓腹筋に覆われるため、下腿中部〜やや遠位の内外側で腓腹筋筋腹の縁から露出した部分を触る。遠位はアキレス腱に移行するので筋腹はない。膝伸展位の底屈は腓腹筋優位、膝屈曲位の底屈はヒラメ筋優位。
動脈触知部位(指標は筋・腱)
総頸動脈甲状軟骨の高さで胸鎖乳突筋の前縁(内頸動脈は触知できない。鎖骨内側1/3で触れるのは鎖骨下動脈)
上腕動脈肘窩、上腕二頭筋腱の内側(血圧測定の聴診部位)
橈骨動脈手関節掌側、橈側手根屈筋腱の外側(橈側=母指側)
大腿動脈鼠径靱帯の中点(上前腸骨棘と恥骨結節を結ぶ中点)。大腿三角のなかで腸腰筋の内側(外側ではない)
足背動脈足背の第1・2中足骨底間、長母指伸筋腱と長指伸筋腱の間(=長母指伸筋腱の外側)
後脛骨動脈/浅側頭動脈内果の後方/耳珠(外耳孔)の前方
腋窩動脈/膝窩動脈腋窩(腋の下)/膝窩

引っかけは「腱の内側か外側か」に仕込まれる。上腕動脈は二頭筋腱の内側、橈骨動脈は橈側手根屈筋腱の外側、足背動脈は長母指伸筋腱の外側(=長母指伸筋腱と長指伸筋腱の間)、総頸動脈は胸鎖乳突筋の前縁(外縁ではない)。「大腿動脈=鼠径部の腸腰筋の外側」は誤り → 腸腰筋の内側(大腿三角では外側から順に大腿神経・大腿動脈・大腿静脈で、腸腰筋はその外側の床をつくる)。下肢の末梢循環評価では足背動脈と後脛骨動脈の触知が重要。

髄節を代表する筋と深部腱反射

髄節ASIAのkey muscle動作
C5上腕二頭筋肘屈曲
C6長短橈側手根伸筋手関節背屈
C7上腕三頭筋肘伸展
C8深指屈筋(中指)手指屈曲
T1小指外転筋小指外転
L2/L3腸腰筋/大腿四頭筋股屈曲/膝伸展
L4/L5前脛骨筋/長母趾伸筋足背屈/母趾伸展
S1下腿三頭筋足底屈
深部腱反射反射中枢
上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射C5・C6
上腕三頭筋反射C7・C8
回内筋反射C6〜T1
膝蓋腱反射L2〜L4(主にL3・L4)
下肢内転筋反射L2〜L4(閉鎖神経領域)
アキレス腱反射L5〜S2(主にS1)
下顎反射三叉神経・橋(頸髄ではない)

数字を1段ずらした誤答が定番。腕橈骨筋反射をC8・T1、膝蓋腱反射をT12・L1、アキレス腱反射をL3・L4とするのはすべて誤り。ASIAでもC6を上腕二頭筋、C7を小指外転筋、L2を膝伸展、L5を前脛骨筋とするずらしが多い。