第6章|循環器・呼吸器・血液
解剖学 第6章
6-1 心臓の位置と外形
- 心臓があるのは縦隔のうち中縦隔。前縦隔でも後縦隔でもない
- 心尖(心尖拍動の触知部位)=左第5肋間・鎖骨中線
- 心臓壁は心内膜・心筋層・心外膜の3層。2層ではない
- 心室中隔は左室の高い内圧を受けるため右室側に凸(右室腔へ張り出す)
- 卵円窩=胎生期の卵円孔が閉じた痕。心房中隔の右房側に陥凹として残る(動脈管の遺残は動脈管索)
| 第7胸椎高位の水平断 | 構造 |
| 最も腹側(胸骨直下) | 右心室 |
| その後方 | 右心房・左心室 |
| さらに後方 | 左心房 |
| 最も背側 | 食道・胸大動脈 |
一番前が右室、一番後ろが左房。左房の背側に食道が接するので経食道心エコーで左房がよく見える。
6-2 心臓の弁と腱索
| 弁 | 尖数 | 位置 | 腱索・乳頭筋 |
| 三尖弁(右房室弁) | 3尖 | 右房室口=右室の流入口 | あり |
| 僧帽弁(左房室弁) | 2尖 | 左房室口=左室の流入口 | あり |
| 肺動脈弁(半月弁) | 3尖 | 右室の流出口 | なし |
| 大動脈弁(半月弁) | 3尖 | 左室の流出口 | なし |
2尖なのは僧帽弁だけ。三尖弁・大動脈弁・肺動脈弁はすべて3尖。腱索がつくのは房室弁だけで、半月弁にはつかない。
「僧帽弁は三尖弁」「大動脈弁は2尖」「大動脈弁に腱索が付着する」「三尖弁は右心室の流出口にある」はいずれも誤り → 僧帽弁=2尖、大動脈弁=3尖・腱索なし、三尖弁=右室の流入口(流出口にあるのは肺動脈弁)。
6-3 刺激伝導系と心周期
- 洞房結節(歩調取り)は右心房の上大静脈開口部付近。左心房ではない
- 伝導の順:洞房結節→房室結節→His束→左脚・右脚→Purkinje線維
- 房室結節は心房と心室をつなぐ唯一の伝導路で、ここで伝導が遅れるあいだに心房から心室へ血液が充満する
- 血液の流れ:全身→大静脈→右房→三尖弁→右室→肺動脈弁→肺(ガス交換)→肺静脈→左房→僧帽弁→左室→大動脈弁→全身。肺動脈には静脈血、肺静脈には動脈血が流れる
| 時期 | 房室弁(三尖・僧帽) | 動脈弁(大動脈・肺動脈) | 動脈圧 |
| 収縮期 | 閉鎖 | 開放 | 大動脈圧・肺動脈圧とも上昇 |
| 拡張期(充満期) | 開放 | 閉鎖 | 低下 |
| 等容性収縮期 | 閉鎖 | 閉鎖 | — |
- Ⅰ音=房室弁の閉鎖(収縮期の始まり)/Ⅱ音=動脈弁の閉鎖(収縮期の終わり)
「収縮期に三尖弁が開放」「収縮期に大動脈弁が閉鎖」「収縮期に肺動脈圧が低下」はすべて誤り → 収縮期は房室弁が閉じ動脈弁が開き、駆出される先の動脈圧は上がる。
6-4 冠状動脈と心臓の静脈
- 左右の冠状動脈は上行大動脈起始部のValsalva洞(大動脈洞)から分岐する。大動脈弓からでも大動脈弁の心室側からでもない
- 左右の冠状動脈は末梢で吻合する(側副血行路をつくる)
- 冠静脈洞は心臓壁の静脈血を集め右心房後壁に開口する。左心房ではない
| 血管 | 主な枝 | 栄養する範囲 |
| 左冠状動脈 | 前下行枝(前室間枝)+回旋枝 | 心室中隔前方2/3・前壁・側壁 |
| 右冠状動脈 | 後下行枝(後室間枝)、洞房結節枝・房室結節枝 | 心室中隔後方1/3・下壁・刺激伝導系 |
前下行枝の閉塞=前壁中隔梗塞、右冠状動脈の閉塞=下壁梗塞+房室ブロック。「前下行枝と回旋枝に分かれるのは左」「房室結節を養うのは右」。
6-5 大動脈弓と頭頸部の動脈
- 大動脈弓の直接の分枝は3本。右から順に腕頭動脈→左総頸動脈→左鎖骨下動脈
| 側 | 総頸動脈の起始 | 鎖骨下動脈の起始 |
| 右 | 腕頭動脈から | 腕頭動脈から |
| 左 | 大動脈弓から直接 | 大動脈弓から直接 |
- 腕頭動脈は右側にしかない=一側のみに存在する動脈。総頸動脈・鎖骨下動脈・内頸動脈・腋窩動脈はすべて両側にある
- 椎骨動脈は左右とも鎖骨下動脈の枝。頸椎の横突孔を上行し、左右が合流して脳底動脈となる(椎骨脳底動脈系)。後下小脳動脈は椎骨動脈の枝
模式図での見分け方=弓から最初に出る太い1本の幹が腕頭動脈(患者の右側のみ)/内側を上行して上端で1本に合流する細い1対が椎骨動脈/外側を上肢方向へ向かうのが鎖骨下動脈。
6-6 静脈系 — 大静脈・奇静脈・門脈
- 奇静脈は後胸壁を上行して上大静脈に注ぎ、下方では上行腰静脈を介して下大静脈系と連絡する=上大静脈と下大静脈を結ぶ側副路
- 門脈=上腸間膜静脈+脾静脈の合流でできる(下腸間膜静脈は脾静脈へ合流)
- 門脈は消化管・脾臓・膵臓の静脈血を集めて肝臓へ運ぶ。吸収した栄養と毒素を肝で処理したあと、肝静脈→下大静脈→右心房へ流れる
- 動脈・静脈の区別は酸素の多寡ではなく流れの向き(心臓から出る=動脈、心臓へ戻る=静脈)
| 系統 | 属する静脈 |
| 門脈系(肝臓を経由) | 脾静脈・上腸間膜静脈・下腸間膜静脈・胃静脈・空回腸静脈 |
| 下大静脈へ直接 | 肝静脈・腎静脈・腰静脈・性腺静脈・右副腎静脈・総腸骨静脈 |
| 上大静脈へ | 奇静脈・鎖骨下静脈・内頸静脈 |
「肝静脈が門脈に流入する」は定番の引っかけ → 門脈は肝臓へ入る血管、肝静脈は肝臓から出て下大静脈へ注ぐ血管。消化管・脾の血は必ず一度門脈から肝を通る。
6-7 気道の区分と気管・気管支
| 区分 | 含まれるもの |
| 上気道 | 鼻腔・咽頭・喉頭 |
| 下気道 | 気管・気管支・細気管支・肺 |
- 鼻前庭は皮膚(鼻毛・脂腺をもつ重層扁平上皮)で覆われる。粘膜になるのは固有鼻腔から
- 上咽頭は耳管で中耳(鼓室)と交通する。上気道炎が中耳炎に波及する経路
- 気管は輪状軟骨の高さ=第6頸椎から始まり、第4〜5胸椎で左右に分岐。長さ約10〜12cm(20cmではない)。咽頭の下端もC6(頸椎は7個なのでC8は存在しない)
- 輪状軟骨・気管軟骨は硝子(透明)軟骨。弾性軟骨は耳介・喉頭蓋
- 気道の内表面は多列線毛円柱上皮(杯細胞あり)。扁平上皮ではない
- 気管支壁には平滑筋があり、副交感神経で収縮・交感神経β2で拡張して気道径を調節する(喘息の狭窄部位)
- 軟骨は末梢へいくほど減り細気管支で消失。以降は平滑筋優位
| 項目 | 右主気管支 | 左主気管支 |
| 太さ・長さ | 太く短い | 細く長い |
| 分岐角度(気管の延長線に対し) | 小さい・約25° | 大きい・約45° |
| 誤嚥物・異物 | 入りやすい | 入りにくい |
| 葉気管支 | 3本(右肺3葉) | 2本(左肺2葉) |
| 区域気管支 | 10本 | 8〜9本 |
「左主気管支は右より短い」「分岐角度は左より右のほうが大きい」「区域気管支は左右5本ずつ/左右10本ずつ」「左肺には葉気管支が3本」「細気管支には軟骨がある」はすべて誤り。
分岐の順序=気管→主気管支→葉気管支→区域気管支→細気管支→終末細気管支→呼吸細気管支→肺胞管→肺胞。肺胞の総数は約3〜5億個(5,000万個は桁が違う)。
6-8 肺・胸膜・縦隔
- 肺葉は右3葉・左2葉、肺区域は右10・左8〜10で左右非対称
- 肺尖は鎖骨より約2〜3cm上方(頸部)へ突出する。鎖骨と同じ高さではない
- 肺の面は肋骨面・縦隔(内側)面・横隔(下)面の3つ。横隔膜が接するのは下面で内側面ではない
| 内側面に接する構造 | 接するもの |
| 左肺 | 大動脈弓・胸大動脈(大動脈溝)、心臓(心切痕) |
| 右肺 | 上大静脈・奇静脈・食道 |
- 肺の二重支配:機能血管=肺動脈・肺静脈(ガス交換)/栄養血管=気管支動脈(胸大動脈の枝)
- 臓側胸膜と壁側胸膜は肺門で移行して連続し、閉じた胸膜腔をつくる。胸膜腔は潜在的な腔で、吸気時に拡大するのは肺胞と胸郭であって胸膜腔ではない
- 縦隔=前縦隔/中縦隔(心臓)/後縦隔(食道・胸大動脈・胸管・奇静脈)
- 胸骨柄と関節するのは第1肋骨(第2肋骨は胸骨角の高さ)。第3肋骨以下は胸骨体と関節する。胸骨角(Louis角)=第2肋骨の高さ=気管分岐部の目安
「肺の栄養血管は肺動脈」は最頻出の誤り → 栄養血管は気管支動脈。「縦隔の後面は心臓」も誤り → 心臓は中縦隔、後縦隔は食道・胸大動脈。
胸部エックス線正面像の心陰影=左第1弓:大動脈弓/第2弓:肺動脈/第3弓:左心耳/第4弓:左心室、右第1弓:上大静脈/第2弓:右心房。正中を下行する透亮帯が気管で、気管分岐部で左右の主気管支に分かれる。肺門部の陰影は主に肺動脈によるもので、下方の弧状の陰影は横隔膜(肋骨ではない)。
6-9 食道 — 縦隔後方の通路
- 輪状軟骨下縁(第6頸椎)で咽頭に続いて始まる。甲状軟骨下縁ではない
- 長さは成人で約25cm(35cmではない)
- 生理的狭窄部は3か所。4か所ではない
| 狭窄部 | 部位 | 圧迫するもの |
| 第1 | 起始部(食道入口部) | 輪状軟骨 |
| 第2 | 気管分岐部の高さ | 大動脈弓と左主気管支 |
| 第3 | 横隔膜貫通部 | 食道裂孔 |
- 筋層は上1/3が横紋筋、下1/3が平滑筋、中央が移行部。下部は平滑筋が主体で横紋筋ではない
「気管分岐部は食道の第1狭窄部にある」は誤り → 気管分岐部(大動脈弓)の高さは第2狭窄部。第1狭窄部は食道入口部。
6-10 リンパ系と血液
| 本幹 | 集める領域 | 注ぐ先 |
| 胸管(最大) | 下半身全体(左右の下肢)+左上半身 | 左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部) |
| 右リンパ本幹 | 右上半身のみ(右上肢・右頭頸部・右胸部) | 右静脈角 |
- 左上肢のリンパは左鎖骨下リンパ本幹を経て左静脈角へ入る
- 胸管の起始部が乳糜槽。位置は横隔膜より下(第1〜2腰椎前面)
- 腸管由来の脂肪を含み白濁したリンパ液=乳糜
- リンパ管には逆流防止の弁がある。骨格筋ポンプとともに一方向の流れを保つ
- リンパ節はリンパ管の途中に介在する(毛細リンパ管にはない)。リンパ液を濾過するのはリンパ節、脾臓が濾過するのは血液
- 血球は赤血球(酸素運搬)・白血球(生体防御)・血小板(止血)で、いずれも骨髄で産生。成熟赤血球に核はなく、寿命は約120日で脾臓・肝臓で破壊される
「胸管は右鎖骨下静脈(右静脈角)に流入する」「右下肢のリンパは右リンパ本幹に流れる」はどちらも誤り → 胸管は左静脈角へ、下半身は左右とも胸管。右リンパ本幹の担当は右上半身だけ。
6-11 心雑音と左右短絡の心疾患
| 疾患 | 雑音の型 | 最強点 |
| 心室中隔欠損症(VSD) | 全収縮期(逆流性)雑音 | 心尖部〜第4肋間胸骨左縁 |
| 僧帽弁・三尖弁閉鎖不全 | 全収縮期(逆流性)雑音 | 心尖部など |
| 大動脈弁狭窄症(AS) | 収縮期駆出性雑音 | 第2肋間胸骨右縁 |
| 肺動脈弁狭窄症(PS) | 収縮期駆出性雑音 | 第2肋間胸骨左縁 |
| 心房中隔欠損症(ASD) | 収縮期駆出性雑音+Ⅱ音固定性分裂 | 肺動脈弁領域 |
| 僧帽弁狭窄症(MS) | 拡張期雑音(ランブル) | 心尖部 |
雑音は「収縮期/拡張期」×「駆出性/逆流性」で仕分ける。逆流性(全収縮期)=MR・TR・VSD、駆出性収縮期=AS・PS・ASD。狭窄症は逆流性にならない。
| 疾患 | 短絡部位 | 血液の向き | 肺血流量 | チアノーゼ |
| VSD | 心室中隔 | 左室→右室 | 増加 | なし |
| ASD | 心房中隔(卵円孔) | 左房→右房 | 増加 | なし |
| PDA | 動脈管(大動脈と肺動脈をつなぐ) | 大動脈→肺動脈 | 増加 | なし |
VSDを「チアノーゼを生じる」「動脈管が開存している」「卵円孔の閉鎖不全」「大動脈から肺動脈へ直接流れる」と説明するのはすべて誤り → VSDは心室中隔の欠損による左→右短絡・非チアノーゼ性・肺血流増加。動脈管が開くのはPDA、卵円孔に関係するのはASD。肺高血圧が進んで右→左短絡に逆転するとチアノーゼが出る(Eisenmenger症候群)。