第3章|代謝・内分泌疾患

内科学 第3章

3-1 糖尿病の型と血糖コントロールの指標

1型糖尿病2型糖尿病
成因膵β細胞の破壊=インスリンの絶対的欠乏(自己免疫)インスリン抵抗性+分泌低下(生活習慣・遺伝)
発症若年・急激中年以降・緩徐
体型やせ型が多い肥満(内臓脂肪型)が多い
ケトーシス起こしやすい起こしにくい
治療インスリン必須食事・運動療法が基本+経口薬・インスリン

血糖の指標は「どの期間を映すか」で選ぶ

指標反映する期間使いどころ
尿糖採尿直前のみ瞬間的な高血糖。経過判定には不向き
空腹時血糖採血したその時点運動の可否判断(250mg/dL)に使う
グリコアルブミン約2週間短期の変化
HbA1c過去1〜2か月の平均血糖教育入院など中期の効果判定
  • 教育入院後1か月の効果を示す指標はHbA1c。CRP=炎症、血中アルブミン=栄養・肝腎機能、尿糖=瞬間値、空腹時血糖=採血時点の値であり、いずれも1か月の経過判定には使えない。
  • HbA1cは運動強度を決める指標にはならない。過去の平均であって今日の状態を示さないため。強度はBorg指数や心拍数で決める。

3-2 高血糖症状と低血糖症状の見分け

高血糖低血糖
機序浸透圧利尿による脱水交感神経(アドレナリン)刺激
症状口渇・多飲・多尿・体重減少・倦怠感発汗(冷汗)・動悸・頻脈・手指振戦・空腹感・顔面蒼白・不安・倦怠感
進行するとケトアシドーシス(嘔吐・腹痛・意識障害)中枢神経症状(意識障害・痙攣・昏睡)
対応運動を中止しインスリン・補液で是正ただちにブドウ糖・糖質を補給

「冷汗・動悸・手指振戦・空腹感は高血糖発作の予兆」は誤り → 正しくはすべて低血糖の警告症状。逆に口渇・多飲・多尿は高血糖側。嘔吐・胸痛・腹痛は低血糖の典型症状ではない。

高血糖は「飲む・出す(口渇・多飲・多尿)」、低血糖は「ふるえる・冷や汗」で切り分ける。インスリンやSU薬を使っている患者が運動中に倦怠感を訴えたら、まず低血糖を疑う。

3-3 糖尿病の合併症と対応する検査

  • 三大合併症(細小血管障害)=神経障害・網膜症・腎症(「し・め・じ」)。
  • 大血管障害=壊疽・脳卒中・虚血性心疾患(「え・の・き」)。足潰瘍・壊疽の予防にフットケアが必須。
合併症対応する検査所見
網膜症眼底検査単純→増殖前→増殖性へ進行
腎症尿蛋白・微量アルブミン尿・eGFR微量アルブミン尿が最初期のサイン
末梢神経障害アキレス腱反射・足部感覚(振動覚)腱反射は低下・消失、振動覚鈍麻

聴力検査は糖尿病合併症の評価として優先度が低い。聴力低下は代表的合併症ではない。

まぎらわしい検査項目の対応

検査何を評価するか
eGFR(推算糸球体濾過量)腎機能。血清Cr・年齢・性別から算出しCKDの重症度分類に使う
HbA1c血糖コントロール(過去1〜2か月)
白血球数・CRP感染・炎症
Dダイマー凝固線溶系。深部静脈血栓症・肺塞栓
LDL/HDLコレステロール・中性脂肪脂質代謝・動脈硬化
AST・ALT・γ-GTP肝機能
CAVI動脈硬化(血管壁の硬さ)
ABI(足関節上腕血圧比)下肢動脈の狭窄・閉塞=末梢動脈疾患
HOMA-Rインスリン抵抗性
HRV(心拍変動)自律神経機能
CPX(心肺運動負荷試験)運動耐容能。呼気ガス分析でpeak VO₂・AT・VE/VCO₂ slopeを求め運動処方に用いる

3-4 糖尿病性腎症と透析

  • 慢性的な高血糖により糸球体が硬化する(結節性病変・基底膜肥厚)。低血糖発作が原因ではない。
  • 特徴的な尿所見は蛋白尿(微量アルブミン尿)血尿は典型ではない
  • 発症から数年〜十数年かけて進行する慢性合併症であり、糖尿病の初期にはみられない。
  • 経過=微量アルブミン尿 → 持続性蛋白尿 → 腎機能低下 → 腎不全・透析。

透析の統計(頻出)

項目実際
患者数年々増加傾向(高齢化・糖尿病の増加)
方法の割合血液透析が大多数(9割以上)。腹膜透析はごくわずか
時間帯昼間透析が一般的。夜間透析のほうが多いことはない
導入原因の順位1位 糖尿病性腎症 → 腎硬化症 → 慢性糸球体腎炎
死亡原因1位 心不全など心血管系疾患、次いで感染症。肝不全ではない

透析患者の運動=透析日でも状態を確認すれば実施可能で、一律禁忌ではない。ただし水分制限があるため「口渇が改善するまで飲水を促す」のは体液過剰を招き誤り。運動耐容能の評価はCPXで行う。

3-5 糖尿病の運動療法 ― 目的と効果

  • 主目的はインスリン抵抗性の改善(感受性の向上)。骨格筋のGLUT4を介した糖取り込みが亢進することによる。
  • インスリン分泌能の改善が主目的ではない尿中への糖の排泄を目的とするものでもない
  • 食事療法との併用が基本。実施にあたってはインスリンが十分に補充されていることが前提(不足下の運動は逆に血糖を上げる)。
有酸素運動の継続で増える有酸素運動の継続で減る
HDLコレステロール(善玉)中性脂肪(トリグリセリド)
最大酸素摂取量(VO₂max)内臓脂肪・体脂肪・体重
筋内毛細血管数LDLコレステロール(悪玉)
筋内ミトコンドリア量・酸化系酵素活性IMT(内膜中膜複合体厚)の進行
インスリン感受性安静時心拍数・血圧
運動耐容能・QOL安静時の交感神経活動・血小板凝集能

「運動でよい方向に動くのはHDLだけが上がり、他の悪い指標はすべて下がる」と覚えると選択肢を機械的に切れる。長期の有酸素運動で増加するのはHDL低下するのは中性脂肪

有酸素運動の効果として誤りやすいもの → 除脂肪体重の増加は主にレジスタンス運動の効果。乳酸の蓄積は嫌気性運動の現象。交感神経活動の亢進・カテコラミンの著明な増加は心負荷を増やす望ましくない変化で、有酸素運動を勧める理由にはならない。

心臓リハビリテーション・虚血性心疾患でも同じ向き

  • 有酸素運動が勧められる理由はHDLコレステロールの増加など冠危険因子の改善。
  • 虚血性心疾患の運動療法の効果は再入院頻度・死亡率の低下。収縮期血圧の上昇・血小板凝集能の増加・交感神経緊張の亢進・HDLの低下はすべて逆向きで誤り。

3-6 糖尿病の運動療法 ― 禁忌・中止基準と実施条件

項目正しい条件
開始の条件空腹時血糖250mg/dL未満かつ尿ケトン体陰性
タイミング食後1〜2時間。食直後・食後30分以内の開始は不適
強度Borg指数11〜13(楽〜ややきつい)。17(かなりきつい)は強すぎる
種目有酸素運動が主体。レジスタンス運動を併用
頻度週3〜5回。週1回では効果が乏しい
進め方低強度から段階的に運動量を増やす

運動を控える・禁忌となる状況

  • 増殖性網膜症=運動時の血圧上昇で眼底出血・網膜剥離を誘発するため禁忌。強い等尺性収縮・いきみを伴う運動は避け、強度を軽くする。
  • 尿ケトン体陽性=インスリン作用不足の警告サイン。運動誘発性ケトアシドーシスを招くため運動しない。
  • 著明な高血糖(空腹時250〜300mg/dL以上)。血糖が高いほど運動量を増やすのは誤り。
  • シックデイ(発熱・嘔吐・下痢)は中止し、安静・水分・血糖管理を優先。
  • 重症の腎症・自律神経障害、急性合併症、足病変での荷重運動。

禁忌と誤解されやすいもの → コントロール下の高血圧症・閉塞性動脈硬化症(むしろ歩行訓練が適応)・ポリニューロパチー(足の保護をして実施可)・ペースメーカー植込み後(設定範囲内なら可)・インスリン治療中(禁忌ではなく調整して実施)・透析日。いずれも配慮のうえで運動可能で禁忌ではない。

薬物治療中の低血糖対策=インスリン注射直後の運動は注射部位からの吸収を促進し低血糖を誘発するため避ける。補食を携帯し、運動前後に血糖を確認する。運動後の遅発性低血糖にも注意。

3-7 脂質異常症・動脈硬化と冠危険因子

脂質働き危険なのはどちらか
LDLコレステロール悪玉。血管壁にコレステロールを運ぶ高値が危険
HDLコレステロール善玉。血管壁から余分なコレステロールを回収する(逆転送)低値が危険。高値はむしろ保護的
中性脂肪(TG)エネルギー貯蔵高値が危険

高HDLコレステロール血症は心筋梗塞の再発危険因子」は誤り → 正しくはHDL高値は動脈硬化を抑制し、リスクを下げる。危険因子となる脂質異常は「LDL高値・HDL低値・TG高値」。

  • 冠危険因子=加齢・高血圧・喫煙・糖尿病・脂質異常(LDL↑/HDL↓)・肥満(内臓脂肪型)・身体活動量の低下・家族歴。
  • IMT(頸動脈内膜中膜複合体厚)は動脈硬化の指標で、増加は病的変化。有酸素運動は進行を抑制する。

3-8 メタボリックシンドロームと生活習慣病

我が国の診断基準

区分項目基準値
必須ウエスト周囲径(内臓脂肪蓄積)男性85cm以上・女性90cm以上
以下の2項目以上脂質中性脂肪150mg/dL以上 または HDL 40mg/dL未満
血圧収縮期130mmHg以上 または 拡張期85mmHg以上
空腹時血糖110mg/dL以上

LDLコレステロールは診断基準に含まれない。脂質の指標は中性脂肪とHDLのみ、という引っかけが頻出。

メタボに対する運動

  • 目的は内臓脂肪の減少=中等度の有酸素運動を習慣化する。
  • 肥満・高血圧を伴う例では自転車エルゴメーターが第一選択。非荷重で関節負担が小さく、強度を細かく調整できる。
  • ランニング・階段昇降は膝・足関節への荷重衝撃が大きく、高度肥満では傷害リスクが高い。
  • 腹筋筋力トレーニング・プランクは等尺性・レジスタンス運動で、いきみによる血圧上昇を招き、内臓脂肪減少の主手段にもならない。

生活習慣病

  • 食生活・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣が主原因の疾患。3大疾患は高血圧症・脂質異常症・糖尿病で、これらを基盤とする脳卒中・心疾患も含まれる。
  • 肺炎は感染症であり生活習慣病に含まれない

3-9 予防の3段階

段階対象内容
一次予防まだ発症していない健常者健康増進・発症予防メタボの予防教育、健常成人への禁煙指導、健康教育、予防接種
二次予防発症したが後遺症のない段階早期発見・早期治療・進展防止各種健診・がん検診、脂質異常症患者への栄養指導、高血圧症患者の運動療法
三次予防発症後・障害が生じた者機能回復・再発防止・社会復帰脳出血患者の合併症予防、脳梗塞の再発予防教育、糖尿病性足病変患者の筋力トレーニング、脳血管疾患の急性期血圧管理・回復期の服薬指導・生活期の運動指導

切り分けの要は「対象がまだ病気でないか」。患者を対象とした選択肢は一次予防から外れる。さらに、代謝疾患そのものへの治療的介入(脂質異常症の栄養指導など)は二次予防、脳卒中など発症してしまった疾患の後の介入は病期(急性期・回復期・生活期)を問わず三次予防、と整理する。

3-10 甲状腺・副甲状腺・副腎の疾患

機能亢進(Basedow病)機能低下(橋本病など)
症状頻脈・動悸・体重減少・発汗・暑がり・眼球突出・手指振戦・下痢徐脈・体重増加・粘液水腫・寒がり・無気力・便秘・認知機能低下
イメージエネルギー過剰(やせる・速い)省エネ(太る・遅い)
骨代謝骨吸収が亢進し骨量が減る骨粗鬆症の危険因子ではない
  • Basedow病は疼痛が主症状の疾患ではない。痛みが前面に出るのは末梢動脈の虚血痛(Buerger病=間欠性跛行・安静時痛)や炎症性腰背部痛(強直性脊椎炎=仙腸関節痛・朝のこわばり)である。
  • Ménière病=内リンパ水腫による回転性めまい発作・変動する感音難聴・耳鳴り・耳閉感の反復。疼痛は主症状でない
  • 急性灰白髄炎(ポリオ)=ポリオウイルスが脊髄前角細胞を侵し、左右非対称の弛緩性麻痺・筋萎縮を残す。感覚は保たれ、疼痛は主症状でない(後年のポストポリオ症候群で筋痛が出ることはある)。

治療可能な認知症(treatable dementia)

  • 正常圧水頭症(認知症・歩行障害・尿失禁の三徴/シャント術で改善)
  • 慢性硬膜下血腫(高齢者の軽微な頭部外傷後/血腫除去で改善)
  • 甲状腺機能低下症
  • ビタミンB₁₂欠乏症(亜急性連合性脊髄変性症)・葉酸欠乏症

甲状腺機能亢進症は認知症の原因になりにくい。認知機能低下をきたすのは低下症のほう。亢進症は焦燥・不安・頻脈・体重減少が主体。低下症と亢進症の入れ替えが頻出の引っかけ。

続発性骨粗鬆症の危険因子

骨を減らす=危険因子危険因子ではない
Cushing症候群・ステロイド薬(薬剤性の代表)副腎不全(コルチゾール低下)
甲状腺機能亢進甲状腺機能低下症
副甲状腺機能亢進症(PTH過剰で骨吸収亢進)副甲状腺機能低下症
関節リウマチ(慢性炎症+不動+ステロイド治療)肥満(荷重で骨密度は保たれやすい。危険なのはやせ

骨を減らすのは多くが「機能亢進」またはステロイド過剰の側。選択肢に「◯◯機能低下」が並んでいたら、そのほとんどが誤答肢と判断できる。

3-11 エネルギー代謝

  • 基礎代謝=早朝空腹・安静覚醒・快適室温での安静臥床で計測する。
  • 同性・同年齢なら体表面積に比例する(体重より体表面積との相関が高い)。
  • 体温が約1℃上昇すると基礎代謝は約13%増加する。
  • 基礎代謝量 < 安静時代謝量。安静時代謝量には食後熱産生などが含まれるぶん大きい。
  • 安静時代謝量は体重(除脂肪量)の減少により低下する。
指標定義基準にするもの
METs(代謝当量)作業時代謝量 ÷ 安静時代謝量。1MET=安静座位の酸素消費量≒3.5mL/kg/分安静時代謝量
RMR(エネルギー代謝率)作業に要したエネルギーを基礎代謝量との比で表す基礎代謝量

「METsは作業時代謝量÷基礎代謝量」は誤り → 正しくは安静時代謝量で割る。METsとRMRで基準が入れ替わる引っかけが定番。

  • 呼吸商(RQ)=糖質1.0・蛋白質約0.8・脂質0.7。糖質の燃焼が多くなると呼吸商は上昇する(低下ではない)。
  • 食事誘発性熱産生(特異動的作用)蛋白質(約30%)>糖質>脂質。脂質摂取より蛋白質摂取のほうが食後の消費エネルギー増加は大きい。