第5章|血液・膠原病・感染症

内科学 第5章

5-1 貧血の分類 — 2つの軸で整理する

貧血は①赤血球の大きさ(MCV)②起こる機序の2軸で分類する。

軸1:MCV(平均赤血球容積)による分類

MCV代表疾患
小球性低色素性80未満鉄欠乏性貧血、慢性出血(消化管出血)、サラセミア
正球性正色素性80〜100再生不良性貧血、溶血性貧血、腎性貧血、急性出血
大球性100超巨赤芽球性貧血(ビタミンB₁₂欠乏・葉酸欠乏)

末梢血に大型の赤血球が出現=ビタミンB₁₂欠乏か葉酸欠乏と直結させる。再生不良性貧血・溶血性貧血は正球性、鉄欠乏性貧血と消化管出血は小球性で、いずれも大球性にはならない。

軸2:機序による分類

機序疾患不足しているもの
産生低下鉄欠乏性貧血ヘモグロビンの材料(鉄)
巨赤芽球性貧血DNA合成の材料(B₁₂・葉酸)
腎性貧血エリスロポエチン(腎から分泌)
再生不良性貧血造血幹細胞そのもの(汎血球減少)
骨髄異形成症候群(MDS)正常な造血(無効造血)
破壊亢進溶血性貧血産生は低下しない(むしろ亢進)
喪失出血性貧血血液そのもの

「溶血性貧血では赤血球の産生が低下する」は誤り → 正しくは赤血球の破壊が亢進する貧血で、骨髄の造血はそれを代償して亢進する。溶血の所見=網赤血球増加・間接ビリルビン上昇・LDH上昇・ハプトグロビン低下・黄疸・脾腫。骨髄が活発に働いている点が、他のすべての貧血と決定的に違う。

5-2 鉄欠乏性貧血

  • 最も頻度の高い貧血。原因=月経過多・慢性の消化管出血・鉄摂取不足・妊娠
  • 血液所見=小球性低色素性(MCV低下・MCHC低下)、血清鉄低下、フェリチン低下、TIBC(総鉄結合能)上昇
  • 身体所見=易疲労・動悸・息切れ・匙状爪(スプーン爪)・舌炎・口角炎・異食症

鉄欠乏とむずむず脚症候群

むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)は鉄欠乏との関連がとくに深く、鉄欠乏性貧血の患者にみられやすい睡眠・覚醒障害である。

  • 4徴=下肢の不快感/安静時に増悪/運動で軽快/夕方〜夜間に悪化。入眠困難をきたす
  • 誘因=鉄欠乏・妊娠・腎不全(透析)・Parkinson病。治療は鉄補充とドパミン作動薬
紛らわしい睡眠障害本態
睡眠時遊行症小児に多いノンレム睡眠時の睡眠時随伴症。鉄欠乏と無関係
ナルコレプシーオレキシン欠乏による過眠症
睡眠相前進症候群体内時計のずれ(概日リズム睡眠障害)
閉塞性睡眠時無呼吸障害上気道の閉塞。背景は肥満で、鉄欠乏とは関連しない

5-3 巨赤芽球性貧血とビタミン欠乏

ビタミンB₁₂または葉酸が欠乏するとDNA合成が障害され赤芽球の核成熟が遅れる。巨大な赤芽球ができ、末梢血には大型の赤血球(大球性・MCV高値)が出る。

ビタミンB₁₂欠乏葉酸欠乏
貧血どちらも巨赤芽球性貧血(大球性)
神経症状あり(亜急性連合性脊髄変性症=深部感覚障害・失調・錐体路徴候)出にくい
主な原因胃全摘、萎縮性胃炎、内因子に対する自己抗体摂取不足、アルコール多飲、妊娠、薬剤
発症までの時間体内貯蔵が多く数年かかる数か月と短い

悪性貧血=内因子の欠乏によりビタミンB₁₂が吸収できず起こる巨赤芽球性貧血のこと。

ビタミン欠乏症の対応(誤答肢はここから作られる)

ビタミン欠乏症
B₁脚気、Wernicke脳症
B₂口角炎・口内炎・舌炎
B₁₂・葉酸巨赤芽球性貧血
ニコチン酸(ナイアシン)ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症)
C壊血病(出血傾向・歯肉出血)
A夜盲症・眼球乾燥症
Dくる病(小児)・骨軟化症(成人)
K出血傾向(新生児メレナ)

5-4 胃の分泌と内因子

胃全摘後の貧血を理解するには、胃のどの細胞が何を出しているかを押さえる必要がある。

細胞分泌物はたらき
壁細胞塩酸(胃酸)+内因子殺菌・ペプシノーゲン活性化/B₁₂吸収
主細胞ペプシノーゲン胃酸で活性化されペプシン(蛋白分解酵素)になる
副細胞(粘液頸細胞)粘液胃粘膜の保護
G細胞ガストリン消化管ホルモン。胃酸分泌を促進する

内因子(Castle内因子)は壁細胞から分泌され、ビタミンB₁₂と結合して回腸末端での吸収を助ける。ここが切れるとB₁₂は吸収できない。

胃酸分泌を促進する3つ

ガストリン・ヒスタミン・アセチルコリン(迷走神経=副交感)。迷走神経刺激は胃酸分泌を促進する。

よくある誤り3つ。

  • 「ヒスタミンは胃酸分泌を抑制する」は誤り → 壁細胞のH₂受容体に作用して促進する(H₂ブロッカーで胃酸が止まるのがその証拠)
  • 「ガストリンは蛋白質の消化酵素」は誤り → ガストリンはホルモン。蛋白分解酵素はペプシン
  • 「ペプシノーゲンは壁細胞から分泌される」は誤り主細胞から分泌される。壁細胞が出すのは胃酸と内因子

5-5 胃全摘出術後の合併症

合併症機序
逆流性食道炎噴門(逆流防止弁)が失われるため、胆汁・腸液が食道へ逆流する
巨赤芽球性貧血(悪性貧血)内因子欠乏 → ビタミンB₁₂吸収障害。貯蔵があるため数年後に出る
鉄欠乏性貧血胃酸低下により鉄が吸収されにくくなる(こちらは比較的早期)
ダンピング症候群早期=食後30分以内の動悸・冷汗・腹痛・下痢/後期=食後2〜3時間の反応性低血糖
骨代謝障害カルシウム・ビタミンD吸収低下 → 骨粗鬆症・骨軟化症

胃全摘後に起こりにくいものを問う出題も多い。多血症(逆に貧血)、血小板減少や出血傾向(減るのは赤血球で、血小板・凝固能は保たれる)、高カルシウム血症(逆に低下傾向)、てんかん、脱水、脂肪便(これは膵外分泌不全・胆汁障害で起こる)、低蛋白血症(蛋白の消化吸収は主に小腸なので必発ではない)。

5-6 白血病・その他の造血器疾患

疾患要点
白血病白血病細胞が骨髄を占拠し正常血球が減る → 貧血・易感染(好中球減少)・出血傾向(血小板減少)の3徴
再生不良性貧血造血幹細胞の障害による汎血球減少。正球性正色素性
骨髄異形成症候群(MDS)造血幹細胞の異常による無効造血。高齢者に多く、急性白血病へ移行しうる
腎性貧血腎からのエリスロポエチン産生低下。慢性腎不全・透析患者に必発

5-7 出血性疾患と血友病

出血傾向は3系統に分かれる

系統出血の型検査代表疾患
血管の異常紫斑いずれもほぼ正常Osler病(毛細血管拡張)、壊血病、老人性紫斑
血小板の異常点状出血・点状紫斑(皮膚・粘膜の浅い出血)血小板減少・出血時間延長免疫性血小板減少症(ITP)、白血病、DIC
凝固因子の異常関節内出血・筋肉内出血(深部の大きな出血)APTT延長・血小板正常・出血時間正常血友病、肝硬変、ビタミンK欠乏

血友病

  • 凝固第VIII因子欠乏=A型/第IX因子欠乏=B型。自己免疫疾患ではなくX連鎖劣性(伴性劣性)遺伝で、発症するのは原則として男性
  • 最も多い症状=関節内出血。膝・足関節・肘など荷重関節・大関節に好発する
  • 関節内出血を繰り返すと滑膜炎から軟骨が破壊され、血友病性関節症(変形・拘縮・筋萎縮)に進行する。膝の関節症はその典型
  • 血小板数は正常、出血時間も正常。延長するのはAPTT
  • 点状紫斑はみられない(点状紫斑は血小板減少の所見)。出るのは斑状の皮下血腫
  • 脾腫・リンパ節腫脹・毛細血管拡張はいずれもみられない。脾腫は溶血性貧血や肝硬変、毛細血管拡張はOsler病の所見

理学療法:関節内出血の急性期は安静・冷却・圧迫・挙上(RICE)で、他動運動やマッサージは行わない。出血が止まってから可動域運動と筋力維持へ移る。大腿四頭筋の強化は膝関節出血の予防になる。

5-8 膠原病 — 全身性エリテマトーデス(SLE)を軸に

  • 若年女性に好発する多臓器性の自己免疫疾患。抗核抗体・抗DNA抗体が陽性
  • 臓器症状=蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏、口腔内潰瘍、関節炎、漿膜炎、ループス腎炎、汎血球減少
  • 関節炎は骨破壊・変形をきたしにくい(骨びらんを作る関節リウマチとの対比)

中枢神経ループス(NPSLE)

SLEは中枢神経も侵し、多彩な神経精神症状を出す。頭痛・けいれん・被害妄想などの精神病症状・気分の変動(うつ状態)・認知障害はいずれもSLEでみられる。

SLEにみられにくいのはチック(運動性・音声チック)。チックはTourette症候群の中核症状であり、SLEとは結びつかない引っかけとして頻出。

増悪因子=紫外線(日光)・感染・妊娠出産・寒冷・薬剤。屋外リハや窓際での日光曝露に配慮し、日中の直射日光を避ける。ステロイド長期投与による骨粗鬆症・大腿骨頭壊死・易感染にも注意する。

主な膠原病特徴
関節リウマチ対称性の多関節炎・朝のこわばり・骨びらん・尺側偏位
全身性強皮症皮膚硬化・Raynaud現象・肺線維症・逆流性食道炎
多発性筋炎/皮膚筋炎近位筋の筋力低下・CK上昇・Gottron徴候・ヘリオトロープ疹

5-9 感染症 — 毒素型と感染型・標準予防策

細菌性食中毒は、毒素そのものが病態を作る毒素型と、菌が腸管で増殖・侵入して炎症を起こす感染型に分かれる。

毒素・特徴
毒素型ボツリヌス菌ボツリヌス毒素=神経毒。神経筋接合部でアセチルコリン放出を阻害し弛緩性麻痺・眼症状・嚥下障害
赤痢菌志賀毒素を産生し腸管粘膜を障害
腸管出血性大腸菌(O157)ベロ毒素(志賀様毒素)→ 出血性大腸炎・溶血性尿毒症症候群(HUS)
黄色ブドウ球菌・コレラ菌エンテロトキシン(耐熱性・加熱で防げない)/コレラ毒素
感染型サルモネラ腸管に侵入・増殖して炎症を起こす。卵・食肉が原因
カンピロバクター鶏肉が原因。Guillain-Barré症候群の先行感染として重要
腸炎ビブリオ魚介類(海水由来)。腸管で増殖する

標準予防策(スタンダードプリコーション)

  • すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物・粘膜・損傷皮膚を感染性とみなす(汗は除く)。感染症の有無で対応を変えない
  • 基本は手指衛生。処置ごとに手洗いまたは擦式アルコール消毒を行う
  • 感染経路別予防策=接触(MRSA・ノロウイルス・疥癬)/飛沫(インフルエンザ・風疹・流行性耳下腺炎)/空気(結核・麻疹・水痘、N95マスクが必要)