第1章|リハビリテーションの概念

リハビリテーション医学 第1章

1-1 リハビリテーションの理念と障害のとらえ方

語源はre(再び)+habilis(適した)=「再び適した状態にする」。医学的な機能回復にとどまらず、全人間的復権(人間らしく生きる権利の回復)を指す。到達点は活動・参加・QOLの向上である。

医学モデルと社会モデル

モデル障害のとらえ方介入の向き
医学モデル障害=個人に属する心身の欠損個人を治す
社会モデル障害=心身機能と社会環境との相互作用で生じる環境・社会の障壁を除く
ICF(統合モデル)両者を統合し「生活機能」を中心に置く個人と環境の両方

IL〈Independent Living〉運動

  • 起源=1960年代のアメリカ(バークレー自立生活センター)。障害者自身が起こした運動
  • 根幹=自己決定・自己選択。介助を受けていても自分で決めていれば自立とみなす
  • 立脚するのは社会モデルであり、医学的モデルではない

「1990年代後半に起こった」「スウェーデンが発祥」「社会的排除への戦略として提唱された」はいずれも誤り → 正しくは1960年代・アメリカ発祥で、主眼は障害者の自己決定と社会参加の促進。スウェーデンはノーマライゼーション理念が展開した国であって、IL運動の発祥地ではない。

1-2 リハビリテーションの4分野

分野内容主な担い手
医学的リハ治療・訓練で心身機能と能力を高める医師・PT・OT・ST・看護
教育的リハ障害児の教育・特別支援教育教員
職業的リハ職業評価・職業訓練・就労支援職業カウンセラー・ジョブコーチ
社会的リハ社会生活力を高め社会参加を実現するMSW・行政

この4分野に「リハビリテーション工学」を加えて5分野とすることもある。

1-3 予防の3段階とリハビリテーションの位置

段階目的具体例
一次予防発生そのものの予防健康増進・生活習慣改善・予防接種
二次予防早期発見・早期治療健診・スクリーニング・人間ドック
三次予防重症化防止・機能回復・社会復帰リハビリテーション・再発予防

「三次予防に含まれるのはどれか」の答えはリハビリテーション。早期発見・早期治療は二次、健康増進・予防接種は一次。ただし転倒予防教室や介護予防は一次予防的な側面ももつ。

段階は「何をするか」でなく「対象がどの段階にいるか」で決まる

予防の段階は行為の名前(運動、食事指導、教室…)に固定でひもづいていないその行為を受ける人が発症前なのか、発症後なのかで段階が決まる。同じ行為でも対象が違えば段階は変わる。

行為対象が発症前なら対象がすでに発症しているなら
運動・食事指導一次予防(発症そのものを防ぐ)三次予防(合併症・重症化を防ぐ)
体重管理一次予防三次予防
血圧測定・検査二次予防(未発見の病気を見つける)三次予防(既往症の経過観察・再発予防)

固定して覚えてよいのは予防接種=一次(必ず発症前に行う)と健診・検診でのスクリーニング=二次(自覚症状のない人から拾い上げる)の2つだけ。それ以外は対象を見て判断する。

「糖尿病の運動療法は三次予防である」は、対象次第で正しくも誤りにもなる。すでに発症した糖尿病患者に行う運動療法なら合併症予防・重症化防止の三次予防、発症していない人(予備群・リスク保有者)に行う運動療法なら発症を防ぐ一次予防になる。

そのため、対象を示さずに「糖尿病の運動療法は三次予防」とだけ書かれた選択肢は誤りとは言い切れず、「ワクチン接種は一次予防」と並べると正答が一意にならない(実際にそういう出題がある)。試験では、例外なく一次予防と断定できる「ワクチン接種=一次予防」を公式正答として採る。迷ったら対象が誰でも段階が変わらない肢を選ぶ。

1-4 日本の理学療法士制度の歩み

出来事
1951年WCPT(世界理学療法連盟)設立 ※世界の動き
1963年日本初の理学療法士養成教育機関が開設(=1960年代)
1965年理学療法士及び作業療法士法 制定
1966年第1回PT・OT国家試験/日本理学療法士協会 設立
1981年国際障害者年(テーマは「完全参加と平等」)
2001年WHOがICF(国際生活機能分類)を採択

「最初のPT養成校の開設は1970年代」は誤り → 正しくは1963年=1960年代。1970〜90年代は養成校が増えた時期にすぎない。WCPT設立の1951年(世界)と日本の年号を混同しない。

1-5 CBRと地域での生活支援

CBRマトリクス

CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)はWHOが示した枠組みで、2010年のCBRガイドラインで保健・教育・生計・社会・エンパワメントの5本柱に整理された。各柱が5要素をもち計25要素。

5本柱含まれる要素の例
保健健康増進・予防・医療・リハビリ・福祉用具
教育就学前・初等・中等以上・生涯学習
生計技能開発・自営・賃金雇用・金融サービス・社会保障
社会人間関係と家族・文化と芸術・レクリエーションとスポーツ・司法
エンパワメント権利擁護・当事者団体・自助グループ・社会運動・地域動員

ユニバーサルデザイン・バリアフリー・人生の質(QOL)はCBRマトリクスの柱ではない。いずれもリハの関連概念だが、「含まれるのはどれか/含まれないのはどれか」で紛れ込ませる定番のひっかけ。CBRは現在CBID(地域に根ざしたインクルーシブ開発)へ発展している。

ACT〈包括型地域生活支援プログラム〉

項目ACTの実際誤答の定番
対象重度・難治性の精神障害者(入退院を繰り返す層)「軽度が対象」
体制多職種チームでのケアマネジメント単独職種の個別担当
時間24時間365日の危機対応「日中に限定」
方法アウトリーチ(訪問)中心・短時間でも頻回に訪問外来通所が中心
担当比スタッフ1人あたり利用者おおむね10人程度「25人程度」

ACTは平時の地域生活支援チームであり、災害支援チームではない。

1-6 チーム医療とPTの業務範囲

  • 多職種が目標を共有して連携する。本人・家族もチームの一員で、当事者中心に目標を立てる
  • リーダーは職種で固定されない。状況に応じて理学療法士がリーダーを務めることもある
  • 専門外の事項は抱え込まず、該当職種に相談するのが正しい連携
相談する内容相談先
栄養指導・食形態管理栄養士
人工呼吸器の設定・薬剤・医療行為医師
福祉用具の貸与・制度利用・退院調整ソーシャルワーカー(MSW)
介護保険サービスの調整ケアマネジャー・MSW

要介護認定申請の主治医意見書を作成するのは医師で、理学療法士は作成できない(評価情報を医師に提供するにとどまる)。「理学療法士が行わないのはどれか」型では、他職種の独占業務(診断・意見書作成・処方)が正答になる。

1-7 がんのリハビリテーション

病期(Dietz分類)目的
予防的治療前〜直後。機能低下を予防する
回復的治療後の機能・能力を最大限に回復する
維持的進行に伴う機能低下を最小限にしADLを保つ
緩和的(緩和期)症状緩和とQOLの維持・向上を最優先する

緩和期の原則

  • 機能回復よりQOLを優先する
  • 患者の意思と全身状態の変化に合わせてプログラムを変更する(緩和期で最も問われる正答)
  • 多職種チームアプローチが基本。個人的な関わりを重視するのではない
  • がん治療前のADL水準への復帰は目標に置かず、現実的な目標を設定する

リスク管理

病態起こること対応
骨髄抑制(白血球↓)感染リスク血球数に合わせて運動内容・強度を変更する
骨髄抑制(血小板↓)出血リスク抵抗運動・転倒を避ける
骨髄抑制(Hb↓)貧血・易疲労負荷を下げ休息を挟む
骨転移病的骨折(疲労骨折ではない)荷重・回旋・抵抗運動を制限
リンパ浮腫患肢の腫脹・重だるさ用手的リンパドレナージ・圧迫療法・運動=複合的理学療法を行う

「疼痛に対して温熱療法は禁忌」「リンパ浮腫に対して理学療法は行わない」はいずれも誤り → 温熱は腫瘍局所への直接照射を避ければ疼痛緩和に用いてよく一律禁忌ではない。リンパ浮腫にはむしろ複合的理学療法を積極的に行う。

1-8 慢性疼痛のとらえ方

項目慢性疼痛
期間3か月以上持続、または通常の治癒期間を超えて続く
要因生物・心理・社会が絡む多因子。1つに絞れない
治療多職種による集学的アプローチ。運動療法・認知行動療法が柱
手術第一選択ではない
目標痛みゼロではなく活動性・QOLの向上

「1〜2か月間続く疼痛」「要因は1つに絞られる」「手術療法が勧められる」「治療目標は痛みのない状態」はすべて誤り。安静を続けることはむしろ慢性化を助長する。

1-9 災害リハビリテーション

  • 時間軸は平時からの備え → 発災直後(急性期)から支援 → 数か月に及ぶ長期支援
  • 中心課題は避難生活での活動量低下による生活不活発病(廃用症候群)の予防
  • 被災者自身が予防行動をとれるよう指導する(支援者が代わりにやるのではない)

「理学療法士は災害復興期から活動を開始する」は誤り → 正しくは急性期・亜急性期から避難所などで関与する。「復興期から」という遅い開始の記述が誤答になる定番パターン。

略語正式名役割
DMAT災害派遣医療チーム災害急性期の救命・医療
DPAT災害派遣精神医療チーム精神医療・心のケア
DHEAT災害時健康危機管理支援チーム被災自治体の保健医療行政(マネジメント)支援
JRAT日本災害リハビリテーション支援協会生活機能の維持・回復。リハ職の統括組織

「生活機能を中心に支援する」「災害リハの統括組織」ときたらJRAT。ACTは平時の精神障害者支援で災害チームではない。

1-10 リハビリテーションのリスク管理

医療安全とインシデントレポート

用語定義
インシデント(ヒヤリ・ハット)患者に実害が生じなかった、または軽微だった事例
アクシデント実際に患者に実害が生じた事故
  • 収集の目的=事例を組織で共有・分析し医療事故の発生防止策を検討すること
  • 原則=非懲罰。個人を責めるのではなく仕組み(システム)を正す

「責任者を処罰する」「監督官庁に報告する」「施設管理者が解決策を検討する」「当事者間で原因を検討する」はいずれも目的として誤り。処罰目的にすると報告が萎縮し、かえって安全が損なわれる。当事者や管理者に閉じず組織全体で分析する。

褥瘡の好発部位

体位好発部位
背臥位仙骨部・踵部(+後頭部・肩甲骨部・肘頭)
側臥位大転子部・内果部(+耳介・肩峰・腸骨稜)
腹臥位腸骨稜・膝蓋部・肋骨部

膝窩部は背臥位でも圧が集中せず好発部位ではない。大転子部・内果部は側臥位の部位であり、背臥位を問われたときに選ばない。骨突出部で圧が集中する所に生じる、が原則。

摂食嚥下訓練の手技と目的

手技目的
Shaker法(頭部挙上訓練)舌骨上筋群の強化。仰臥位で頭部挙上を反復し喉頭挙上・食道入口部開大を改善
Mendelsohn手技嚥下時の喉頭挙上を意図的に保持し食道入口部開大を改善
バルーン拡張法狭窄した食道入口部(輪状咽頭筋)を機械的に拡張
ブローイング鼻咽腔閉鎖の強化(軟口蓋挙上を促す)
ハフィング声門を開いたままの強制呼出=排痰(気道クリアランス)。嚥下手技ではない

組合せ問題では目的が互いに入れ替えられる。喉頭挙上系=Shaker法・Mendelsohn手技/拡張=バルーン/鼻咽腔=ブローイング/排痰=ハフィングと系統でまとめて覚える。