第2章|MMT・筋緊張

理学療法学(評価・治療) 第2章

2-1 MMTの段階定義 — 0〜5の6段階

徒手筋力検査(MMT)は重力と徒手抵抗を操作して筋力を0〜5の6段階で判定する。段階の定義そのものが繰り返し問われる。

段階呼称判定基準
5Normal最大抵抗に抗して全可動域を動かし、最終肢位を保持できる
4Good中等度の抵抗に抗して全可動域を動かせる
3Fair抵抗なしで、重力に抗して(抗重力位で)全可動域を動かせる
2Poor重力を除いた肢位(運動面を水平にする)で全可動域を動かせる
1Trace筋収縮を触知できるが、関節運動は起こらない
0Zero筋収縮を触知できない
  • 3と2の境目=重力に抗せるか。ここが最頻出。段階3以上が実用筋力の下限とされる
  • 細分では 3−=抗重力位で全可動域の半分以上動くが完遂できない、2+=重力除去位で全可動域を完了し、さらに抗重力位でわずかに動く

段階1と0の差は収縮を触知できるかどうかであって、関節が動くかどうかではない。段階1でも関節運動は起こらない。

2-2 検査肢位の原則と肩関節のMMT

段階3以上=抗重力位(運動方向が重力と逆になる肢位を組む)/段階2以下=重力除去位(運動面を水平にして重力の影響を消す)。同じ運動でも判定したい段階によって肢位が変わる、これが肢位問題の解き方の全部である。

肩関節の運動段階2(重力除去位)段階3以上(抗重力位)
屈曲側臥位座位(または立位)
外転側臥位座位
伸展側臥位腹臥位
外旋・内旋腹臥位で上肢を台の外に垂らす腹臥位または座位(段階4は抵抗を加えて判定)
水平内転座位(前腕を支持台にのせ水平に動かす)背臥位
水平外転座位(同上)腹臥位

組合せ問題で狙われる誤りの型。屈曲の段階2=背臥位は誤り → 背臥位では重力が抵抗になる。正しくは側臥位伸展の段階3=座位は誤り → 腹臥位水平内転の段階2=腹臥位水平外転の段階2=側臥位はいずれも誤り → どちらも座位で支持面上を水平に動かす。

2-3 座位で段階3を判定できる筋

座位で抗重力位になるのは持ち上げる向き(重力と反対向き)に動く運動だけ。この視点で消去法が使える。

可否筋と運動
座位で段階3を判定できる上腕三頭筋(肘伸展。前腕を下垂位から伸展させる)/縫工筋(股屈曲+外転+外旋+膝屈曲で踵を対側の膝へ運ぶ)/腸腰筋(股屈曲=大腿を座面から持ち上げる)/大腿四頭筋(膝伸展)
座位では判定できない大胸筋(肩水平内転→抗重力位は背臥位)/肩甲下筋(肩内旋→腹臥位)/ハムストリングス(膝屈曲→腹臥位。座位では下腿が下垂し重力に抗さない)/下腿三頭筋(足底屈→立位の片脚踵上げ

下腿三頭筋は頻出のひっかけ。段階3以上の標準肢位は立位での片脚踵上げ(自分の体重が負荷)。座位で足を底屈させても負荷が軽すぎ、正しい段階3判定にならない。

2-4 頸部・体幹のMMT

頸部屈曲

  • 肢位=背臥位、上肢は体側に置く
  • 評価対象は深部の頸部屈筋群(頸長筋・前頭直筋など)。浅層の広頸筋による代償を抑制して測る。胸鎖乳突筋が優位だと下顎が前に突き出る
  • 抵抗は前額部に2本の指で加える。段階5は中等度の抵抗に抗して保持できることで判定する
  • 段階2は側臥位で頭部を支持した重力除去位で全可動域を動かせるかでみる

「上位頸椎の運動を測定する」は誤り → 下顎を引いた状態で頸椎全体の屈曲をみる。「両腕を胸の前で組ませて行う」は誤り → 体幹屈曲の代償が入るので上肢は体側。「段階2は下顎を頸部に引き付ける運動で判断する」は誤り → 段階2の基準はあくまで重力除去位での全可動域

体幹屈曲・体幹回旋(腹筋群)

腹筋群は抵抗を手で加えず、上肢の肢位で負荷量を変えて段階を分けるのが特徴。

上肢の位置完了できたときの段階
手を体側に置く段階3
腕を胸の前で組む段階4
手を頭の後ろで組む段階5
  • 背臥位からのカールアップで肩甲骨下角が台から離れれば、抗重力位で全可動域を完了したことになる。抵抗を加えていない(手は体側)なら判断できる最も低い段階は段階3
  • 段階2は肩甲骨上部(胸郭)が離れる程度、段階1は頭部のみの挙上または腹壁の収縮触知
  • 体幹回旋は外腹斜筋=反対側への回旋/内腹斜筋=同側への回旋。したがって左回旋=右外腹斜筋+左内腹斜筋(右回旋=左外腹斜筋+右内腹斜筋)のペアで働く。検査者は反対側の骨盤を固定する

2-5 中殿筋のMMTと片脚立位からの推定

項目正しい手順
肢位検査側を上にした側臥位。検査側下肢は伸展位・回旋中間位で外転させる
固定骨盤が回旋・挙上しないように固定する
抵抗大腿遠位外側(膝の直上)に加える
段階4=中等度の抵抗に抗して全可動域保持/5=最大抵抗に抗して保持
非検査側下側の下肢は安定のため軽度屈曲させてよい
段階2背臥位で水平面の外転(重力除去位)

検査側を外旋位にするのは誤り → 股屈筋群・大腿筋膜張筋の関与が増して純粋な外転にならない。回旋中間位で行う。抵抗を足関節に加えるのも誤り → テコが長くなり誤差が大きい。大腿遠位に加える。骨盤挙上・股関節屈曲外旋はいずれも代償のサイン。

「側臥位で行う」こと自体は正しい記述だが、適切な測定を1つ選ぶ設問では代償を排除する骨盤固定が核心になる。正しい記述が複数並ぶときは「その検査の精度を決めている条件」を選ぶ。

片脚立位から段階3以上を推定する

  • 片脚立位を数秒保持できる=立脚側の股関節外転筋(中殿筋)が骨盤を水平に保っている=抗重力位で全可動域を制御できている=段階3以上
  • 挙げている側の股関節屈曲・足関節背屈や、腰に当てた上肢は重力に抗して保持する課題になっていないので段階を推定できない。図問題では「どの関節がどの向きの重力負荷に抗しているか」だけを見る
  • 中殿筋が弱いと遊脚側の骨盤が下制する=Trendelenburg徴候

2-6 脊髄損傷のkey muscleとAIS/過用性筋力低下

髄節key muscle髄節key muscle
C5肘屈筋(上腕二頭筋)L2股屈筋(腸腰筋)
C6手関節背屈筋L3膝伸筋(大腿四頭筋)
C7肘伸筋(上腕三頭筋)L4足背屈筋(前脛骨筋)
C8中指末節屈筋L5長母趾伸筋
T1小指外転筋S1足底屈筋(下腿三頭筋)
AIS判定基準
A(完全)S4-5の運動・感覚がすべて消失
B(感覚不全)S4-5の感覚が残存し、運動は完全麻痺
C(運動不全)損傷高位より下の主要筋の半数以上がMMT3未満
D(運動不全)損傷高位より下の主要筋の半数以上がMMT3以上
E運動・感覚とも正常

完全か不全かの決め手はS4-5(肛門)が残っているかの一点。①肛門の随意収縮 ②肛門深部圧覚 ③S4-5の感覚 —— 3つすべて消失=A、ひとつでも残れば不全。感覚の目印では乳頭部=T4、剣状突起=T6、臍=T10。

過用性筋力低下とポストポリオ症候群

  • ポリオ罹患から数十年を経た中高年で、新たな筋力低下・易疲労・疼痛を生じる
  • 疼痛(筋肉痛・関節痛)は高頻度に伴う。「疼痛は少ない」は誤り
  • 前角細胞の脱落と側枝発芽の破綻により、罹患筋の運動単位数は減少する
  • 一見健常にみえた非麻痺側にも新たな筋力低下が起こりうる

MMT3レベル以下の新たな筋力低下に筋力増強運動を行うのは誤り → 過用性筋力低下(オーバーユース)を招く。負荷量の管理・エネルギー保存・補装具の活用が原則。

2-7 筋緊張の異常 — 痙縮・固縮・低緊張

項目痙縮(spasticity)固縮=強剛(rigidity)低緊張(弛緩)
障害部位上位運動ニューロン(錐体路)錐体外路(基底核)下位運動ニューロン・小脳・脊髄ショック期
速度依存性あり(速く動かすほど抵抗が強い)なし(速度に関係なく一様)
抵抗の性状折りたたみナイフ現象(途中で急に抜ける)鉛管様・歯車様抵抗が乏しい
腱反射亢進・病的反射陽性正常〜軽度亢進減弱〜消失
代表疾患脳卒中・脊髄損傷・痙直型脳性麻痺Parkinson病末梢神経障害・小脳障害

Westphal現象=他動的に関節を動かしたときに急に抵抗(筋の持続収縮)が生じる現象で、Parkinson病の固縮の評価に用いる。Parkinson病の重症度はHoehn&Yahr分類(Ⅰ〜Ⅴ)・UPDRS

Parkinson病の評価にMASを当てるのは誤り → MASは痙縮の尺度で、固縮の評価には一般的でない。紛らわしい他の徴候・尺度:Beevor徴候=腹直筋の上下の筋力不均衡で臍が偏位(腹筋麻痺・T10レベルの脊髄損傷)/Finkelstein test=de Quervain病(狭窄性腱鞘炎)/SARA=小脳性運動失調の重症度。

生理的に筋緊張が下がるのがレム睡眠。急速眼球運動を伴い、抗重力筋の筋緊張は著しく低下(消失)、脳波は覚醒時に近い低振幅速波、夢を多くみる。ノンレム睡眠は高振幅徐波で脳が休む。周期は約90分で一晩に4〜5回、入眠直後は深いノンレムが多く、レムは睡眠後半(明け方)ほど長くなる。

2-8 痙縮の定量評価 — MASとMTS

MASのグレード所見
0筋緊張の増加なし
1可動域の最終域だけに引っかかり(catch)と消失、または最小の抵抗
1+catchの後、可動域の1/2以下の範囲で軽度の抵抗が続く
2可動域の大部分(ほぼ全範囲)で抵抗が増すが、患部は容易に動かせる
3抵抗が著明に増加し、他動運動が困難
4患部が屈曲位または伸展位で固まり、動かない

判定の鍵は「抵抗が出る範囲」×「動かしやすさ」の2軸。最終域のみ=1/全範囲+容易=2/全範囲+困難=3。範囲だけ、あるいは重さだけで決めると1段ずれる。

MTS〈Modified Tardieu Scale〉は、速度を変えて(ゆっくり/重力に任せる速さ/できるだけ速く)他動伸張し、catchが起こる角度と反応の質で評価する。速度依存性を角度として定量できる点がMASとの違い。MTSも痙縮の尺度であり疼痛尺度ではない

2-9 まぎらわしい評価尺度の守備範囲

尺度何を測るか
mRS(modified Rankin Scale)脳卒中後の転帰・生活自立度。0=症状なし 〜 5=重度障害(寝たきり・全介助)、6=死亡。「症状なしから死亡まで分類できる尺度」=mRSで決め打ちしてよい
GCS意識レベル。開眼E4・言語V5・運動M6の合計、最良15・最低3
SIAS脳卒中の機能障害を運動・感覚・体幹・視空間など多項目で総合評価
FMA(Fugl-Meyer assessment)片麻痺の運動・感覚・関節可動域/疼痛・バランスを点数化した機能障害の評価
Brunnstrom stage片麻痺の随意運動の回復段階(Ⅰ〜Ⅵ)
MAS/MTS痙縮(筋緊張)
SCP(Scale for Contraversive Pushing)pusher現象を「自発姿勢の傾き・押す動作・修正への抵抗」の3項目で定量評価
SARA小脳性運動失調の重症度
AIS脊髄損傷の完全/不全(A〜E)

pusher現象(プッシャー症候群)=右半球損傷による左片麻痺で多く、非麻痺側の上下肢で座面や床を押して麻痺側へ傾き、正中位への修正に抵抗する。座位・立位のいずれでも出る。この病態を疑ったら最優先の評価はSCP(次いでBLS)。半側空間無視を合併しやすいが両者は別の病態。失語・注意・知能の検査を先に当てるのは優先順位の誤り。

関節リウマチの評価は「何を測るか」で分ける

測るもの指標
機能状態Steinbrockerのclass分類(Ⅰ〜Ⅳ)。身の回りのこと・仕事・余暇の3要素の遂行能力で分類
病期(進行度)Steinbrockerのstage分類(Ⅰ〜Ⅳ)
疾患活動性(病勢)DAS28(28関節の腫脹・圧痛数、血沈/CRP、患者全般評価)
関節破壊(X線)Larsen分類(Grade0〜5)、Sharp score(骨びらん・関節裂隙狭小化の点数化)
(無関係)CMI=心身の自覚症状を問う健康調査票。RAの評価法ではない

2-10 疼痛の評価スケール

尺度方法と適応
VAS両端を「痛みなし」「最悪の痛み」とした10cmの直線上に患者が印をつけ、端からの距離で表す
NRS0(痛みなし)〜10(最悪の痛み)の数値を患者が選ぶ。0を含めて11段階
face scale表情のイラストで選ばせる。数値概念が不要なので小児・高齢者に使いやすい
VRS「なし/軽度/中等度/高度」など言語表現で段階を選ばせる
McGill疼痛質問票強度に加えて痛みの性質(うずく・刺すなど)まで評価できる

NRSでよくある誤り。「10段階で評価する」→ 誤り、0〜10の11段階「疼痛の性質を評価する」→ 誤り、測るのは強度のみ(性質はMcGill)。「患者間の比較に有効」→ 誤り、主観的で個人差が大きく同一患者の経時変化に用いる。「幼児の疼痛評価に使用される」→ 誤り、数値概念が必要なので幼児にはface scale。尺度水準は間隔の等しさが保証されない順序尺度

疼痛は主観的指標なので本人申告型のスケールを使う。選択肢に紛れる略語の整理:GCS=意識/mRS=生活自立度/MAS・MTS=痙縮/SLTA=失語/WCST=遂行機能。いずれも疼痛評価ではない。

2-11 高次脳機能検査 — 名称と評価対象

検査評価対象
TMT(Trail Making Test)注意・処理速度・遂行機能。数字を順に結ぶA、数字と仮名を交互に結ぶBがあり、A・Bの差が遂行機能を反映
かなひろいテスト注意(選択的注意)
WCST前頭葉機能・遂行機能・概念形成
BADS遂行機能(日常場面に近い課題)
Stroop test色名と文字の干渉を使う選択的注意・抑制(前頭葉)
Rey-Osterrieth複雑図形検査(ROCFT)複雑な幾何図形の模写と遅延再生で視空間構成能力・視覚性記憶
Rey聴覚性言語学習検査(RAVLT)単語リストの記銘・再生による言語性記憶
Bender gestalt test(BGT)複数の単純な幾何図形カードを模写させる視覚運動構成
Raven色彩マトリックス検査欠けたパターンを選択肢から補充する非言語性知能
WAIS-Ⅳ成人知能
MMSE・HDS-R認知症スクリーニング
SLTA標準失語症検査=失語症

MASを高次脳機能検査の選択肢として選ぶのは誤り → MASは運動系(痙縮)の尺度。図で示された刺激の見分けは、単一の複雑な幾何図形の模写=ROCFT複数の単純図形カードの模写=BGTで切る。

2-12 評価データの統計処理

検定法は①対応の有無 ②群数 ③正規分布かの3つだけで決まる。表を丸暗記すれば取りこぼさない。

条件2群3群以上
正規分布・対応なし対応のないt検定一元配置分散分析(ANOVA)
正規分布・対応ありPaired-t検定反復測定分散分析
非正規・対応なしMann-WhitneyのU検定Kruskal-Wallis検定
非正規・対応ありWilcoxon符号付順位検定Friedman検定
  • 「対応あり」=同一対象の前後比較(介入前後の歩行速度など)。同一の30名を1週後と比べて正規分布ならPaired-t検定
  • 相関分析は2変数の関連の強さをみる手法で、群間差の検定ではない
  • 分散分析は3群以上の比較だが正規分布が前提。非正規なら3群以上はKruskal-Wallis検定に置き換える