第3章|反射・感覚・協調性
理学療法学(評価・治療) 第3章
3-1 深部腱反射の回路(伸張反射)
深部腱反射=伸張反射であり、脊髄で1回しか乗り換えない単シナプス反射。腱を叩く→筋が急に伸ばされる→筋紡錘が感知→同じ筋が収縮、という経路をたどる。
| 反射弓の要素 | 深部腱反射での実体 |
| 受容器 | 筋紡錘(錘内筋線維)。腱器官ではない |
| 求心路(感覚入力) | Ⅰa線維(太い有髄線維) |
| 中枢 | 脊髄。介在ニューロンを挟まない単シナプス |
| 遠心路(運動出力) | α運動ニューロン |
| 効果器 | 錘外筋線維(実際に張力を出す筋線維) |
- γ運動ニューロンは錘内筋線維を収縮させ筋紡錘の感度を高める(α-γ連関)。
- Renshaw細胞はα運動ニューロンの軸索側枝から入力を受け、そのα運動ニューロンを抑制し返す(反回抑制)。
- Golgi腱器官はⅠb線維で張力を伝え抑制性に働く。伸張反射の受容器と混同しない。
「γ運動ニューロンの興奮により深部腱反射は減弱する」は誤り → γ興奮は筋紡錘の感度を上げてⅠa入力を増やすため、深部腱反射は増強する。
3-2 腱反射の亢進・低下が示すもの
| 所見 | 障害部位 | 随伴所見 |
| 深部腱反射 亢進 | 上位運動ニューロン(錐体路)障害 | 痙縮・折りたたみナイフ現象・クローヌス・病的反射陽性 |
| 深部腱反射 低下・消失 | 下位運動ニューロン障害(前角細胞・神経根・神経叢・末梢神経) | 弛緩性麻痺・筋萎縮・線維束攣縮 |
主な腱反射の髄節=上腕二頭筋C5〜6・腕橈骨筋C5〜6・上腕三頭筋C7〜8・膝蓋腱L2〜4・アキレス腱S1〜2。
腕神経叢損傷(下位運動ニューロン障害の代表)
| 型 | 髄節 | 障害される動き・肢位 |
| 上位型(Erb麻痺) | C5〜C6 | 肩外転・肘屈曲が障害。waiter's tip肢位 |
| 下位型(Klumpke麻痺) | C8〜T1 | 手内在筋・手指の巧緻運動が障害。鷲手 |
| 完全型 | C5〜T1 | 近位から遠位まで上肢全体の弛緩性麻痺 |
腕神経叢損傷で「深部腱反射は亢進することが多い」は誤り → 末梢(下位運動ニューロン)障害なので減弱・消失する。「すべての症例で自然回復が期待できる」も誤り → 引き抜き損傷など重度例は自然回復に乏しく神経移行・移植などの手術を要する。「下位型で肘屈曲が障害」「上位型で手指巧緻性が障害」は上下が逆。
3-3 病的反射(Babinski群)と刺激方法
足底系の病的反射は陽性所見がいずれも母趾背屈+他趾開扇、意味はすべて錐体路(上位運動ニューロン)障害。違うのは刺激部位と方向だけで、そこを入れ替える出題が定番。
| 反射 | 刺激方法 |
| Babinski | 足底の外側縁を踵からつま先へこする |
| Chaddock | 外果の下方〜足背外側を後ろから前へこする |
| Oppenheim | 脛骨内縁を上方から下方へこすりおろす |
| Gordon | 下腿三頭筋(腓腹筋)を強くつかむ |
| Schaeffer | アキレス腱を強くつまむ |
| Gonda | 第4趾をつまんで下方へ引っ張り放す |
「Chaddock=内果の下方」は誤り → 外果の下方。「Gordon=アキレス腱をつまむ」は誤り → それはSchaefferで、Gordonは腓腹筋を握る。「Schaeffer=足底外縁をこする」も誤り → それはBabinski/Chaddock系。
上肢・手指の病的反射(足部の検査と区別する)
- Hoffmann反射:中指末節を弾き下げ、他指の屈曲をみる
- Trömner反射:中指の掌側を下からはじき、他指の屈曲をみる
- Wartenberg反射:検者と被検者の屈曲した指を引っかけ合う手指の検査
3-4 感覚の分類と脊髄内の伝導路
| 区分 | 内容 | 伝導路 |
| 表在感覚 | 触覚・痛覚・温度覚・触圧覚 | 痛覚・温度覚は外側脊髄視床路(脊髄内で交叉し対側を上行) |
| 深部感覚 | 位置覚(関節覚)・運動覚・振動覚 | 後索−内側毛帯路(同側後索を上行し延髄で交叉) |
| 複合感覚(皮質性) | 2点識別覚・立体覚・書字覚・重量覚 | 頭頂葉皮質での統合を要する |
- 脊髄横断面の位置:後索=後方正中寄り(深部感覚)、外側脊髄視床路=側索の前外側(温痛覚)、外側皮質脊髄路=側索の後外側(運動)、前角=運動、後角=感覚入力の中継。
- 振動覚・位置覚の異常なら病巣は後索側、温痛覚の異常なら対側の側索と読む。脊髄半側損傷では同側の運動麻痺+同側の深部感覚障害と対側の温痛覚障害が解離する。
- 後索障害=深部感覚障害ではRomberg徴候が陽性になる。
脊髄横断面の番号を読む
模式図の①〜⑤に部位を当てる形式が出る。灰白質(Hの形)の内側か、白質(外周)のどこかで決める。
| 図中の位置 | 部位 | 通っているもの |
| 前方(腹側)の灰白質=Hの太い前角 | 前角 | 運動ニューロン(下位運動ニューロン)の細胞体。ここの障害=弛緩性麻痺 |
| 後方(背側)の灰白質=Hの細い後角 | 後角 | 感覚入力の中継。温痛覚の二次ニューロンがここで交叉して対側へ渡る |
| 後方正中の白質(左右の後角に挟まれた三角形) | 後索 | 深部感覚(位置覚・振動覚)。同側を上行 |
| 側方の白質の前寄り | 外側脊髄視床路 | 温痛覚。対側を上行(上行性=感覚) |
| 側方の白質の後寄り(後角のすぐ外) | 外側皮質脊髄路 | 随意運動。下行性 |
| 前方の白質(前正中裂の両脇) | 前索・前脊髄視床路 | 粗大な触圧覚。前皮質脊髄路も走る |
覚え方は「後ろは深部感覚、横の前は温痛覚、横の後ろは運動」。側索に2つ並ぶときは上行(感覚)が前・下行(運動)が後と決まっている。
3-5 皮膚の受容器
| 受容器 | 被膜 | 適刺激 |
| 自由神経終末 | なし | 侵害刺激(痛覚)・温度覚=唯一の侵害受容器 |
| Meissner小体 | あり | 触覚・軽い圧(速順応) |
| Merkel盤 | あり | 圧覚(遅順応) |
| Pacini小体 | あり | 振動・速い圧変化 |
| Ruffini終末 | あり | 持続的な圧・皮膚の伸展 |
| 毛包受容体 | あり | 毛の動き(触刺激) |
「侵害受容器はどれか」と問われたら、被膜をもたない自由神経終末を選ぶ。Meissner・Merkel・Pacini・Ruffini・毛包受容体はすべて被膜をもつ機械受容器で侵害受容器ではない。
3-6 感覚検査の器具
| 器具 | 調べる感覚 | 区分 |
| 音叉(128Hzなど) | 振動覚。内果・外果・橈骨茎状突起など骨突起に当てる | 深部感覚 |
| 筆・綿 | 触覚 | 表在感覚 |
| つまようじ・ピン | 痛覚 | 表在感覚 |
| 試験管(温水・冷水) | 温度覚 | 表在感覚 |
| モノフィラメント | 触圧覚の定量(糖尿病足の評価など) | 表在感覚 |
| ノギス・コンパス | 2点識別覚 | 複合感覚 |
深部感覚検査の器具として試験管・つまようじ・モノフィラメント・ノギスを挙げるのは誤り → いずれも表在感覚または複合感覚の器具。器具を使う深部感覚検査は音叉(振動覚)だけで、位置覚・運動覚は関節を他動的に動かして判定する。
3-7 深部感覚検査の手技と選び方
| 手技 | やり方 | 必要な理解力 |
| 関節定位覚(母指探し試験) | 閉眼で検者が動かした母指を、反対の手で探させる | 低い=指示が単純 |
| 模倣試験 | 検査肢の肢位を、非検査肢で同じ形に作らせる | 高い(左右対称の概念理解) |
| 再現試験 | 一度とった肢位を記憶し、後で自分で再現させる | 高い(記憶+指示理解) |
| 運動覚検査 | 閉眼で関節を他動的に動かし、動いた方向を答えさせる | 中程度(言語応答が必要) |
認知症・失語などで口頭での詳細な手順が理解しにくい患者の深部感覚検査は、母指探し試験を選ぶ。模倣試験・再現試験は自動・他動のいずれであっても課題の意図理解や記憶を要し、この条件下では実施が難しい。
3-8 協調運動検査(小脳機能検査)
| みたい異常 | 検査 |
| 測定障害(dysmetria)・企図振戦 | 指鼻試験・鼻指鼻試験・踵膝試験・示指−耳朶試験・線引き試験 |
| 反復拮抗運動障害(dysdiadochokinesis) | 前腕回内外試験・手回内回外試験 |
| 体幹失調・平衡 | 継ぎ足歩行(踵とつま先を接して一直線上を歩く)・Romberg試験・片足立ち検査 |
設問に「拮抗する運動をすばやく反復」の要素があれば前腕回内外試験。「目標に手を持っていく/距離を合わせる」なら指鼻・踵膝・示指耳朶系(測定障害)。
- 小脳症状の代表=測定障害・企図振戦・反復拮抗運動障害・断綴性発語・酩酊歩行・眼振・筋緊張低下。
- 折りたたみナイフ現象=錐体路障害(痙縮)、羽ばたき振戦=肝性脳症など代謝性で、運動失調の所見ではない。
3-9 運動失調の鑑別と眼振
| 小脳性 | 脊髄性(後索性) | 前庭性 |
| 原因部位 | 小脳・脳幹 | 脊髄後索=深部感覚 | 前庭器・前庭神経 |
| Romberg徴候 | 陰性(閉眼で著変なし) | 陽性(閉眼で著明に動揺) | 陽性のことが多い |
| 構音 | 断綴性発語あり | 正常 | 正常 |
| 眼振 | 注視方向性眼振あり | なし | あり(回転性めまいを伴う) |
| 歩行 | 酩酊歩行・歩隔拡大 | 踵打歩行・足元を見て歩く | 一側へ偏倚 |
| 深部感覚 | 保たれる | 障害 | 保たれる |
Romberg徴候陽性=閉眼で悪化=視覚で代償していた=深部感覚(後索)または前庭の障害。小脳性は視覚代償に依存しないため陰性。これが小脳性と脊髄性を分ける最短の決め手。
| 眼振の種類 | 性質 |
| 視運動性眼振(OKN) | 生理的。流れる景色を見ると誰でも起こる(緩徐相=対象を追う/急速相=戻る)。「静止した人が動く乗り物を注視」が典型設定 |
| 固視微動 | 一点を固視している間つねに生じる微小な眼球運動 |
| 注視眼振 | 特定方向を注視して出現。小脳・脳幹障害 |
| 頭位眼振 | 頭位変換で出現。良性発作性頭位めまい症など前庭性 |
| 回転後眼振 | 回転させ止めた直後に出る前庭性の眼振 |
3-10 失調に対する治療手技の選択
| 手技 | 適応 |
| rhythmic stabilization | 小脳性協調運動障害。周期的に方向を変えた抵抗を加え、安定性と協調性を同時に高める |
| Frenkel体操 | 脊髄性(後索性)運動失調。視覚による代償を利用した反復学習 |
| Epley法 | 良性発作性頭位めまい症(耳石置換)。失調の治療ではない |
| 持続的伸張 | 短縮・拘縮への対応。協調性改善に寄与しない |
| エルゴメーターのペダリング | 持久力・全身調整。協調性改善に特異的でない |
小脳性失調にFrenkel体操を当てるのは誤り → Frenkel体操は脊髄性(深部感覚障害)向け。眼振・構音障害・鼻指鼻試験異常があり関節位置覚障害なし・Romberg陰性なら小脳性であり、選ぶのはrhythmic stabilization。
3-11 主要な評価スケールの守備範囲
| スケール | 対象 | 含む項目/含まない項目 |
| SIAS | 脳卒中の機能障害を総合評価 | 麻痺側運動・筋緊張・感覚(触覚と位置覚)・関節可動域・疼痛・体幹・視空間認知・言語+健側機能=非麻痺側の握力と大腿四頭筋筋力/含まない=注視・痛覚・病的反射・膝関節可動域 |
| FMA | 脳卒中片麻痺専用の運動・感覚・関節機能 | 小脳性運動失調の評価には不適 |
| NIHSS | 脳卒中急性期の重症度(0〜42点) | 意識水準・質問・従命、注視、視野、顔面麻痺、上下肢運動、運動失調、感覚、言語、構音障害、消去・無視/含まない=深部腱反射・歩行速度・バランス障害 |
| ASIA | 脊髄損傷。A(完全)〜E(正常) | key muscleで運動レベル+感覚。完全/不全の判定はS4-5の肛門周囲感覚と肛門括約筋の随意収縮/含まない=意識レベル・眼球運動・運動失調・深部腱反射 |
| SARA | 運動失調の重症度を定量評価 | 小脳失調症例の第一選択 |
| FBS(BBS) | バランス・転倒リスク | 失調のふらつき評価に適する |
| 運動障害 | 対応する評価 |
| 運動失調 | 指鼻試験・踵膝試験・回内外試験・SARA |
| 筋力低下 | 徒手筋力テスト(MMT) |
| 片麻痺の回復段階 | Brunnstrom法ステージ(共同運動→分離運動) |
| 錐体路障害 | Babinski反射など病的反射・腱反射亢進・痙縮 |
| 深部感覚障害 | Romberg試験 |
「筋力低下=Brunnstrom法ステージ」は誤り → Brunnstromは片麻痺の回復段階であって筋力評価ではない。「持久力低下=MMT」も誤り → MMTは筋力。「錐体外路障害=Babinski反射」は誤り → Babinskiは錐体路障害の徴候。「錐体路障害=Romberg試験」も誤り → Rombergは深部感覚(後索)障害の検査。