第4章|姿勢・バランス・歩行分析

理学療法学(評価・治療) 第4章

4-1 姿勢・アライメントとバランスの基礎

立位姿勢は矢状面の重心線で評価する。耳垂 → 肩峰 → 大転子 → 膝関節前部(膝蓋骨後面) → 外果のやや前方を通る。不良姿勢は円背・側弯・骨盤傾斜として記述する。

静的バランスと動的バランス

区分定義代表的な検査
静的バランス支持基底面を変えずに姿勢を保持する能力片脚立位、閉眼・閉脚立位、Trunk control test
動的バランス重心を動かす・支持基底面が変わる中で保持する能力Functional Reach Test、TUG、タンデム歩行
Trunk control test は体幹制御の検査だが姿勢保持が主体で、動的バランス検査には数えない。10m歩行テストは移動速度、6分間歩行テストは持久性で、どちらもバランス検査ではない。

バランスに関与する感覚

  • 視覚・前庭覚・体性感覚(深部感覚)の3つ。温痛覚は中心ではない
  • 深部感覚のスクリーニング=振動覚(C128音叉)と、モノフィラメントによる触圧覚。
  • 糖尿病性多発神経障害は長さ依存性で靴下・手袋型に下肢遠位から進み、内果の振動覚が最も早く低下する。障害の順は 感覚(振動覚・温痛覚)→ 反射(アキレス腱反射消失)→ 運動(筋力低下)。膝蓋腱反射の低下・ROM制限・TUGの延長はいずれも振動覚より遅れる。

4-2 Berg Balance Scale〈BBS=FBS〉

項目内容
項目数14項目
採点各項目 0〜4点の5段階(0=不能、4=自立)
満点14×4=56点
向き得点が高いほどバランス能力が高い
カットオフ約45点以下で転倒リスクが高い
  • 含まれる項目=座位保持・立ち上がり・移乗・閉眼立位・閉脚立位・前方リーチ・床の物を拾う・振り向き・360度回転・タンデム立位(継ぎ足立位)保持・片脚立位 など。
  • 評価の中心は課題の遂行であり、外乱に対する反応をみる検査ではない。
よくある誤り → 正しくは:「16項目」→14項目/「1〜4の4段階」→0〜4の5段階/「カットオフ52点」「カットオフ56点」→56点は満点でカットオフは約45点/「4m歩行時間を含む」→歩行時間の測定項目はない/「外乱負荷への反応が中心」→課題遂行が中心。

4-3 Timed Up and Go〈TUG〉

項目内容
開始肢位背もたれのある椅子に座った座位(立位ではない)
コース3m先に目印を置き折り返す(往復で約6m。「6m先に目印」は誤り)
終了戻って背もたれ座位に着くまでの時間を測る
補助具普段使っている杖・歩行器の使用は可(禁止ではない)
測るもの起立・歩行・方向転換・着座を含む動的バランスと移動能力
基準13.5秒以上で転倒リスク高/11秒以上でフレイル/10秒以内が健常域の目安。短いほど良好

4-4 Functional Reach Test〈FRT〉と各種パフォーマンステスト

  • 立位で片側上肢を90度前方挙上し、足部は床に固定したまま(踵を浮かせない・足を動かさない)前方へ最大限リーチする。
  • 測るのは肩峰の高さでのリーチ距離の水平成分。両上肢をそろえてリーチさせるのではない。
  • 15cm未満で転倒リスク高。大きいほど良好。歩行速度の予測には用いない。
  • SPPBには含まれない。SPPB=バランス(立位保持)+歩行速度+椅子立ち上がりの3要素。
検査何を測るか
6分間歩行テスト全身持久性(運動耐容能)。歩行距離は最大酸素摂取量と相関。呼吸器・心疾患・術後の持久性評価の第一選択
シャトルウォーキングテスト全身持久性
10m最大歩行速度移動速度・歩行能力(持久性ではない)
five times sit to stand test下肢筋力・パワー
片脚立位時間静的バランス。長いほど良好、5秒未満で転倒リスク

4-5 数値の向き — 改善か悪化かを読む

大きい・長い・高いほど良好小さい・短い・少ないほど良好
FBS〈BBS〉(56点満点)、FRT(cm)、片脚立位時間、MMSE、FIM、Barthel IndexTUG(秒)、10m歩行時間、基本チェックリスト(該当数)、Borg指数
「バランス機能の低下を示すのはどれか」型は向きだけで解ける。FBS 47点→33点は低下。TUG 25→9秒、10m歩行 45→12秒、片脚立位 10→55秒、FRT 6→20cm はすべて改善。
「好ましい変化はどれか」型では FBS 42→52 だけが改善。BMI 22.6→17.0(18.5未満は低体重)、TUG 14.2→20.2秒、MMSE 25→20、基本チェックリスト 4→10項目 はすべて悪化。

4-6 転倒リスクとフレイル

指標転倒・虚弱の目安
BBS〈FBS〉約45点以下
TUG13.5秒以上
片脚立位時間5秒未満
歩行速度1.0m/秒未満
FRT15cm未満

フレイルでの各指標の動き

  • 筋量↓(サルコペニア)、握力↓、歩行速度↓、FBS↓TUG時間↑、Borg指数↑(同じ負荷でもきつく感じる)、基本チェックリスト該当数↑。
  • 診断の中核は 体重減少・疲労感・活動量低下・歩行速度低下・握力低下。
「筋量が増加する」「TUG時間が短くなる」「Borg指数が低値になる」はすべて方向が逆で誤り。「長座位前屈距離が短くなる」は柔軟性の話であり、フレイルの中核所見ではないので正答には選ばない。

転倒予防の原則

  • 認知機能の低下(注意・遂行機能・二重課題能力)は転倒リスク因子
  • 練習は静的バランスから動的バランスへ段階的に進める。
  • 歩行速度を上げることを最優先にしない(危険が増す。安全な姿勢制御の獲得が先)。
  • 筋力・認知・薬剤・環境への多因子包括的介入が基本。

4-7 バランス練習の進め方

難度を上げる方向は支持を減らす・支持基底面を狭める・課題を動的にする・二重課題を加える

両手支持立位 → 片手支持 → 支持なしの静的立位 → 立位での重心移動 → 片手支持でのステップ → 支持なしでの外乱対応 → 歩行 → タンデム歩行
  • 「物的介助なしで立位の重心移動が可能・歩行は平行棒内両手支持で軽介助」の段階なら、次は片側上肢を支持した立位での下肢ステップ練習
  • 杖歩行・支持なしのタンデム歩行・支持なしでの外乱付加は難度が高すぎ転倒リスクが大きい。すでに獲得した重心移動の反復は次の一歩にならない。

スポーツ外傷予防でも順序は同じ

  • 膝前十字靱帯損傷の予防は静的な姿勢保持からバランストレーニングへ漸進させる。動的安定性と固有感覚を段階的に高めるのが最も有効。
  • 体幹は深層筋(腹横筋など)の動的安定性が要で、浅層筋のみでは不十分。協調性は股・膝を含めて求められ、下肢遠位筋だけでは損傷機序に対応できない。後方重心は膝伸展筋の負荷を増やし逆効果。着地動作の単一指導だけでは包括的な予防プログラムにならない。

4-8 まぎらわしい評価尺度の整理

尺度測るもの
KPS〈Karnofsky performance scale〉がん患者などの全身状態・ADL自立度(0〜100%)
PGCモラールスケール高齢者の主観的幸福感
SIAS脳卒中の総合的機能障害(麻痺・感覚・体幹)
NIHSS脳卒中急性期の神経学的重症度
WCST遂行機能(前頭葉機能)
UPDRSParkinson病の重症度
modified Tardieu scale痙縮(速度依存性の伸張反射)
PCI〈Physiological cost index〉歩行の生理的コスト(心拍数と歩行速度から算出)
MRC sum score四肢の筋力合計。ICU-AWの判定
転倒リスクの評価を問われたら、この表の尺度ではなくFBS〈BBS〉・TUG・FRT・片脚立位時間を選ぶ。
MRC sum score は両側合計48点未満または平均4点未満でICU-AW(集中治療室獲得性筋力低下)の判定を満たす。ICU入室時の値ではなく入室中〜退室後の経時的な低下で判断し、握力は基準に含まれない。測るのは上肢3筋(肩外転・肘屈曲・手関節伸展)+下肢3筋(股屈曲・膝伸展・足背屈)を左右で計12項目背臥位だけで完結せず、筋ごとに定められた肢位(座位・側臥位を含む)で測るので「背臥位で測定する」と限定した記述は誤り。

4-9 歩行周期

  • 1歩行周期=立脚期 約60%遊脚期 約40%。両脚支持期は1周期に2回あり、歩行が遅いほど長くなる。
  • 立脚期の相:踵接地 → 足底接地 → 立脚中期 → 踵離地 → 足趾離地。

4-10 異常歩行と原因の対応

異常歩行原因・特徴
frozen gait(すくみ足)Parkinson病。歩き出しや方向転換で足が床に張り付く
小刻み歩行Parkinson病(運動失調ではない)
scissors gait(はさみ脚歩行)両下肢の痙縮(痙性対麻痺・脳性麻痺)
steppage gait(鶏歩)総腓骨神経麻痺による下垂足。足尖が垂れるため股・膝を高く挙げる
waddling gait(動揺性歩行)下肢帯(中殿筋など)の筋力低下。骨盤を左右に振る。筋ジストロフィー・変形性股関節症
wide-based gait(開脚歩行)小脳性運動失調。足幅を広げて安定を得る。酩酊様歩行
組合せ問題は入れ替えが定番 → 「frozen=小脳性運動失調」「scissors=パーキンソニズム」「wide-based=両下肢の痙縮」はすべて誤り。正しくは frozen=パーキンソン、scissors=両下肢痙縮、wide-based=小脳失調。

4-11 股関節疾患の跛行 — Trendelenburg と Duchenne

  • Trendelenburg徴候・歩行=立脚側(支持側)の股関節外転筋(中殿筋)の筋力低下により、遊脚側(非支持側)の骨盤が下降する。変形性股関節症で典型的にみられる。
  • Duchenne歩行=患側立脚期に体幹を患側(筋力低下側)へ傾け、重心を支持脚上に寄せて代償する跛行。
変形性股関節症の(術前)評価の柱は筋力検査・関節可動域検査・疼痛検査・形態計測(脚長差・周径)。神経疾患ではないため反射検査の重要度は低い
徴候意味するもの
Tinel徴候末梢神経の叩打で末梢へ放散するしびれ=末梢神経障害
Froment徴候尺骨神経麻痺(手内筋の筋力低下)
Romberg徴候開眼で立てても閉眼で動揺・転倒=深部感覚障害・脊髄後索病変
Lhermitte徴候頸部前屈で電撃様感覚が走る=頸髄病変

上の4つはいずれも神経学的徴候であり、変形性股関節症ではみられない。

4-12 義足歩行のアライメント異常

大腿義足

現象原因
義足膝の不安定(膝折れ)股関節伸展筋(大殿筋)の筋力低下、アライメント不良(後方バンパーが軟らかすぎる)
過度の腰椎前弯股関節屈曲拘縮、後方支持の不足
外転歩行義足が長すぎる、股関節外転拘縮、内転筋力低下、ソケット内側壁の不適合
分回し歩行義足が長すぎる、遊脚相で短縮できない(膝が屈曲しにくい)
伸び上がり歩行義足が長すぎる、遊脚相の膝制御不良
「腰椎前弯=股関節伸展拘縮」「外転歩行=股関節屈曲拘縮」「伸び上がり=内転筋力低下」「分回し=内転拘縮」はいずれも誤りの組合せ。

下腿義足の前額面アライメント(初期内転角)

初期内転角ソケットの傾き荷重足部断端の圧迫
不足外方へ傾く外側荷重内側が床から浮く外側遠位部に圧迫感
過大内方へ傾く内側荷重外側が浮く内側遠位部に圧迫感
  • toe-out角=水平面の足尖の外向き角。前額面の内外側の浮きの主因ではない。踵接地時に義足足部が回旋するのはこの水平面のアライメント不良(toe-out/toe-inの設定不良)や踵の硬さ(クッションが硬すぎる)が原因で、前額面の内転角とは別系統。
  • 歩隔(歩幅ではなく左右の足の間隔)が広くなるのは、義足が外転位に設定された(=ソケットの外転・足部の外方設置)場合や断端外側の疼痛を避ける場合。初期内転角の不足そのものは歩隔を広げない(内転角の過不足は足底の内側/外側の浮きと断端遠位の圧迫として出る)。
  • 初期屈曲角=矢状面のアライメントで、膝の安定性に関与する。
  • ソケット外壁の高さは適合・圧迫の問題であり、内外側の浮きの直接原因ではない。
  • 足部が外側に位置しすぎる → 内側荷重になり、むしろ外側が浮く方向。ソケットが内側に位置しすぎる場合も外側が浮く。
「どちら側が浮くか」から荷重方向を逆算し、荷重側と同じ側の断端遠位に圧が集中すると考えると一貫して解ける。

4-13 Pusher現象と姿勢認識の障害

  • 身体軸が麻痺側へ傾斜し、非麻痺側の上下肢で床を押して麻痺側へ倒れようとする。
  • 正中位へ戻そうとすると抵抗して押し返す。端座位で体幹を正中位に近づけると非麻痺側の股関節が外旋する。
  • 右半球損傷(左片麻痺)に多い。背景に垂直判断(主観的身体垂直)の障害がある。
  • 座位だけでなく立位でも認められる
「身体軸が非麻痺側に傾斜する」は方向が逆で誤り → 正しくは麻痺側へ傾斜する。

介入

  • 立位や座位の傾きに対しては前方に鏡を置き、視覚的な垂直の手がかりで自分の傾きを認識させるのが有効。能動的な姿勢修正を促す。
  • 他動的に骨盤を押す・膝装具で支える・非麻痺側上肢でリーチさせるといった受動的あるいは間接的な方法は、姿勢認識の改善には直結しない。
  • レイミステ現象(非麻痺側の抵抗運動で麻痺側に同じ動きが出る連合反応)は、重心偏位の是正には用いない。