第6章|運動療法

理学療法学(評価・治療) 第6章

6-1 運動療法の全体像と運動の種類

目的別の手技

目的主な手技
関節可動域の維持・改善ROM運動(他動・自動介助・自動)、ストレッチング、CPM、連続ギプス・動的装具
筋力の維持・増強抵抗運動(等尺性・等張性・等速性)、漸増抵抗運動
全身持久力の改善有酸素運動(自転車エルゴメーター・トレッドミル・歩行)
協調性・随意性の再獲得PNF・神経筋再教育・Frenkel体操・バイオフィードバック
気道クリアランス体位排痰、squeezing(呼気介助)、胸郭ストレッチ
バランス支持面の広い課題から。両脚→片脚、開眼→閉眼と段階づける

外力と筋収縮による分類

種類定義特徴・適応
他動運動外力のみで動かす。筋収縮を伴わない意識障害・重度麻痺でも実施できる。循環・呼吸への負荷が小さく、全身状態が不安定な時期の第一選択
自動介助運動不足する筋力を他者・器具・健側が補助するMMT2程度の弱い筋でも、過負荷を与えられれば筋力向上は得られる
自動運動外力を加えず患者自身の筋収縮で動かす重力に抗するか否かは定義に含まれない
抵抗運動外部から加わる抵抗に抗して行う筋力増強の主手段。徒手・重錘・ゴムバンド・機器

「自動運動=重力に抗して行う運動」「自動介助運動=最小重力肢位で行う運動」はどちらも誤り → 自動運動は外力を加えず自身の筋収縮で動かす運動自動介助運動は不足する筋力を介助で補う運動。肢位や重力の向きで定義されるものではない。

運動療法の位置づけ=三次予防

  • 一次予防:発症そのものの予防(ワクチン接種・健康教育・環境整備)
  • 二次予防:早期発見・早期治療(人間ドック・がん検診・肺がん検診
  • 三次予防:合併症予防・機能回復・QOL向上(リハビリテーション・透析患者の運動療法・褥瘡対策)

効果を検証した研究の読み方

  • 効果量0.78(95%信頼区間 0.66〜0.90)のように、信頼区間が「効果なしの値」をまたがなければ統計学的に有意
  • 効果量は効果の大きさを表す指標で、「78%の人に効果がある」という人数割合ではない
  • 研究が測っていないアウトカム(生命予後・危険因子)へ結論を広げてはならない。再発を評価した研究から言えるのは再発予防効果まで

6-2 筋収縮の3様式

様式一定なもの関節運動器具代表例
等尺性(isometric)筋長・関節角度伴わない不要大腿四頭筋セッティング、壁押し、姿勢の保持、握力計
等張性(isotonic)張力=負荷伴う不要(重錘・ダンベル・ゴムバンド)ダンベルカール、レッグエクステンション
等速性(等運動性・isokinetic)角速度伴う専用機器が必須等速性運動機器による測定・訓練

機器がなければ実施できないのは等速性(等運動性)運動だけ。徒手では一定の角速度を保てないため徒手では行えない。重錘ベルトは等張性運動の道具であり、等速性運動には使えない。等速性では関節角度に応じて抵抗が変化し、全可動域で最大負荷が得られるため筋力増強効率が最も高い。

等張性収縮の2型

  • 求心性(短縮性)収縮:筋が短縮しながら張力を発揮する。重りを持ち上げる動作
  • 遠心性(伸張性)収縮:筋が伸張されながら張力を発揮する。重りをゆっくり下ろす動作。同じ筋でも求心性より大きな張力を発揮できる

どちらも機器なしで実施できる。「等張性収縮には求心性収縮と遠心性収縮がある」は正しい記述として頻出。

等尺性と等張性の比較

項目等尺性等張性
血圧上昇しやすい(筋内圧上昇+息こらえ=Valsalva)上昇しにくい
収縮時の筋血流減少(持続収縮で血管が圧迫される)増加しやすい(収縮弛緩の反復=筋ポンプ)
心拍数運動強度に応じて上昇する(様式としての特徴は昇圧反応のほう)運動強度に応じて上昇する
筋持久力の増強劣る優れる(反復を伴う動的運動)
負荷の一定性重錘ではモーメントアームが角度で変わり、全可動域で負荷は一定でない
姿勢の保持負荷に抗して姿勢を維持する収縮はこれ

「等尺性運動は等張性運動よりも筋持久力の増強効果が大きい」は誤り → 筋持久力の向上には反復を伴う動的な等張性運動のほうが有利。等尺性が優れるのは、関節を動かさずに特定角度の筋力を維持・増強できる点である。

「等張性運動は等尺性運動に比べ心拍数が増加しやすい」は両者を区別する記述にならない → 心拍数はどちらの様式でも運動強度に応じて上昇するため、様式の識別点にはならない。等尺性と等張性を分ける軸は血圧(等尺性で上昇しやすい=昇圧反応)収縮時の筋血流(等張性で増加しやすい=筋ポンプ)の2つで、「等張性運動について正しいのはどれか」ではこの2軸のうち筋血流の増加が正答になる。

力‐速度関係:筋の短縮速度が速いほど発揮できる張力(トルク)は低下する。したがって等速性運動では低速のほうが大きな筋力を発揮できる。「角速度の高速域で筋出力効果が増大する」は誤り。

6-3 筋力増強の原則と負荷設定

3つの原則

  • 過負荷の原則:日常以上の負荷を与えなければ筋力は向上しない。最大筋力に対して極めて弱い抵抗は、回数を増やしても筋力増強効果は乏しい
  • 特異性の原則速度特異性=等速性運動はトレーニングに用いた角速度付近で最も大きな効果が得られる/角度特異性=等尺性運動は訓練した関節角度付近に効果が限られる
  • 可逆性の原則:中止すれば得られた効果は失われる

負荷量・時間・頻度の目安

項目目安
筋力の維持最大筋力の20〜30%程度
筋力の増強最大筋力の約2/3(60〜70%)以上
等尺性運動の1回の収縮時間5〜6秒程度(20〜30秒は長すぎる)
頻度週2〜3回程度(最大抵抗でも月1回では刺激不足で効果は得られない)
高齢者高負荷低頻度ではなく、低〜中負荷で反復回数を確保するほうが関節・心血管に安全

数値の取り違えが定番。維持=20〜30%/増強=約2/3以上。「維持には40〜50%以上が必要」「維持には70〜80%以上が必要」はいずれも過大な記述で誤り。

効果の出かた・実施上の注意

  • トレーニング初期(数週間)の筋力増加は主に神経性適応(運動単位の動員増加・発火頻度の増加)による。筋肥大はその後に起こるため、「筋肥大が生じるまで効果は得られない」は誤り
  • 自動介助運動でも過負荷が与えられれば筋力は向上する。「自動介助運動では効果は得られない」は誤り
  • 運動効果には対象者の運動経験・トレーニング歴が影響する(伸びしろ・適応が異なる)
  • 代償運動は目的筋への負荷を減らし効果を下げる。固定・肢位調整で起こらないようにする(「代償運動が起こる方がよい」は誤り)
  • 等尺性運動は息こらえで血圧が著明に上昇する。高血圧・心疾患・血圧変動の大きい急性期では避け、行う場合は息を止めないよう指導する

運動連鎖(OKC・CKC)

項目開放性運動連鎖〈OKC〉閉鎖性運動連鎖〈CKC〉
四肢末端自由床・壁などに固定・接地
動員単関節的・目的筋を選択的に鍛える多関節・複数筋を同時動員=協調的な筋力増強に適する
座位での膝伸展運動、ダンベルカールスクワット、ブリッジ、腕立て伏せ
注意膝伸展のOKCは脛骨に前方剪断力が加わり、前十字靱帯再建後には不利荷重を伴うため術後急性期には時期尚早

「開放性連鎖運動は四肢末端が地面に接した状態で行う」は誤り → 末端が接地・固定されるのは閉鎖性連鎖運動(CKC)。OKCとCKCの用語入れ替えは頻出の引っかけ。あわせて「等運動性運動は徒手で行う」「等尺性運動は関節運動を伴う」「等張性運動では関節運動の速度を調整する」もすべて誤り。

漸増抵抗運動は重錘・ダンベル・徒手抵抗で負荷を段階的に増やす方法で、専用機器は必須ではない。

6-4 関節可動域運動とストレッチング

ROM運動

  • 主目的は関節拘縮の予防・改善。運動麻痺そのものの改善が主目的ではない
  • 他動・自動介助・自動の3種があり、自動・自動介助では筋収縮を伴う(「筋収縮を伴ってはならない」は誤り)
  • 意識障害があっても他動的に実施でき、むしろ必要。深部感覚障害があっても他動運動は安全に行える
  • 循環・呼吸への負荷が小さく、全身状態が不安定な急性期でも選べる最も安全な介入
  • 注意・禁忌=急性炎症、骨折部の不安定、異所性骨化の進行期、疼痛を伴う過度な伸張

ストレッチングの種類

種類方法要点
スタティック反動をつけずゆっくり持続的に伸張20〜30秒持続。息を止めない。強い痛みが出るまで伸ばさない
バリスティック反動をつけて素早く伸張筋紡錘を刺激し伸張反射を誘発するため疼痛緩和目的には不適
ホールド・リラックス/コントラクト・リラックス収縮後の弛緩を利用(PNF)可動域の拡大が目的

スタティック・ストレッチングで「素早く伸張する」「強い痛みが生じるまで伸張する」「伸張時間は5秒以内」「高頻度に伸張する」はいずれも誤り。呼吸を止めると血圧上昇・筋緊張増大を招くため、自然な呼吸を続けながら心地よい伸張感の範囲で20〜30秒持続する。

拘縮の伸張・矯正の原則

  1. 近位を固定し遠位を動かす。膝関節なら大腿を固定して下腿を動かし、伸張力を目的の関節に集中させる。固定が不十分だと隣接関節が動いて伸張が逃げる
  2. 疼痛の出ない範囲で弱い力を長時間加える(低負荷持続伸張)。疼痛を伴う強い矯正は筋スパズム・組織損傷・炎症を招き逆効果
  3. 連続ギプス法は数日〜1週ごとに巻き替えて段階的に矯正する(1日ごとに5°ずつ強めるのは急速すぎる)
  4. 動的(ダイナミック)装具は持続的な低負荷伸張を加えられ拘縮治療に有用(「用いない」は誤り)

CPM(持続的他動運動)

  • 目的は可動域の維持・改善。他動運動であり筋収縮を伴わないため筋力増強は目的ではない
  • 人工膝関節全置換術後・靱帯再建術後などで術後早期から導入する(術後2週から開始では遅すぎる)
  • ゆっくりした速度で行う。速い運動は疼痛・組織損傷を招く
  • 疼痛・腫脹に応じて屈曲角度を徐々に大きくする
  • 患者は力を入れずリラックスして装置に委ねる(装置の動きに抵抗させない)
  • アーム長は患者の四肢長に合わせて調整する(決められた長さのものを使うのではない)
  • すでに完成した拘縮を矯正する手段としては効果が限定的で、伸張手技のほうが優先される

6-5 PNF・神経筋再教育・運動失調へのアプローチ

PNFの手技内容目的
ホールド・リラックス等尺性収縮の後の弛緩を利用する可動域の拡大
コントラクト・リラックス等張性に収縮させた後に弛緩させる可動域の拡大
リズミック・スタビリゼーション多方向から交互に等尺性抵抗を加え、動かさずに保持させる(同時収縮)姿勢・体幹の安定性向上
スローリバーサル拮抗する運動方向へ交互に抵抗を加え能動的に動かす協調性・筋力
リピーテッド・コントラクション弱い筋に反復収縮を行わせる筋力増強

運動失調例で体幹回旋筋の同時収縮により座位の安定性を高める手技=リズミック・スタビリゼーション。識別点は「動かさずに多方向から抵抗を加える」こと。可動域拡大系(ホールド/コントラクト・リラックス)や筋力増強系(リピーテッドコントラクション)と混同しない。

神経筋再教育

  • 目的は随意運動の促通・再学習。患者の能動的な運動が前提となる
  • 手段=PNF、バイオフィードバック、感覚入力の活用
  • 導入や運動イメージの形成に他動運動・自動介助運動を併用する(「用いることはない」「自動介助運動は用いない」は誤り)
  • 骨関節障害後の筋の協調性低下・再学習にも適用できる(「適用できない」は誤り)
  • 適応外=完全脱神経筋・神経断裂(随意収縮が起こせない)、重度意識障害(JCSⅢ-200のように運動学習が成立しない状態)

運動失調へのアプローチ

方法原理
Frenkel体操目で四肢の動きを確認しながら反復=視覚による代償(深部感覚障害による失調)
重錘負荷法四肢に重りを付け固有受容入力を増強して動揺を抑える
弾性緊縛帯(緊縛帯法)弾性帯を巻いて固有受容入力を増強する
不安定板を用いた練習バランス反応・固有受容感覚の訓練
リズミック・スタビリゼーション同時収縮による体幹・姿勢の安定化

視覚の代償=Frenkel体操」「固有受容感覚の増強=重錘負荷・弾性緊縛帯」。深部感覚障害では視覚を遮断すると動揺が増す(Romberg徴候陽性)ことと結びつけて覚える。

6-6 全身持久力トレーニングと運動強度の指標

指標主観/客観内容
Borg指数・修正Borg指数自覚的(RPE)「きつさ」を数値化した自覚的運動強度。11〜13(楽〜ややきつい)が運動療法の目標域。16は「かなりきつい」で心疾患には過大
Karvonen法客観(心拍)予備心拍数から目標心拍数を算出する処方法
最大予測心拍数客観(心拍)220−年齢
%最大酸素摂取量客観(酸素摂取)全身持久力の改善には50〜70%
AT(嫌気性代謝閾値)客観安全かつ効果的な運動処方の基準点

Hugh-Jones分類・mMRC息切れスケールは「日常労作での息切れの重症度分類」であって運動中の自覚的運動強度の指標ではない。PCI(生理的コスト指数)は歩行効率の指標。トレーニング中のRPEといえばBorg。

β遮断薬を服用中の患者では心拍数が抑制されるため、心拍数を基準とする指標(Karvonen法・最大予測心拍数・安静時心拍数)が使えない。運動負荷量の決定にはBorg指数を用いる。

AT(嫌気性代謝閾値)

  • 有酸素性代謝に無酸素性代謝が加わり始める点
  • 心拍数・換気量・二酸化炭素排出量・乳酸が、直線的な増加から急峻な増加へ転じる折れ曲がり(変曲点)として現れる
  • グラフ問題では「心拍応答が緩やかに増えている範囲の上限=急増に転じる直前の負荷」を選ぶ。急増が始まった後の負荷はATを超えており持久力トレーニングには高すぎる
  • AT強度はおおむねBorg 11〜13に相当。AT以上では乳酸が蓄積し疲労しやすい

METsへの換算

  1. ATに相当する酸素摂取量(mL/分)をグラフから読む
  2. 体重(kg)で割る → mL/分/kg
  3. 3.5(1 MET=3.5 mL/分/kg)で割る → METs

例:AT時1,200 mL/分・体重55kg → 1,200÷55≒21.8 mL/分/kg → 21.8÷3.5≒約6 METs。単位(mL/分 と mL/分/kg)の取り違えに注意。

最大酸素摂取量

運動負荷を上げても酸素摂取量が頭打ち(プラトー)になる値が最大酸素摂取量で、全身持久力(有酸素能力)の指標。グラフでは終点で平坦になる高さを縦軸から読む。プラトーが明瞭でない場合の到達最高値は最高酸素摂取量(peak VO₂)という。持久力改善に用いる負荷は最大酸素摂取量の50〜70%に対応する運動量で、たとえば最大が約3,500 mL/分なら約60%の約2,100 mL/分に相当するワット数を選ぶ。

6-7 運動負荷試験と負荷のかけ方

分類方法特徴
漸増負荷Bruce法トレッドミルで3分ごとに速度と傾斜を上げる。運動負荷量を段階的に増加させる代表的評価法
漸増負荷ramp(ランプ)負荷一定の割合で連続的に負荷を漸増させる
漸増負荷多段階漸増負荷一定時間ごとに段階的に負荷を上げる(自転車エルゴメーターなど)
固定負荷踏み台昇降テスト・マスターシングルテスト一定の高さ・回数・リズムで実施し、負荷は漸増しない
固定負荷6分間/12分間歩行テスト一定時間の歩行距離で持久力を評価する
固定負荷ハンドグリップテスト握力による等尺性負荷の評価

トレーニングの負荷様式

様式内容適応・注意
インターバルトレーニング高強度運動と低強度(回復)運動を交互に繰り返す(例:高強度45秒+低強度90秒)連続負荷では下肢疲労・血圧上昇が顕著になる低体力例・高リスク例(心不全、心臓弁膜症治療後など)。休息を挟んで総運動量を確保しつつ過負荷を避ける
サーキットトレーニング複数の異なる種目(ステーション)を順に巡る単一種目の強弱を繰り返すのはインターバルであってサーキットではない
コンディショニング運動療法導入前の柔軟性・呼吸・リラクセーションなどの準備的調整広い概念であり、負荷様式の名称ではない

心不全のない心筋梗塞後の退院指導=中等度強度の有酸素運動を週3〜5日(3日以上)、1回20〜30分。強度はBorg 11〜13、最大心拍数の50〜70%。等尺性の筋力増強は昇圧のため避け、ジョギングは退院直後には強度過大。「心拍数を増加させない運動」では効果が得られない。

6-8 整形外科術後・外傷の運動療法

術後は負担の少ない順に進める。等尺性(セッティング)→ 下肢伸展挙上(SLR)→ 固定外関節の自動運動 → 自動介助運動 → 等張性の抵抗運動 → 等速性運動。可動域はCPMや他動運動で早期から確保する―ただしこれは屈曲しても固定部に牽引力がかからない術式(人工膝関節・靱帯再建・脛骨高原骨折や下腿骨骨折の内固定など)に限る膝蓋骨骨折のように伸展機構そのものを固定した術後は、術直後の屈曲可動域練習は行わない(下の表の「膝蓋骨骨折の術後」の行と、その下の注を参照)。

病態・術式早期から行えること避けること・制限
下腿骨骨折の内固定後術後翌日から大腿四頭筋セッティング・SLR、足関節の自動運動。CPMも早期から可椅子座位での膝伸展抵抗運動(レッグエクステンション)は下腿に剪断・回旋力がかかり術直後は不可
脛骨高原骨折(人工骨+プレート)術後翌日から足関節の自動運動(循環促進・深部静脈血栓予防)。CPMは早期導入極超短波・短波は金属が発熱するため禁忌。膝伸展の等張性抵抗は早期不可(等尺性から)。関節面が陥没するため全荷重はおおむね8〜12週以降
膝蓋骨骨折の術後(tension-band wiring=Kirschner鋼線+締結ワイヤー)―前方へ転倒して膝を直接強打した高齢者に多い。術後エックス線は膝蓋骨に刺入された鋼線と、その周囲を巻く締結ワイヤーが正面・側面ともに写る伸展位で装具(ニーブレース・シリンダー固定)を装着していれば術直後から荷重・歩行が可能骨癒合を待つ必要はない。大腿四頭筋セッティング(等尺性)とSLRは装具下で早期から可術直後からの膝関節可動域練習(とくに屈曲)は行わない。膝蓋骨は伸展機構(大腿四頭筋腱―膝蓋骨―膝蓋腱)の途中にある種子骨で、膝を曲げるほど骨片を上下に引き離す牽引力がかかり、ワイヤーの緩み・破断や伸展機構の再断裂を招く。屈曲は装具の角度制限つきで段階的に広げる。屈曲位での荷重は不可(膝蓋大腿関節に強い圧迫・牽引が加わる)。筋力増強は等尺性からで、等張性の膝伸展(レッグエクステンション)は膝蓋骨を直接引っ張るため早期は不可
股関節(大腿骨近位部)骨折の術後骨癒合を待たず早期から段階的に荷重。大腿四頭筋は等尺性(セッティング)から開始ADL指導=ズボンは患側から履く着患脱健の共通原則。股関節骨折ではこれにより患側股関節の外転・屈曲を最小にできる)。階段は上りは健側から、下りは患側から術直後からの膝関節可動域練習は優先しない=股関節周囲の急性炎症・疼痛が強い時期は膝の過度な運動を避け、等尺性運動を先に行い、疼痛が管理できてから段階的に可動域練習へ進める
人工股関節全置換術(後方進入)術後翌日から等尺性筋力増強・早期離床・部分荷重脱臼肢位=屈曲+内転+内旋(深いお辞儀・脚を組む・横座り・内旋位での立ち上がり)。3日間のベッド上安静・3週間の免荷・「2週は45°以上屈曲しない」はいずれも過度な制限で誤り
人工膝関節全置換術CPMで屈曲角度を段階的に拡大速い速度、患者が力を入れて抵抗する使い方
前十字靱帯再建術後3日CPMによる可動域練習、膝装具装着下の自動介助運動、ゴムチューブを用いた低負荷の膝伸展運動、アイシングハーフスクワットなど荷重・剪断負荷の大きい運動は時期尚早。再建後は原則CKCが推奨されるが、急性期は荷重を伴うCKCも避ける
環椎骨折(Jefferson骨折)受傷直後から頸椎装具で確実に固定したうえで、体幹・四肢の廃用予防運動、装具下での離床・歩行(骨癒合前でも可)頸椎のROMは自動運動から慎重に開始(他動から開始は危険)。頸椎周囲筋の等張性筋力増強は可動性が得られてから
足関節外側靱帯損傷(10日固定後)周囲筋のストレッチ・可動域運動、短下肢装具で保護しての早期荷重・歩行練習圧痛の消失を待つ必要はない。装具は段階的に外す(早期離脱は再損傷)。バランスは両脚→片脚・開眼→閉眼と進め、開眼片脚起立からは始めない。筋力強化は疼痛のない範囲の等尺性から始め、スクワット・片脚立位など荷重を伴うCKCは関節の安定性が回復してから導入する(「CKCから開始する」は誤り)
変形性股関節症(肥満合併・荷重時痛)杖(患側と反対の手に持つ)、水中歩行、自転車エルゴメーター、非荷重位でのストレッチ階段昇降・ジョギングなど股関節に体重の数倍が加わる高荷重運動

実地問題で「転倒→骨折→術後エックス線」が出たら、先に写真でどこを手術したかを確定してから方針を選ぶ。高齢者の転倒=股関節骨折と決めつけない膝蓋骨に鋼線と締結ワイヤーが写っていれば膝蓋骨骨折で、股関節骨折の行(早期荷重・外転制限・膝はROMを優先しない)をそのまま当ててはいけない。受傷機転の目安=側方転倒・尻もちで大転子を打つ→大腿骨近位部骨折/前方へ転倒して膝を直接打つ→膝蓋骨骨折/手をついて転倒→橈骨遠位端骨折。ただしADL指導(着患脱健)と階段昇降の順序は部位が変わっても同じなので、写真の読みが止まってもこの2つは選べる。

ADL指導の「ズボンは患側から履き、健側から脱ぐ」(着患脱健)関節を問わない共通原則。患側を先に通せば、患側の関節を大きく曲げずに、かつ患側で片脚立ちせずに足を通せる(健側から履くと、残った患側を通すときに健側片脚立ちで患側の股関節・膝を深く曲げることになる)。股関節骨折なら患側股関節の外転・屈曲が、膝蓋骨骨折なら患側膝の屈曲が最小で済む。同じく階段は上りが健側から、下りは患側(+松葉杖)からも部位によらず共通で、「下りを健側から降ろす」は患側に急激な荷重と衝撃が集中するため誤り。

「早期からの可動域練習」と「早期からの筋力強化」は対象と様式を分けて読む。CPMによる早期ROMはその関節そのものを手術した場合(人工膝関節・靱帯再建)の話で、股関節骨折術後に「術直後から膝関節可動域練習」を行うわけではない(隣接関節の過度な運動は術部の疼痛・炎症を助長する)。逆に「膝の手術なら術直後からROM可」も成り立たない膝蓋骨骨折のように伸展機構そのものを固定した術後は、膝を曲げる動作自体が固定部を引き離す力になるため、術直後の屈曲可動域練習は行わず、伸展位固定から角度制限つきで進める。CPMを早期から使えるのは屈曲しても固定部に牽引力がかからない術式(人工膝関節・靱帯再建・下腿骨/脛骨高原骨折の内固定)に限る。また装具で保護した早期荷重・歩行は「移動の練習」であって、筋力トレーニングの開始様式は別に等尺性→等張性→CKCの順で上げる。「早期荷重してよい=CKCから筋力強化してよい」と読み替えないこと。

人工股関節の脱臼肢位は進入法で異なる。後方進入=屈曲+内転+内旋(最頻)、前方進入=伸展+外旋。体内に金属がある場合の極超短波・短波は禁忌という点とあわせて、術後の「やってはいけない」を押さえる。

6-9 神経・筋疾患の運動療法と過用性筋力低下

過用性筋力低下(overwork weakness)=麻痺した筋や進行性に障害された筋に過度な負荷をかけると、かえって筋力が低下する現象。Guillain-Barré症候群・ポリオ後症候群・進行性筋疾患では「鍛えるより守る」が正解選択の軸になる。

Guillain-Barré症候群

  • 治療の第一選択は免疫グロブリン大量療法(IVIg)または血漿交換。ステロイド単独は無効とされる
  • 弛緩性麻痺であり痙縮は生じない。したがって痙縮の抑制は的外れで、問題となるのは筋萎縮と関節拘縮
  • 急性期(麻痺進行中・人工呼吸器管理)に行うこと=体位排痰、体位変換、胸郭ストレッチ、他動的ROM運動、30°程度のリクライニング位
  • 急性期に行わないこと=筋力増強運動(漸増抵抗運動・高負荷)、過伸張を伴うストレッチ(末梢神経損傷の危険)
  • 進行期は筋力増強よりROM維持・良肢位保持を優先。進行が停止しても「早期から漸増抵抗運動」は不適で、過用に注意して慎重に進める
  • 予後は概ね良好で、半数が長下肢装具を要するような経過はとらない

ポリオ後症候群

  • キーワードは過用性筋力低下とエネルギー保存
  • MMT1〜2の筋への筋力増強運動、下肢の高強度有酸素運動は機能をかえって悪化させる
  • 装具・補助具で残存筋を保護し、歩行能力を維持するのが原則
  • 歩行が可能な段階で四つ這い移動や車椅子へ切り替えると廃用が進む
  • 肥満の是正・荷重軽減も重要

筋強直性ジストロフィー

  • 進行性疾患であり過負荷を避ける。筋強直に抵抗してROM運動を行うと症状を誘発・増悪させるため、ゆっくり弛緩を促しながら行う
  • 閉口障害・咀嚼筋の萎縮があれば咀嚼回数を減らせる食形態にして誤嚥・疲労を防ぐ
  • SpO₂低下や呼吸苦がない段階では、用手換気(アンビューバッグ)による呼吸練習の適応はない
  • 低〜中強度の運動は廃用予防に有効で、一律に禁止する根拠はない。下肢装着型の補助ロボットも歩行・活動性の維持に有効となり得る

関節リウマチ

  • 原則=関節保護+等尺性運動による筋力維持(関節運動を伴わないため関節への負担が少ない)
  • 活動期=安静と寒冷療法が原則(温熱ではない)。疼痛に配慮した愛護的なROM運動は行う(「活動期は関節可動域運動を行わない」は誤り)
  • 環軸椎亜脱臼=頸椎の可動域運動は禁忌(脊髄損傷の危険)
  • 関節強直=骨性に癒合し可動性がないためROM運動は無効で、無理に行えば有害
  • ムチランス変形=高度な骨吸収による不安定変形で、強い他動運動は避け関節保護を優先する

6-10 全身状態・内部障害のリスク管理

全身状態が不安定な急性期

  • 人工呼吸管理・酸素化不良・血圧変動が大きい時期は「負荷の小さい介入から」。他動的ROM運動が最も安全で、廃用性の拘縮・筋萎縮予防に適する
  • 避けるもの=歩行・移乗などの離床、等尺性筋力増強運動(いきみによる昇圧)、努力性の咳嗽練習(循環変動・低酸素を助長)
  • 血圧・脈拍・自覚的運動強度・SpO₂をモニタし、中止基準(アンダーソン・土肥の基準)を守る

糖尿病

  • 空腹時血糖250〜300 mg/dL以上、または尿ケトン体陽性のときは運動を制限する。インスリン不足下の運動は脂肪分解を進めケトアシドーシスを悪化させる
  • この時期は病棟内歩行程度の軽負荷にとどめる。1RMの80%のような高強度レジスタンス運動、目標心拍数を設定した中等度有酸素運動はいずれも不可
  • 完全な安静臥床までは不要(廃用を招く)。血糖・ケトン体を是正してから有酸素運動を導入する。運動誘発性低血糖にも注意

がん

  • 病期(予防・回復・維持・緩和)で目標が変わる
  • 進行期で全身倦怠感・食思不振・閉じこもり傾向があれば、QOL維持・気分転換・廃用予防を目的とした無理のない活動(屋外での歩行)を選ぶ
  • 漸増的な持久性運動は過負荷で不適。訴えのない機能(嚥下・排痰)への介入は優先度が低い

熱傷

  • 顔面・前頸部の熱傷+煤様の痰=気道熱傷(吸入損傷)を疑う。急性期はsqueezing(呼気介助)による排痰=気道クリアランスの確保が最優先
  • 植皮を要する創部への弾性包帯による持続圧迫は創治癒を妨げる。圧迫療法は創閉鎖後の瘢痕予防として行う
  • 急性期に80%MVCのような高強度の筋力増強運動は循環・代謝負荷が大きく不可。抗拘縮肢位の保持は必要だが、気道管理より優先されるものではない

めまい(前庭リハビリテーション)

  • 良性発作性頭位めまい症=頭位変換で誘発される一過性の回転性めまい。難聴・耳鳴を伴わない。治療は耳石置換法で、後半規管型はEpley法、外側半規管型はLempert(barbecue)法
  • 頸部の筋力増強や「頭部回旋を伴わない動作」の指導は一時的な回避にすぎず、原因(半規管内の耳石)を除去しない
  • 末梢性めまい全般では、めまいを避けずに寝返り・振り向きなどの回転刺激を与えて前庭代償を促す。服薬でめまいを抑え込むだけでは代償が進まない
  • Ménière病にEpley法は適応しない。末梢性の眼振は固視で抑制される(中枢性は抑制されない)
  • 末梢性めまい=内耳・前庭神経の障害(良性発作性頭位めまい症・Ménière病・前庭神経炎)。難聴・耳鳴を伴うことがある(Ménière病では伴い、良性発作性頭位めまい症では伴わない)。眼振は固視で抑制される。方針はあえて回転刺激を与えて前庭代償を促す
  • 中枢性めまい=脳幹・小脳の病変(椎骨脳底動脈循環不全・脳幹/小脳梗塞など)。構音障害・複視・小脳失調などの神経症状を伴い、眼振は固視で抑制されない。椎骨脳底動脈循環不全では頭頸部の過度な回旋・伸展が椎骨動脈の血流をさらに減らすため、これを避けて原疾患(動脈硬化・血圧・血流障害)の管理と転倒予防を行う

末梢性めまいに「椎骨脳底動脈循環不全に準じた運動療法を行う」は誤り → 椎骨脳底動脈循環不全は中枢性めまいの病態で、末梢性とは方針が逆になる(中枢性=誘発する頭頸部運動を避け原疾患を管理/末梢性=あえて刺激を与え前庭代償を促す)。まず末梢性か中枢性かを分けてから運動療法の方針を選ぶ。

疾患を問わず判断の軸は同じ。全身状態が不安定・炎症が強い・組織が修復途上のときは負荷を下げ、安定すれば段階的に上げる。「安静か運動か」の二択ではなく、どの負荷なら安全に行えるかを選ぶ設問だと読み替える。