第5章|動機づけ・感情・パーソナリティ

臨床心理学 第5章

5-1 動機づけの基礎と欲求階層

  • 一次的欲求(生理的欲求)=飢え・渇き・睡眠など生得的/二次的欲求(社会的欲求)=達成・親和・承認など後天的に学習される
  • 内発的動機づけ=興味・好奇心・有能感そのものが動機/外発的動機づけ=報酬・罰・評価など外部の誘因が動機
  • アンダーマイニング効果=内発的に楽しんでいた行動に外的報酬を与えると、かえって意欲が下がる現象
  • 自己効力感=「自分にはできる」という見通し。高める力は成功体験>代理体験>言語的説得>生理的状態の順

マズローの欲求階層

階層欲求
第5(最上位)自己実現の欲求(成長欲求)
第4承認(自尊)の欲求
第3所属と愛の欲求
第2安全の欲求
第1(最下位)生理的欲求

低次が満たされるほど高次へ向かう。最上位は自己実現の欲求で、これだけが成長欲求(下位4つは欠乏欲求)。

5-2 行動変容ステージモデルと段階別の支援

トランスセオレティカルモデル。同じ助言でも段階が違えば不適切になる。まず段階を判定する。

ステージ本人の状態支援の中心
無関心期(前熟考期)6か月以内に変える気がない運動不足の害・生活習慣病の知識を提供し関心を高める
関心期(熟考期)6か月以内に変える意思はあるが未実行達成感・楽しさなど行動の意味と価値を認識させる
準備期1か月以内に始める意思がある/すでに一部実行実行可能で無理のない行動から開始し、成功体験を積ませる
実行期始めて6か月未満具体的な目標提示・継続の動機づけ
維持期6か月以上継続仲間づくり・ソーシャルサポートの活用

「今は運動していないが、始めるつもりはある」=準備期。ここで知識提供(無関心期向け)・意味の認識づけ(関心期向け)・仲間づくり(維持期向け)を選ぶのは誤り → 正しくはできる運動から始めて成功体験を積ませる

5-3 運動学習のフィードバック — 結果の知識〈KR〉

  • KR(結果の知識)=課題の後に与えられる結果・誤差そのものの情報(目標からどれだけ外れたか)
  • KP(パフォーマンスの知識)=動作の質・フォームなど運動の仕方についての情報
論点正しい理解
誤りの大きさの提示量的KRは有効。修正の方向と量が明確になり学習が促進される
難しい課題の提示頻度難課題ほど頻回(毎試行)が有効。頻度を下げてよいのは易しい課題
誤差修正ができるようになったらKRを漸減する。継続するとKR依存を招き保持(定着)を妨げる
成人への効果成人でも学習・パフォーマンスを向上させる
動機づけ達成度のフィードバックとして動機づけを高める効果もある

「習熟後も継続が必要」「難課題は毎試行だと効率が下がる」「成人には効かない」「動機づけには無効」はすべて誤り。

5-4 臨床での動機づけ — 成功体験と遊びの活用

達成可能な課題 → 成功体験 → 自己効力感 → 継続、が動機づけの基本回路。到達段階の少し上を、能動的・課題志向的に、小児では遊びの形で提示する。

例:痙直型両麻痺・PCW歩行が監視レベルの幼児可否と理由
膝立ち位でのキャッチボール○ 体幹の能動的安定化+上肢機能を統合し、遊びで動機づけも得られる
立位保持装置での立位× 受動的で、能動的な安定化や動作学習の機会に乏しい
割座保持× 下肢の痙性が強く保持困難。むしろ痙性を助長する
バニーホッピングでの移動× 両下肢同時の屈曲パターンで痙性を助長。難度も高い
補助具なしでの歩行× 監視下でPCWを用いる段階では安全性を欠く

段階を飛ばす課題も、受動的な課題も動機づけにならない。

5-5 感情・情動の理論

主張キーフレーズ
ジェームズ-ランゲ説末梢の身体反応が先。それを知覚して情動が生じる泣くから悲しい」=末梢起源説
キャノン-バード説視床(中枢)から身体反応と情動が同時に生じる中枢起源説
シャクターの2要因説生理的喚起+その原因の認知で情動が決まる喚起+認知

常識的な説明は「悲しいから泣く」だが、ジェームズ-ランゲ説はその逆で身体反応が先

5-6 パーソナリティの理論

  • 類型論=少数の型に分類。クレッチマー(細長型=分裂気質/肥満型=躁うつ気質/闘士型=粘着気質)、ユング(内向-外向)。直観的だが中間型を表せない
  • 特性論=複数の特性の量で記述。オールポート、キャッテル、ビッグファイブ(神経症傾向・外向性・開放性・調和性・誠実性)。個人差を連続量で表せる

5-7 防衛機制 — 定義と一覧

防衛機制=不安や葛藤から自我を守るために働く、原則として無意識的な心理機構。フロイトが提唱した精神分析の概念。

機制内容典型例
抑圧受け入れがたい欲求・記憶を無意識のうちに意識から締め出す(最も基本的)つらい体験を思い出せない
抑制不快な思考・感情を意識的(意図的)に意識から遠ざける悩みを考えないようにする
否認受け入れがたい現実そのものを認めない重篤な診断を信じない
投影(投射)自分の受け入れがたい衝動・感情を他者がもっているものとみなす「先生は私を嫌っている」と考える
反動形成本心と正反対の欲求・態度を発展させ心的平衡を保つ憎い相手に過度に丁寧・親切にする
合理化満たせない欲求にもっともらしい理由をつけ正当化する「あの葡萄は酸っぱい」
知性化感情を切り離し、理屈・理論的分析にすり替える性的欲動を理論的に分析する
昇華反社会的な欲求を社会的に価値ある活動へ転換(最も成熟・適応的)性欲・攻撃性をスポーツや芸術に向ける
置き換え感情を本来の対象から別の安全な対象へ向け替える上司への怒りを家族に(八つ当たり)
同一化(同一視)憧れの対象の属性を自分に取り入れる憧れの人の口調・身振りをまねる
退行より幼い発達段階の行動に戻る赤ちゃん返り
行動化内的葛藤を言語化せず衝動的な行動として表出する物に当たる
回避(逃避)不安を引き起こす状況・対象から逃げる苦手な場面に行かない
スプリッティング対象を「すべて良い/すべて悪い」に二分する原始的防衛境界性で典型的
統制環境や他者をコントロールして不安を軽減する周囲を取り仕切る
歪曲現実を自分に都合よく歪めて認識する失敗を成功と解釈

5-8 例文から機制を選ぶ — 弁別の決め手

設問のキーフレーズ答え
正反対の欲求を発展させ心的平衡を保つ反動形成
理論的に分析しようとする知性化
スポーツに打ち込んで解消する昇華
憧れの人の口調や身振りをまねる同一化
受け入れられない衝動を他人がもっているとする投影

混同しやすいペア

  • 知性化 vs 合理化:知性化=感情を切り離し理屈で扱うこと自体/合理化=後づけの理由で自分を正当化
  • 昇華 vs 置き換え:向け先が社会的に価値ある活動なら昇華、単に別の対象へ移すだけなら置き換え
  • 抑圧 vs 抑制:無意識か、意識的(意図的)か。「意識的に気付きから排除」と書かれた出題では抑圧・抑制の2つが正答とされたことがある
  • 投影 vs 反動形成:感情の持ち主をすり替えるのが投影、態度を逆にするのが反動形成

5-9 防衛機制でないもの・紛らわしい概念

転移は防衛機制ではない → 正しくは、患者が過去の重要人物へ向けていた感情を治療者に向ける、治療関係のなかで生じる現象。治療者側に生じるものが逆転移。防衛機制に混ぜて「誤っているもの」を問う出題が定番。

分離不安=愛着対象から離れることへの過剰な不安。乳幼児期は正常発達だが、年齢不相応に強く生活に支障をきたすと分離不安症。「幼稚園に行っている間に母がいなくなると思いこみ登園をしぶる」は退行・抑圧・置き換え・反動形成のいずれでもなく分離不安。

5-10 機能性神経学的症状症〈変換症・転換性障害〉

心理的葛藤が運動麻痺・感覚障害・失声などの神経症状に転換される病態。神経学的所見と検査結果が一致しない。葛藤や責任から免れる疾病利得が関与する。

予後良好因子予後不良因子
急性発症・心理的誘因が明確慢性の経過
発症から治療開始までの経過が短いパーソナリティ症の合併
患者が診断を受け入れている(心理的背景への洞察)他の精神疾患の併存が多い

「精神療法は無効」「20歳以降の発症は稀」「経過が短いほど予後不良」「パーソナリティ症の合併例は予後が良い」はすべて誤り → 正しくは精神療法(認知行動療法など)は有効/青年期〜成人まで幅広く発症し20歳以降も珍しくない/経過が短く急性なほど予後良好/パーソナリティ症の合併は予後不良

5-11 面接技法 — 開かれた質問と閉じた質問

種類使いどころ
開かれた質問「はい/いいえ」では答えられない。何を・どのように・どう思うか「退院後は何をしますか」語りを引き出す。情報量が多く心理面の把握に向く
閉じた質問「はい/いいえ」や一語で答えられる「右膝は痛みますか」「朝食を食べましたか」「昨晩は熟睡できましたか」「椅子から立ち上がれますか」事実確認・的を絞った情報収集

選択肢が「〜ますか/できますか」で完結していれば閉じた質問。「何を」「どのように」が入っているものを探すのが解法。

5-12 ナルコレプシー(睡眠・覚醒の調節障害)

覚醒とREM睡眠の調節障害で、視床下部のオレキシン(ヒポクレチン)欠乏が関与する。REM睡眠が突然出現すると理解すると症状が説明できる。

四大徴候

  • 睡眠発作:日中に突然強い眠気に襲われ眠り込む(中核症状)
  • 情動脱力発作(カタプレキシー):笑い・驚き・怒りなど強い情動を契機に突然筋緊張が低下し脱力する。意識は保たれる
  • 睡眠麻痺:入眠時・覚醒時に体を動かせない(いわゆる金縛り)
  • 入眠時幻覚:眠りに入る際に生じる鮮明な幻覚

けいれん発作はナルコレプシーの症状ではない(てんかんの症状)。四徴に混ぜて「認められないもの」を問う出題がある。

紛らわしい病態特徴
欠神てんかん数秒の意識消失・動作停止・凝視。情動が誘因ではない
側頭葉てんかん自動症・既視感などの複雑部分発作
Jackson型てんかん身体の一部から始まり隣接部位へ広がる運動発作
血管迷走神経失神疼痛・長時間立位を契機に血圧低下で失神

笑いで突然脱力」=情動脱力発作=ナルコレプシー、と直結させる。