第4章|呼吸の生理

生理学 第4章

4-1 外呼吸と内呼吸・呼吸筋のはたらき

  • 外呼吸=肺胞と毛細血管(血液)の間のガス交換
  • 内呼吸=組織(細胞)と血液の間のガス交換

「内呼吸とは肺胞と毛細血管の間のガス交換」は誤り → それは外呼吸

安静呼吸と努力呼吸の筋

安静時努力時(追加で働く筋)
吸気能動的:横隔膜(主動筋・収縮して下降=平坦化)+外肋間筋(肋骨を挙上)胸鎖乳突筋・斜角筋などの補助吸気筋
呼気受動的:横隔膜・外肋間筋が弛緩し、肺と胸郭の弾性収縮力で戻る。腹圧は上がらない内肋間筋・腹筋群(腹直筋・腹横筋・腹斜筋)→腹圧が上昇
  • 横隔膜の支配は横隔神経(C3〜C5)。活動電位は吸気時のみ生じ、呼気時は静止する。
  • 呼吸筋は骨格筋なので随意的に収縮できる(意識的な深呼吸・息こらえが可能)。
  • 安静時の成人呼吸数は12〜18回/分。25回/分は頻呼吸。

よくある誤り → ①「外肋間筋は呼気筋」=誤り、吸気筋。②「安静呼気で腹圧が上昇」=誤り、腹圧上昇は努力呼気。③「安静吸気で胸鎖乳突筋が収縮」=誤り、努力吸気の補助筋。④「安静吸気の主動筋は腹横筋」=誤り、腹横筋は努力呼気の筋

胸郭の動き方

部位運動の名称広がる方向
上部胸郭(上位肋骨)ポンプの柄様運動肋骨が胸骨とともに前上方へ挙上→前後径が増大
下部胸郭(下位肋骨)バケツの柄様運動左右径が増大

「胸郭下部は前後方向の動きが左右方向より大きい」は誤り → 下部は左右方向が大きい。

4-2 圧・気道抵抗・コンプライアンス

  • 肺自体に筋はない。胸腔(胸膜腔)内圧の陰圧で受動的に膨らむ。
  • 胸腔内圧は呼吸周期を通じて常に陰圧。吸気でさらに陰圧、呼気でも陰圧のまま。
  • 肺胞内圧(=気道内圧)は吸気で陰圧・呼気で陽圧。安静呼気は弾性収縮力で肺胞内が陽圧となり空気が押し出される。
  • 気道抵抗は吸気時に低下(気道が広がる)、呼気時に上昇。
  • 迷走神経(副交感)亢進=気管支収縮=気道抵抗上昇/交感神経刺激=気管支拡張。

コンプライアンス=ΔV/ΔP=膨らみやすさ。「同じ圧でより膨らむ=増加」。人工呼吸器で同程度の気道内圧(例12cmH₂O)に対し肺気量位が0.2L→0.4Lに増えていれば肺コンプライアンスの増加。気道抵抗の増加や胸郭柔軟性の低下なら同じ圧での換気量は減るので鑑別できる。気道抵抗は「圧と流量」、コンプライアンスは「圧と容積」の関係。なお圧−量のグラフは1回換気量の変化を示すだけなので、肺活量や残気量の増減は判定できない

「肺コンプライアンスが増加すると機能的残気量は減少する」は誤り → 大きな容積を保持できるので機能的残気量は増加する。

4-3 肺気量分画と関係式

分画定義関係式
1回換気量(TV)安静時に1回の呼吸で出入りする量(約500mL)
予備吸気量(IRV)安静吸気位からさらに吸える量
予備呼気量(ERV)安静呼気位からさらに吐ける量
残気量(RV)最大呼気位でも肺に残る量TLC−VC
最大吸気量(IC)安静呼気位から最大吸気位までの量TV+IRV
機能的残気量(FRC)安静呼気位で肺に残る量ERV+RV
肺活量(VC)最大吸気位からゆっくり最大呼気位まで呼出した量IRV+TV+ERV=TLC−RV
全肺気量(TLC)最大吸気位で肺にある全量VC+RV

スパイログラムは安静呼気位を基準に読む。この線より上が予備吸気量・1回換気量、下が予備呼気量・残気量。安静呼気位から下の全部=機能的残気量、最下段=残気量。

関係式の引っかけ → ①「機能的残気量=予備気量+残気量」は誤り、正しくは予備呼気量+残気量。②「肺活量=予備吸気量+予備呼気量」は誤り、1回換気量が抜けている。③「残気量=安静呼気位に残る量」は誤り、それは機能的残気量。④「肺活量に残気量が含まれる」は誤り、含まれない。

肺胞換気量=(1回換気量−死腔量)×呼吸数。算出に使う分画は1回換気量と死腔換気量の2つ。解剖学的死腔は約150mLで、浅く速い呼吸では肺胞換気量が落ちる。

「肺活量の算出に最低限必要な2分画」は全肺気量と残気量(VC=TLC−RV)。IRV・TV・ERVは構成要素だが「最低限」には入らない。

4-4 呼吸機能検査と換気障害の分類

  • スパイロメトリーで測れる:1回換気量・予備吸気量・予備呼気量・肺活量・最大吸気量・1秒量
  • 測れない=残気量を含む容量:残気量・機能的残気量・全肺気量 → ガス希釈法や体プレチスモグラフが必要

鉄則は「残気量を含むかどうか」。口元で出入りする空気を測る検査なので、吐き出せない空気は原理的に測れない。

指標計算式異常の基準
%肺活量(%VC)実測肺活量÷予測肺活量×10080%未満=拘束性換気障害
1秒率(FEV1.0%)1秒量÷努力性肺活量(FVC)×100(実測同士)70%未満=閉塞性換気障害
%1秒量実測1秒量÷予測1秒量×1001秒率とは別物
  • 1秒量(FEV1.0)=最大吸気位から最大努力で呼出した最初の1秒間の量。「安静呼気の開始から1秒間」ではない。
  • %VCと1秒率がともに低下=混合性換気障害。

数値の引っかけ → 「拘束性=%肺活量90%未満」「閉塞性=1秒率80%未満」はいずれも誤り(80%未満/70%未満)。「1秒率=1秒量÷%肺活量」「1秒率=予測値に対する1秒量の割合」「%肺活量=肺活量÷全肺気量」もすべて誤り。

4-5 ガス交換・拡散・換気血流比

  • 肺胞と血液の間のガス移動は拡散による。
  • Fickの法則:拡散能 DL ∝(膜面積×濃度差)/膜厚。加えてヘモグロビン量も拡散能を左右する。
肺拡散能に影響する影響しない(=換気側の因子)
肺胞表面積(肺気腫で減少)/膜厚(間質性肺炎で増加)/ヘモグロビン(貧血で低下)/ガス濃度差死腔換気量・気道抵抗・残気量
  • CO₂の拡散能はO₂の約20倍高い。拡散障害ではまずO₂が下がる。
  • 換気血流比(V/Q)は正常で約0.8。シャント=血流はあるが換気がないV/Qは低下(0に近づく)。死腔=換気はあるが血流がない→V/Qは増大。

「シャント時の換気血流比は増加している」は誤り → 低下。「酸素の拡散能は二酸化炭素より高い」も誤り → CO₂が約20倍高い

4-6 ガスの運搬と酸素解離曲線

  • O₂は大部分がヘモグロビンと結合して運ばれる(解離曲線はS字状)。CO₂は大部分が重炭酸イオン(HCO₃⁻)として運ばれる。
  • PaCO₂が上昇すると炭酸を経てH⁺が増え、pHは低下する(呼吸性アシドーシス)。
右方移動(酸素を放しやすい=組織への供給↑)左方移動(酸素を離さない=供給↓)
条件PCO₂上昇・pH低下・体温上昇・2,3-DPG増加PCO₂低下・pH上昇・体温低下・2,3-DPG減少
場面運動中の組織(熱い・酸性・CO₂が多い)=Bohr効果肺(CO₂を捨てた直後)

「pHが上昇すると酸素はヘモグロビンから解離しやすい/曲線が右方移動する」は誤り → pH上昇は左方移動結合しやすくなる。組織への供給を増やすのはpH低下

赤血球数減少・ヘモグロビン濃度減少は酸素供給を増やさない。曲線の位置ではなく運搬量そのものが減るため供給は減少する(貧血)。体温低下・PCO₂低下も左方移動で供給減。

呼吸商(RQ)=CO₂産生量÷O₂消費量。糖質約1.0・脂肪約0.7・蛋白質約0.85。

4-7 呼吸の調節

  • 呼吸中枢は延髄(と橋)。視床下部ではない(視床下部は体温・自律機能の中枢)。
  • 化学受容器の情報は延髄の呼吸中枢へ伝わる(脊髄ではない)。換気の最大の駆動因子はPaCO₂の上昇
受容器部位感知するもの求心神経
中枢化学受容器延髄PaCO₂・pH(H⁺)
頸動脈小体(化学)総頸動脈の分岐部(内頸/外頸の分岐)PaO₂の低下で興奮舌咽神経
大動脈小体(化学)大動脈弓PaO₂の低下迷走神経
頸動脈洞(圧)頸動脈分岐部血圧舌咽神経(Hering神経)
大動脈弓(圧)大動脈弓血圧迷走神経

頸動脈=舌咽神経大動脈=迷走神経」で覚える。位置の引っかけ=「頸動脈小体は総頸動脈と鎖骨下動脈の分岐部」「末梢化学受容器は椎骨動脈にある」はどちらも誤り。

末梢化学受容器の誤り → ①「酸素分圧の上昇で興奮する」=誤り、低下で興奮。②「頸動脈小体はPaO₂よりPaCO₂を感知しやすい」=誤り、主にPaO₂低下を感知し、CO₂・pHは中枢化学受容器が主体。

Hering-Breuer反射:肺の伸展受容器が過膨張を感知→迷走神経を介して延髄へ→吸息を抑制し呼気へ切り替える。「伸展受容器の興奮は吸気促進に作用する」は誤り。

4-8 運動時の呼吸循環応答

指標ランプ(漸増)負荷での動き
酸素摂取量(VO₂)運動強度に比例して直線的に増加(最大運動でプラトー)
心拍数ほぼ直線的に増加
分時換気量換気性作業閾値(VT)を境に屈曲して急増=直線でない
二酸化炭素排泄量無酸素性作業閾値(AT)以降に乳酸の緩衝で急増=直線でない
1回心拍出量中等度強度でプラトー(以後は心拍数増加で心拍出量を維持)
呼吸数低強度では1回換気量の増加が主で増えず、高強度で急増=非直線的

4-9 加齢による呼吸機能の変化

加齢で増加(少数派)加齢で低下(多数派)
残気量・機能的残気量/末梢血管抵抗・収縮期血圧/自己抗体/炎症性サイトカイン(IL-6・TNF-α=inflammaging)/体脂肪率/痛み閾値(感覚が鈍る)肺活量・予備呼気量・1秒量/脳血流量・心拍出量・最大心拍数・最大酸素摂取量/基礎代謝量・除脂肪体重(筋量)/唾液など消化液分泌/骨塩量/腎血流/メラトニンの夜間分泌量
  • 肺の弾性収縮力低下で呼気時に小気道が虚脱→残気量は増加、呼吸筋力・胸郭可動性の低下と合わせて肺活量・予備呼気量は減少
  • 水晶体は蛋白(クリスタリン)が変性・混濁して白内障となる。骨吸収は停止せず、骨吸収が骨形成を上回って骨量が減る(骨粗鬆症)。

「加齢で残気量は減少」「収縮期血圧は下降」「血管抵抗は低下」「痛み閾値は低下」はすべて誤り → 順に増加・上昇・増加・上昇(鈍麻)。「機能は減るが残気量と血管抵抗は増える」。

4-10 換気障害と呼吸理学療法

閉塞性(COPD・喘息)拘束性(肺線維症・頸髄損傷・神経筋疾患)
ひとこと吐けない吸えない(膨らまない)
基準1秒率70%未満%肺活量80%未満
増加残気量・機能的残気量・全肺気量(エアトラッピングと肺過膨張)
低下1秒量・1秒率・ピークフロー・予備吸気量・肺活量肺活量・全肺気量・1回換気量

COPDで予備吸気量が低下するのは、安静時からすでに過膨張していて吸気の余力が乏しいため。増えるのは残気量系の3つ(RV・FRC・TLC)だけ。

頸髄損傷の呼吸障害

  • 横隔膜(C3〜C5支配)が残れば自発呼吸は可能だが、肋間筋・腹筋が麻痺する。
  • 胸郭拡張が制限され拘束性換気障害となり、肺活量・予備吸気量・予備呼気量・1回換気量が低下(閉塞性ではない)。
  • 呼気筋である腹筋の麻痺で咳嗽力が低下→排痰困難→無気肺・肺炎。徒手的咳介助やair stacking、呼吸筋トレーニングを行う。

Duchenne型筋ジストロフィーの呼吸管理

  • 舌咽呼吸(カエル呼吸)=空気を飲み込むように肺へ送り、最大強制吸気量(MIC)を高める
  • 咳最大流量(CPF)は咳介助導入の目安になる(目安270L/分未満)。
  • 換気補助はNPPVが第一選択(適応でない、は誤り)。夜間から導入し進行に応じ延長。
  • 咳介助は徒手が基本で、不十分な場合に機械的排痰補助を併用(装置が徒手に優先ではない)。
  • 呼吸管理の導入はステージⅣからと決まっておらず、呼吸機能の低下に応じて判断する。

体位と換気

腹臥位(プローン)背臥位
後肺底区(背側)の換気改善荷重がかかり悪化(背側無気肺)
機能的残気量(FRC)背臥位よりは大きい(背側肺が開き横隔膜が下がる)。ただし座位・立位よりは低い臥位のなかでは最も小さい。ただしFRC=予備呼気量+残気量として保たれている
動脈血酸素分圧保たれやすい(ARDSで腹臥位療法)低下しやすい
上気道開きやすい舌根沈下で狭窄しやすい
誤嚥分泌物が口側へ流れ予防的誤嚥が生じやすい

機能的残気量(FRC=予備呼気量+残気量)を決める最大の要因は「起きているか横になっているか」。臥位では腹部内臓が横隔膜を頭側へ押し上げるため、FRCは座位・立位より0.5〜1L程度低下する。大小関係は座位・立位>腹臥位>背臥位だが、腹臥位と背臥位の差は、座位・立位→臥位の段差よりずっと小さい。そして背臥位でもFRCは予備呼気量+残気量として保たれている(呼気の終わりに肺が空になるわけではない)。

「腹臥位と比べた背臥位の特徴」を問われて選ぶのは誤嚥が生じやすい。同じ設問の「上気道が狭窄しにくい」「動脈血酸素分圧が低下しにくい」「後肺底区の換気が改善しやすい」は向きが逆で、いずれも腹臥位側の特徴(背臥位は舌根沈下で上気道が狭窄しやすく・PaO₂は低下しやすく・後肺底区は荷重で換気が悪化する)。

ただしこの設問は正答が一意にならない。肢「機能的残気量が減少しやすい」は、背臥位を単独で見れば生理学的に真である(目安として座位≒2.9L→腹臥位≒2.4L→背臥位≒2.1L。上の表のとおり背臥位のFRCがいちばん小さい)。試験では公式正答の「誤嚥が生じやすい」を採る

選び方の規則=腹臥位と背臥位を分ける最大の特徴は誤嚥のしやすさ。背臥位では咽頭に貯留した唾液・逆流物が重力で気道へ入りやすく、腹臥位では口側へ流れて出ていく。これに対しFRCの大小を決めているのは主に「起きているか横になっているか」の段差で、腹臥位と背臥位の差はそれよりずっと小さい=両者を分ける決め手にならない「臥位だから起こること」と「背臥位だから起こること」を分けて、後者を選ぶ

嚥下と呼吸の協調

  • 嚥下後の呼吸は呼気から再開される(吸気から再開すると誤嚥するため)。
  • 口腔期は舌による随意運動、咽頭期以降が反射。嚥下反射では舌骨・喉頭が前上方へ挙上する。
  • 咽頭への送り込み時に口蓋帆張筋・口蓋帆挙筋が働き、軟口蓋が挙上して鼻咽腔を閉鎖する。
  • 輪状咽頭筋は食塊通過時に弛緩し、通過後に収縮して逆流を防ぐ。