第6章|消化・吸収・代謝・内分泌

生理学 第6章

6-1 消化液の全体像

消化液産生部位液性1日量主成分・酵素
唾液耳下腺・顎下腺・舌下腺中性〜弱アルカリ約1.0〜1.5 Lαアミラーゼ(プチアリン)
胃液胃腺(壁細胞・主細胞)強酸性(pH1〜2)約1.5〜2 Lペプシン・塩酸・内因子
膵液膵房細胞(外分泌部)アルカリ性(pH約8)約1.0〜1.5 Lアミラーゼ・トリプシン・リパーゼ・重炭酸
胆汁肝臓(濃縮・貯蔵は胆嚢)弱アルカリ性約0.5〜1 L胆汁酸・ビリルビン(酵素は含まない
腸液小腸腺アルカリ性約1.5〜3 Lペプチダーゼ・二糖類分解酵素

唾液の要点

  • アミラーゼで糖質(デンプン)を分解する。蛋白質・脂肪には作用しない
  • 分泌中枢は延髄・橋(上唾液核・下唾液核)。中脳ではない
  • 分泌速度が増すとHCO₃⁻が増え、pHはむしろ上昇する
  • 加齢で分泌量は減少し、口腔乾燥の原因になる

「1日約100 mL」「分泌速度が増すとpHが低下」「加齢で増加」「分泌中枢は中脳」はいずれも誤り → 正しくは1〜1.5 L/pH上昇/加齢で減少/延髄・橋

膵液の要点

  • 三大栄養素の消化酵素をすべて含む唯一の消化液
  • 重炭酸イオンによりアルカリ性で、十二指腸で胃酸を中和する
  • 膵臓は外分泌=膵液(膵房細胞)内分泌=インスリン・グルカゴン(Langerhans島)の二本立て。両者は別系統

「膵液は酸性」「脂肪分解酵素は含まれない」「主成分はインスリン」「1日約300 mL」「Langerhans島からリパーゼが分泌される」はすべて誤り → 膵液はアルカリ性・リパーゼを含む・1日約1〜1.5 Lで、リパーゼは膵房細胞から分泌される。

急性膵炎=本来は腸管で活性化されるはずの消化酵素が膵内で活性化し、膵を自己消化する病態。

  • 二大原因=アルコール・胆石(日本人男性ではアルコールが最多)
  • 急性期は血中アミラーゼ・リパーゼが上昇(低下ではない)
  • 上腹部痛は前屈位で軽減・伸展で増悪。背部へ放散する
  • 重症例の死亡率は十数%と高い。急性期は絶食・十分な補液が基本

6-2 消化酵素と基質・産物の対応

酵素由来基質産物
αアミラーゼ唾液・膵液デンプンデキストリン・マルトース
マルターゼ腸(膜消化)マルトースブドウ糖×2
スクラーゼスクロースブドウ糖+果糖
ラクターゼ乳糖ブドウ糖+ガラクトース
ペプシン胃液(酸性で働く)蛋白質ポリペプチド
トリプシン・キモトリプシン膵液蛋白質・ポリペプチドより短いペプチド
ペプチダーゼジ・トリペプチドアミノ酸
リパーゼ膵液トリグリセリド(脂肪)脂肪酸+モノグリセリド(グリセリン)

糖質=多糖→二糖→単糖の二段階(アミラーゼ→二糖類分解酵素)。蛋白=胃で粗く切り(ペプシン)→膵で細かく切り(トリプシン)→腸でアミノ酸まで(ペプチダーゼ)の三段階。酵素は自分の担当段階しか進められない。

誤りの典型 → 「αアミラーゼはマルトースをブドウ糖に分解」(それはマルターゼ)/「マルターゼはデンプンをデキストリンに分解」(それはαアミラーゼ)/「マルターゼはスクロースを分解」(それはスクラーゼ)/「ラクターゼは乳糖をマルトースに分解」(正しくはブドウ糖+ガラクトース)/「ペプシンはトリグリセリドを分解」(それはリパーゼ)/「トリプシンはトリペプチドをアミノ酸に分解」(それはペプチダーゼ)。

6-3 胆汁と脂質の消化・吸収

  • 胆汁は肝臓で産生され、胆嚢で濃縮・貯蔵される。胆嚢は作る器官ではない
  • 消化酵素を含まない。それでも脂肪消化を助けるのは乳化作用による(分解するのは膵リパーゼ)
  • 胆汁酸は肝細胞でコレステロールから合成される
  • 脂肪摂取 → コレシストキニン(CCK)分泌 → 胆嚢収縮・Oddi括約筋弛緩 → 十二指腸へ排出(空腸ではない)
  • 重炭酸を含む弱アルカリ性で、胃から来た酸性の内容物を中和する

脂質消化・吸収の流れ

  1. 胆汁酸が脂肪を乳化し、ミセルを形成する
  2. 膵リパーゼがトリグリセリドを脂肪酸+モノグリセリドに分解する
  3. ミセル内の脂質消化物は小腸粘膜上皮へ単純拡散で取り込まれる(輸送蛋白を介さない)
  4. 上皮細胞内で再合成されカイロミクロンとなり、リンパ管(乳び管)へ入る
  5. 胆汁酸は回腸(小腸末端)で約95%が再吸収され、門脈を経て肝臓へ戻る=腸肝循環

「胆汁は胆嚢で産生される」「胆汁に消化酵素(リパーゼ)が含まれる」「胆汁は蛋白質を分解する」「胆汁は脂肪の吸収を抑制する」「胆汁酸塩の大部分は大腸で再吸収される」「Oddi括約筋の弛緩で胆汁が空腸へ放出される」「ミセル内の脂質は輸送蛋白で取り込まれる」はすべて誤り。

6-4 消化管ホルモンと分泌の調節

ホルモン分泌部位・刺激おもな作用
ガストリン胃前庭部/食物の到達胃酸・ペプシノゲン分泌を促進
セクレチン十二指腸/酸の流入重炭酸に富む膵液を促進胃酸分泌は抑制
コレシストキニン(CCK)十二指腸/脂肪・蛋白膵酵素の分泌促進+胆嚢収縮

胃液分泌の三相

  1. 脳相=食物が胃に届くから。視覚・嗅覚・咀嚼による迷走神経反射
  2. 胃相=食物が胃に到達。伸展刺激とガストリン
  3. 腸相=十二指腸へ移行後。セクレチンなどで抑制的に調整

胃で押さえる事項

  • ペプシンは蛋白質を分解する(脂質ではない)
  • 胃壁細胞の内因子ビタミンB₁₂の吸収に必要。欠乏で悪性貧血(B₆ではない)
  • 胃内停滞時間(胃排出の遅さ)=脂肪>蛋白質>糖質。脂肪が最も長く留まる

「セクレチンは胃液分泌を促進する」は誤り → セクレチンは胃酸を抑制し膵液を促進する。「胃液分泌の増加は食物が胃に到達してから起こる」も誤り → 脳相から始まる。

6-5 栄養素の吸収部位と吸収経路

部位おもに吸収されるもの
吸収はほとんど行わない(アルコール・一部の薬物のみ)
十二指腸〜空腸上部鉄・カルシウム
空腸糖(単糖)・アミノ酸・脂肪=三大栄養素の主吸収部位
回腸末端ビタミンB₁₂(内因子と結合)・胆汁酸
大腸(結腸)水・電解質

吸収経路は2本。糖・アミノ酸=毛細血管→門脈→肝臓脂肪=カイロミクロン→リンパ管(乳び管)→胸管→静脈。脂肪だけ肝臓を経由せず全身循環に入る。

「鉄は結腸で吸収」「脂肪は十二指腸で吸収」「蛋白質は胃で吸収」「ビタミンB₁₂は空腸で吸収」はいずれも誤り。B₁₂と胆汁酸は回腸末端なので、回腸末端の切除ではB₁₂欠乏(巨赤芽球性貧血)が起こる。

6-6 肝臓のはたらき

  • 代謝=グリコーゲンの貯蔵と分解・糖新生・アルブミンや血液凝固因子の合成
  • 尿素の生成=アミノ酸の脱アミノで生じたアンモニアをオルニチン回路(尿素回路)で無毒化
  • 薬物代謝・解毒=シトクロムP450などで脂溶性物質を水溶性に変えて排泄しやすくする
  • 胆汁の産生(貯蔵は胆嚢)
  • ホルモンの不活化(インスリンなど)

「肝臓は血球を産生する」は誤り → 造血は骨髄(胎児期のみ肝で造血)。「肝臓は胆汁を貯蔵する」も誤り → 貯蔵は胆嚢。「肝臓はグルカゴンを分泌する」も誤り → グルカゴンは膵Langerhans島A(α)細胞から。

6-7 ホルモンの分類と血糖の調節

水溶性(ペプチド・アミン)脂溶性(ステロイド・甲状腺ホルモン)
代表インスリン・グルカゴン・バゾプレッシン(ADH)・オキシトシン・成長ホルモン・PTH・カルシトニン・アドレナリンエストロゲン・プロゲステロン・テストステロン・コルチゾール・アルドステロン・サイロキシン(T₄)
受容体細胞膜(cAMPなどセカンドメッセンジャー)細胞膜を通過し核内受容体(遺伝子発現)
作用速いが短い遅いが持続的

ひっかけの本命はサイロキシン。アミノ酸由来だが脂溶性に分類される。ステロイドホルモン(性ホルモン・副腎皮質ホルモン)はすべて脂溶性。

血糖の調節

  • 血糖を下げるのはインスリンのみ(Langerhans島B〈β〉細胞)
  • 血糖を上げるグルカゴン・アドレナリン・コルチゾール・成長ホルモン(いずれも肝グリコーゲン分解と糖新生を促進)
紛れやすいホルモン本当の作用(血糖とは無関係)
アルドステロン副腎皮質の鉱質コルチコイド。Na再吸収・K排泄
パラトルモン(PTH)血中カルシウムを上げる
カルシトニン血中カルシウムを下げる
オキシトシン子宮収縮・射乳

「血糖を下げるホルモンは複数ある」は誤り → 下げるのはインスリンだけ。低血糖に対して複数の昇糖ホルモンが動員されるのは生体防御。

6-8 性周期と月経

時期子宮内膜優位ホルモン基礎体温
月経期機能層が剥離・脱落いずれも低値低温相
卵胞期=増殖期増殖し厚さ約5 mmエストロゲン(卵胞ホルモン)低温相
排卵LHサージ排卵前に一過性に低下
黄体期=分泌期さらに肥厚・分泌亢進プロゲステロン(黄体ホルモン)高温相
  • 排卵を誘発するのは黄体形成ホルモン(LH)の急上昇=LHサージ
  • 引き金は卵胞期に上昇したエストロゲン高値による正のフィードバック。エストロゲンの低下ではない
  • 黄体の寿命は一定で、分泌期(黄体期)は約14日で固定される
  • 子宮内膜の増殖は卵胞ホルモン(エストロゲン)の作用

「月経期は基礎体温が高温相になる」は誤り → 月経期はプロゲステロンが低下しており低温相。高温相は排卵後の黄体期(分泌期)。「黄体ホルモン上昇」「卵巣ホルモン低下」「FSH低下」で排卵が起こるとするのもすべて誤り。

6-9 エネルギー代謝の指標

指標定義・基準数値
基礎代謝量(BM)早朝・空腹(食後12時間以上)・覚醒・安静仰臥位・快適室温で測定体表面積に比例(体重ではない
安静時代謝量座位安静での代謝量基礎代謝量より大きい
代謝当量(MET)安静座位の酸素摂取量を1とした比(倍数)。差ではない1 MET=3.5 mL/kg/分
エネルギー代謝率(RMR)基礎代謝量を基準にした作業強度=(作業時代謝-安静時代謝)÷基礎代謝量
呼吸商(RQ)栄養素により異なる糖質1.0/蛋白約0.8/脂質0.7
特異動的作用(SDA)食後の消費エネルギー増加・体温上昇(食事誘発性熱産生)蛋白約30%>糖質約6%>脂質約4%

大小関係は基礎代謝量<安静時代謝量<活動時代謝量。代謝を上げる要因=体温上昇(1℃で約13%増)・甲状腺ホルモン・寒冷・成長期。体重(除脂肪量)が減れば代謝量も低下する。

「安静時代謝量は基礎代謝量より小さい」は誤り → 大きい。「METは安静臥位時を基準」も誤り → 安静座位が基準。「基礎代謝量は体表面積に反比例」も誤り → 比例。「RQは栄養素によらず一定」「SDAは食後の消費エネルギーの減少」も誤り。

「基礎代謝量は同性で同年齢ならば体重に比例する」も誤り → 比例するのは体表面積であって体重ではない。同じ体重でも体脂肪が多い人は基礎代謝が低く、代謝を生むのは脂肪ではなく除脂肪量(筋・内臓)だから、体重が同じでも基礎代謝量は一致しない。基礎代謝量の基準値は「体表面積1m²あたり◯kcal/時」で表される。

代謝の設問は「何を基準(=1)にしているか」を突く。RMR=基礎代謝量が基準/MET=安静座位が基準/基礎代謝量そのものは体表面積に比例。この3つの基準を取り違えさせるのが定番のひっかけ。

代謝が大きく動く場面

場面起こること
運動時グリコーゲン分解が亢進/冠血流増加・腎血流減少(血流再分配)/動静脈酸素較差は増大/アルドステロン増で尿中Na排泄は減少
広範囲熱傷の急性期毛細血管透過性亢進で全身浮腫/ストレスホルモンで高血糖/基礎代謝量は1.5〜2倍高蛋白(1.5〜2.0 g/kg/日)栄養

「広範囲熱傷の急性期は輸液量を制限する」は誤り → 大量の体液喪失に対し積極的な輸液が必須(Parkland式=最初の24時間に4 mL×体重kg×熱傷面積%)。

6-10 細胞小器官と遺伝情報

小器官はたらき
ミトコンドリアATP産生(酸化的リン酸化)。独自の環状DNAをもつ。グリコーゲン分解の場ではない(細胞質)
粗面小胞体リボソームが付着し蛋白質を合成
滑面小胞体脂質・ステロイド合成、Ca²⁺貯蔵。ATPは作らない
リボソーム蛋白質合成の場
核小体リボソーム(rRNA)を形成
Golgi装置蛋白質の糖鎖修飾・選別・輸送
リソソーム(ライソソーム)加水分解酵素を含み不要物を分解
ペルオキシソームカタラーゼなど酸化酵素。過酸化水素の分解・脂肪酸の酸化
中心小体微小管形成中心(MTOC)として紡錘体を作り、細胞分裂の開始に関わる

「Golgi装置はリボソームを形成する」は誤り → 形成するのは核小体。「滑面小胞体はATPを合成」「ミトコンドリアはグリコーゲンを分解」「リソソームは蛋白質を合成」「リボソームは物質を分解」もすべて誤り(合成と分解の入れ替えが定番のひっかけ)。

遺伝情報の伝達

DNARNA
2本鎖(二重らせん)1本鎖
塩基A・T・G・CA・U・G・C
塩基対A-T/G-CA-U/G-C
  • ゲノム=核内の全DNA塩基配列=その個体がもつ全遺伝情報
  • セントラルドグマ=DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→蛋白質。転写されるのはtRNAではない
  • コドン=3個の塩基の組合せで1つのアミノ酸を指定する(2個ではない)
  • スプライシングを受けるのはmRNA前駆体イントロンは除去され、翻訳されるのはエキソン
  • tRNA=アミノ酸の運搬/rRNA=リボソームの構成(ATP産生には関与しない)

「RNAにはチミンが含まれる」は誤り → RNAはウラシル、チミンはDNA特有。「アデニンはシトシンと結合」も誤り → A-T/G-C。「DNAは三重鎖らせん」も誤り → 二重らせん